今、ホワイトベースはコロニーの落ちた地にいる。木馬型をしたこの強襲揚陸艦は、オーストラリア大陸東部、トリントン基地を後にしたばかりだ。艦長代理のブライトは、こめかみを抑える。毎度のことながら、彼の胃がしくしく、キリキリと痛みを訴えた。
「サイド7避難民の受け入れを、ここでも拒否されるとは、な」
「いつ陥落するかわからない後方支援基地だってことで、まだ頑健で
総舵手であるミライも、眉をしかめて首を振る。通信士を受け持っているセイラが、溜息と共に慰めにもならない慰めを語った。
「ふう……。まだ塩と若干の糧食、若干の医薬品。それに共通規格の分だけだけど若干の弾薬を補充できただけ、マシよ」
「「「「「「はぁ……」」」」」」
*
ホワイトベースの食堂で、アムロは食事を摂取していた。その席の向かい側では、中年の男性、そして母子が同じく食事をしている。彼らの食事トレーの上に載っている食料は、
だが中年の男が、母子の子供の方がよそ見をしている内に、子供の食事トレーに手をのばす。あきらかに子供の食事を横取りしようとしているのだ。アムロの頭に、一瞬血が上る。
ガッ……。
軽い音を立てて、中年男の指の爪先が、何かにぶつかった。中年男はぎょっとして、自分の手先を見遣る。そこにあったのは、子供の食事トレーとの間に突き立てられた、既に空っぽの別の食事トレー。そしてそれを突き立てているのは、エグザベだった。彼の隣にいるニャアンが、厳しい怒りの目で、中年男を睨みつけた。アムロは目を見張る。
「な、何をしやが……」
「食べる量が足りないなら」
エグザベが語る。
「な」
「食べる量が足りないなら、ブライト艦長代理に頼んで、特務兵に志願すべきでしょうね。左舷の弾幕が薄い、と困ってますから。銃座の訓練なら、そんなに厳しくもないでしょうし。一応は戦闘要員として認められますから。配給の量、増えます」
「あ、は、ち……」
中年男は、そそくさと自分の食事トレーを持って、返却口へと走った。母子は何があったのかわからずに、きょとんとしてエグザベとニャアンを見つめる。アムロはエグザベに顔を向ける。
「エグザベさん……。いつの間に……」
「いや、僕も直前まで気付かなかったよ。ニャアンが教えてくれたんだ」
「坊や、おばさん、食事の時は周囲にもっと気を配らないと、だめ」
「「え」」
「あのおじさんに、つまみ食いされるところだった」
ニャアンの言葉に、母親は顔色を変える。一方の子供は、何が何なのか分かっていない様子であった。母親はニャアンとエグザベに礼を言う。
「あ、ありがとう、お嬢さん。ありがとう、お兄さん」
「いえ、気にしないでくださ……」
「どういたしまして、って言った方がいい。エグザベ兄さん。その方が、相手も気が楽。どういたしまして、おばさん」
「そ、そうか。どういたしまして」
アムロは少しだけ、気持ちが軽くなった。
*
プロトガンダムの
『オスカとマーカーによれば、右舷からJ型のザクが3機、左舷から同じくJ型のザクが3機来るわ。アムロとシイコ少尉は右舷の敵にあたって。エグザベとカイが左舷。リュウとハヤトはガンタンクで状況によって双方のどちらかを支援。ジョブはコアファイターで航空支援。よろし?』
「『『『『『了解!』』』』』」
まあだが、エグザベはニャアンから『嫌な臭いがする』とのお言葉を貰っていたため、他の皆より一足先に心構えが出来ている。それもあり、若干の心の余裕があった。そしてアムロのガンダムが発進する。エグザベはその次に発進すべく、プロトガンダムを歩かせた。
『アムロ、いきまーす!!』
『次はエグザベ、発進して。進路クリア。よろし?』
「了解。エグザベ・オリベ、プロトガンダム、出るぞ!」
強いGが掛かり、プロトガンダムはホワイトベースの左舷
『カイ、ガンキャノン行くぜ! ザザザッ! ぐうっ!』
『カイ! 着地に注意して! ザザザ』
『あんがとよセイラさんよ! って、うお!? ザザッや、やばかったぜ』
よたよたと地面に降りるカイのガンキャノン2番機を横目に、エグザベは綺麗に着地する。
「カイ、ミノフスキー粒子は薄目だ! センサーに映った4、5、6番の敵が僕らの担当だ! 背中は任せた」
『りょ、ザッ了解だ! 頼むから、こっちにザクを通さザッいでくれよな!』
「わかった!」
そして地上を疾走してくる3機のザクⅡJ型が視認できる。だがその動きは、チームワークなど無く、バラバラにこちらに攻めよせて来るだけだ。というか、我先に、と言う方が正しいだろうか。
(完全にこちらを舐めている、な。……ありがたい!!)
