偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第36話 赤い彗星の残り香

 ゴップ大将が、一年戦争での違法研究被害者救済のための研究財団を設立した。エグザベ中尉は昼食時に艦内食堂のTVでそのニュースを視聴し、『ごぶぅっ!?』と食事を咽喉(のど)に詰まらせてむせたものだ。要は連邦、ジオンを問わずニュータイプ研の被害者救済のため、治療法などの研究を行う財団だ。後日この財団に、ゼロ少尉とゲーツ少尉も登録する事になる。

 

 

「ゴップ大将、これ人気取りだろう? 噂ではまだまだ先の事だが、退官後の政治家転身のため地盤作りって」

「だろうとは思う。まあでも、こういう動きが有ると無いとじゃな」

 

 

 ゼロ少尉とゲーツ少尉も、TVを観ながら会話している。ちなみにエグザベ中尉は、この後に関連して流された、一年戦争直後にアムロ中尉やシイコ大尉と一緒に受けたインタビューの映像で、恥ずかしさで悶えそうになったりもした。

 

 

『僕らはニュータイプと呼ばれてますが、ジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプじゃあ、ありません』

『人間の頭脳には古来から超常的な能力を引き出せる余地があります。僕らはそれが戦場のストレスとかで無理矢理引き出されただけの、ただの人間です』

『進化っていうのは、たかだか宇宙に出て100年足らずでどうこうなる物じゃないわ。進化とか言うなら、あと短くて数千年、普通に見ても数十万年は待ってもらわないと』

「ぼ、僕は何を識者気取りで偉そうなことを……」

 

 

 エグザベ中尉は、顔から火が出そうだった。ちなみにアムロ中尉とシイコ大尉も、壁を抜いて2部屋続きにされたトロイホースの彼らの自室でのんびりしてた所に一年戦争直後の彼らのインタビューがTVで流れ、悶え苦しんだ模様である。

 

 

 

*

 

 

 

 第49独立戦隊は今、東欧のはずれの地域に来ていた。ここにはオデッサ基地陥落直後、オデッサから逃れたごく一部のジオン残党部隊が隠れ潜んでいた。彼らは近隣住民のこっそりとした支援や、あるいは別方面の近隣住民からの略奪で、どうにか残り乏しい物資を節約して今まで組織を保たせて来たのだ。

 しかしそれにもそろそろ限界が近くなって来た。残党部隊は内部で真っ二つに割れる。もう駄目だから投降すべき派と、もう駄目だから最期に一発ブチかます派だ。ちなみに『最期』というのは『死に際』という意味であるため、『最後』の誤字では無い。

 

 結局のところ投降派が逃げ出して来て通報。このジオン残党共は上手く隠れていた事もあって、近隣にジオン残党に対処していた残党狩り部隊とかが駐屯していなかった。そのため比較的近くを航行していた第49独立戦隊に近場の小さな連邦軍基地から通信が飛んで、徹底抗戦派を叩き潰す事になったのである。

 

 

『こちらリュウ中尉! ジョブ中尉、ジャック少尉、アーサー准尉と今から3時方向に支援射撃を行う! 射線上の味方機は注意されたし!』

「こちらエグザベ中尉! 了解だ、遠慮なく撃ってくれ!」

 

 

 そう、この戦闘はようやくの事で長期任務が完了し、リュウ・ホセイ中尉以下4名が第49独立戦隊のスタリオンMS(モビルスーツ)隊に異動してからの初任務でもある。リュウ・ホセイ中尉とジョブ・ジョン中尉にとっては、既に今までの部隊の方が付き合いは長いのであるが、それでもあの一年戦争末期の濃密な時期を共に過ごした面々とは、やはり思い入れが違う模様だ。

 一方でジャック・ベアード少尉とアーサー・ヘンダソン准尉にとっては、単に転属先の部隊という意味合いしか無いのだが、それでもジャック少尉はエグザベ中尉の小隊にいるアダム・スティングレイ准尉と顔見知りだった事もある。案外素直にこの部隊になじんだ様であった。

 

 

