偽書・ガンダム機動戦記   作:雑草弁士

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第7話 荒野の迅雷

 ホワイトベースは、山脈(ふもと)にある、ジオン軍の前進基地へと向かっていた。それは小規模な街に隣接しており、彼らはその街に被害をもたらさずに前進基地を破壊しなければならなかった。

 

 

「ジョブのコアファイターでの偵察結果は」

「スクリーンに出します」

「……まずいな。ジオンめ、街に食い込むような形に基地を造ったのは、わざとか?」

 

 

 ブライトが吐き捨てる。街の倉庫区画からの物資搬入が容易(たやす)くなるように、なのだろうが、倉庫区画と前進基地の物資倉庫が重なる様に建てられている。

 

 

「赤で示された建造物が、おそらく実質的な基地の指令部及びMS(モビルスーツ)やドップ等の整備施設などかと。滑走路が脇にありますが、短いですからね。垂直/短距離離着陸(V/STOL)機のみを想定した設備でしょう」

「これのみを叩けば、この基地は無力化できるという事か。……だが、流れ弾が街方向に行けば……」

「ジョブが離脱時に、緊急出撃(スクランブル)してきたルッグン偵察機を撃墜したのよね?」

「となると、わざわざルッグンで緊急出撃(スクランブル)してきたという事は、アレか。戦闘機(ドップ)は無い、と見るべきか」

 

 

 艦橋(ブリッジ)に居るメンバーは、悩みつつも意見交換をする。そしてふと、ブライトが声を上げた。その声音には、若干の躊躇(ためら)いと苦悩が混じっている。

 

 

「なあ、ミライ、セイラ、オスカ、マーカー……。我々が生き残るために、手段は選んでいられない、だろうか」

「何を言いたいの?」

「ニャアン、だ。彼女を軍人にさせるのは無理だ。12歳だからな。だが軍属……軍関係の仕事をしている民間人、という待遇で艦橋(ブリッジ)に呼ぶ事は不可能だろうか」

「「ブライト……」」

「「艦長代理……」」

 

 

 ミライ、セイラ、オスカ、マーカーは溜息混じりの返答を返す。だが彼らも、ブライトに掛かっている重責を、その心労の重さを、分かってはいるのだ。ブライトがニャアンの『超感覚』に、頼りたいと考えてしまう事も、理解はしているのだ。

 

 

「わたしはソレには反対よ。いえ、人道的とかそういう言い分だけではないわ。あの娘を艦橋(ブリッジ)要員として呼んだりしたら、エグザベの……。ホワイトベースに取って欠く事のできない最大戦力の1人の、その反感を買うかもしれない」

「ミライの言う通りね。一度そう言う立場に立たせてしまったら、ニャアンは後々軍から離れられなくなる可能性も大きいのでは? そうなったら、エグザベを始めとして、MS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)陣からの信頼が崩れる危険がある」

「……わかった。忘れてくれ」

 

 

 表情を硬くするブライトに、ミライは話し掛ける。

 

 

「ブライト、貴方が大変なのは分かってる。出来る限り支えるから、今回は反対したけれど言いたい事は全部話してくれていいわ」

「そう、か。助かるよ」

 

 

 ブライトは強張った笑顔を浮かべる。その声音は、自分で理解しているかは不明だが、苦し気であった。

 

 

 

*

 

 

 

 ホワイトベースとそのMS(モビルスーツ)隊は、明け方に目標Dと仮称したジオン軍前進基地に攻撃をかけた。本来であらば奇襲になれば良かったのだが、しかしジョブのコアファイターが偵察をした際に、この基地に所属のルッグン偵察機を撃墜せざるを得なかった。それもあってこの基地は、かなり警戒をしていたのだ。

 

 

『ガンダム、プロトガンダム、ガンキャノン1番機2番機、ガンタンクは順次発進。その後にコアファイター発進して地上攻撃支援を』

『了解! アムロ、ガンダム! いきまーす!』

「了解、エグザベ・オリベ、プロトガンダム出ます!」

『こちらリュウ、了解だ! ハヤトも良いそうだ。ガンタンク、行くぞ!』

 

 

 左舷MS(モビルスーツ)デッキから、次々にMS(モビルスーツ)が発進する。エグザベが見遣ると、右舷MS(モビルスーツ)デッキからもガンキャノン2機が発進し、しばしして後にコアファイターが出撃した。

 今回は敵基地の立地条件などからして、真正面からの力推しになる。まずガンキャノン2機とガンタンク、そしてホワイトベースの艦砲による制圧射撃が行われた後、コアファイターの支援の元ガンダム2機が突撃する予定だ。そのはずだった。

