偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第41話 生きて行くという事と、日常と

 目の前には、大きな病院。非番の日にここへやって来たゼロ少尉は、とりあえず受付で面会申し込みをする。とりあえず薬などとの相性の関係で、持ち込めない類の見舞品の菓子を受け付けで取り上げられてしまったが、まあ全部が全部では無かったし、帰る時には返してくれるとの事だ。ちゃんと事前に聞いてくるべきだった、としょんぼりしながら、半分になった菓子を持って病棟の個室へ入室する。

 

 

「あ、君が兄さんかい。はじめまして、だね」

「ドゥー・ムラサメ、か。まあ、血縁は無いが、ムラサメ研で同じ姓を貰った、兄貴ではあるな」

「いつも宅配便で見舞の菓子、感謝する。だけど半分がクスリとの関係で食べられないから没収されてるのはちょっとね」

「それは済まん。面会前に、駄目な類の菓子の表をもらった。今後は大丈夫だろう」

 

 

 ゼロ少尉は椅子に座る。会話はほとんど無い。だが人工的に付加されたとは言えニュータイプ能力の感覚で、相手には自分が隊の皆から貰った『モノ』を分け与えられているのが、感じ取れる。エグザベ中尉の不器用な思いやり。ゲーツ少尉のちょっと同病相憐れむ的な、ぶっきらぼうな優しさ。転属して行ったが、アダム准尉の壁を作らない気安さ。来たばかりだがエグザベ中尉とは昔からの付き合いのある妹分である、ニャアン少尉の難しい気遣い。

 その様な物を、『雰囲気』に『乗せて』流してやる。彼は自分の能力が、このような使い方が出来るとは、思ってもいなかった。なんとなく、こそばゆく思う。

 

 

「……少し、精神的に落ち着いて来たと思う」

「……そうか」

「『アレ』が自分の身体だとか、最近は思わなく、なって来たし、さ。薬が効いてるうちは、だけど。気を抜くと、戻っちゃうのもある、んだけどね」

「……無理はしないでいい。俺たちのは、長く、長く時間が掛かるもの、だ」

「うん」

 

 

 はかなげに、ドゥーは笑った。だが、その笑顔が強張る。身体が震え出した。

 

 

「無理を、させたか?」

「ち、ちが……。ごめ、ん、クスリと、って。引き出し、に、黄色の、水薬……」

「わかった。待てるか」

「う、ん」

 

 

 だが彼女の様子は、どんどんおかしくなって行く。ゼロ少尉は薬瓶を手渡すと、ナースコールを押した。ドゥーはガチガチと歯を噛み鳴らし、必死に薬を飲もうとするが、上手く飲めない。ゼロ少尉が薬瓶を取って、飲ませてやろうとするが、うまく行かない。

 

 

「くっ!」

 

 

 一瞬で決断すると、ゼロ少尉は黄色の水薬を口に含み、ドゥーの唇を自分の唇で覆う。口に含まれた水薬が、ドゥーの喉を流れ落ちて行った。と、同時に看護師が来る。

 

 

「! 何があったん……」

「発作だ。急ぎ薬を飲ませたが」

「!! ありがとうございます! 少し離れていてください。それと薬、口移しで飲ませたのなら、少々強い薬なので。洗面所で口を濯がれた方がいいかと」

「わかった」

 

 

 ゼロ少尉が口を濯いで戻ってくると、まだ処置の最中だった。看護師だけではなく、医師も来ている。先ほどの看護師が、口を開いた。

 

 

「申し訳ありません。本日は面会を切り上げていただいても……。いえ、ずっと付き添っていただけるのであれば別なのですが、軍人さんはそうも……」

「わかります。では、本日はこれで」

 

 

 そしてゼロ少尉は、心でドゥーにエールを送る。

 

 

(がんばれ)

(ありがと……)

 

 

 しっかりと返事が来たのを感じ、ゼロは帰途に就く。受付で取り上げられた菓子を返却してもらうのを忘れたが、もう駅で地下鉄に乗っていた。

 

 

「あの、軍人のお兄さん?」

「え」

「どこか、お悪いのですか?」

「いえ、お婆さん……」

 

 

 ゼロ少尉は怪訝そうな顔で応える。老女は心配そうな顔で言った。

 

 

「いえ、泣いておられるので」

「え」

 

 

 指で自分の頬に触れると、涙で濡れている。続けて、涙が溢れる。嗚咽が溢れる。悔しかった。悲しかった。だが、立ち向かわなくてはならない。自分も、ドゥーの心配ばかりしていられないのだ。まだゼロ少尉も、治療は必要な身だ。そして、それがとてもつらかった。

 老女が黙って、背中をさすってくれる。見ず知らずの人の親切が、この上無くありがたかった。

 