『こちらアムロ。敵はほとんどがザクⅡF2型、2機だけグフB3とドムがいるが、このドムが隊長機らしい』

「エグザベ中尉だ。アムロ、こっちは回り込んで敵の基地……。いや、基地という規模じゃないな。根拠地を押さえる。もしかしたら護衛部隊がいるかも知れないが、おそらくそっちに行った奴らで全部だろう。全力出撃してるだろうからな」

『わかった。シイコさん、いやシイコ大尉にも伝えておくよ』

「頼んだ。以上(オーヴァ)

 

 

 そして残党部隊は内部崩壊の末に壊滅、第49独立戦隊は敵根拠地に一時駐留する事になった。まあこの辺りの連邦軍基地は本当に小規模で、投降兵や捕縛した徹底抗戦派の処置で手一杯であり、手を貸してやらなければどうにもならなかったのだ。

 

 

 

*

 

 

 

 そして、略奪された物資などを返還するための話し合いが、地元民たちとの間で開かれた。これも本来は、近隣の基地が主導して行われるものである。が、現状そういうわけにも行かず、なおかつ遅れるわけにも行かなかったから、第49独立戦隊が代わりに手伝ってやらねばならなかったのだ。

 

 

「まだまだ、戦時って感じだな」

「と言うか、正直まだ戦争は、ある意味終わってないんだろ」

 

 

 エグザベはカイと話しながら、荷を引き取りに来る地元業者を待っていた。と言うか、パイロット連中や整備の面々まで駆り出される忙しさである。向こうではセイラ少尉が、盗難、強奪された作業機械や作業用MS(モビルスーツ)とその部品、それとプチモビなどを返還、引き渡しする手続きに追われていた。

 そして彼女が相手方の代表者から書類を受け取った瞬間である。声にならない叫びが、その思念が、周囲に響き渡った。ニュータイプ能力を持つ面々は、ぎょっとしてその思念の元である、セイラの方を見遣った。

 

 セイラ・マス少尉は、背中におどろ線を背負って、相手方の代表者の顔をジト目で見つめる。彼女の声音は、地獄から響いて来るかの様だった。

 

 

「あなた……。こんなところで、何をなさってらっしゃるのです。キャ」

「エドワウ! エドワウ・マスだわたしは!」

「……エドワウ兄さん。あなたは、こんなところで何を……」

「復興だ! 復興のため、当初ボランティアであったが、自己資金が尽きたので、作業用MS(モビルスーツ)の操縦技術でもって、建設会社に操縦士(パイロット)として雇用されたのだよ!」

 

 

 エドワウ・マスがシャア・アズナブルであり、キャスバル・レム・ダイクンである事は、第49独立戦隊の少なくとも中核メンバーは知っている事だ。無論の事、セイラ・マス少尉に関しての内密の申し送り事項として、シナプス艦長も彼女の背景については『上』から知らされている。当人は聞いた瞬間、目の前が真っ暗になるような感覚を覚えたらしいが。

 

 

 

*

 

 

 

 トロイホースの応接室には、今現在第49独立戦隊のニュータイプ能力者が総出で集まっていた。その監視のもと、セイラ・マス少尉が応接セットのホスト側に座り、応接セットのゲスト側に座ったエドワウ氏を問い詰めている。

 

 

「……最初から話してください。エドワウ兄さんが、わたしたちと最後に戦った後から」

「……わたしは君たちに敗れた後、ア・バオア・クー防衛線に参加した。だが結局は、わたしがどんなに頑張ったところで、敗北は覆せん。1人の働きなどでひっくり返るほど、戦場は甘いものでは無かった。

 そして敗北が決定したとき、わたしはア・バオア・クーを脱出するムサイ艦に拾ってもらい、そのまま現地を脱出。艦内での協議の結果、その艦がキシリア配下の物であった事もあってな……」

「キシリア配下……」

 

 

 エドワウ氏は、自嘲気味な表情で笑うと、続ける。

 

 

「彼らはそれでも、さほどキシリアに心酔していたわけでも無さそうでな。だからと言って、他派閥に乗り換えるのも消極的な連中だった。だからわたしは彼らを説得して、地球に逃げる事にしたんだ。

