シャーレの先生がポケモントレーナーである場合にありがちなこと 作:子々(ネネ)
前編から読むことを推奨します。
そして第二章開始です。
現場は混沌としていた。
アビドス市街地で戦闘を行っているゲヘナ生徒達。
【風紀委員会】と【便利屋68】。
周りへの被害など気にもしない彼女達を遠目に見て、シロコが真っ先に優先しなければいけないのは、
(柴大将を助ける……!)
柴大将の安否を確認すること。
そのためにもまずは逃走経路を確保するために、セリカ達の後方を包囲する風紀委員を撃退し、今度は柴関ラーメン跡地の周域を確保する。
そうして、シロコを中心にして開けた場所に立ち、シロコは強気に言葉を放った。
「ん、この状況は……なに?」
『……アビドスの増援ですか。しかし一人とは……』
一度は驚愕に染まったアコの表情は、すぐに冷笑に変わった。
『ご自分が何をされてるのか理解しているのですか? 我々【風紀委員会】の公務を妨害するなど、ゲヘナを敵に回すも同然の行為ですよ?』
「公務?」
シロコは一度、辺りを見渡す。
道路や建物に無数にできた銃痕。
爆弾を使ったのか、コンクリートが抉れている所もある。
シロコが出した結論は――。
「人が住んでる街に、被害も顧みずに銃撃戦を行うのが風紀委員会の仕事なの? 行ったことないけど、もしかしてゲヘナ自治区ってアビドスより治安悪いの?」
『………………………』
煽りとも取れる言葉に、アコの表情は怒気に染まる。
だが、そこは風紀委員会のナンバー2。
一瞬だけ顔を俯かせ、冷静さを取り戻した顔で反論する。
『…………そういえば、先程奥空さんも民間人が住んでいらっしゃる、と発言していましたね。それこそ、何を証拠にそう言っているのです? この土地は既に――』
「ん、貴女達の主張なんて、正直どうでもいい」
御託に耳を貸す気はない。
シロコの有無を言わせぬ態度が、アコを閉口させる。
「私が言いたいのは、今すぐ出ていってってこと。貴女達が好き放題暴れてるせいで、こっちは迷惑してるの」
『迷惑しているのはこっちです! 今まさに私達は貴女から攻撃を受けて――』
「被害者面しないで。被害者はこっち」
『なっ――!?』
躊躇わずに言い放ったシロコ。
アコの纏う空気が変わってきていることに、他の風紀委員は気づき始めた。
そこで、ああでも、とシロコは何かを思い出したように続ける。
「便利屋は置いていって。私達が捕まえてお金にするから」
『はあ!?!!?』
「あっ…………」
アコが完全にキレた。
目を見開いて表情が強張ったのを見て、チナツはそう判断した。
『そんな無茶苦茶な要求が通ると、本気で思ってるんですかッ!?』
「ん、そもそも便利屋の処遇について、風紀委員会が出る幕なんてない。なぜなら便利屋が“アビドス”に攻撃してきたのはこれが初めてじゃない」
『ぁ……!』
シロコのその言葉に、アヤネは“かみなり”に打たれたような衝撃を覚え、一つの妙案が浮かんだ。
それをよそに、シロコは言葉を続ける。
「1回目は貴女達の顔を立てて撃退に済ませた。ゲヘナの生徒だからゲヘナが逮捕する。……ん、それは道理。でもそれなら、風紀委員会は今まで何してたの?」
『……その通りです!』
すかさず言葉を引き継いで、アヤネは強気に続ける。
『これだけ大勢の風紀委員を連れてきたんです。以前よりアビドスへ攻め込む準備は出来ていたはずです! なのに、2度も便利屋68の他校への攻撃を許している貴方がたに、便利屋68も先生も任せることは出来ません!!』
『………………では何ですか?』
最後まで黙って聞いていたアコは、わなわなと震える声で絞り出すように呟いた。
『あくまで風紀委員会の邪魔をすると。そうですか、ああそうですか……………ッッッ!!!』
ギリリ、と歯軋りが強く響く。
アコはタブレット端末を構え、切り裂くような声で吐き捨てるように叫ぶ。
