偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第4話 大気圏突入

 ホワイトベース艦橋(ブリッジ)の船窓から艦の隣を航行するサラミス級マダガスカルを横目に見ながら、ブライト・ノア艦長代理は大きく溜息を()いた。彼の胃が、しくしくと痛む。

 

 

「……まあ、ルナ2を追い出されるだけで済んで、良かったと思わないといかんか」

「そうね、ブライト。一時はルナ2内に謹慎って名目で軟禁されて、このまま軍事裁判、軍法会議かって思ったものねえ」

「君には礼を言わなければならんな、ミライ」

「テム技術大尉やエグザベ君にも、でしょ?」

「ああ、確かに」

 

 

 今現在ホワイトベースの総舵手をやっているミライ・ヤシマ特務兵は、ヤシマ重工経営者直系のお嬢様である。スペースグライダーの免許を持っていたため自分から申し出て、ホワイトベースの操舵を預かっている。こういう人間を軍法会議になど掛けたらえらい事だ。

 

 

「テム技術大尉は連邦軍起死回生のRX計画最重要人物だし、ガンダムの操縦士(パイロット)はその一人息子だ。そういう人物を、下手に処断するわけにもいかない。そしてエグザベ……。彼が連邦軍から勲章を貰っていた、とはな」

「サイド5から脱出する際に、当初スペースポッドSP-W03でコロニー残骸に隠れていて、その後連邦軍とジオン軍が立ち去った後で、船体が折れたムサイ艦を見つけたのよね?」

「ああ、それでなんとか無事だったコムサイに、現場で拾ったMS-06CザクⅡ初期型を2機詰め込んで、サイド7宙域までどうにかこうにか航行して来たんだ。そこでサイド7グリーンノア在住のジャンク屋に救助されて、連邦軍にコムサイとザクⅡC型2機を引き渡した。

 それで軍事的に貴重な研究資料を入手、連邦軍のRX計画に貢献したと言う事で、あまり格は高くないものだが勲章を貰っている。更に莫大な報奨金を、連邦通貨で受け取っている。すぐに貴金属やレアメタルに換えたらしいが」

 

 

 まあ、そう言う事である。勲章貰った人間を処罰すると色々メンツ上面倒だ、という事だ。まあ、裏を考えれば……。

 

 

「裏の事情を考えたら、自分たちとは関係ないところで死んでくれ、って放り出したとも取れなくもないわよね」

「ワッケイン司令は、それでもまだ少しは良心的だとは思うのだがな。サラミス艦1隻とは言え、護衛に送り出してくれたのだから。当初は反発心を覚えたのも確かだが、僕とあの人はさほど変わりないからな」

「どういう?」

「あの人は一週間戦争とルウム戦役で、ルナ2の本来の司令が出撃したから、あくまで代理ってことで司令を受けたんだ。そうでなければ、少佐で最前線の基地司令なんて……。けれど本来の司令は戦死、後任のルナ2司令になりたがる人間など、今の連邦には、な。それでなしくずしに正規の司令官に」

「「「「「「あー……」」」」」」

 

 

 ミライとブライトの会話を黙って聞いていた、艦橋(ブリッジ)メンバーたちが思わず呆れ声を漏らした。

 

 

 

*

 

 

 

 スピーカーから、ホワイトベース艦橋(ブリッジ)からの放送が聞こえる。

 

 

『ホワイトベース各員、本艦は8分後に大気圏に突入する。立っている者は座る様に。船が揺れるような事があっても、騒がない様に。各戦闘員、メカニックマンは各自の部署で待機のこと。各MS(モビルスーツ)も発進する可能性がある。メカニックマンはそのつもりで』

「シイコ少尉、僕らはMS(モビルスーツ)デッキの操縦士(パイロット)待機室で待機ですか? それともMS(モビルスーツ)で?」

『ああ、アムロ君。出撃の可能性があるから、ガンダムの操縦席(コクピット)ね。エグザベ君にも伝えて』

「了解しました」

 

 

 アムロは右舷MS(モビルスーツ)デッキに詰めているシイコ少尉と、壁に据え付けてあるインターホンのパネルで会話していた。今彼はガンダムとプロトガンダム、そして稼働準備が後回しになっているガンタンクが載せられている左舷のMS(モビルスーツ)デッキに居る。ちなみに右舷MS(モビルスーツ)デッキには、シイコ少尉駆るガンキャノン1番機の他、カイ・シデン特務兵の乗るガンキャノン2番機、そしてリュウ・ホセイ士官候補生のコアファイターと乗り手のいないコアファイター数機が格納されていた。

 

 

「アムロ君、行こう」

「はい、エグザベさん」

 

 

 多少ノンデリな部分はあるが可能な限りこまやかに気を使ってくれるエグザベの言葉に従い、アムロはガンダムの操縦席(コクピット)へ向かう。着座すると、通信用の小型モニターにガンキャノン2番機のカイからの着信が入っていた。

 

 

