偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第48話 地獄へ、ようこそ

 あの後、無駄に再起不能者を量産するのはアレだろうという意見がカイ大尉から出た。そしてまずアムロ大尉とシイコ少佐が全力でプレッシャーを掛けて、それに耐えられた者に限り訓練を受けさせる事にする。まあ、地獄(サイド2と5)を経験したわけではないアムロ大尉とシイコ少佐のプレッシャーならば、どうにかなる可能性もある、だろう。

 それとは別に、部隊の中で精神力が著しく高いと思われるアムロ大尉、シイコ少佐、カイ大尉、セイラ中尉の4人がエグザベ大尉とニャアン中尉の精神攻撃を受けて見る事にする。その結果……。

 

 

「……物凄かった」

「たしかにアレは、ニュータイプ能力に覚醒して当然よ」

「シン大尉は九千九百九十九死に一生って言ってたけど、あれは九億九千九百九十九万九千九百九十九死に一生だぜ」

「それにしても皆、良く無事だったわねアレで」

「って言うか、エグザベもニャアンもあの断末魔の叫びの中、よく正気保てた、いや後から正気取り戻したのかも知れねえが」

「エグザベ大尉とニャアン中尉が、こっち危ないかと思った時点で疲れ切って強制終了したからね。まあわかる。アレは滅多な事じゃできない」

「じゃなかったら、戦闘効率第一のエグザベのこった。戦術に精神攻撃取り入れてるぜ。そうしないってのは、理由があるってこった」

 

 

 エグザベ大尉とニャアン中尉は、疲労困憊しているのでとりあえず休んでいる。アムロ大尉は語った。

 

 

「僕らでプログラム決めよう。まず僕とシイコさんの『テスト』を潜り抜けられなかったら、残念だけど別部隊に異動してもらって、代わりの人材を求めよう」

「その後で、エグザベとニャアンの『洗礼』ってわけだな」

「僕らの『テスト』をパスできる者なら、再起不能にはならないと思う。おそらく。たぶん。おおよそ。きっと。だといいが。ただ、最終的な『合格』を意味するわけじゃないが」

「そうだな……」

 

 

 主にアムロ大尉とカイ大尉が中心になって、訓練項目を決めて行く。カイ大尉は微妙にこういう時でも頼りになった。

 

 

 

*

 

 

 

 艦隊の作戦司令でもあるブライト艦長が、全MS(モビルスーツ)隊の隊員に対し、説明の放送を行う。

 

 

「先日歓迎会を行っていざこれからと言う時であるが、正直厳しい仕儀になった。一年以上先にはなるが、我が隊はかなり難しい局面に放り込まれる事が確定している。そのために、特別訓練を行う事になった。だが同時にこの訓練は、選抜試験も兼ねている。これに合格できない様では、失敗の許されないその一年先の特殊任務には連れて行く事ができないと判断された。これはわたしよりも、もっと上のレベルでの判断である。

 つまりは、そういう事だ。特別訓練と選抜試験をパスできない限り、残念ではあるが再度の異動をしてもらう必要が出て来る。わたしとしても、断腸の思いではあるが……。選抜に漏れた人員を連れて行けば、高い確率で無駄死にをさせる事になるだろう。これは嘘でも誇張でもなければ、冗談でも無く増してや脅し等でもない。厳然たる事実だと思ってくれ」

 

 

 ここでブライト艦長はいったん言葉を切る。そして再度話し始めた。

 

 

「特別訓練は二段階になっている。一段階目では我が艦隊のMS(モビルスーツ)隊切っての精鋭、アムロ・レイ大尉とシイコ・レイ少佐のペア対該当者全員での機動戦訓練、二段階目では同じく我がMS(モビルスーツ)隊の精鋭であるエグザベ・オリベ大尉とニャアン・オリベ中尉のペア対該当者全員での機動戦訓練だ。

 ただしこの訓練には、ある秘密がある。機数差は多いが、それでも絶対的に新入隊員たちの方が不利だ。そしてこの訓練での目的だが、別に敗北しても構わん。それよりかは、圧倒的な、致命的なプレッシャーの中で、どれだけ正常な判断をし、どれだけ訓練で(つちか)った能力を出せるか、ただそれだけだ。なお一段階目で不合格になった者は、二段階目には絶対に進ませるわけにはいかない。……二段階目の方が、はすっぱな言い方をすれば、ヤバいからだ。以上」

 

 

 そしてブライト艦長は、艦長席に身を沈める。やはり迎え入れた隊員が、わずか数日で消える可能性について思うところがある模様だった。

 

 

 

*

 

 

 

 ニコラ・クレイトン少尉は、RGM-86GM-NEXTの操縦席(コクピット)内で、ニャアン中尉の事を思い返していた。ニャアン中尉は士官学校での同期生だ。いろいろと語り合い、励まし合い、恋の相談に乗り、乗ってもらった事もある。彼女はニコラ少尉が第49独立戦隊へ配属が決まった際に、とても喜んでくれた。