『第六、第七中隊、発砲許可! 風紀委員各位、アビドス生を公務執行妨害で、便利屋諸共鎮圧しなさいッ!!!』
『……っ、総員迎撃態勢! 柴関ラーメンから風紀委員会を撃退してくださいっ!!!』
かくして、風紀委員会とアビドス・便利屋の乱戦が再開された。
しかし、アビドス生徒達の奮起も虚しく、状況は劣勢となる。
シロコからの指示によって、セリカ達は行方が定かではない柴大将の安否を確認しなければならず、その場から大きく動くことを許されない。
そのため、事実上セリカ達は吹き曝しの籠城戦を行っているようなものだ。
アヤネの指示で、一次的に便利屋と協力して風紀委員を撃退しているのだが……。
「ありえない……!」
不意に、カヨコから困惑の声が上がる。
その理由とは、
『……ふん、シャーレの先生の戦闘指揮もなくここまで抵抗するとは。……ならば、第十から第十二小隊、突入許可! 包囲制圧に加勢しなさい!』
再びアコの指示で、四方八方から風紀委員の一団がゾロゾロと突撃してくる。
辺りを見渡せば、どこもかしこも風紀委員。
チャキ、と金属音が響き、銃口がセリカ達に向けられる。
「どう考えてもアコの一存で動かせる戦力を超えている……!」
「というか多すぎじゃない!? もしかして風紀委員会、全員来てるとか?」
「全員って事は、ヒナもいるってこと!?」
「も、もしかして、絶体絶命なんですか?」
便利屋からも悲鳴の声が上がる。
風紀委員長である
先程まで最前線に突撃し、ボロボロになりながらもギラギラとした目で乱射し続けていたハルカも、ガタガタと縮こまるように銃を抱きかかえている。
「ぅ、うう、せめて、せめてアル様だけは……!」
「ちょ、ちょっと! 弱気になっちゃ駄目よ! まだ姿は見せてないし、いざとなれば逃げに徹して……!」
「はあ!? この状況で自分達だけ逃げられるとか本気で思ってるわけ!?」
後ろ向きな会話をしているアルとハルカに、聞き捨てならないとセリカは口を挟む。
「……知らないようだから言っておくけどさ。ゲヘナでヒナに勝てる奴なんて1人もいないの。ヒナ1人で、他の風紀委員全員分の戦力だと言っても過言じゃない」
「化け物じゃない……!」
「そう、化け物。ついたあだ名は『死神』。アイツと敵対して勝てるだなんて考えは捨てた方がいい」
だから、とカヨコは続ける。
「ヒナが現れたら、悪いけど私達は全力で逃げさせてもらう」
「……ん、情けない。所詮は三下のペーパーカンパニー」
「な、なんですってぇ!!?!?」
「挑発に乗らないで!」
シロコのボヤキにアルは食いつくように反応する。
グルル、と犬の威嚇のようにアルはシロコを睨みつけ、今にも飛び掛かりそうな勢いだが、カヨコが肩を掴んで止めようとする。
『フフフ、哀れですねぇ。せっかく協力体制をとったのにもう仲間割れですか。貴女の頭脳もこれでは形無しですね、カヨコさん?』
「…………ッ」
今度はアコからも野次が飛び、カヨコの表情が分かりやすく歪む。
『しかしこれで、この戦闘も終わりが見えてきました。貴方がたをこのまま拘束しシャーレの先生を誘き出せば、後は流れで確保できるでしょう。随分と無駄弾を使わされましたが』
「む、無駄弾ですって……!?」
「私たちとの銃撃戦は、向こうには何の意味もない時間だったということですか……?」
『当然でしょう。アビドスには散々謂れのない罪状で邪魔をされたのです、時間も無駄にしてしまいました』
ジリジリと風紀委員達が近づいてくる。
扇形の陣形でアビドス生徒達と便利屋68を取り囲み、逃さない様に銃口を突きつける。
「さっきはよくもやってくれたな、犬耳女! 倍返ししてやる!!」
「ん、犬って呼ばないで……!!」
シロコとイオリがそれぞれ先頭に立ち、引鉄に指を掛ける。
風紀委員達の一斉掃射が始まる、その刹那。