 だがエグザベは目を見張る。基地とホワイトベースの間に、何故か迎撃態勢を取るでもなく、横一列にジオンのMS(モビルスーツ)が並んでいたのだ。中央にグフ2機、その片方に『荒野の迅雷』のパーソナルマークが描かれている。そしてその左右に2機ずつのザクⅡJ型、合計6機である。

 

 

「なんだ……? 何を企んで」

『わたしはこのローラ・スピーシーズ基地の暫定司令官、ヴィッシュ・ドナヒュー中尉だ。当基地に接近中の連邦軍部隊に、一時的な停戦を提案する』

「『『『『『!?』』』』』」

 

 

 エグザベは驚く。そこへホワイトベースの艦橋(ブリッジ)から通信が入った。ミノフスキー粒子の影響はほとんど無く、音声は明瞭だ。ちなみに相手は、通信士のセイラではない。

 

 

『こちらブライトだ。……MS(モビルスーツ)隊の面々に、直接に敵と相対している諸君らに、意見が聞きたい。どう、思う? 本気、か?』

『こちらシイコ。ちょっとわからないわ。腹立たしいけれど、敵意は無さそうと言うか、上手く隠しているのか』

『こちらリュウ。俺にゃ判断がつかん。ハヤトはどうだ?』

『僕も判断がつきません』

『こちらカイ。怪しいが、なんか『静か』過ぎる』

「エグザベです。隊長機には、『荒野の迅雷』には敵意は感じません。部下はそうでもないですが。必死で押し殺しているみたいな感じが」

『アムロです。僕もエグザベさんと同じですね。『荒野の迅雷』は本気みたいですけど、部下の挙動には注意が必要かと』

 

 

 そしてヴィッシュから、言葉が続けられる。

 

 

『我々がここで戦闘を行えば、どちらが勝利するにせよ、甚大な被害を被るのは目に見えている。そちらは軍艦とMS(モビルスーツ)に戦闘機、こちらは基地の防衛設備と地の利がある我々のMS(モビルスーツ)6機』

「『『『『『……』』』』』」

『だがそれは、互いに軍隊である以上はやむを得ない事でもある。しかしながらここには、民間人の居住する街がある。市民はシェルターに避難してはいるが、それでも街の施設に被害が及べば、住民の今後の生活いや生命維持に、多大なる問題が出るのは自明。更に市民そのものに死傷者が出る可能性も看過できない。

 どうだろうか? 一時停戦を受け入れ、我々がこの前進基地を放棄して退去する事を認めてもらえないだろうか? 退去後、時限爆破装置にて基地施設は破壊する』

 

 

 通信の向こうで、ブライトが絶句する感覚が、エグザベには感じられた。そしてややあって、ブライトが口を開きかける。

 

『!! 少し考える時間が……』

『お前らが、お前らがそれを言うのか! 市民が、民間人がって! 俺たちはなあ! 住んでたサイド7を焼け出されたんだぞ! ジオン軍(てめえら)の攻撃で、だ! そして生きるため、生き残るために志願しなきゃならなくなったんじゃねえか!』

『カイ! 駄目よ落ち着いて!』

 

 

 唐突に、カイが切れた。飄々(ひょうひょう)としていた彼であったが、少しずつ、(わず)かずつ、ストレスが溜まっていたのだろう。エグザベは、思わず前に進み始めたガンキャノン2番機の前に、プロトガンダムを割り込ませる。

 

 

「カイ! 冷静になれ!」

『エグザベ! お前だってサイド5を潰されたんじゃねえのか!? お前の妹分だって、サイド2を滅ぼされて命からがら逃げだした先を、またジオン軍(やつら)に焼かれて!』

「……ずるい言い方だけどさ。その僕が、その僕らが我慢してるんだ。……頼む」

『……(わり)い。済まねえ、頭に血が上っちまった。セイラさんも、ブライトさんも悪かった』

『こちらブライトだ。カイ……。気持ちは少しは分からなくもない。だが、これが済んだら、ちょっとの間営倉入りしてもらうぞ』

『わかってる』

 

 

 大人しくなったカイに、エグザベは安堵する。ヴィッシュが、何か押し殺したような声音で呟いた。

 

 

『それで、か。あんな子供が、そちらの白いMS(モビルスーツ)操縦士(パイロット)だったのは……』

「……艦長代理。結論を早急に出すべきです。考えてる時間は、無いですよ」

『わかった。ヴィッシュ・ドナヒュー中尉、こちらブライト・ノア艦長代理だ。我々はそちらの提案を受け入れよう』

『感謝する、ノア艦長代理』

 

 

