偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第39話 やっちゃいけない事、やるべき事

 宇宙空間を、1機のジムキャノンⅡが逃げる。ひたすら逃げる。だがそれを2機のジムカスタムが追う。

 

 

『なんでだ! なんで裏切ったアデル!』

『逃げるな!』

「裏切った? 違うでしょう。地球連邦軍を裏切っているのは、『反地球連邦組織(A.E.U.G.)』、エゥーゴの方でしょうに。エゥーゴの音が何を意味しているか知らないままならともかく、知ってしまってはもう無理でしょう」

 

 

 逃げるジムキャノンⅡを駆るのは、チャップ・アデル少尉だ。一方の追う側、ベルナルド・モンシア中尉とアルファ・A・ベイト中尉の台詞は、実のところ歯切れが悪い。

 

 

『だからってだなあ! あんの宇宙人どもをお前、許していいのかよ!?』

『コロニー落としてでかい面してやがる奴らを、叩かにゃならんのだ!』

「……本音で話してくださいよ。エゥーゴのお題目をなぞってばかりいないで」

『『!?』』

 

 

 そう言いつつも、アデル少尉も自嘲する。

 

 

(物は言いよう、ですね。わたしだって犯罪集団側につきたくないってだけで逃げてるだけなのに。『仲間』を見捨ててまで)

『お、俺ぁ本音で話してる!』

『……』

「モンシア中尉……。ベイト中尉の方は、少しは正直な様ですね。あなたたちは、スペースノイドが許せないんじゃない。今の自分たちの境遇が、許せないだけだ。……先頃までの自分自身のことですからね。よくわかります。

 地球連邦政府は、すべてのスペースノイドを許してるわけじゃない。というか、ジオン公国は開戦当初、まずスペースノイドをこそ、血祭りに上げたんですよ? ジオンが殺したのは、アースノイドよりスペースノイドの方が多いんです。連邦政府が融和政策を取ってる対象は、まずはジオン共和国以外のスペースノイド。ジオン共和国にもそのおこぼれは与えてますが、ちゃんとその政体からはン十年の年賦とジオニック社やMIP社やツィマッド社からの技術接収やら生産ラインなど設備接収やらで、賠償を搾り取った上でのこと」

 

 

 そして、とうとうモンシア中尉が発砲する。

 

 

『黙れ、黙れよ!』

『も、モンシア!』

『撃て! ベイト! お前も撃つんだ! 俺たちゃ、正しい! 正しいんだ!!』

(……撃ってきました、か。火力と装甲ではこちらが圧倒していますが、ジム・ライフルならばジムキャノンⅡの装甲を突破するのは容易。となれば後は物を言うのは、機動性と機数。このままでは、終わり、ですね)

 

 

 必死に機動するが、徐々に被弾が増えるアデル少尉のジムキャノンⅡ。万事休すかと、彼は思った。だがその時である。

 

 

『モンシザザザッ! ザザフスキー粒子だ! 近隣に何かいやがるザザザッ!!』

『ザッザザザんだってぇ!?』

 

 

 そこに現れたのは、最新装備であるベースジャバーの宇宙版、スペースジャバ―に乗って行動半径を著しく広げたとあるMS(モビルスーツ)である。

 

 

『ザザッな、なんだありゃ! 見た目はジオン系っぽザザザ』

『モンシア! ()けろザッザザ!!』

『わああぁぁ!?』

 

 

 MS(モビルスーツ)はスペースジャバ―から離れると、スラスター全開でモンシア機に飛び掛かる。振り上げたヒートホークが、モンシア機の右肩から先を斬り落とした。本当は胴体中央を狙った斬撃ではあったが、そこはモンシア中尉も十分な腕利きである。右腕を犠牲に、間一髪助かった。そしてベイト中尉の機体も、頭部を首元かた斬り飛ばされる。

 

 

『駄目だ逃げるぞモンシア! ザッザザザ』

『ザザッベイト! く、くっそ! この借りはザザッしてやるからなあああぁぁぁ!』

 

 

 スラスターを全開にして宙域離脱を図るジムカスタム2機を見送りつつ、アデル少尉は息を吐いた。どうにか生き延びた。生き延びたが、もはや仲間たちとは道は別たれたのだ。どうしようもない寂寥感が、彼を襲う。

 そこへ先ほど救援してきた謎のMS(モビルスーツ)が近寄って来て、指元から『お肌の触れ合い会話』用の通信ケーブルを射出した。カツン、と音がしてワイヤーケーブルがジムキャノンⅡの装甲表面に貼り付く。ミノフスキー粒子の影響が無い、明瞭な声が響いた。

 

 

『生きてるな?』

「あなたは! シン大尉!」

『他の誰だと?』

「い、いや機体が……」

『とりあえず、お前さんを保護したのは、地球連邦軍とは縁もゆかりもない、『謎の勢力』だ。つまりはそういう事だ。なんか聞かされた話によるとな。今すぐに奴らの後ろにいるコリニー中将とドンパチするわけにゃいかんのだそうだ。

