偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第44話 もうちょっと穏当な手段は無かったのか

 サイド1に再建された1バンチコロニーに一時寄港した第49独立戦隊の作戦司令であるブライト艦長は、あらためてグワジン級戦艦グワザンに出向いて相手方と会談を行っていた。

 

 

「……それでマハラジャ・カーン殿の容体は?」

「最速でアクシズ要塞を離脱してきたとは言え、長期間の航宙の間昏睡を続け、解毒剤は投与したものの汎用品であり特効薬では無く、更に食事は胃にチューブを挿入しての流動食摂取。昏睡が長すぎた事と毒物の影響もあり、目覚めるかどうかすら不明で、目覚めたとしても重度の障害が残る事は確実と」

 

 

 必死に耐えて語る女性は、マハラジャ氏の次女であり現在グワザンにて最上位にあるハマーン・カーン女史だ。彼女は折れるまいと気力を振り絞っているが、限界が近そうなのは見て取れる。

 それはそうと、ガルマ議員とドズル氏の放送があったのはせいぜい2ヶ月しか前ではないのに、よくアクシズからこちらまで到達できた、と思うブライト艦長だ。だがその答えは、会話の中で明かされる。

 

 

「ブライト少佐。貴官を通して、どうにかグワザンへの推進剤等諸物資の補給をお願いできないだろうか。短時日にアクシズより地球へ到達するために、限界ぎりぎりの加速と到着寸前での急減速により、グワザンにはほとんど余裕が無いのだ。対価として用意できるのは、アクシズより持ち出した貴金属や希少金属のインゴットしか無いのだが。このままでは、共和国……いや、『本国』へ『帰参』するためにサイド3へ到達するのにも、少々心もとない」

「……『上』を通して、サイド3ジオン共和国船籍の補給船を回してもらえるか、聞いてみましょう。この件はデリケートな問題ですので、わたし自身の裁量でどうとでもなる部分以上は、連邦軍の力は借りずに『ジオン共和国内部の話』として片付けた方が良い」

「感謝する……」

「それにしても、グワザンの性能は凄いものですな。おそらくその様な無茶は、グワジン級でもこの艦しかできないのでは? ……となると、あのザンジバル級とムサイ級の追手ですが」

 

 

 ハマーンは頷く。

 

 

「間違いなく、アレは地球圏へ潜入していた先遣隊だろう。父マハラジャが知っていたかどうかは父が目覚めぬ限りはわからない。だが父は地球圏、地球連邦とは距離の壁を用いて冷戦状態を続け、徐々に雪解けを目指す融和路線を企図していた。

 これはわたしの想像でしかないが、エンツォ・ベルニーニ大佐による物では無いかと存じる」

「エンツォ・ベルニーニ大佐……。おそらく今現在、アクシズを掌握していると見られる人物ですな」

「あやつ、いえ彼は地球連邦に対する徹底抗戦派だ。アクシズ内部でも極めて先鋭的な人物であった」

 

 

 と、ここでグワザンの艦橋(ブリッジ)オペレーター、おそらく通信士が、声を上げる。

 

 

「も、申し訳ありませんハマーン様! 木馬、いえ改ペガサス級強襲揚陸艦トロイホースより通信です! ブライト少佐に、至急艦にお戻りいただきたい、と! どうやら少佐に緊急連絡が入った模様でして!」

「!? ハマーン殿、申し訳ありませんが」

「いや、緊急事態なら仕方ない。こちらこそ長話、すまなんだ」

「先ほどの補給船の件は、たしかに」

「感謝する」

 

 

 そしてブライト艦長は、連絡艇(ランチ)に飛び乗ると急ぎ自艦へと戻ったのだった。

 

 

 

*

 

 

 

 改ペガサス級強襲揚陸艦トロイホースに戻ったブライト艦長は、急ぎ暗号通信の暗号解除(デコード)を命じる。それを読み取った彼は、右手でこめかみを押さえて一瞬唸ると、愚痴を呟いた。が、即座に立ち直り、命令を下す。

 

 