 軌道上でムサイ艦を放棄、全員でコムサイに乗り込んで、僻地に降下した。その後、コムサイを現地の裏組織を通じて売り払った金を山分けし、彼らと別れて各地を放浪したさ」

「……何か、見えました、か?」

「ああ。地球各地の荒廃を、見た。ジオン軍が、そしてジオン軍により追い詰められた各地の変質してしまった連邦軍が、それぞれ行った暴虐の結果を、見た。わたしの選択が、別な物であったら、もしかしたら起こらなかったかも知れなかった悲劇を、見た」

 

 

 そんなエドワウ氏の自嘲を、セイラ少尉は皮肉気に笑い飛ばした。

 

 

「笑わせないでください。貴方一人の行いが、何を変えられたと言うのです。驕らないでください。……きっとその悲劇は、貴方が何をやっても、何をやらなくても、起きたかも知れません。知った、のでしょう? ア・バオア・クーで。戦場は、1人の働きでは、どうあっても変える事などできない、と。

 ……世界も、同じ、です。1人では、何も変わらない。みんなと、たくさんの人と、力を合わせなければ、何も変わりません。ゴップ大将ですらも、色々な人に助力を乞うています。世界を、変えるため、に」

「……そうだ、な」

「それで、その続きは?」

 

 

 苦笑を漏らす、エドワウ氏。

 

 

「そうして、先ほど口走った通りだ。罪悪感に苛まれ、金があるうちはボランティアとして作業用MS(モビルスーツ)やプチモビに乗って、あちらこちらで復興の手伝いをしていた。いや、払下げのGMに乗っていたのだが、あれは扱いやすい良い機体だな。最初は優等生すぎて面白味が無い機体だと思った。つまらない機体だと。

 だが作業用として使ううちに、ザクではできんこまやかな作業性、素直すぎるほど素直な操縦性。……ガンダムの系譜には、いろいろな未来が見える、のだな」

「……」

「ああ、済まない。そして金が尽きそうになって慌てて就職した。ここの近隣の、小さな土建会社だ。払下げのGM改造の作業用MS(モビルスーツ)専属になって、な。だが3ヶ月前に、ここのジオン残党が洗い浚い部品を奪って行ってなあ。GM本体は、どうにか隠しおおせたが。それで会社が潰れるかどうかの瀬戸際でな。

 社長は今、必死になって資金繰りをしているのでな。わたしが代理になって、部品群を返却してもらえるか交渉に来たのだ。……連邦軍の独立戦隊と聞いて、正直悪い予感はしていたのだが、な」

「兄さん」

「ん?」

 

 

 セイラ少尉は笑って言う。

 

 

「戦時中の顔は見た事がほとんどありませんが。……良い顔をして、笑っていますよ。子供時代よりも。ずっと、ずっと」

「そう、か」

「マス家の遺産。兄さんの分は、わたしが管理して丸ごと残してあります。そこそこな額がありますので、ご自由にお使いください。こちらに」

 

 

 と言って、セイラ少尉はサラサラとメモを書き、渡す。

 

 

「この弁護士先生に連絡くだされば、手続きをしてくださるはずです。今就職している会社の株を買って出資するなり。潰れたらその会社を買い取って再建するなり。あるいはまったく新しい土建会社を設立するなり」

「アルテ」

「セイラ・マスです」

「セイラ……。感謝、する」

 

 

 その後、兄妹は色々な他愛ない話をして、別れる。セイラ少尉は、長年の重荷をようやく降ろせたような顔をして、楽し気に笑っていた。




ゴップさんの話をちょこっと。強化人間とかその被験者に対する救済策と、そして人気取りの策。金はかかるけど、うまくいけばリターンもある。まあたぶん、うまく『行かせる』んでしょうけどね。

そしてシャアの話。とりあえず、他所からちょっかいが無ければ、シャアは幸せです。ちょっかいが無ければ。ちょっかいが無ければ。大事な事なので3度(ry
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