 じゃ、奴らの艦船が来る前に逃げるぞ。スペースジャバ―の左に乗れ』

「了解」

 

 

 シン大尉の機体が載って来たスペースジャバ―にジムキャノンⅡを載せると、隣にシン大尉の偽装MS(モビルスーツ)が載る。そしてスペースジャバ―はシン大尉の遠隔操縦で、宇宙を飛翔した。

 

 

「シン大尉」

『どした?』

「痕跡は消したつもりなんで、向こうでバレてるかどうかは、無いといいと思うんですが。手近にあった資料、洗い浚いメモリーチップに複写して持って来ましたが。使えますかね」

『……内容次第だな。とりあえず味方の艦に帰ったら、見せてもらうぞ』

「了解です」

 

 

 そうしてチャップ・アデル少尉はしばらくの間、表舞台から姿を消す事になる。だが彼がもたらした書類とデータは、非常に大きな働きをする事になるのであった。

 

 

 

*

 

 

 

 ジーン・コリニー中将は、目の前の憲兵が突き付ける逮捕状を前にして、笑いがこみあげて来るのを噛み締めていた。

 

 

(やれやれ、してやられたか)

 

 

 容疑はアナハイム・エレクトロニクス重役からの収賄案件。確かに身に覚えはある。しかし誤魔化す手段はいくらでも講じてあった。察するに、これは別件逮捕であり、コリニーが一時的に動きを封じられている間にもっと様々な後ろ暗い件の捜査をするつもりなのだろう。

 

 

(だがな、まだ終わらぬさ)

 

 

 コリニー中将は、この件を誤認逮捕として逆用し、『敵』を追い詰めるための方策が頭の中に、半ば出来上がっていた。それと同時に、他の後ろ暗い様々な案件も十全に隠してある自信もある。確かに相手の動き次第では危機的状況ではあった。だがまだ巻き返しは効く。

 

 ……そのはず、であった。

 

 

ドガアアアァァァン!!

 

 

 爆発音が響く。憲兵たちが、遮蔽物を探して逃げ惑った。

 

 

「な!」

 

 

 コリニー中将の口から、思わず驚きの声が漏れ出る。この様な事は想定していない。まったくの予想外だ。そして大空に、影が差した。

 

 

「……か、改ペガサス級1番艦、ペガサス級としては4番艦、さ、サラブレッド」

 

 

 自分の口から出る言葉が、他人の声の様に聞こえる。そしてサラブレッドから2機のジムカスタムが降下して来る。

 

 

『コリニー閣下! バスク大佐の命にて、お迎えに上がりましたぞ! 自分はエゥーゴ所属、ジェリド・メサ少尉です! あちらはカクリコン・カクーラー少尉!』

 

 

(阿呆共が! なんという真似をしてくれた! い、いや、ゴップか!? それともワイアットか!? この様な小細工……。奴らめ、バスクめにわざと情報を流しおった!!)

 

 

 コリニー中将は、このジェリドという少尉とカクリコンという少尉に、会った事がある。バスクが紹介して来た、新進気鋭の有能なMS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)だとの事だ。その眼に宿る若者ならではの野心の輝きが、小気味よかったのを覚えている。

 だが所詮は若造であった様だ。この様な小細工に引っ掛かるバスクなどの言う事に従い、『敵』に利する行いを堂々と阿呆の様に繰り広げる。これまでの状況で、コリニー派は確かに劣勢に追い込まれていた。そしてこの若造は、おそらくは劣勢を自分の力でひっくり返す事で野心に相応しい地位を得ようとでも、夢見ていたに違いない。

 

 ……そして、結果としてこやつは、コリニーを巻き込んで破滅の淵に立ったのだ。

 

 

『コリニー閣下、御免!』

 

 

 ジムカスタムのマニピュレーターが、コリニー中将の身体を掴み取る。そしてそのジムカスタムは、スラスターを()かして上空のサラブレッドまで上昇。金属の塊に身体を締め付けられ、コリニー中将の全身は激しい痛みを感じる。だがそれ以上に苦痛を訴えているのは、絶望を訴えているのは、コリニー中将の心だった。

 

 

 

*

 

 

 

シュコー……。シュコー……。

 

 

 パイロットスーツの呼吸器が、小さな、静かな音を立てる。エグザベ中尉の乗るガンダムMk-Ⅲは、今現在厚いミノフスキー粒子に隠れて、奇襲攻撃を準備していた。小隊各機とは、『お肌の触れ合い通信』用のケーブルで繋がれ、外部に電波を漏らさず、そしてミノフスキー粒子による雑音(ノイズ)も入らず、通信ができている。

 

 

「ゼロ少尉、ゲーツ少尉、アダム准尉……」

『こちらゼロ少尉、ガンダムMk-Ⅱコンディショングリーン』

『こちらゲーツ少尉、ガンダムMk-Ⅱコンディショングリーン』

『こちらアダム准尉っす。ガンダムMk-Ⅱ、コンディションはおっけーっすよ、グリーンっす』

 

 

