偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第45話 僕の嫁さんが一番

 サイド3宙域に、第49独立戦隊に護送されたグワジン級宇宙戦艦グワザンが入ったとき、そこは敵味方識別装置(IFF)で味方信号を発信する多数のジオン艦艇で埋め尽くされていた。いや、誇大表現だ。まあ今のジオン共和国には、宙域を埋め尽くすほどの艦艇は保有されていないし、保有する余裕もない。下手をするとこのグワザンさえも、搭乗員が全員異動したらモスボール封印か、連邦に売却されるかしかねない。世知辛い話である。

 それでも、今のジオン共和国宇宙軍で、出来る限りの、可能な限りの、心からの出迎えがグワザンを待っていた。現時点に於ける宇宙軍総旗艦、ザンジバル改級リリー・マルレーンからのレーザー通信が、グワザンに届く。その内容は、第49独立戦隊の改ペガサス級強襲揚陸艦トロイホースとサラブレッドにも届けられ、更にグワザン周囲をまるで騎士(ナイト)の様に護衛する連邦軍MS(モビルスーツ)隊でも受信できていた。

 

 

『……お前が、ハマーン・カーン、か。そしてマシュマー・セロ暫定艦長に、グレミー・トト暫定副長』

『ドズル中将閣下……』

 

 

 リリー・マルレーンの艦橋(ブリッジ)、その提督席に座していたのは、あのドズル・ザビである。ガルマ議員により地球から連れ帰られたドズルはその後、彼本人が納得しなかった事もあって侃々諤々(かんかんがくがく)の議論の末に、以前より1階級降格で少将として共和国宇宙軍に迎え入れられた。そしてその日の夕刻に、騙し討ちの様な形で中将昇進の辞令が渡された時には、ドズルは呆けた顔をしていたそうだ。

 まあ、それはそうだ。彼は収監中にもTV演説でジオン軍残党を説得して共和国に多数恭順させ、恩赦にて罪状消滅後もジオン残党の説得に尽力している。現状のジオン共和国軍軍人は、その大多数がドズルを慕っており、それがドズル自身が言い出した事とは言え降格など、我慢ならないだろう。それ故の騙し討ち昇進辞令である。

 

 

『ハマーン……。申し訳、なかった』

『ドズル閣下!?』

 

 

 いきなりドズルは、ハマーンに頭を下げる。映像に映っているのはリリー・マルレーンの艦橋(ブリッジ)であり、グワザンの艦橋(ブリッジ)の様子は音声しか聞こえない。だがその音声だけでも、ハマーンの驚愕した様子が聞き取れた。

 なおドズルの背後には、2人の女性が映っている。1人はドズルの愛妾とされている女性で、ハマーンの実姉でもあるマレーネ・カーン、もう1人は共和国宇宙軍の軍人の様だ。なおこの女性軍人はドズル中将に提督席を一時譲ってはいるが、本来リリー・マルレーンを含む小艦隊の艦隊司令である。リリー・マルレーンは共和国宇宙軍の総旗艦でもあるが、それと共に中核となる小規模な艦隊の旗艦でもあった。

 

 ちなみに噂ではあるが、この女性艦隊司令は一年戦争時に上役より戦争犯罪になりかねない多数の非道な作戦を強要された経緯から、共和国軍に参加した際に部下と共に整形手術を受け、名前を変えたらしいとの話がある。あくまで噂だ。あくまで。

 

 

『ハマーン……。マハラジャを始めお前やマシュマー中尉、グレミー少尉など等。皆をアクシズと言う辺境にて、辛く苦しい思いを長くさせたあげくに、俺たち(ザビけ)は結局何もしてやれなんだ。本来ならば、お前たちの前に顔など出せた義理ではないのだが』

『いえ……。こうして出迎えていただけて、光栄にございます』

『ハマーン、お久しぶりです』

『姉上……』

 

 

 マレーネの言葉に、ハマーンの声が(わず)かに揺らぐ。マレーネは続けた。

 

 

『ドズル閣下がわたくしを『迎えた』のは、父上(マハラジャ)や我々姉妹らを、政争から守る意味合いもあったのです。貴女が酷い勘違いをしていると噂に聞き、心苦しく思っていました』

『なっ……』

『第一、ドズル閣下はゼナ様と仲睦まじいお方です。権力でわたしをいいようにする、などしないお方です』

『な……』

 

 

 エグザベ中尉は、その様子を宇宙空間のガンダムMk-Ⅲで受信していた。グワザンから流れて来る精神波は、動揺と苦悩と、悔恨と疑念と、そして安堵とに彩られている。

 

 

(エグザベ兄さん)

(んー、籍入れてかなり経つし、まだ『兄さん』かい?)

