ガルマ・ザビは本来、地球追放刑となってサイド3ジオン共和国に帰還していた身だ。しかし此度の恩赦で幸いなことにその追放刑が打ち消され、地球へ降り立つ事ができるようになった。まあ妻であるイセリナも、息子であるアルクスも、どうせサイド3にしっかりと根を下ろしているのだから、無理に地球に来る必要は無いのだが。
だがしかし、ある1件だけに於いて、彼は地球に来る必要があった。あったのだ。今、彼の隣にはあの一年戦争の英雄、ヨハン・イブラヒム・レビル将軍が立っている。他にも背広の、あまり見栄えのしない男性も立っているが。ガルマはそちらに目を遣って、頷く。レビル将軍もまた、頷いて手を挙げた。
ドッガアアアァァァン!!
ホテルの一室のドアが、特殊部隊が持ち込んだ破城槌で破壊された。そして数十秒だけ待つと、中から巨漢が現れる。
「俺を狙ってのテロかあッ!! かまわん、撃つなら撃て! だが他の一般人、無辜の民に被害を出す事は許さん! 俺の命が欲しい……な……ら?」
「兄さん。ドズル兄さん。何をやっているんです」
「が、ガル、マ?」
「前非を悔いて。無辜のスペースノイドを殺し、そしてコロニー落としで多数のアースノイドを殺し。その罪の清算を願い、裁きを求め」
ガルマはドズルに向かい、一歩一歩、歩いて行く。
「此度の恩赦による特赦で、罪状が全て取り消された。だからと言って、兄さん自身が納得できないのは、理解します。罪の重さに苦悩しているのは、理解します。ですが」
「が、ガルマ」
「だからと言って、支給金でホテルの一室に閉じこもっているのは、違うでしょう。だからホテル側と連邦サイドに許可取って、破城槌まで持ち出して来たんです。悩んでいるのも、苦しんでいるのもわかる。でも、それでも」
更に一歩、ドズルに近寄るガルマ。その指がドズルに触れる。その頬を、一筋の涙が伝う。
「こんなに、痩せてしまって。こんなに、痩せて……しまって」
「……」
「いいんだ、ドズル兄さん。貴方は確かに、ジオン公国の意思決定の場には居たのだろう。でも、ズム・シティの公王庁舎で発見された議事録で、明らかになっている。貴方は、軍人としての本分を踏み外さなかった。父、ギレン兄、キシリア姉さんが決定した事を追認しただけだ。軍人として、許される範囲での反対もしただろう?
確かに虐殺に加担もしただろうけど。でも、ギレン兄の総帥としての命、公王としての父の命、それが明確にある以上は。軍人としてのドズル兄さんには、逆らう道は無かった。そうだろう? それでも、それでも自分を赦せないなら」
ガルマの目の色が変わる。まるで戦時中のギレン・ザビが乗り移ったかの様だ。やはり血は争えないのだ。
「働け、ドズル兄さん! 引き籠ってウジウジ考えてるヒマなんて無いんだよ! 僕はゴップ大将、そしてここにいるレビル将軍とも話したんだ! 地球圏は……サイド3とかジオン共和国とか言ってる場合じゃない! 地球圏は今、一年戦争だけじゃなくエゥーゴ内戦とかその他諸々のおかげで、大ピンチなんだぞ!
そして、そしてだ! ここでジオン共和国が、一年戦争の
「!!」
「……僕は今、というか先日だが、出馬して議員に当選した。初当選だ。そして今回、ドズル兄さんを説得するついでに? ふふふ、ドズル兄さんを説得するついでにね? レビル将軍、ゴップ大将、そしてそこにいらっしゃる地球連邦議会の議員にして外務大臣であらせられる、ジム・ホーキンス氏ともお話ししたんだ」
見栄えがあまりしない男、しかし流石にガルマ……ガルマ議員やレビル将軍のカリスマ性の隣では目立たないのも仕方ないだろうが、その彼が地球連邦政府の外務大臣だ。彼は苦笑しつつ言う。
「公務をついでとは、なかなか剛毅なお方だ」
「人は、まず小さな幸せのために動くものです。それがあってこそ、大きな幸せのために動ける」
「至言ですな」
「忘れては、ならない事です。一年戦争で、わたしたちは、どれだけ多くの小さな幸せを踏み潰したのか。他人のものだけではなく、自分たちの物も含めて、ね。……わたしは、子供だった。坊やだった。あまりにも」
そしてガルマは、再度ドズルに向き直る。
「帰ろう、ドズル兄さん。サイド3に。
「帰って、いい、のか? 俺は、俺が、帰っても」
