地球連邦政府、連邦議会議長ゴップ氏と、連邦政府大統領ヨハン・イブラヒム・レビル氏。この2人が強力に手を取り合って実行した、全人類宇宙移民計画。反対意見もあったが、ゴップ氏があくまで公明正大な手法で用意した数多くのデータが、反対派の逃げ道を
これまでアースノイドと呼ばれていた特権階級が地球上で繁栄を享受できていたのは、宇宙市民スペースノイドが稼いだ金を、スペースノイドの生命を、生き血を
これを解決しなければ、アースノイドは地上で枯死する。そして解決の手段は、アースノイドの9割以上を宇宙へ上げる事。それしか無かった。それでも一部の者は、どうにか特権階級として地上に残ろうと画策する。だがその1割未満の座席に座ろうとした者は、他の9割以上のアースノイドの手で引き摺り下ろされた。
ここで、かつてジャブローのモグラと呼ばれた男、ゴップ氏が自ら率先して宇宙へ、スペースコロニーへ上がった。これには荒廃から立ち直ろうとしているコロニー社会にいち早く飛び込むことで、甘い汁を吸いやすい立場になる事を目論んでいたのだと言う者もいる。しかしこの行いにより、地球に無理に残るよりも宇宙にこそ利権の匂いを嗅いだ者たちは、今までが嘘の様に我先に宇宙へと上がった。
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まあ、それほど甘い話は無かったのだが。
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宇宙に遅れて上がった者たちには、さほど美味しいところは残っていなかった。しかし今更地球に戻るわけにもいかない。既に連邦議会で、地球には最低限の環境保護要員しか居住できないとする法が制定、施行されていた。更にその環境保護要員ですらも、最長で5年、通常で3年しか地球には居住できず、定期的に入れ替えが行われるのだ。
あとは極めて短期の滞在であるならば、スペースコロニーはどうしても宇宙空間にわずかずつ水や空気を逃がしてしまうため、その水や空気を補充するコロニー公社の人間が降下する事はあり得る。まあだが、水や空気を補充したなら即座に宇宙へとんぼ返りであるし、もはや地球には楽しめるような施設も無い。彼らにとっても、地球出張任務は罰ゲームみたいな物であった。
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そしてレビル大統領最後の仕事は、地球連邦の名称変更であった。もはや地球は自然保護区と水、空気の補充先でしかなく、人類社会の中枢では無い。それ故に、地球連邦の名を太陽系連邦に変更したのである。これを最後に、レビル大統領は引退を発表。ゴップ議長もまた、引退した。ひとつの時代が、終わった、のである。
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地球圏のコロニー群、サイド5。この5バンチコロニーの高級住宅街に、そこそこ立派だがちょっと質実剛健に寄っている、見る人が見れば見えないところに金を掛けてそうだという小さめの邸宅がある。そこに今、宇宙港からエレカのタクシーに乗って、1人のちょっと白髪が混じっている初老の男性がやって来た。彼は門扉のインターフォンを鳴らし、そのマイクロホンに向かい何がしか話す。すると電動で門扉が開いた。
タクシー運転手が気を利かせて、彼の大型トランクケースを荷台から取り出すと、男性は微笑んで礼を言い、トランクケースを受け取った。彼はそのまま門扉の中へと歩みを進める。と、邸宅の玄関が開き、これも初老の、やや白髪が混じり始めた、それでも黒髪の女性が現れた。男性は急ぎ足で女性に歩み寄ると、彼女を抱きしめる。
「……今までお仕事、ご苦労さまでした。元中将閣下?」
「ははは。本当は准将で退役するはずだったんだけどなあ。将官になっちゃったら、かえって辞められなくなるとは。まあ何とか今日で、退役できたけど」
「アムロさんやシイコさんみたく、中佐ぐらいで退役しておけば良かったのに。佐官でも、年金額はまあまあいける方でしょう?」
「君だって、僕が准将になったら引き留めを受けて辞められなくなったのを見て、あわてて大佐直前で退役したんじゃないか。ははは」
「お尻、つねってあげましょうか? エグザベ兄さん?」
「その呼び方、久しぶりだなあニャアン」
そう、彼らはエグザベとニャアンである。2人は邸宅の中へと入って行った。
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居間でソファに座り、彼らは紅茶を飲む。
「おかわり、いります?」
「もらおうかな」
エグザベは
「……あいつら、軍人になるって言われたときは、目の前が一瞬暗くなったなあ」
「お父さんが、頑張って背中を見せすぎたのよ」
「いや、でもさ。うん、まあ。僕が頑張らないと、ジオン『公国』残党は減ったけどさ。エゥーゴ残党は、まだ出て来るし。頑張らないと、テロが」
「エグザベさん? まあ貴方がそんなだから、軍を辞められなかったのもありますよね?」
「うん……」
ニャアンはクスクスと笑う。まあ彼女の夫が、無駄に責任感強いのは仕方の無い事だ。