ジオン軍人、それも
「……1つ! 2つ!」
ビームライフルで、2機のザクⅡJ型が爆散する。驚きでだろうか、一瞬動きを止めた最後のザクⅡが、キャノン砲の直撃を受けた上で狙撃用ビームライフルで貫かれた。
「ありがたい、カイ!」
『い、いや。お、お、俺だってやれるじゃんかよ、ははは』
だがしかし、そこへセイラから通信が入る。
『エグザベ! カイ! ザッ戻って! アムロとシイコ少尉が抜かれたわ! ザザ』
「なんだって!? 了解!」
『りょ、ザッ解! アムロが抜かれた!?』
『右舷からの敵、隊長機の1機はJ型のザクⅡじゃなかった、ザザザ誤認、新型よ!』
エグザベは必死でプロトガンダムをブーストダッシュさせ、ホワイトベースへと戻る。カイもまた、機動力が低いガンキャノンを必死で疾走させていた。やがてホワイトベースの右舷デッキの上で、決死の白兵戦を行うガンダムと、青で塗装された敵新型の姿が見えた。そしてその新型が
(……眼帯をした髑髏の周囲に、稲妻をモチーフにした飾り模様! 『荒野の迅雷』、ヴィッシュ・ドナヒュー!!)
エグザベは
「3、2、1……そこっ!」
エグザベはカウントダウンして、ビームライフルを撃つ。しかし敵新型
(わあああぁぁぁ!?)
(アムロ! く、待ってろ!)
今度はカウントダウン無しで、エグザベはプロトガンダムにビームライフルを撃たせた。それは敵新型の右手首とガンダムの間を繋げている
一方のアムロは必死になってガンダムの機体を立て直し、その右手に握らせたビームサーベルを振り抜いた。一方の敵新型も、シールドの裏からヒート剣を抜き放ち、ガンダムに向けて斬り上げる。
(……!! 間合いが遠いか!?)
エグザベがそう思った次の瞬間、ガンダムの右腕が、宙に舞った。しかし敵新型の右腕も、同じく宙に舞う。双方の
(アムロ! アムロ君! 大丈夫か!?)
(だ、大丈夫、です! 敵、敵の姿、が。隻眼の男……。あ!)
(逃がす、かっ!!)
エグザベは再度ビームライフルを撃った。だが敵新型は、今度は大きな動きでそれを避ける。ホワイトベースの甲板から、バーニアとスラスターを吹かして跳躍し、同時にガンダムとプロトガンダムへ、左手指に仕込まれたバルカンを一連射ずつ撃ってけん制し、逃走して行く。
「に、逃げた、のか」
『え、グザベ、さんザザッ。あ、ありがとうございま、す』
「大丈夫か、アムロ」
『は、はいザザッ』
『ご、ごめんアムロ。ザザ援射撃がぜんぜんできなかった』
『済まない、俺がガンタンクの位置取りザザザザ』
『い、いえ。ホワイトベースの甲板の上に取りつかれちゃザザッハヤトもリュウさんも』
やがて右肘から先と狙撃用ビームライフルを失った、シイコのガンキャノン1番機が、左手で片翼を喪失したコアファイター、ジョブ・ジョンの機体を引きずって戻って来る。
『ごめん。あいつの電磁
「し、シイコ少尉。もう少しそっと運んであげてください。ジョブは味方です」
『あ、あら、ごめザザザなさい』
そして、アムロの思念がエグザベの脳裏に『何故か』伝わって来る。
(エグザベさんの助けが無かったら、やられていた……。くそ……。僕は、僕は……。あの男に勝ちたい……!!)
