いわゆる『地獄めぐり訓練』が始まってから、既に1ヶ月が経過している。結局この1ヶ月で、第49独立戦隊の人員は、数回入れ替えがあった。
まずペガサス最終型強襲揚陸艦タイコンデロガ
一方の第3小隊では脱落者は無く、カレン中尉から恨みがましい視線を受けたテリー・サンダースJr.中尉は困り果てていたりする。
次にペガサス最終型強襲揚陸艦ヘカーテだが、何と言うか幸いな事にこの艦の
まあだが、『地獄めぐり訓練』はエグザベ大尉とニャアン中尉にとっても人数あたりで負担が馬鹿みたいに大きいのだ。結局は説得して、勘弁してもらった。
悲惨だったのは、改ペガサス級強襲揚陸艦トロイホースの
更に第2小隊のアーリン・ベッカム少尉と第3小隊のセオドア・カーディフ少尉も駄目であり、それぞれマシュー・ベッセマー少尉、ベティ・ブラックマン伍長と入れ替わっている。不幸中の幸いか、この入れ替わった2名はどうにか『地獄めぐり訓練』に放り込まれた。
改ペガサス級強襲揚陸艦スタリオン
ちなみに部隊の主要メンバーたちにとって、ちょっと気になる問題が出た。クラーラ・オーティス少尉、ニコラ・クレイトン少尉、ケント・クラーク少尉、コリー・ファレル伍長と、それぞれ各艦の
だがこの事がもし万一外部に漏洩したなら、ニュータイプ能力者を『生産』する可能性として取られたら、非常に問題だ。ただ単に、強力なニュータイプ能力者に引きずられる形で、素質持ちが開眼しただけであるのに。ちょっと一歩間違えば、PTSD患者を大量生産する羽目になるのに。
アクシズ戦の前にアナハイム軍需部門を暴発させたりする必要が無い様に、との考えでこの訓練を提案したエグザベ大尉は、頭を抱えたものであった。
*
ジャブロー基地のゴップ大将執務室で、ブライト艦長はいつもの様にゴップ大将と話していた。これが日常風景になるなど、かつてのブライト艦長は思いもしなかったであろう。
「いちおう君にも伝えておかねばと思ってね。正式な記者会見による発表は、数日後に予定されているが」
「何か、いえ、日付からすると……。アナハイム軍需部門への?」
「うむ、下世話な言い方をすれば『ガサ入れ』だ」
話の内容の深刻さにも関わらず、ゴップ大将はほっとした様な顔で言う。ブライト艦長は、『ああ、なるほど』と言った表情になった。
「アナハイムの民生部門が、頑張った様ですね」
「ふふふ、そこまで読めるかね。向こうは全面降伏で、軍需部門の支社長やら役員やら。一部株主までもが逮捕される騒ぎだよ。まあ、根っこは幾ばくかは残ったやもしれぬが……。その根っこも、今後1世紀は動けまい」
「そこまで掴めましたか」
「軍需部門は解体。軍事技術の特許類施設類は売却され、他企業と一部は連邦軍の軍研究所へ」
「一部?」
「一部、だ。ふふふ。割合がどのぐらい多いかは、置いておく事だ。あくまで、一部、だよ」
ブライト艦長も今更額に汗を流すような焦った真似は見せない。にっこりと見る者が安堵するかの様な笑みを浮かべてみせる。
「それは、ようございました」
「企業としてのアナハイムも、潰さずに済んだ。民生部門中心に、これからも手広くやっていくだろうよ」
「ただ、『跳ねっ返り』は?」
「シン大尉の隊に、任せてある。君らの隊から異動になった何人かに、ね? ニュータイプ能力の萌芽がある者が1~2名、ね。それをシン大尉の隊に送り込んだ。まあ彼の隊はアクシズ戦で真正面に置くつもりは無いのでね、急がずゆっくりと育成してもらおう」
その言葉を聞いても、内心はともあれブライト艦長は、ちょっと右眉を吊り上げただけである。かなり修行を積んだ模様だ。
「そちらでも出ましたか……。選抜に落ちた者たちは、アムロ大尉とシイコ少佐から『
「元々の素質があったのであろうさ」
「まあ、そうでしょう」
そしてブライト艦長は、今思いついたと言う様に言葉を紡ぐ。
「そうですな。可能であれば近いうちに、公式にニュータイプ能力者の呼び名を変更させられたら、と思います。彼らは『ニュータイプ』ではありませんからね。この呼び方は、誤解を生みますし」
「ふむ……。そうであるな。アムロ大尉の、以前の記者会見での発言から、『彼らがニュータイプと呼ばれているだけの別種の超能力者であり、戦場によって無理矢理に覚醒させられた悲劇の存在である』との認識は、一般市民にも広がっている。わたしはアムロ君が言った、『
「そうですね。わたしもそれが良いかと」
「ただ、この場だけで決めるわけにはいかんだろうな。諸研究機関にも諮って、話をまとめる必要がある」
「了解しました」
そしてそこへ、ゴップ大将の副官が書類束を持って来る。ゴップ大将は書類を一通り読むとチェックを入れて、一瞬ファイルケースを取り出して仕舞い込もうとした。だが思い直し、その書類をブライト艦長へと手渡して来る。
「あとで君のデスクにも写しを送るが、今のうちに読んでおきたまえ。アナハイムがアクシズ勢力に送った、