 

 

*

 

 

 

 街角でカイ中尉は、いわゆる街宣車に出会った。それはスペースノイドに対する悪罵を撒き散らし、その徹底的排撃と弾圧を謳っている。明らかにエゥーゴ連中の思想に染まった奴らだった。溜息を吐いてカイ中尉は、ポケット内の携帯端末を見ずに操作、母艦であるトロイホースやスタリオンが駐留している基地へと、メール連絡を行う。これでしばらく待てば、当局が処理してくれるはずだ。

 

 

(昔だったら、見て見ぬふりして、どっかに退散してたろうになあ……)

 

 

 そう思い、深々と溜息を吐いたその時だった。強烈な悪意が、彼の精神に感じられる。次の瞬間、街宣車が、爆散した。

 有線ミサイルエレカ、元は軍用だったと思われるソレは、表面にジオン公国の紋章が描かれている。そいつが単射ではあるが、ミサイルをぶっ放したのだ。爆発の威力は高く、街宣車だけを吹っ飛ばすどころではない。周囲に惨状が広がる。

 

 

「ば、ばっかやろう! ジオン残党もかよ! なんで双方が、こんなとこで面突き合わせんのよ!?」

「カイ!」

「セイラさん!?」

「遅くなって、ごめん! それより!」

「ああ!」

 

 

 カイ中尉は必死に声を張り上げる。

 

 

「連邦軍の者だ! 落ち着いて避難を! パニックになったら、そいつから死ぬぞ! 無理でも落ち着け! 連邦軍の者だ! 東シェルターへ急げ!」

「こちらです! 早く! 急いで、でも慌てないで!」

 

 

 合流したセイラ少尉も、必死に避難誘導をする。やがてドダイ改に乗ったガンダムMk-Ⅲが2機と、ガンダムMk-Ⅱが2機、現れた。ベースジャバーよりもドダイ改の方が、スピードは速い。

 

 

(アムロ!!)

(カイさん!? セイラさんも! 何やってんです!)

(非番で街に出たら、こんなんなっちまった!)

(有線ミサイルエレカを早く!)

(わかりました!)

 

 

 アムロ中尉のガンダムMk-Ⅲが、ビームライフルの下部に取り付けられた低威力の三連装機関砲で、有線ミサイルエレカを撃破した。そしてニュータイプ能力を全開にして威圧感を声に乗せ、降伏勧告。

 

 

『こちらは地球連邦軍第49独立戦隊所属MS(モビルスーツ)部隊だ! 降伏しろ! 動ける者は膝を地面に着けて両手を頭の後ろに組め! 繰り返す……』

 

 

 いかに気合いの入ったテロリストと言えど、魂の奥底から揺さぶられる様な精神波が乗った降伏勧告には、そうそう抵抗できようもない。動けない重傷者は放置して、動ける者は全員が言われた通りの姿勢を取る。

 そして最初にカイ中尉が連絡した当局が手配した憲兵(MP)が、数台の車に乗って現れる。だが当初の予想とはまったく違う現場の様相に、目を白黒させた。カイ中尉は溜息を吐く。

 

 

「やれやれセイラさん。食事の約束は、残念だが……」

「そうね、予約した店、吹っ飛んでるじゃない」

「頭痛ぇ……。とりあえず、事情説明とか状況報告とか事情聴取とか、だな」

「ええ……」

 

 

 カイ中尉とセイラ少尉は連れ立って、憲兵(MP)の方へ歩いて行った。

 

 

 

*

 

 

 

 公園で、エグザベ中尉とニャアン少尉は、ベンチに座ってのんびりしていた。

 

 

「日差しがあったかいね」

「うん」

「……あれは、炊き出し、かな」

「うん、たぶん」

 

 

 見遣ると、ボランティアの人たちがやっている炊き出しに、長い列が出来ている。人々の生活は、一年戦争終戦から随分経った今も、苦しいのだ。

 

 

「僕らは、親父さんに拾われて本当に……。幸運、だったな」

「……お義父(とう)さん、の。サイド7のグリーン・ノアで、犠牲者の人たちは慰霊、されてるんでしょう?」

「悲しい事に、なんか無縁仏みたいな扱いで集合葬しか出来てないみたいだけど」

「いつか、お墓参りに行こう」

「ああ。必ず」

 

 

 静かな、静かな時間が流れた。その気になれば言葉はいらない2人だが。けれども、やはり言葉にしなければ、対話をしなければ、伝わらない。『能力』に頼って横着するのは、何かが違う。誤解の余地なく理解できたとて、『理解し合う』事はできないのだ。

 

 

「エグザベ兄さん」

「なんだい?」

「結婚、してください」

「……僕から言おうと思ってたんだが」

「え」

「うん、了解」

「……うん。うん」

 