『よーう、アムロちゃん』

「カイさん」

『万が一の出撃の時にゃ、頼むぜ? 俺ぁ、後ろから撃つぐらいしかできないから、よ』

 

 

 軽口を叩くカイだったが、そのヘルメットのシールド向こうの顔は若干引き攣り、冷や汗が流れている。本来であればリュウがガンキャノン2番機を担当するはずであったが、リュウをガンキャノンに乗せるよりもシミュレーターでのMS(モビルスーツ)操縦技術それ自体はあまり程度が変わらないカイを操縦士(パイロット)にして、リュウはコアファイターに突っ込んで置くのが現状戦力的に有効だという判断の結果だった。

 

 

『雑談はそのくらいにして』

『うぇ、セイラさん』

「セイラさん……」

『パイロット各員、待機段階を1ランクアップ。小規模のジオン艦隊を確認。チベ級重巡洋艦1隻を旗艦とし、ムサイ級軽巡洋艦2隻を率いる機動部隊。敵MS(モビルスーツ)は推定で、最大16機。こちらは既に大気圏突入シーケンスに入っており、この状態で攻撃を仕掛けて来るのであれば敵にも多大な危険を伴うため、攻撃されるかは不確定』

 

 

 オペレーターのセイラ・マス特務兵からの通信を受け、モニター画面のカイの表情は更に引き攣る。アムロもごくりと唾を飲み込んだ。

 

 

『……来んの、か?』

「来ると思っていた方がいいでしょうね。それで来なければ丸儲け、来たら想定通り、と考えればいいんです。その方が、気が楽です」

『アムロ、なんか達観してねえ?』

「シイコさんから教わったんですよ、心構えを色々と。あのヒトは、RX計画テスパイになる直前、一週間戦争には参加したそうですから。ルウム戦役には出てないらしいですけど。色々と勉強になりますよ。……まあ、したくない類の勉強ですが」

『うへぇ』

 

 

 そしてアムロたちは、操縦系のシステムを次々に立ち上げる。いつでも出撃できる様に。

 

 

 

*

 

 

 

 宇宙を()ぶプロトガンダムの操縦席(コクピット)で、エグザベは発進前の事を思い返していた。アムロのガンダムの調子を見ていたテム・レイ技術大尉が、プロトガンダムの様子も見るために来てくれた時に、待機状態で外部と接触ができなかったエグザベに、ニャアンからの伝言を伝えてくれたのである。

 

 

(……ニャアン、『嫌な臭いがする、必ず『来る』から気を付けて』か。あんな小さな子に気を使わせて……。いや、違う。気を使ってもらったからには、僕は僕でニャアンを、そして皆を護らないと!)

『ザザッ肩に力、入ってるわよ。アムロ君、カイ君もザッ』

「『『シイコ少尉!』』」

『正直、戦術面とか指揮面では助言できないけザザッ、少なくともパイロットの先輩としては、ね? ザザザ』

 

 

 一瞬瞳を堅く閉じて、そして再び開く。エグザベは大きく息を()くと、前方を見遣る。メインモニターにはまだ明確には映っていない敵機が、『視える』気がした。シイコ少尉が続けて言葉を発する。

 

 

『あ、そうそザッ、エグザベ君ごめんね。例のザッ教科書の件。うっかりしてたわ。ザザザッイド7の施設が襲撃されたときに、わたしのは一緒に吹っ飛んでたのよね。後でブライト君からかっぱらって来るから、それまで待ってねザザッ』

「あ、いえ、お気になさらず。……っていいますか、肩の力は必要以上に抜けましたから」

『ザッあら、そう? ……来やがったわ。全機墜とすわよ! ザザザザ』

 

 

 そしてエグザベ達はスラスターを開放し、迫る敵機に向かい吶喊(とっかん)した。

 

 

 

*

 

 

 

 1機、また1機、F型のザクⅡが火球になる。敵MSは総勢15機。予想最大数より1機少ない。大気圏突入が間近なので、おそらくは深追いはして来ないはずだが、ジオン軍の機動部隊は2隻あるムサイ艦からコムサイ2機を切り離して射出。これはザクⅡがぎりぎり帰艦できない場合に、ザクⅡを拾って大気圏降下するためだろう。

 カイはガンキャノン2番機の両肩のキャノン砲を撃ち放つ。命中させるつもりは(はな)から無い。目的は、ザクⅡの機動の邪魔をしてアムロ、エグザベ、そしてシイコ少尉の機体にスコアを稼がせる事だ。

 その視界の片隅を、リュウのコアファイターがフライパスして行く。その先にはもう1機だけ出撃しているコアファイター、ジョブ・ジョン候補生の機体があった。ソレは必死になって、ザクⅡF型から逃げ惑っている。リュウのコアファイターが必死に機銃とミサイルを撃ってジョブを救おうとしているが、しかしザクⅡには命中しない。

 

 

『わあああぁぁぁ! た、たすけザザッ!!』

『ジョブ・ジョン!!』

 