(一番しっくり来るし。背徳的だし)

(ちょ)

(思念でも、冗談って言えるんだね)

(ちょ)

 

 

 ニャアン少尉からの思念が心地よく染みわたる。

 

 

(あのハマーンって人、なんか少し色々、つらそう)

(うん、でも家族に会って、少し和らいだみたいだ。あまり『入り込む』のは失礼だし、『受信』する程度でね?)

(うん)

 

 

 そこへ1機のMS-15KGギャンクリーガーが接近して来る。これは正式採用されなかったYMS-15初期型ギャンをベースに、諦めきれなかった当時のツィマッド社技術陣が改造に改造を重ねて行きついた、究極のギャン、であるとの話だ。なおジオン共和国で1機しか存在しない、事実上のワンオフ機であり、最強機体らしい。

 まあム―バブルフレーム全盛のこの時代ではジムカスタムやジムキャノンⅡ同様にそろそろ時代遅れになった機体なのだが。それでもなんとか地球連邦の現用機に付いて行ける性能を保持している。コクピットにも脱出機能を兼ねた全天モニタとリニアシートを組み込んでいるらしいし。

 

 ギャンクリーガーは見事な敬礼を機体で行うと、ハンドサインで『お肌の触れ合い会話』を申請して来る。エグザベ中尉はハンドサインで了承を返した。すると相手は、指の根本から通信用ワイヤーを射出。こちらの装甲にコン! と命中する感じがして、回線が繋がった。

 

 

『お初に……では無いな。お久しぶりですな。名前は知らないが、オーストラリア大陸で、戦場で一度会った記憶がある』

「貴方は……。その機体マークとお声でわかります。『荒野の迅雷』ヴィッシュ・ドナヒュー氏ですね。今の階級はあいにくと不勉強で存じ上げませんが」

『今は少佐ですな。ジオン共和国本国防衛隊MS(モビルスーツ)大隊大隊長、ヴィッシュ・ドナヒュー少佐です。隊長マークから、貴官が隊長だと判断したのですが』

「いえ、第49独立戦隊MS(モビルスーツ)隊はトロイホース隊とスタリオン隊を合わせて中隊編制です。こちらはスタリオン隊隊長兼オリベ隊小隊長機ですね。中隊長は、あちらの紅と白の同型機です。よろしければ、当機を起点にレーザー通信を結びますが」

『頼めるかね?』

「了解です」

 

 

 エグザベ中尉は機位を固定し、シイコ大尉機へとレーザー通信を繋ぐ。

 

 

「シイコ大尉、ジオン共和国本国防衛隊MS(モビルスーツ)大隊の隊長機、ヴィッシュ・ドナヒュー少佐から接触を受けました。隊長機と通信がしたいそうなのでレーザー通信を繋げましたが」

『回線を繋いでくれるかしら。……こちら地球連邦軍第49独立戦隊MS(モビルスーツ)隊中隊長、シイコ・レイ大尉。応答願います』

『こちらジオン共和国本国防衛隊MS(モビルスーツ)大隊大隊長、ヴィッシュ・ドナヒュー少佐。かの連邦軍最強ニュータイプ部隊隊長と再会できまして、幸いだ』

『こちらこそ、お出迎えありがとうございます』

 

 

 ヴィッシュ少佐は、早速に用件を切り出す。

 

 

『グワザン護衛の引継ぎについては?』

『ええ、この現場で電子サインを交わしてと言う事になってるわね。平時ってのは面倒な物ねえ』

『まったくだ。戦時の数少ない、本当に数少ない良いところだよ、全部はい、了解、で済むのは』

『……はい、サイン完了。ところでウチの副隊長が、貴方とお話ししたいって言ってるけれど。大丈夫?』

『む?』

 

 

 一瞬口ごもるヴィッシュ少佐だったが、ややあって頷く。

 

 

『副隊長と言うと、そちらの白と青のガンダムか。これでわたしは、紅色の魔女、黒銀の死兆星、そして白い悪魔とも話ができる事になるな。まあそんな二つ名など無い時期でも、諸君らは凄かったが』