「シイコ大尉とアムロ中尉、それにカイ中尉を呼べ。それとレーザー通信でスタリオン艦橋(ブリッジ)にも繋いでくれ。あちらではエグザベ中尉とリュウ中尉を呼ばせる様に」

 

 

 数分後に、略式会議の場が整う。ちなみにその間、ブライト艦長はグワザンへの補給をジオン共和国船籍の補給船で行う件の嘆願について、暗号通信で『上』へ送る措置を完了している。マメな男であった。

 そしてブライト艦長は、(おもむろ)に発表を行う。

 

 

「全員、心して聞いてくれ。これは『上』からの公式発表があるまでは、口外無用だ。漏らした者には、相応の処分があるレベルだと思ってくれ」

「「「『『『……』』』」」」

「2日前のグリニッジ標準時02:00(マルニーマルマル)時。再建された軌道上の反射式宇宙望遠鏡が、ダメ元で監視していた小惑星帯の旧ジオン公国宇宙要塞アクシズ方面宙域にて、核パルスエンジンの噴射光を確認した」

「「「『『『!!』』』」」」

 

 

 それが意味する事は、小惑星要塞アクシズが、何処かに異動を開始したと言う事だ。

 

 

「軌道計算の結果、アクシズの目標はやはり地球圏だ。来年、宇宙世紀0087末頃に、アクシズは地球圏到達すると思われる」

『来ます、か』

「ああ、来るぞエグザベ中尉」

「ゴップ大将は? レビル将軍は?」

「いや、アムロ。暗号文にはそこまでは書かれていなかった。本来の我々の任務は、遠隔地の偵察任務だった。だが、アクシズからの離脱者保護やその追手の撃滅。追手がアクシズの先遣隊として地球圏へ潜入していた部隊である事がほぼ確定した今、偵察任務は果たせたと言ってもよかろう。

 とりあえず今後の動きとして、まずは『上』に指示を仰がねばならんが。だがとりあえずは、グワザンの補給が済んだなら、ジオン共和国へ護送する任務を貰えないか、上申してみようと思っている」

 

 

 と、ここでトロイホース艦橋(ブリッジ)の通信士が声を上げた。

 

 

「艦長! ジャブロー本部よりコンペイトウ基地を経由して暗号通信です! 解読(デコード)に回します!」

解読(デコード)したら、こちらに! ……『上』も、かなり混乱が続いている模様だな」

「そうねえ。いつもだったら無駄話兼ねてレーザー通信で直接会話だものね」

 

 

 そしてブライト艦長は、通信文に目を遣る。

 

 

「なるほど、『(あちら)』も分かっている様だ。第49独立戦隊は、グワザンのジオン共和国補給船による補給が完了次第、グワザンを共和国へ護送する。ただしマハラジャ・カーン氏についてはそのままサイド1にて入院、療養との事だな。ハマーン女史については共和国だが、三女セラーナ・カーン女史については希望通りにマハラジャ氏の付き添いを認めて、テロに対する防衛のために近隣に連邦軍の海兵隊を配置すると」

「……人質、にも見えるが大丈夫なのかい?」

「そう見える事も已む無しの判断だ、カイ。現実問題として、旧ジオン公国のギレン親衛隊派閥やキシリア派閥などの、残る強硬派というか過激派連中。そしてエゥーゴ連中。マハラジャ氏にとどめを刺して状況を悪化させたい奴らはごまんといる。当人の容体が心配でなければ、何が何でも共和国に送って責任を押し付けたいのが山々なのだろうが、な」

「まいったねえ」

 

 

 カイ中尉がぼやいた。この会議の翌日、ジオン共和国船籍の輸送船が到着、戦艦グワザンへの補給を開始した。まあこのサイズの補給船では満腹にならないのがグワジン級ではあるが、ジオン共和国へ到着するのには余裕でたっぷりお釣りも来るだろう。そして更に翌日、第49独立戦隊に護送され、グワザンはサイド3宙域へと旅立った。

 

 

 

*

 

 

 