「だから言ってるだろう? 帰っていいんだ。そして帰って来てもらわないと駄目なんだ。山の様な仕事が、ドズル兄さんを待ってる」
「……!!」
ドズルは、上を向いた。涙がこぼれそうだったためだ。だが
「と言うわけで。早速一仕事してくれるかな、ドズル兄さん」
「んあ?」
「まずはレビル将軍、お願いします」
「うむ」
今まで黙って壁の華になっていたレビル将軍が、『TVカメラに向かって』胸を張る。ドズルは唖然とした。
「な!? TVカメ、ラ? ま、まさか今までの一部始終」
「電波は光速でしか飛びませんから、タイムラグはありますが。地球圏全域生放送です。だって万一僕がホテルのドアを破ってドズル兄さんを連れ出した、なんてニュースが流れたら。もしかしたら軟禁されているドズル兄さんを僕が強硬手段使って救出した、なんて誤解されたら大変でしょう? 何事もオープンに、公明正大にやるのが一番です」
「待て! 俺が泣いちまったのまで流れたのか!?」
「ネット上だと、大反響ですよ。こんな書き込みも。自分はソロモンに居たから知ってるが、顔に似合わず人間味があるお方だと再認識した、とか」
「顔に似合わずは余計だ!!」
慌てるドズルを後目に、レビル将軍はTVカメラに向かって演説を始めた。
「……ドズル・ザビ氏はこれにてサイド3ジオン共和国へと帰還する事になる。しかしながら、注意喚起しておきたい。此度の恩赦……。エゥーゴ内戦の圧倒的な勝利における、この恩赦だが! ガルマ・ザビ議員の地球追放の帳消しやドズル・ザビ氏の終身刑取り消しだけに終わる物ではない事を、宣言しておこう!」
「!!」
「ドズル兄さん。しっかり聞いて、自分の演説内容をざっくりと頭の中に固めておいてくださいね」
「お、俺も!?」
「当然です。でも兄さんは、細かい事をつらつらと言うよりも、豪快に思いのたけを叩きつけた方が良いですから、その辺は高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処を」
「それは行き当たりばったりだ!」
レビル将軍は続ける。
「今回の恩赦は、地球圏各地に潜伏しているジオン公国軍の生き残りにも、適用されるものである! 無論のことながら、これは旧公国軍の面々が近隣連邦軍あるいはそうでなくとも当該地域の官憲に投降し、正しく裁きを受けた場合に限られるが! だが少なくとも余程の非道を働いておらぬ限りは最低でも罪一等の減刑は為され、多くの者がそう時を経ずしてジオン共和国への帰参を許されるだろう!
……よく、よく考えて欲しい。此度はエゥーゴ内戦と言う一大事件が逆に作用した、千載一遇の機会である。おそらくは、これが最後の機会ともなるやも知れん。旧ジオン公国軍の者達に言いたい。今なら、今なら諸君らは、大手を振ってサイド3へ、
「ほ、本当なのかガルマ」
「本当です。その証言に信ぴょう性を持たせるために、ジム・ホーキンス氏にも来ていただいたんですから」
「そして地球連邦政府から、此度のエゥーゴ内戦大勝利と言う慶事にて、ジオン共和国ならびに全ての
……地球連邦政府は、段階的に
これはゴップ大将、レビル将軍、ワイアット大将、その他色々な人員が、半ば恫喝までも含めて地球連邦政府議会に圧力を掛けた結果だったりする。まあそんな裏は知らずとも、発表したレビル将軍が深くこの意思決定に関わっていそうなのは、このTV放送を見ている人間からすれば理解できる事だ。遥か未来の大統領選への布石、だ。
まあ、うん、まあ。ゴップ大将たちからすれば、いずれ地球圏の人類を宇宙移民させる予定なのだ。宇宙市民、スペースノイドへの参政権付与なんてのは、それが成れば当然のごとくに実現される事でもあるし、このカードは意味が薄れる前に切っておくべきなのである。
「更にジオン共和国については。地球連邦政府はジオン共和国より、一年戦争における賠償金を、あと27年の年賦で支払ってもらう事になっている。だがそれを、火星圏の開発事業への出資と人員派遣で相殺し、あと10年まで縮める事を決定した。そして10年経過後に賠償金支払いを完了させた後、地球連邦議会は更に議席を1議席増員し、その枠をジオン共和国に割り当てる。同時にジオン共和国を地球連邦加盟国として認可し、地球連邦の構成一国家として正式に認めるであろう!