「ありがとうございます。……けっこうな数、ですね。しかも」
「うむ。それは確実と見られる数であり、確定した総数ではない。おそらくもっと多い、だろう。あと大きな問題は」
にやりと意味ありげな笑いを浮かべ、ゴップ大将とブライト艦長は顔を突き合わせる。
「漏れているであろうと思っていたム―バブルフレーム技術。やはり漏れていたね」
「これは困りましたな。守秘義務契約に反するではありませんか」
「うむ、これについては刑事でも法人に対し多額の罰金請求が行われる上に、民事で賠償責任を問う必要があるねえ。まあ、既に漏れていると思っていたものではあるのだが」
そしてちょっとだけ残念そうに、ゴップ大将は苦笑する。
「ただ、こちらのネオ・ルナチタニウムだが。残念ながらこれは連邦軍の軍研究所開発の、ルナチタニウムCとは違う物の様だ。元をたどればGMのシールドに用いられていたルナチタニウムを回収し、それを調べてアクシズが研究した物の様だな。現状のルナチタニウムAに匹敵というか相当する代物の様だ」
「それでは違約金や賠償金は取り難いですな。アクシズ勢力との取引で罰金を更に課す、ぐらいですか」
ちなみにゼロ少尉などが用いているガンダムMk-Ⅱの装甲材は、元々はルナチタニウムAだったが、今はルナチタニウムCに換装されている。GM-NEXTや、そして旗機であるガンダムMk-Ⅲの装甲材は、初期からルナチタニウムCだ。
ふとゴップ大将は、急にいたずらそうな笑みを浮かべた。まるで子供の笑みだ。
「ああ、そうだブライト君……。ミライとの見合いも成功したのだし、婚約も済んだ。そろそろどちらの家に入るか決めて、結婚式の予定も立ててはくれんかね?」
「は、はい。
「わたしとしては、君を取り込む気満々なのでね。真正直に言うが。君にウチに婿入りしてもらいたい。返事は
それとエグザベ君とニャアン君だがね。入籍は済ませてあるのは知っているが、やはり式は余裕のあるうちに挙げるべきだろう。どうだろうかね? 近い内に、君と
「
まあ苦労人ではあるが、実はエグザベ大尉、けっこうな小金持ち、いやソレ通り越して大金持ちである。一年戦争当時に
そしてその資金を元手に利殖し、地球連邦の国債もかなりの額面保有しているし、一年戦争後にアナハイム・エレクトロニクスへの買収合併を免れたハービック社、ヴィックウェリントン、タキム重工などの株券も買い込んでいる。休暇が取れるなら、ちゃんと株主総会にも出席していたりするのだ。全てはニャアン中尉との幸せな老後のため、である。まだ若いのに。
*
地球圏を目指して航行中の、木星船団は超大型輸送船ジュピトリス級ジュピトリス。その艦長であるこの男は、ふっと不敵な笑いを漏らす。
「地球圏では、ニュータイプ神話が崩壊。ただの
彼は手元の図面や設計書の類をぱらぱらと捲る。
「ああ、メッサーラについては、大方予想がつく、な。可変
だが、あくまで使用が木星圏の高重力下での、強大な推進力が必要とされる環境だ。その状況下でのワンオフ機、としてご容赦願いたいもの、だな」
彼は副長から渡された泥水コーヒーを、これはこれで、と笑顔で口に含む。まあ、不味いものでもある意味楽しみ様はあるものだ。
「だが、わたし個人が聞きかじっただけの技術情報から再設計した私製バイオセンサー、そしてそれを用いた
この男の目は、興味と期待に爛々と輝いている。
「わたしが地球圏に舞い戻るのは! 貴方にお会いしたいからなのだよ、テム・レイ技術中佐! ……いや、到着する頃には技術大佐かもな! 来年には着く! 待っていてくれ、このわたしパプテマス・シロッコをな!」
傲慢に、そして楽し気に、パプテマス・シロッコ大尉は笑った。
最後の奴に全部もってかれた気分。
とりあえず、やはり何人かはニュータイプ能力に目覚めてしまいました。というか訓練した側の奴は、まさかこの程度で目覚めるなんて、と。
いや、あんたら目覚めた契機の出来事だぞ。そのほぼ完全再現だぞ。
そしてシン大尉の隊にも増員。落ちた奴のうちで、なんとなく小さく覚醒した奴が1~2名。たぶん2名。押し付けられました。
そしてそのシン大尉の部隊は、アナハイム軍需部門がめでたく叩き潰されましたので(裏で動こうとして失敗というか民生部門のやつらに押さえ込まれたり、他のビスト家人員とかに潰されたりした奴多数)、まあその内の跳ねっ返り連中潰しに動員されてます。規模、ちっさいです。でも
ああ、ルナチタニウムAはガンダリウムγに相当しますので。
ああ、ちなみに多くの部隊にはGMⅡが配備されてますよ。ただGMⅡは全部GMの改装機で、今後の新造機は全機GM-NEXTになります。GMⅢは存在しなくなる模様。GMⅡの機数はどんどん今後少なくなりますからね。再利用機のうま味が無くなるんですよ。
いろいろ染められてきたブライトさん。まあ、うん、まあ。