 エグザベ中尉は、誰にも見られる事は無いのに頷いてみせる。人工的なニュータイプ能力を持つゼロ少尉とゲーツ少尉には、いちおう伝わった様だ。なんとなく彼らも頷いたのが、エグザベ中尉には感じられる。

 

 

「……来たぞ」

『『『了解です』』』

 

 

 エグザベ中尉には、『()え』る。巨大なガスボンベを携えて、この先に見えるスペースコロニー……。再建中のサイド1、30バンチコロニーに毒ガスを、GGGガスを散布しようとしている、1個中隊12機のジムカスタムだ。バスク・オム大佐は、非常に苛立っている。あのコロニーで、ジャミトフ・ハイマン少将とブレックス・フォーラ准将が合同で講演を行うというのが、それほどに我慢ならないのだろう。

 だが、スペースコロニーに毒ガスを撒くというのは、エグザベ中尉からすれば絶対に許せない事である。それは彼のトラウマを、深々と抉るのだ。普段は、彼は我慢をする。理性的な軍人として、鋼の精神力で耐える。苦しい事も、悲しい事も、ひたすらに耐えて、表に出さない。

 

 だが今は、我慢しなくてもいい……。堂々と、怒っても、いいのだ。

 

 

「オリベ小隊……。叩き潰すぞ!!」

『『『了解!!』』』

 

 

 ガンダムMk-Ⅲは、蒼いスラスター炎を宇宙に()いて、流星の様に()んだ。

 

 

 

*

 

 

 

 ゴップ大将が、暗い部屋の中で消されたモニター画面に目を遣る。その背後に、ブライト少佐ともう1人、少し制服を着崩した中尉が立っていた。

 

 

「……やれやれ、だ。まさかバスク・オム大佐が、あそこまでとはな。本当はもっと長期間掛けて、コリニー中将の力を徐々に削ぎ、バスク大佐をがんじがらめにする予定だったのだよ」

「はっ。まさかGGGガスでサイド1の30バンチコロニーを、ジャミトフ閣下やブレックス閣下と共に皆殺しにする計画を立てていた、とは。チャップ・アデル少尉の情報が無くば、今頃は」

「あれほどにこらえ性のない男だとは。見誤っていた。まったく……。ワイアット君と急遽語らって、急ぎ詐術を使ってコリニーを政治的に再起不能にはしたが……。ブライト君、こんなやり口は、見習ってはいかんぞ? 色々と、後から問題が出る」

「はっ!」

 

 

 そしてゴップ大将は続ける。

 

 

「それとだな。しかし防げるものならば。その情報を掴んだのならば。絶対にテロリズムは防がねばならん。古来権力者は、テロを見逃してうま味を吸おうとする手法を、何度となく使って来たものだ。しかしだね」

「はっ……」

「こういう行いを見逃す事は、倫理的なだけではない、政治的にも危ない橋を渡る事になる。それに、な。様々な意味で、『信頼』を失う事になるのだ。君もいつか権力を握った時に。甘い汁を吸えそうだからと、限度を超えてはならん。わかるな?」

「はっ!」

 

 

 次にゴップ大将は、もう1人の士官……中尉に声を掛ける。

 

 

「ヤザン・ゲーブル中尉。君は今日付けで、大尉昇進だ。……バスク大佐があまりにも、だったおかげで少々手荒すぎる手段を取らねばならなくなった。わたしの周囲も、『騒がしく』なるはずだ。……君の裁量で、可能な限り優秀な中隊員を揃えたまえ。ぶっちゃけた話、わたしのボディーガードだ、君と君のMS(モビルスーツ)中隊は」

「了解いたしました、大将閣下ぁ」

 

 

 にやりと漢臭い笑みを浮かべたヤザン・ゲーブル大尉は、敬礼して退出を求める。ゴップ大将がそれを許すと、ヤザン大尉は楽しそうに部屋を出て行った。まあ、まずは大尉の階級章を秘書が用意してあるはずなので、それを受け取るのだろう。

 と、卓上の端末が音を立てる。ブライト少佐が、ゴップ大将の代わりに受話器を取った。

 

 

「……大将閣下。サイド1の30バンチ、GGGガスによるテロですが、阻止に成功しました。……もしかしたらエグザベ中尉はやり過ぎるかと思ったのですが、ちゃんと証人として捕虜は取ったとの事」

「まあ手足の1本や2本や3本や4本や5本や6本ぐらいは構わなかったのだがね」

「閣下、人間には手足は合計4本までです」

「うむ。……エグザベ中尉、想像以上に自制心もあり、使える男だね」

 

 

 ブライト少佐は、『あ、また被害者が』と、そう思った。




コリニー、再起不能。なんでこんな急に、と思われたかもですが、バスクが馬鹿をやるという事態に慌てたゴップ、ワイアットが『バスク放って置いたらヤベェ』と思って、当初の予定表を全て破棄し、バスクとその後ろ盾のコリニーを『どうにか』してしまう様に方向転換したのです。せざるを得なかったのです。

うん。みんなバスクが悪いよ。うん。
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