エグザベは、とりあえずどうにか勝利した事で、安堵の息を吐いた。
*
戦闘をどうにか潜り抜けた後、ホワイトベースはミデア輸送機3機編制の補給部隊と合流する事ができた。ブライトは、補給部隊指揮官のマチルダ・アジャン中尉と対面し、今後の指示や命令を受ける。
「避難民の病人など32名は引き取ります。それ以外の避難民は、ミデアの容量から引き取れません。ホワイトベース、モビルスーツそのものについてはなんの決定も知らされておりませんので現状のままです。ただしこの先の行動方針については、インド洋を経てマドラス基地へ向かい、そこで指示を受け取る様にとの事。
なお、今までの戦闘記録はレビル将軍の命令によりコピーを頂きます。本来であれば、テム・レイ技術大尉も引き取りたいところですが……。残念ながら、南太平洋横断の際にジオンの水上部隊に我々が撃墜される危険を考えると、最低でもマドラス基地まではホワイトベースに同道していただく方が安全と判断いたしました」
「引き取る避難民よりも、レイ大尉の方が……」
「言ってしまえば、そういう事ですね。可能であれば全ての避難民を引き取り、そちらの負担を減らしたいのは山々なのですが」
「……」
ブライトは黙りこくるしか無い。マチルダ中尉は言葉を続ける。
「レビル将軍は、貴方がたに期待しています。連邦軍全体がガタガタな現状、貴方がたがこれまで通り戦えるのであれば、正規軍と同様の扱いをしたいと」
「次の補給は受けられるのですか」
「連邦軍優勢の地域にたどり着けるならば、おそらくは」
「……感謝します」
そして、マチルダ中尉は言った。
「今の連邦軍にも、貴方たちを見捨てていない人が居る事だけは、忘れないでください」
慰めの言葉を聞いても、ブライトの胃はしくしくと痛みを訴え続けた。
*
テムはガンダムの
「ガンダムの右腕は、どうにかなったぞ。ミデアが部品を運んで来てくれて良かった。消耗パーツ類もな」
「ありがとう父さん」
「それと、
「とりあえず、着座修正はしたよ。ただ、ペダルがまだ慣れてなくて硬い、かな?」
「時間があるうちに、徹底的に調整しておこう。……すまんアムロ。お前を護るために、わたしにはこれしか……。やれる事は無い」
アムロは笑みを浮かべて言う。
「いいんだ、父さん。父さんが頑張ってくれてるのは分かってる。……マドラス基地で、もしかしたら父さんホワイトベースから降りるんだろう? それまでに他のメカニックの人たち、徹底的に教えてあげてよね」
「……ああ、わかった。アムロ……。その、だな。母さんのこと、なんだが。話しておくべきか、悩んだんだが」
「……」
「今はガンダムの修理と整備と調整で忙しいが、時間が出来次第に話して置こうと思う」
アムロは、テムに向かい頷いた。それが、相当に悪い話なのだろうと、『何故か』『感じ取れ』る。アムロはちょっとばかり、途方に暮れた。
というわけで、ホワイトベースが降下したのはオーストラリアでした。そしてMS-07Bグフの出現です。乗り手はヴィッシュ・ドナヒュー。ランバ・ラルと比べても遜色ないヤバいグフ乗りです。
ただ小説版コロ落ちでヴィッシュ自身が悔やんでいる様に、彼は部下の育成でちょっとばかりミスってます。いやミスというのは言い過ぎかもですが、技量優先で育てたため、個人技は得意でも連携はカスなのです。部下たちは『自分が』手柄を立てて上へ行くことに固執しており、手柄争いする傾向もありますし。ヴィッシュは泣いていい。