 

 そしてニャアンは訊ねる。

 

 

「いつから、ですか? そう思ってたのって」

「アムロとシイコ大尉の結婚式でさ。ニャアンの隣に誰か男が立ってるのを想像したらさ。嫌な気分になってさ。あのときは、兄貴として、父親代わりとして、の気持ちかと思ったんだけど」

「……」

「違った」

「そうですか。そんなに前からだったんですか。わたしの苦悩と苦闘の日々を返してください」

「ごめん。物事は、軽く考えて流しちゃ駄目だね。疑念は、よく考えないと」

 

 

 伸びと深呼吸をして、エグザベは語る。

 

 

「あのとき、よく考えなかったら。今でも兄貴分、父親代わりって感情に捕らえられてて、選択肢を誤ったかもね。やっぱりちゃんと考えないと、駄目なんだ」

「ですね。わたしも考えました。同期生のあの娘には、感謝しかない、です」

「で、どうする? とりあえず僕が考えてるのが、アムロとシイコ大尉に倣って、急いで籍だけ入れる事なんだけど。今後忙しそうだから、式はまだ駄目だろ」

「そうしましょうか」

 

 

 柔らかな午後の日差しが降り注ぐ中で、2人はぼけーーーっと公園の景色を眺めていた。

 

 

 

*

 

 

 

 ブライト艦長は、ゴップ大将からの通信を自室で受けていた。秘匿性の高い、レーザー通信である。

 

 

『やあブライト君』

「閣下、この度は何か緊急の案件でも?」

『いや、時間が空いたので世間話だ』

「は、はあ」

 

 

 いや世間話とは言っても、ゴップ大将(このヒト)の場合、唐突に政略の話が絡んで来るので油断はできないのだが。

 

 

『ああ、そう言えば。いい話があったよ。恩赦があって、特赦だ』

「何のお話でしょう?」

『とりあえず表向きは、地球連邦はエゥーゴ内戦を完全勝利で飾った。表向きはね。表向きの話だがね。……それで、恩赦が出たんだよ』

「……まさか!」

 

 

 ゴップ大将は、カエル面をにんまりと微笑ませて語る。

 

 

『ドズル・ザビだがね。エゥーゴの根拠地であるベルファスト攻略作戦の直前に、終身刑の判決が『間に合わせるために』『大急ぎで』出されてね。そして作戦終了、内戦の終結を連邦議会が公式発表。それに合わせて恩赦が決定され、特赦でドズル・ザビの有罪判決は根本から消滅したと言うわけだ』

「力技ですね」

『その通りだ。だが』

 

 

 次の瞬間、ゴップ大将の視線は厳しく(しか)められる。

 

 

『デギン公王については、恩赦は適用されなかったがね。させるつもりも毛頭無いし、ね。デギン公王は、ドズル・ザビに先だって終身刑が言い渡されている。もっとも身体の状況が悪化しているから、刑務所ではなく鉄格子のある病院に収容されて、そこで余生を過ごす事になるだろうが』

「……それでも、安らかな余生になりそうなのは、少々腹も立ちますな」

『あの男には、まあ、そうだな』

「……」

 

 

 黙りこくるブライト艦長。そこへゴップ大将は、別な爆弾を放り込む。

 

 

『ところでミライ君の事だがね。養子縁組に了承してもらえたよ。まあ君も忙しいだろうが、空きがありそうな日程をいくつか教えてくれたまえ。見合いの予定を組んで置くのでな』

「!! あ、ありがとうございます!」

『うんうん』

 

 

 カエル面の短足あしながおじさんは、満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

*

 

 

 

 ドズル・ザビは悩んでいた。終身刑が、一転して恩赦による特赦。

 

 

「俺はこのまま、サイド3へ、ジオン『共和国』へ帰ってもいい、ものか……」

 

 

 ミネバには会いたい。ゼナにも会いたい。ゼナから差し入れの写真は送られて来ているが、間違いなく娘は父の顔を覚えているわけが無い。……だが。

 

 

「俺は……。形の上では特赦され罪は消滅した。だが、だがッ!!」

 

 

 この数年、彼は自分の罪に押しつぶされそうになり、ひたすら裁きを求めた。その結果がこれだ。しかし彼自身が、己を許せない。赦せない。今にも心が潰れてしまいそうになる。

 

 

「俺に、俺に何ができる。俺は何をすべきなんだ」

 

 

 彼の目に、まだ希望は見えない。娘に合わせる顔が、無かった。




皆さんの、日常風景です。とりあえずエゥーゴ内戦直後から、少し経過したあたりまでの間での、日常の様子。ギスギスしてるところもあれば、ほんわかしてる部分もある。そしてドズルの闇は晴れない。
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