「おぉ~これが馬車かぁ。なかなか現代日本では乗れないから新鮮だなぁ」
「元の世界にも馬車はあったのですか?」アルが問う
「馬車自体はあったんだけどあんまり使うことはないね。馬車使うなら車のほうが早いし」
「車....というのは何のことでしょうか?」ミカが質問してくる
「うーん......説明が難しいから、いつか話すわ」
現在私たちは馬車で移動中。どうやらアルが城門前に専用の馬車を用意してくれていたようだ。
(専用の馬車とか値が張りそうなもの簡単に用意するの、王族のコネ、感じるぅ〜)
「これ、どこに向かってるんだっけ?」
「この馬車は今第一近郊都市マルテに向かっているんだ」アルが答える
「マルテって何があるの?」
異世界では土地勘なんて一つもない。
「マルテはコップとかそういう陶器の製造が特徴だったはず。あとは畜産も盛んに行われているから食事も美味しかった記憶があるね」アルが答える
「私もマルテの皿とかを使ってたときもあったねぇ。結構丈夫で使いやすかった記憶があるよ」コルニが笑顔でそう語る
「はへー」
……静かな時間が続く。私は少し気付いてしまった。自らの欠点に。
(こういうとき、話ってどうやって回すんだ...!??)
私だって心なき怪物というわけではない。悲しいことは悲しく、気まずいときは気まずいのだ。まさに今!きまずいのだ。
だからって話の回し方は知らない。数ヶ月以上も残業しかしていなくまともに人と話すことなど一つたりともなかったからだ。
(自分がバリキャリなんでもできる陽キャと豪語するわけじゃないけど、ここまで話せなくなるなんてことはなかった...!あとこんな上から目線テンションじゃなかったし...残業はココまで人を狂わせるのかよ!?)
コミュニケーションという人間の基礎設定が機能不全を起こしたことを悟りつつ、どういう話題を出すか思考を巡らす。
…あ、そうだ。ここは異世界なんだ。今自分が把握できてないことで質問攻めにすればいいんだ。天才か?私は!
「そういえば聞きたかったんだけど、結局魔力ってどういうもんなの?」
「魔力というのは簡単に言えば、第二の生命エネルギー。ほとんどの生物に備え付けられていて、身体構造にまで絡みついてるものよ」ミカが答える
「第二の生命エネルギー、ってどういう意味?」
「ないといけないものということ。血液ほどではないけど、そこそこ魔力を残しておかないと、動けなくなる。最悪死ぬ。だからこそ消費魔力がある程度高い魔法はリスクが高かったりするの。どんな魔法使いでも動けなくなればただの人以下だから」
流石選ばれし魔法使いといったところなのか、ミカがいっぱい説明してくれた。
(なるほどなるほど、この世界ではほとんどMP=HPみたいな扱いなのか。まぁそりゃそうか。いくらエネルギーを使ったとはいえそこから炎やら水やらを作るわけなのだから、それ相応の代償ということなのだろう)
「大体わかったわ。あんがと」
「まぁ、これくらいは基礎だから。知らないのは召喚者くらいのものよ」
素直じゃないなぁ。かわいいものだ。
「あっそうだ。魔王城までさ、だいたい何日くらいかかるの?旅するんだし、だいたいどんくらいかかるのかは知っておきたいからさ」
「そうだね...大体1年くらいかな。それくらいあれば魔王城に着く」
「1年...1年!??!?」
冷静に返してくれたアル。それの真逆に位置するように私は驚いていた。
「1年も!?そんな長いの!?」
「そんなに長くないわよ。1年で世界の英雄になり得るとなったら短いものでしょ」ミカが冷静に返す。
「まぁ...確かに」
そう考えるととたんに短い気がしてきた。こういう”異世界転生なろう系”で時間の描写はかなり貴重なのだ。だから私が冒険の規模をあまり理解していなかっただけかもしれない。歴戦のオタク知識、敗れる。
「皆さん、そろそろマルテに着きますよ。降りる準備をなさってください」
おそらく運転手さんと思われる人が優しく声をかけてくれた。優しい、現代日本のタクシーとかならもう少し稼いでメーターを回していただろうに。
「おぉ〜...おぉ...」
微妙な反応、というわけではない。これでも結構驚いたつもりだが、あまりにも...