 

 ヘルメットのシールドの奥、カイの左頬に汗が一筋流れる。一瞬、何かが『視え』た気がした。カイはガンキャノン2番機の手に握られた狙撃用ビームライフルの向きを、微調整。そして引き金を引いた。閃光に包まれるザクⅡ。

 この戦闘で、これがカイの唯一の撃墜数になった。だがカイはそれに快哉(かいさい)を叫ぶことも無く、虚脱して荒い息を吐くだけだった。そして、ホワイトベースから帰艦命令が届く。

 

 

『時間切れザッ、シイコ少尉、カイ、リュウ、ジョブ、帰還して! ザザザッムロとエグザベは機体の機動力から言って若干余裕があるザザザ、あと60秒で帰艦ザッ』

「よ、ようやくかよ!」

 

 

 カイは機体を翻す。シイコ少尉のガンキャノン1番機が、後退しつつもう1機のザクⅡを撃破するのが見えた。

 

 

 

*

 

 

 

 2機のザクⅡがコムサイに収容されて行く。もう1機のコムサイも、2機のザクⅡを収容しつつ、大気圏への突入コースを取った。だが3機のザクⅡがホワイトベースに1機、サラミス級マダガスカルの突入カプセルに2機突っ込んで行く。エグザベは叫んだ。

 

 

「馬鹿な! あれじゃ帰艦できないだろうに!」

『頭に血でもザザってるんでしょうか!? い、いえ、だけどホワイトベース護らなきゃ!』

 

 

 アムロのガンダムがスラスターを開けて()ぶ。オマケと言ってはなんだが、その右手のビームライフルが、1機のコムサイをついでに撃ち抜いた。一方のエグザベは、ビームライフルを使い切っていたため、ビームサーベルを抜いて、ただしエネルギー節約のためにビーム刃は発生させずに()んだ。

 ザクⅡはバズーカを構えて、ホワイトベースに向かって撃とうとしている。アムロのガンダムが、ビームライフルを撃った。が、ザクⅡが射撃姿勢を取ったという完全な偶然で、そのビームはザクⅡの両脚部を吹き飛ばすだけに終わった。

 

 

『しまった!』

「くそ、コレで!」

 

 

 プロトガンダムの頭部から60mmバルカンの弾丸が、雨の様にザクⅡを叩く。どうやら当たり所が悪かったのか、バズーカを撃つ直前でザクⅡは爆散した。

 

 

『アムロ! エグザベ! 帰艦して! ザザッザザザ』

 

 

 セイラの声が響いた。しかしその指示を塗りつぶすかの様に、悲鳴が入電する。

 

 

『ブライト君! ザザザこのままだとカプセルが中から燃えてしまう!』

『わかりました! ホワイトベースに収容ザザッ、ああっ!?』

『うわぁ!!』

 

 

 サラミス艦マダガスカルの大気圏突入カプセルが、ザクⅡの攻撃で爆散した。エグザベは奥歯を噛み締める。奇しくもその時、チベと2隻のムサイ艦が、サラミス艦を撃沈していた。

 

 

『く、ミライ! ザザザ艦のコースを戻せるかザザッ!?』

『駄目、サラミスのカプセルを拾おうとコース変更ザザザから、ギリギリ過ぎてもうザザザ』

『アムザザッ、エグザベ、はやく帰艦を!』

「アムロ君、ホワイトベースの後部デッキだ! あちらからの方が早く入れる!」

『わ、わかりザザザ、エグザベさん!』

 

 

 エグザベのプロトガンダム、アムロのガンダムは、ホワイトベース後方の後部デッキから艦内に飛び込む。そしてホワイトベースは、当初の目標とずれた地点に向けて、地球へ降下して行った。




コンスコン、顔面蒼白です。15機のザクⅡのうち、母艦に帰還できたのは3機、コムサイに収容できて北米方面へ降下できたのが2機。もう1機出したコムサイは、収容した2機のザクⅡごとガンダムのビームライフルに撃たれて爆散。気に食わない若造のシャアが失敗したから、その不始末の世話をしてやってデカい面してやろうと、意気揚々と来たのですが。
結果としてザクⅡのうち10機を喪失し、2機は地球に降りてしまったのでたぶんガルマ配下に異動して戻ってきません。艦こそ1隻も失っていませんけど、MS(モビルスーツ)の損失ではシャアの事を全然笑えない事態に。

一方のホワイトベース。アムロがガンダムで大気圏突入することにはなりませんでしたが、それでも被弾したサラミス艦マダガスカルの大気圏突入カプセルを拾おうとしてコース変えたせいで、ジャブローに降りられなくなりました。でも北米じゃないですが。
あと、史実では生還してたリード中尉、爆散しました。まあ彼が撃たれてたおかげで、カモ撃ちに熱中して帰艦タイミング見誤ったザクⅡF型2機はクラウンしましたが。クラウンしたという動詞(笑)。
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