 だがブライト艦長からの放送を聞き、正直少しビビってニャアン中尉に相談したとき、彼女の瞳は……。とても、とても冷たかった。

 

 

『もし駄目だと思ったら、すぐに訓練と選抜試験、降りて』

 

 

 その台詞は、ひたすらに冷たい。だがニコラ少尉は知っている。これはニャアン中尉が心底、ニコラ少尉の事を心配してくれるが故、なのだ。つまりは本気で、一年と少し先の任務は、死にかねない任務、なのだろう。つまりは本気で、選抜試験を兼ねた二段階の訓練は、ヤバい物なのだろう。だから、言葉を飾る余裕が、欠片も無い、のだ。

 

 

『こちらヘンリー、あんたが暫定的に俺らの隊長なんだ。指示をよこせ』

「了解、ヘンリー軍曹。ヘンリー軍曹とビヴァリー軍曹は、各機Vフォーメーション。2人を信頼してます。2トップで、けれどわたしの支援範囲からずれない様に」

『こちらビヴァリー。了解だ。教科書通りで面白味が無いが、堅実だ。頼りにさせてもらうよ、お嬢ちゃん』

 

 

 まるで侮られているかの様な言いぐさだが、2人はこの部隊に入って来たばかりだからこの選抜試験を兼ねた訓練に参加しているだけで、技量も実績もニコラ少尉とは比べ物にならない。先達の言う事は、きちんと聞くべきなのだ。まああまりにも侮りが酷ければ、考えはあるが。

 そして他の編隊も綺麗に教科書通りの隊列を組んだ。いよいよ開始、だ。

 

 そしていきなり、世界が凍った。

 

 

(な、何!? 嫌、何これ、恐い!)

 

 

 身体が、動かない。遥か彼方から、紅と白、青と白の2機のガンダムMk-Ⅲが()んで来るのが何故か『分かる』のだ。『分かる』ほどの『(プレッシャー)』が、あの2機のガンダムから放たれている。

 

 

『うおおおあああぁぁぁ!!』

『があああぁぁぁッ!?』

 

 

 モニター映像の中のヘンリー軍曹、ビヴァリー軍曹は、ヘルメットのシールドの向こうで口から血を流している。唇を噛み切って、その痛みで正気を取り戻してみせたのだ、と理解した。

 

 

ブチィ!

 

 

 痛みが唇に走る。瞬間、身体が動く。やはり先達は見習わなければ駄目だ。自機であるGM-NEXTが手に持った狙撃用ビームライフル、ただし出力が訓練用に落とされているそれで、2人の軍曹の白兵戦装備GM-NEXTを丁寧に支援開始する。教科書通り、訓練通りにやればそれでいいのだ。

 この部隊から追い出されるのは嫌だった。想い人が居ることもそうだが、しかし友人であるニャアン中尉の、ニャアンの助けになりたかった。なれれば、の話だったが。そしてガンダムMk-Ⅲがヘンリー機、ビヴァリー機に次々に接触し、刃の無いビームサーベルを押し当てて機能停止させて行く。

 支援すべき機体はすべて撃破扱いになった。ニコラ少尉は支援射撃を断念、回避機動を取る。しかし瞬時に紅白のガンダムMk-Ⅲが、ビームライフルを訓練用出力で射撃、撃墜判定が出た。青白のガンダムMk-Ⅲが、こちらに一瞬だけ機体を接触させて去っていく。

 

 

『合格だ、ニコラ・クレイトン少尉』

「は……」

 

 

 アムロ大尉の宣言を最後に、ニコラ少尉の訓練第一段階は終了した。すぐにヘンリー軍曹、ビヴァリー軍曹の機体が接触して来る。

 

 

『よお。たぶん合格、だろ暫定隊長。俺ら同様に』

『お嬢ちゃんは、ちゃんと訓練通り動けてたもんね』

「あ、は、はい。お二人の真似をして、唇噛んだんです」

『お? なら知的財産権侵害の賠償として、俺らになんか奢ってもらおうか少尉殿、ははは』

『やるじゃん、少尉殿』

 

 

 呼び名が『少尉殿』に変わった。ほんのわずかだけ、嬉しくなる。

 

 

『だがよ。一段階目でアレ、かよ。二段階目にゃ何が待ってるんだ』

『正直おっかなくて仕方ないんだけどぉ?』

「……いえ、何があってもです! 教科書通り、訓練通りできれば、大丈夫!」

『『その意気だ、少尉殿!』』

 

 

 意気が上がる3人。だがこの時点では、二段階目がまさかあんなだとは、思っても見なかったのだ。

 

 

 

*

 

 

 