 一息吐くエグザベ。そこへアムロから個人回線で通信が入った。

 

 

『どう……思いますか?』

「嘘は言ってないと思うが、全部も言ってないだろうね。あちらの本音からすれば、僕らにザクを何機も何機も()とされてる。それに色々と新聞記事とかジオンの大本営発表とか調べたら、オーストラリア方面のジオン軍はザビ家からはあんまり好かれてない可能性がある。確かとは言えないけどさ。

 だから、これ以上の損害が出る前に、多少上の不興を被るのは覚悟の上で、僕らをオーストラリアから放り出したいんじゃないかな。上の不興を被ってるのは、今更の事だろうし、それに幾つか積み重なったところで、ってとこか」

『なるほど……。でも『荒野の迅雷』は、ちゃんと普通に民間人の事も気にしてる気が……。します……』

「それは僕も思った。まあカイの憤るのもそうだし、僕も表に出してないだけで、不快には思ったが」

 

 

 そうして、ジオン軍部隊は3台のサムソン・トレーラーに荷を満載して基地を放棄して行った。基地の爆破を最後に見届けて行った『荒野の迅雷』は、深く溜息を吐くとグフでエグザベ達に敬礼をし、語る。

 

 

『……言い訳がましいとは思うが、ジオンにも『良識のある』者達は、いる。論外な連中も数限りなく多いが、な。貴官らの判断のおかげで、民間人に被害を出さずに済んだ。あらためて礼を言おう。……可能ならば、平和な時代にまた会いたいものだ。貴官らがそれを望むかは、わからないが……』

 

 

 そして青いグフは、踵を返すと疾走を開始。はるか彼方へ遠ざかって行く。アムロがエグザベに語り掛けて来た。

 

 

『勝ち逃げされた気分です』

「そうか……」

『僕は、あの人に勝ちたかった。ホワイトベースは、ほぼ確実にオーストラリア大陸を脱出できるという戦略勝利を得ました。でもオーストラリアのジオン軍からすれば、僕らを追い出してこれ以上の損害を避けるという、別な目標を持っていて、そして達成してます。

 そして僕は、単純な戦いでも、市民を思いやる面でも、あの人に勝てていない。たぶんもう、あの人と戦う事も無い。戦場は、地球は、地球圏は広い。広すぎる』

「だけど、負けてもいないさ」

『勝負もしていない、ですけどね』

 

 

 エグザベは、アムロに語る。

 

 

「でも、僕らは僕らでホワイトベースを生き残らせた。これは勝ちだ。目に見えない物よりも、今日を生きて、今日のご飯を食べて、今日の寝床を確保。そして明日に繋ぐんだ。本当なら、遠い未来を見据えないといけないけど。今は目の前の石ころに蹴躓(けつまづ)いて転ばない様に進まないといけない時だよ」

『……わかります』

「うん。あの男に勝ちたい気持ちがあるなら。まずは生き延びよう。戦後に彼がもし死んで、こっちが生き残っていれば。それは彼の勝ち逃げじゃない。君の、僕の、僕らの勝ちだ」

『はい』

 

 

 そしてエグザベ達はホワイトベースに帰艦。ホワイトベースは山間部を潜り抜け、数日後オーストラリア大陸西海岸に到達、インド洋へと飛翔したのである。




オーストラリア駐屯軍司令官ウォルター・カーティス大佐は、ガルマ・ザビとはまったく正反対の決定を下しました。ホワイトベースを撃破もしくは拿捕すれば、ジオン十字勲章ものだと言う事実を認識した上で、手柄にはぜんぜん囚われませんでした。まあ今更(ザビ)に媚びを売る必要もありませんからね。それにホワイトベースが(オトリ)である可能性も、既にホワイトベースが無くとも(凸)量産が進んでいるのではないかとの考えも、しっかりとありましたからね。

というわけで、ホワイトベースは無事にオーストラリア大陸からはオサラバです。インド洋を経て、マドラス直行便です。まあジオン水泳部が遊弋してますけどね。インド洋にも。ゴッグなら対空機能無きに等しいから問題ないけど、アッガイが居れば水中からでも撃って来るし、ズゴック配備されてたら更に危険です。まあアッガイはともかくズゴックは数無いでしょうが。

あとは正史本編ほどじゃないけれど、じわじわと、じわじわと、ストレスが溜まって来てます。特にブライトとカイ。まあカイはちょっと爆発して発散したし、営倉入りも覚悟の上で受け入れてますから少しはマシですが。でもブライトは、子供に頼りたくなるほど、ちょこっとキテます。
あとハヤトも少しだけヤバいかな? アムロとの差が、正史以上に急速にかけ離れて行ってます。
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