「―――――なんだ、これは」
ずしり、とのしかかる様な低い声が揺れた。
アビドス生徒達が。
便利屋68が。
風紀委員達が。
一斉に声の方向へ向く。
「どういう状況だ、これは」
白のロングコートがフワフワと揺れている。
それは、先生の今の心情を表しているかの様だった。
先生が近くまで駆けつけた時、激しい銃撃の音が聞こえてきた。
そのため急いで到着すると、『風紀』という腕章をつけたゲヘナ生徒達が、アビドス生徒達と便利屋68を取り囲み、銃を突きつけていた。
なぜゲヘナの治安維持組織がアビドスに来ているのか。
気になったが、今の先生にとって一番気がかりなのは、
「どういう状況だ、これは」
胸の内から何かが溢れ出そうなのを必死に抑えて、先生はこの状況を冷静に把握しようとする。
『なっ、せ、先生!?』
「どうしてこっちに……!?」
アビドス校舎に戻ると思っていたアヤネとシロコは、現場にやって来た先生を見て狼狽する。
「あれが、シャーレの先生か……」
「本当にアビドスに来ていたのですね……」
イオリとチナツは先生を目視して、思わず銃口が下がる。
『ようやくお出ましですか。とんだ重役出勤ですね』
思わずアコは毒を吐く。
しかし先生はそれを意に介さず、目だけで辺りを見渡し、
「…………!!」
“それ”に気づいた先生は、素早く柴関ラーメン跡地へと駆け出した。
「駄目、先生! 迂闊に動かないで!」
護衛役としての意識を忘れていないシロコは、風紀委員に睨まれているのも忘れて先生へと駆け寄る。
先生はその瓦礫の山に視線を落とし、グッと瓦礫を掴んで、
「……ふんっ!!」
乱暴に瓦礫を投げ飛ばした。
瓦礫の下にいたのは……。
「柴大将!?」
セリカも気づいて、大声で悲鳴を上げる。
「瓦礫の下敷きになっていたんですね……」
『道理で見つからなかった筈です……』
戦闘中でしっかり探す暇が無かったとはいえ、すぐ近くに柴大将がいた事に、アビドス生徒達は表情が歪む。
『馬鹿な……、本当に民間人がいたなんて……!?』
信じられないとばかりに、アコは絶句し口を手で押さえる。
……仮にアビドス生徒達が風紀委員会よりも先に駆けつけていたのならば、便利屋を牽制しつつ柴大将の救助に着手出来ていたかもしれない。
しかし、現場には既に大勢の人間が銃撃戦を行っていたために、かつ風紀委員会と話が噛み合わないばかりに、救助のタイミングを逸してしまった。
「大将さん、大将さん!!」
先生は瓦礫の中から柴大将を引きずり出す。
柴大将の肩を叩き、意識を確認する。
……呼吸はある。
外傷は……擦り傷程度。瓦礫の下敷きになっていたが、打撲やうっ血等の跡もない。
脈も問題ない。ただ気絶しているだけだ。
「…………」
「…………ふぅ」
傍にいたシロコは、一先ず柴大将が命に別状はないことに安堵する。
だがシロコからは、この時先生がどんな表情をしていたのか全く見えなかった。
「…………だれが」
「ぇ……」
だからこそ、その鈍く低い声が先生の物だと、シロコはすぐに気づけなかった。
「誰が、こんな事を…………!!!」
「せん、せい……!?」
シロコは思わず、先生から一歩後退した。
それはかつて、シロコがアビドスに入学して間もない頃。
ホシノに何度も反抗していた当時のシロコは襲いかかり、その度に返り討ちに遭っていた。
それがもう何度目になるかも忘れた頃。
ホシノがシロコに見せた威圧感に、シロコは思わず足が止まり、その隙をホシノに叩かれ敗北した。
今、先生から感じているそれは、
「イタズラの範疇を超えている……ッ!!!」
あの日ホシノから感じた威圧感とよく似ていた。
そう感じたのはシロコだけでなく、
「ひぃぃっ!?」
(ガタガタガタガタガタガタ…………)
「やっば……なにあれ……!?」
「まさか、噂は本当だったっていうの……!?」
便利屋68も同様だった。