 核パルスエンジンによる加速で、進行方向の逆にわずかなGを感じつつアクシズ内の執務室で書類の山に向かっていたエンツォ・ベルニーニ大佐は、内心で思う。

 

 

(……地球圏へ到達すれば、ジオン共和国へ追従したくない強硬派な側面を持っている者たちは、アクシズへと集結して来るだろう。一方でもはや地球連邦には抗しきれないと見た者達は、なんらかの手段を以てしてジオン共和国へと逃げ出すのも目に見えている。

 マハラジャ・カーン……。距離の壁をもってしての長期戦略など、手ぬるいのだよ。それをやっていては、手遅れなのだ。わたしは、おまえと比べれば小者に過ぎぬのは理解している。だが小者には小者なりの視点があり、大物には見る事のできない小さな物事が、その側面が、はっきりと見えるのだよ)

 

 

 エンツォ大佐は、目頭を手指で揉む。疲れているのは自分でも理解していた。しかしやらねばならない。

 

 

(お前の長期戦略は、地球圏のジオン『公国』シンパだけではない。地球圏そのものを見捨てる行いだ。今、今この瞬間! 割って入らねばならぬのだ! ……地球圏は、蝕まれている。だが、あるいは今が千載一遇の機会でもある。我々が『奇跡的に』地球連邦を打倒できたなら。エゥーゴの様な、地球連邦を蝕んでいた『毒』を、今度は我々が正面決戦をもって打倒する。地球連邦を打倒すれば、『毒』どもは今度は集まって実体を持ち、脅威とはなるだろうが逆に潰しやすくもなるだろうからな。

 そして、こちらの方が可能性がはるかに高いが……。我々が敗北するとき……)

 

 

 手元のマグカップから、濃い、濃いコーヒーをがぶりと飲み、頭をすっきりとさせる。だがまたすぐに疲労が押し寄せて来る。

 

 

(『わたしの』元には、先鋭的な、反連邦思想の者達がこぞって集まるだろう。そして『わたしの』元からは、連邦と共棲可能な、イソギンチャクとかいう海洋生物に隠れ潜むクマノミとかいう魚になれる者たちは、いっせいに逃げ出して『共和国』へと集まるだろう。

 今、地球連邦は……。エゥーゴという『毒』が切り離された今こそが! 胸糞悪いが、あやつらが再生する唯一の機会、なのだ。あやつらのためでは、断じて、ない! 地球圏そのもののために! そのために邪魔になる者達は、『わたしの』元に集まる! 『わたし』ごと! アクシズごと! 危うい連中すべてが! 『わたし』を含めて! ……この宇宙より消滅するのだ!!)

 

 

 エンツォ大佐は、深く溜息を吐いた。その溜息には、とてつもない寂寥感が漂っていた。

 

 

(だが……。わたしは小者、だ。誰かに言うわけには、誰かにもらすわけには、いかぬ。なれど、誰かに知っておいて欲しい。たとえ数十年、数百年、いや千年後万年後でもいい。誰かがわたしの想いを知って、せめて歴史資料のほんの小さな書類の、記事の1つにでも、わたしの本意が書かれてくれぬだろうか、と。

 ……気の迷い、だ。来年末には、アクシズは地球圏に到達する。そこで最後の、最期の、死に花を咲かせるのだ。華々しく、宇宙の悪役として、散れば良い。それだけでいいではないか)

 

 

 彼は不退転の決意を以て、書類の山に立ち向かう。書類の一山には、フラナガン機関から脱出してきた人員より提出された、クローン兵士製造に関する中間報告書が置かれている。彼、エンツォ大佐は『目的』のためならば、どこまでも『悪』に()ちる覚悟であった。




まあ、エンツォ大佐、自分に酔ってるんですけどね。権力欲も満たせる。ジオン『共和国』へも貢献できる。大舞台にも立てる。自分に酔ってます。
でも、ちょっとだけ取り戻した正気で、『だれか僕のこと褒めてー。誰か僕のやったことの真意、知ってー』と泣き喚いてます。すぐに『自分』を取り戻して、悪役に戻るんですがね。
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