(あまりにも王都と雰囲気が似ている!!!)
こういう”異世界転生モノ”の定番と言うべきか中世ヨーロッパっぽい感じの街並みなんだ。しかも王都もそんなんだったから、これ以上コメントするものがなくなってしまった。
(まだ城壁に囲まれてない分マシだが、異世界ってホントにこういう感じなんだ...)
「ここに何日か居座る感じ?」
「そうだね。でもあんまり長居はしすぎないようにしよう」
アルがしっかりしすぎて、もはやアルが勇者みたいだ。
「とりあえず、宿屋に行きましょう?荷物も置いて少し街を見るのもいいわよ」コルニさん、優しい!
ということで荷物を置いて、街を少し観光しようというところだ。せっかくだし他メンバーと親交を深めようとも思ったが、コルニさんが「ちょっとこの子借りていくわね〜」と言いながらミカを引きずっていってしまった。結局アルと二人きりの状況だ。そして何より...
「腹が...減った...」
心の中の井之頭五郎が出てくるくらいお腹が空いたのだ。
「アル〜ここらへんに美味しいご飯が食べれるところとかない〜?」
「確か、そこを曲がったところに美味しいサンドイッチ屋があったはずだ。そこでもいいかい?」
「おお!サンドイッチか。じゃそこにしよー!」
アルが出来る男過ぎる。まるでデートプランを前もって作っている彼氏のような...と言いたいがそんな経験は私にはない。とほほー
「着いたよ、ここだね」
なんだかんだ言ってる内に着いたようだ。目の前に映るのは、木の吊り下げ看板にテラス席。日本にあったら1インフルエンサーの拡散でインスタ映え狙いのJKがこぞって通いそうなおしゃれさが今私を包み込もうとしている。
「いらっしゃいませー!何名様ですか...え!?アル様!?どうしてこんなところに!?」
「あ、えっと...そのこれは...」アルが今まで見たことないくらいに困っている。ちょっと面白い
「ただの勇者パーティだよ。あんまり騒がないでくれると嬉しいな?ねっ」
「あっ!?はい...」少し赤面しながら奥へと引いていく。勇者フィルターがかかっているのか、私の顔がすごく魅力的になっているのかもしれない。
テラス席に移動し、商品を注文する。おそらくメニュー表にあった感じを見れば、肉みたいなのを挟んだものだろう。
(あんまり女子がこういうのを言うべきではないが、肉々しいのが好きなんだぁ〜!!)
届いた。おぉこれはすごい。コンビニのサンドイッチくらいのサイズと思っていたが0.8コメダのように感じるほど大きい。だがこれでいい!思ったより小さいは物悲しくなるが、思ったより大きいはサプライズを受けたようになるものだ。
「いただきまーす!」
「いただきます?」
「そっか、この世界にこの文化はないのか...」
言ってしまえばクソデカ規模の海外旅行みたいなものなのか。
「いただきますっていうのは、生き物のための合言葉だよ。元の世界のまじないみたいなものよ」
まぁその意味で使っている人がいくらいるかと言われたら...だが
「なるほど。それをしっかり守るなんて見かけに寄らずしっかりしているのかい?」
「そんなんじゃないよ。言えば美味しくなる気がするし」
「そうか。ならいい。いただきます」
「大変だ!スライムが現れたぞ!」
私とアルの耳に聞こえてきたのはそんな声だった。
(スライムか...スライムごときでそんなに騒ぐものか?)
私がイメージするスライムは某ドラゴンなクエストのアホ面スライム。今の世ではマスコットのようなイメージもあるスライムにそんなに騒ぐものか、と少し疑問に思った。
「ねぇ、スライムってそんなに騒がれるようなもんなの?」
「間違いなく一般人には危険な魔物だよ。今すぐ助けに行こう」目の前のサンドイッチまで置き、慌ただしく騒ぎの方向へ進むアルに私も着いていくことにした。一応、勇者だし?