「ブライト大将も、そろそろ勇退して政界進出だってさ」
「あとがまは?」
「カイ中将が大将昇進して、役職を引き継ぐって」
「奥さんが言ってた。少佐ぐらいで退役して逃げ出すつもりだったのに、逃げ損ねた、っていつも愚痴ってるらしいわ」
「未だにジャーナリスト夢見てるらしいけど、無理だろ年齢的にも」
そしてエグザベは苦笑いを浮かべる。
「まあでも、彼も
「うん、どう考えても貴方に政治家は無理。相手の心を読んじゃう事でのストレスとか無くても、性格的に」
「ひどいな、ははは」
「え? 誉め言葉なんだけど?」
「まあ僕も能力のピークは過ぎて、かなり衰えてはいるけどさ」
そう言いながら、彼はトランクケースから1冊の擦り切れた雑記帳を取り出す。表には、『忘備録:エグザベ・オリベ』と書いてある。彼はそれを開いた。
「そう言えば、カイ中将にこれについて相談したんだけどね。『俺が生きてるうちは、表に出すんじゃねえ! まあ退役するんだから、軍の機密事項とか書いてないか検閲しねえといけねえんだが……。まあいいや、もってけ。中身はだいたい知ってるしな。だけど、くれぐれも言っとく! 俺が生きてるうちは、表ざたにすんな!』ってさ」
「何が書いてあるの?」
「一部を除いて、たいした事は。ただ一部が問題。……あのとき、エンツォ・ベルニーニ大佐の心が、死に際に読めた、だろ? その内容を、つぶさに」
「あ……」
ニャアンの顔が、暗くなる。
「あれ、ね?」
「うん。エンツォ大佐が、自分の周囲に強硬派、過激派のジオン『公国』残党を集めて、自分ごと始末しようとしてた、って事。そのために、宇宙の『悪』として死ぬ覚悟を決めてた事。そして内心、それでもいつか、歴史資料に小さくちょっとだけでも、本意が記載されてほしいって、わずかな未練を抱えて、それを黙殺していたこと」
「……」
「彼がやったことは、絶対許せないし、赦しちゃいけない。だけど、まったく理解ができないかと言うと、それも違う。僕らには、そして今を生きてる人たちには、エンツォ大佐の事を怒っていい権利がある。エンツォ大佐は、激怒されてしかるべきだ。ただ……。ちょっとだけ覚えていてやっても、いいんじゃないかな、ともね」
そしてエグザベは、奥にある書斎に歩いて行った。ニャアンはそれに付き従う。エグザベは、書斎にある頑丈な金庫に、その忘備録を仕舞い込んで施錠した。
「……さて。そう言えば、ゼロとドゥーの命日、もうすぐだな。墓参に行かないと」
「ゼロさん、強化人間にしては生きた方だけども、それでも61歳は若いわよね」
「でも、ドゥーがゼロの没日の翌日に亡くなったのは、悲しかったけど驚いたな。本当に、燃え尽きる様に……」
「ゼロさんが、本当にドゥーの生きる意味だったんだね……」
彼と彼女は、口々に語り合いつつ、居間へと戻って行く。今までが忙しすぎた彼らは、今後おそらくは安逸な日々を過ごす事になるだろう。エグザベとニャアンは、ようやくの事でおだやかな日々を迎える事ができたのだった。
~fin~
さて、これにて完結でございます。エグザベ君とニャアン、ようやくの事で安らかに過ごせる日々を迎えました。ちなみに……。
アムロ→中佐で退役。民生用MSの会社を興す。社長兼テスパイで、今現在は老いてますます盛ん。
シイコ→中佐で退役。子供が生まれてしばらくはアムロの奥さん専念してたが、アムロも中佐で退役して会社興したのでその副社長兼テスパイに。今は老いてますます盛ん。
僕らのテムさん→ぎりぎりまで現役続けた後に、病没。孫は抱けた。
シロッコ→テムさんの後を継いで、連邦の開発局を牛耳っていたが、テムさん病没後になんか系外惑星のデータを見ていたのを最後に失踪。
ブライトさん→政界進出。第〇〇代太陽系連邦大統領を目指す。
カイ→大将昇進。ジャーナリストの夢は捨てきれない。でもほぼ確実に、もう無理ぽ。嫁さんは居るけど、誰かは断言しない(笑)。
ゼロ→エグザベが将官になったときに、大佐昇進してエグザベが率いていたMS部隊を受け継ぐ。でもその後、准将にはならずに退役し、ドゥーの生き甲斐のために自分の健康にひたすら気を遣い、61歳で人工臓器の類の機能不全で没。
ドゥー→ゼロと結婚後、必死のド根性で命を繋いでいたが、ゼロ没後、翌日というか前日というか深夜0時頃に気力の糸が切れて、人工臓器の機能不全を起こし没。
ゲーツ→少佐までは昇進したが、人工臓器の機能不全にて入院。そのまま退役し、治療を続けていたが50歳で病没。
ハヤト→中佐で退役し、軍人年金で生活。結婚はしたが、相手が誰かは断言しない(笑)。
リュウ→現在少将。ティアンムポジションの提督をやっている。超能力者(スキャナーズ)ではないので、政治家候補としてブライトさんに目を付けられている。
ジョブ・ジョン→現在少将。最盛期のジョン・コーウェンみたいな技術畑系将官をやっている。超能力者(スキャナーズ)ではないので、政治家候補としてブライトさんに目を付けられている。
セイラ→秘密。
フラウ・ボウ→秘密。
エドワウ・マス→ちょっとした富豪。大富豪じゃない。未婚だが、内縁の妻は……?
こんな感じで、悲喜こもごもですかね。特に強化人間たちは悲しいですが、それでもせいいっぱい生きました。