『その人外っぽいまるで魔王な二つ名はよしていただきたかったですけどね。おひさしぶりです、アムロ・レイ中尉です。ヴィッシュ・ドナヒュー少佐』

『!? そうか、あの白いガンダムの操縦士(パイロット)……。結局機体を降りずに戦っていたのか、あの少年が』

『まあ、はい。まあ少年と言われても、僕はもう奥さんいる歳なんで』

『ちょ』

 

 

 赤くなるシイコ大尉に苦笑いをしたアムロ中尉は、しかし真っ直ぐにヴィッシュ少佐の目を見る。

 

 

『実は僕は、貴方が目標だったんです』

『わたしが?』

『貴方のグフと、僕のガンダムが斬り合って、互いの腕が飛びましたよね。でもあの時以来、僕は貴方に勝ちたいと、そう思っていたんです。だけどついに、貴方を撃破する事は叶わなかった。

 それから僕の中での目標は、貴方だった。だけど僕が強くなっても、記憶の中の貴方は、そして夢に出て来る貴方は何故か、僕の数段上を行っていた』

 

 

 今度はヴィッシュ少佐が苦笑する。

 

 

『まあそれは、記憶は美化されるものだからな。それを美化と言っていいのかは分からんが。だが正直わたしは、指揮能力とかは格段に向上した自信があるが、MS(モビルスーツ)での戦闘技量は頂点を超えて下降気味になっていると自覚している。歳が歳だからな。確実に、君の方が強い』

『……ある意味、凄く残念ですね。それだと、僕はもう一生……。目標の貴方、夢の中の貴方に勝て無さそうだ』

『何、そうでもあるまいよ』

『え』

 

 

 驚くアムロ中尉に、ヴィッシュ少佐は言った。言い切った。

 

 

『わたしはこの歳になっても、嫁さんはおらん。心を残した女性はいたんだが、結局フラれたまま、もう足跡もわからんのだよ。……君の、勝ちだ』

『そう……。です、ね。僕の奥さんは、宇宙最高の女性ですからね!』

『何を言ってるんだ、この2人はーーー!!』

 

 

 シイコ大尉の怒声を背景に笑い声が周囲に広がった。そんな中、エグザベ中尉だけは思念でぽつりと呟く。

 

 

(いや、宇宙最高の女性は、僕の奥さんだろ)

(えぐざべにいさーん!!)

 

 

 ニャアンの平仮名での怒声も、周囲の宇宙空間に思念で広がって行った。

 

 

 

*

 

 

 

 レビル将軍の執務室にある応接セットで、ゴップ大将はコーヒーを飲みながら見た目くつろいでいた。彼は執務机のレビル将軍に問いかける。

 

 

「で、『例のモノ』は?」

「まだだ。見つかりそうだと言う報告は1週間前にあったが、それきり続報は無い」

「見つかれば、先手が打てるかもしらんのだがね」

「わかっているとも」

 

 

 そこへ、机上のインターホンが鳴る。レビル将軍が急ぎスピーカーをONにすると、執務室手前の秘書室からだった。

 

 

『将軍、情報部のアルカード少佐が、至急お目に掛かりたいと』

「通せ!」

『はっ』

 

 

 しばしして、ヨレた制服を必死になって整えた風の士官が入室して来る。おそらくアルカード少佐だろう。彼は応接セットのソファに坐したゴップ大将を見て、開きかけた口を慌てて閉じる。しかしレビル将軍が言った。

 

 

「かまわん。彼は『依頼者』だ。情報部に対してはわたしの方が『良い』からと言ってな」

「は……。ではご報告いたします」

「「うむ」」

 

 

 ゴップ大将とレビル将軍が同時に頷く。アルカード少佐は、咳ばらいをして話し始めた。

 

 

「……例の施設に設えられた古い室内用の焼却炉より、完全に炭化した書類束を発見、情報部諜報課の、鑑識の専門家により炭化した表面を丁寧に調査し、文面を再生したところ……。例のもので、間違いないとの事です」

「「!!」」

 

 

 レビル将軍とゴップ大将は、深々と頷く。

 

 

「よく、やってくれた」

「全員にボーナスをはずむよう、手配しておくよ」

「はっ! ありがとうございます!」

 

 

 そして2人の将官の瞳が、強く輝いた。




なんか本編というか、それより後ろ側の将官2人組がヤバそうな雰囲気(笑)。

でも描写したかったのは、

1:ヴィッシュに勝ちたかったアムロ
2:ヴィッシュにある意味勝ったアムロ
3:そしてこっそり対抗するエグザベ兄さん

でした。でも今ここで書いておかないと、2人の将官のやった事が埋もれて。
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