「うげぇ...これがスライム?」
目の前にいたのは紫色の体色に不定形にどろどろと形を変えている。動く毒沼のようなものだった。
「そうだね。これがスライムだ」アルが応える
「スライムってもっと、青色で可愛い感じのものじゃないの!?」
「魔物が可愛いことを望むのはやめておいたほうがいい。大体の魔物はこんなふうにおぞましい見た目だ」冷静に返してくるアル
自らに課せられているこの「勇者」の肩書。そしてこの世界の恐ろしさが膨らんでいく。◯うぶつの森をしていると思ったら◯イオハザードの世界に飛ばされた感覚だ。
「ねぇさ!これってアルは倒せるの!!」
「倒せるよ。魔物といえどもスライムだ。そう苦戦するものじゃない」
「じゃあ、負けそうになっても助けてくれる!?」
「...もちろん助けよう」
なんだその一瞬の間は。まぁいい、勇者らしさなどなく無様に負けてもいいという後ろ盾ができた。それなら!
鞘から抜いたレイピアに集中する。よく言う「魔法はイメージ」の概念だ。ただの勘だがやらないよりかはいいだろう。
「!?」
刀身が紫色の光を帯びる。その光は揺らめきまるで意思を持っているようだった。これが魔力。そう肌で感じとることができた。
「よくわかんねえけどおんどりゃああああい!!」
切っ先をスライムめがけて突き刺す。レイピアはスライムを貫き、その体に見事に穴をあけてみせた。体が安定しないのかスライムは形状を歪に変化し続けながら最後には霧となって消えた。
おそらく、倒した。
「ンゼェーハァァー...フゥゥゥー...めっちゃ疲れる...」
”勇者”という肩書を過信し、自分に絶対的な力があると思っていた。だがそうだ!別に数日前まで一般ブラック社畜生活の中だったんだ。まともな力なんてなく比較的軽いと思った”コレ”を1つ振るうだけで、このザマだ。
「アル...ちょっと...こっち...」
「大丈夫か...!?もしやなにか攻撃を食らったのか...!?」
「いや...その...」
「何かあるなら言ってくれ!すぐ処置しよう」
アルは真っ直ぐな目で必死そうに訴えかける。あぁ、いい人だなぁ。でもそうじゃないんだ。
「疲れて...歩けない...」
「え?」
「......あっ!ミカさん!コルニさん!」
遠くにミカとコルニの姿が見えた。アルの声に気がついたのか、2人の視線はこちらを向いた。そして驚いた顔をしながらこちらへ走ってくる。
「アルさん!何があったんですか!勇者様を背負って」
「もしかして魔王サイドの襲撃にでも遭ったのですか...!?今すぐユイさんを診させて下さい!」
2人は心配そうに見ていて、なんならコルニさんは治癒の体制を整えようとしている。
「2人とも落ち着いて。そういう訳じゃないんだ」アルが2人を宥める。
「じゃあ何があったんですか!教えてください!勇者様が動けなくなるなんて相当なことですよ」
「実は、こういうことが...」
「は?」
話を聞いたミカは信じられない様子でこちらの顔を見てくる。「そんなことある訳ないでしょう!」と言っているような顔だ。
優しそうなコルニさんも苦笑い。あぁ...染みる。自分の惨めさを痛感する。視線の串でグサグサと刺され、炙られ。"唯音の串焼き"の完成だ。
「勇者が...あの勇者がそんな訳ないでしょう!!いや、でもこいつは...この勇者はそうなのか...?本当に...?」ミカさんがほんとう信じられないという様子でそう口にする。
辛い。
「ま、まぁ。とりあえず宿に戻ってゆっくり休みましょ?もう日も沈みそうですし」コルニさんがそう提案する。
あぁ、優しい。
「そうだね、そうしようか。ユイもそれでいいかい?」
コクンとうなずく。というより今この惨めな私に発言権も決定権もなかったのだ。