 ギデオン・エヴァット軍曹は、恐怖に震えていた。彼の視界には、巨大なスペースコロニーが幾つも浮いており、それをサラミス級軽巡洋艦が盾にし、ムサイ級軽巡用艦の群れが撃ったメガ粒子砲で次々に爆散して行く。恐ろしいことに、1つコロニーが爆散するごとに、1隻艦が爆沈するごとに、無数の断末魔の叫びが聞こえ、そしてそれはいつまでも消えずに金切り声を立て続けるのである。

 そして1機のMS-06CザクⅡが、ヒートホークで斬りかかって来る。何故か操縦席(コクピット)内部の自身の肉体は、のろのろとしか動かない。恐怖を誘う、怖気を誘う断末魔の金切り声は、減るどころか増える一方だ。背筋を恐怖で汗が伝う。気が、狂いそうだった。歯の根が合わない。ガチガチと歯が鳴る。

 

 『ザクⅡ』のヒートホークが唸る。ギデオン軍曹は、動かない身体に鞭打って、『ガンダムMk-Ⅲのビームサーベル』を、GM-NEXTのビームサーベルでいなす。『ザクⅡ』は後退して行く。

 

 

(今のは、なんだ? ザクⅡじゃない、ガンダムMk-Ⅲだ。だが)

 

 

 良く分からない。分からない、が。だが分からないなりに、何か『感じ』る。死者の、絶叫。怨嗟の、声。絶望の、叫び。そして凍り付く、身体。最後だけでも、どうにかしないと。身体だけでも、どうにかしないと。動け、動け動け動けGM-NEXT、何故動かん。いや違う、動かないのは自分の身体だ。必死で、ぐるぐると回って見える世界を固定させようとする。

 

 

ブッ!!

 

 

 鼻血が、吹いた。その一瞬。恐怖は、消えない。だが恐慌状態は、消え去っている。狂気は、襲い来る。だがソレと、身体の動きは切り離せている。今度こそ、綺麗な動きで、『ガンダムMk-Ⅲ』のビームサーベルをいなせた。そう思った次の瞬間、コクピットにもう1本のビームサーベルが、ビーム刃なしで押し付けられる。

 

 

「……やられ、た、か」

『ご苦労さん。それじゃあまた始めようか。だけどまあ休憩は入れるけどね』

 

 

 周囲から、爆散するコロニーも、爆沈する軍艦も、爆光になって消えるザクⅡC型も、全て消え去っている。無論、絶望と怨嗟と断末魔の声も。エグザベ大尉の言葉が続いた。

 

 

『流石に、人数多いからしんどいな。アムロたちに対して『見せる』よりかは疲れないが』

『もう3/4落としたから、イメージを維持するのは残り1/4でいい』

 

 

 たしかエグザベ大尉の奥さんで、ニャアン中尉とか言った娘の声もした。エグザベ大尉は広く知られている英雄だが、この娘もとんでもない凄腕の様だ。試験開始から気付けば10分も経過していない。数時間にも感じたのだが、この短時間で3/4を撃墜判定取ったのか。

 ……いや、噂ではエグザベ大尉はアムロ大尉とは違い、訓練はじっくり時間を掛けると聞く。アムロ大尉は自分の訓練を優先するときは勿論、しない時もついうっかりタイムアタックでもしてるのかという速度で相手を撃墜するが。

 

 ということは、10分『しか』掛からなかったんじゃなく、10分『も』掛けてくれたんだろう。ギデオン軍曹は、あまりの技量差に溜息しか出なかった。

 

 

「……つまり、エグザベ大尉達が疲れ果てるまで。あの光景を何度も見せられる、のか。アレが、ニュータイプ能力者の『()て』る光景、か」

 

 

 心が折れそうだが、それでも必死に気合いを入れる。操縦席(コクピット)内に空気(エア)が満たされている事を確認し、ヘルメットのシールドを開けて鼻血の処理をするとすぐシールドを閉じる。

 

 しばしして、今度はサイド5(ルウム)壊滅じゃなくサイド2(ハッテ)全滅の姿が、心に叩きつけられた。




うん、エグザベ君とニャアン、実はかなり消耗します。まあだって、自分自身『地獄』を追体験しますからね。思い出したくないけど忘れる事もできない。そんな出来事を克明に思い出して、そのイメージを訓練とは言え叩きつけますから。ぶっちゃけ苛酷です。
でもエグザベ君もニャアンも『やさしい』からどんなに『辛くても』やりますし、『嫌われても』『怖がられても』やり通します。死なれたくないから。そしてそれを知って理解してくれてる娘も、ちゃんと居ますけど。いい友人です。

そして当初予定ではいきなり『本番』をぶつけるはずだったのが、アムロやカイらが一生懸命考えてくれたおかげで、若干マイルドになりました。再起不能にせずに、足きりが出来ます。まあ、足きりはされちゃうんですけどね。今回の登場メンバーは隊に残れそうですが……。『落ちた』面々は、いないわけじゃないんです。
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