我々は、苦難が無ければ手を取りあえないのだろう。いや、苦難があってすらも、右手で握手をし、その左手にはナイフを隠し持つ様な存在なのだろう。現に、今の我々が、そうだ。我々は、ジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプに対する、歴としたオールドタイプ、なのだろう。それでも我々は! 握り合った右手で! 共に未来を掴まなければならん! どうか、我々と共に、道を切り開いて欲しい。左手のナイフが、
このレビルの『左手のナイフ』演説は、大多数からは熱狂的な賞賛の嵐を浴びる事になる。しかしごく一部、地下に潜ったエゥーゴ残党たちとそれに心よせる者達からは、アースノイドを『左手のナイフ』で切り捨てた演説だ、と唾棄される事となった。
ちなみにこの後に続けて行われたドズル・ザビの演説は、そっちも大人気になったそうだ。この演説で、ジオン共和国に帰参したい本音を持っていた者たちは、大部分が投降して裁判を受ける事を選んだのだった。
*
第49独立戦隊、改ペガサス級強襲揚陸艦トロイホースとスタリオンは、コロンブス改級補給艦サン・ファニートより推進剤の補給を完了し、離脱軌道を取っていた。スタリオンの左舷
と、そこへゼロ少尉がやって来る。
「よお、隊長。ニャアン少尉も」
「どうしたゼロ少尉」
「こんにちは、ゼロ少尉」
「いや、ちょっと悩み? があってな。少し、聞きたい」
「「???」」
ゼロ少尉は、しみじみとした風情で語る。
「あんたら、入籍したんだろ? 自室も隣り合わせに変更して、間の隔壁ブチ抜いて大部屋に改造して」
「ああ」
「うん」
「……妹と、結婚、か」
ごぶぅっ!!
聞いてたつもりは無かったのかも知れないが、きっちり聞こえていたのだろう。隣のガンダムMk-Ⅱの方から、ゲーツ少尉がドリンクを吹き出して鼻から漏れ出させる音が聞こえた。ちょっと顔を赤くして、ニャアン少尉が引き攣る。一方のエグザベ中尉は、ぜんぜん
「いいだろ」
「まあ、少し羨ましいとは思わんでもない」
「ほう?」
「……事故というか、緊急避難とは言え、妹の。血は繋がってないが妹の、唇を奪ったんだ。たぶん相手は気にしてないとは思うが。急病みたいなもんで、薬を口移ししただけなんだが。だが、万一相手が気にしてたら、責任は取った方が?」
「……なるほど」
エグザベ中尉は頭を掻く。だがゼロ少尉の目を見据えて、はっきりと言った。
「まずは、話す事だ。僕らはニュータイプだとは言われている。だけど、ジオン・ズム・ダイクンの語るニュータイプじゃない。それでは、あり得ない」
「……」
「黙ってても理解し合えるなんて、幻想だ。能力があっても、だ。補助にはなる、ぐらいに思っておいた方がいい。よく言われるけど、下手したら相手が『相容れない敵』だと一瞬で『理解して』しまい、瞬時に殺し合いになるかも。でも、言葉を使って話せば、そんな相手でも歩み寄れる余地が出るかも知れない。言葉は、ツールだ。ただのツールじゃない。大事な、必要な、重要なツールなんだ」
「……ああ。今度会ったら、『言葉で』『話して』みるさ。結果、責任取れって言われたら……」
「責任取るべきじゃないか?」
ゼロ少尉は頷く。その時に、周囲に警報が鳴った。皆は自分の機体へと、飛び込む。
「こちらエグザベ中尉!
『センサーに感あり! 小惑星帯の宇宙要塞アクシズ方面からと思われます! ……照合結果、出ました! 旧ジオン公国軍グワジン級戦艦! 現在のジオン共和国では運用されていないので、まず間違いなくジオン残党です!』
『待て、こちら艦長のエルマーだ! 今、相手側からトロイホースのブライト艦長に通信が入っている! レーザー通信で共有されているが、そちらにも映像を送るから意見が欲しい!』
「こちらエグザベ中尉、了解!」
そしてガンダムMk-Ⅲの全天モニタの一部を切り取って、グワジン級からの通信内容が送られて来た。
『ザザッ……こちらはジオン公国宇宙要塞アクシズ宇宙艦隊所属艦、宇宙戦艦グワザン。自分は暫定艦長、マシュマー・セロ中尉であザザザザッ。こちらは暫定副長のグレミー・トト少尉。現状当艦には、アクシズ指導者……『であった』、マハラジャ・カーン様とそのご息女、ハマーン様とセラーナ様が乗っておられるザザッ。
そして……。グレミー少尉、あとは貴官から』
『はっ。ザザザ自分がグレミー・トト少尉です。そして、もう
トロイホースも、スタリオンも、大騒ぎになった。
というわけで、起こってしまった事は仕方が無いので最大限ぎりぎり、ギリッギリまで活用するゴップ大将とその愉快な
そして宇宙での残党狩り(ジオンもエゥーゴも両方)やってたんですが……。
『残党を探していたら、とんでもないグワジンを見つけてしまった、どうしようー』銭○警部風に。
うん、まあ、うん。『かつて』アクシズ代表者であったマハラジャさんご一家。そしてマシュマーと、よりによってグレミー。今、追手もかかってます。緊急で出港して来たんで、グワザンには