特に、その手で店を爆破したハルカは、先生から発する威圧感に、先程志した事も忘れ、アルにしがみついてブルブルと震えていた。
『――それは、そちらにいる【便利屋68】の仕業ですよ、シャーレの先生』
「ちょ、アンタ……!!」
そんな中、空気を読まずにアコは先生に声を掛ける。
先生の威圧を感じないのか。
カヨコは信じられないようなものを見る目でアコを睨む。
「…………、君は?」
ふっ、と先生から威圧感が消える。
先生は立ち上がり、ホログラムの姿でこちらに近づくアコを視認し、声を掛ける。
『お初にお目にかかります、ゲヘナ【風紀委員会】の行政官を務める天雨アコと申します。現場に来たばかりの先生に、良ければ私からご説明をば……』
「ご丁寧にどうも。でも一目見て大体わかったよ」
人の好い笑顔を浮かべて、柔和な口調で語りかけるアコ。
しかし、先生は努めて冷静に遮った。
その顔は無表情だった。
「大方、そこにいる便利屋が何かしたんだろう。爆弾をよく使用するみたいだからね、今回も何かしらの目的で爆弾を使ったんじゃないのかな?」
「うぐぅ……」
反論したいが、爆破してしまったことは事実なので言い返せない。
アルは先生に一瞥されて、カタカタ震えることしか出来なかった。
「それで、ゲヘナの治安維持組織がアビドスまで来た、と」
『ええ、ええ。お話が早くて助かります。ですのでこの場は危険なので我々風紀委員会が――』
「それで?」
『――って、はい?』
予定通り、アコは流れで先生を確保しようとして、先生にまたしても遮られる。
アコは初対面ゆえに気づかない。
先生が笑顔で話していないことが、どういう意味なのかを。
「君達はいったい何をしているのかな?」
『何を、とは……。勿論、指名手配犯である便利屋を逮捕するために……』
「民間人が住んでいるこの街で、被害も顧みずに……かい?」
『…………っ』
先ほどからアコは何度も否定していた。
しかし、それが事実であったために言い返せなくなってしまった。
『……確かに、その点については我々の落ち度です。それは認めましょう。ですがここは既にアビドスの土地ではありません。その店主さん……ですか? その方は別の方が所有している土地を不法占拠しているようなものなのですよ。その方が被害に遭ったからと言って全ての責任をこちらに被せられるのは大変遺憾なのですが』
『なっ……!?』
しれっと聞き捨てならない事をアコが垂れ流し、アビドス生徒達は絶句する。
しかし先生はそれに怯むことなく切り返す。
「だから何? ここがアビドスの土地であろうとなかろうと、実際に無関係な被害者が出ているんだよ」
『店を破壊したのは――』
「その確認も十全に行わずに、巻き込まれた人がいないと高を括って無遠慮に戦闘を続けていた、と。治安維持組織っていうのは民間人や街の被害を最小限に抑えるために存在していると思っていたけれど、ゲヘナじゃ違うみたいだね」
『…………ッッッ』
口を挟ませて貰えない。
アコの表情に苛立ちが混じるが、先生はお構いなしに続ける。
「それとさっき、ここはアビドスの土地じゃないと言っていたけれど……」
『……っ、それに触れるということは、先生もご存知ではなかったということですね。であればアビドスの暴挙も納得です。お陰でこちらも迷惑して――』
「それが真実だとして、アビドスのご近所さんである事もまた事実だ。つまり君達は近所迷惑を起こしているわけだ。その時点で治安を乱している自覚は無いのかい?」
『なっ……!?』
「今回も含めたら2度だ。君達は便利屋68の近所迷惑を2度も止められなかったくせに、アビドスの介入を暴挙となじる資格はない」
そこで先生は視線だけで辺りを見渡し、続けて口を開く。
「大体この人数は何だい? たった4人にどれだけの戦力を投入した?」
『ッ、便利屋68はゲヘナでは極めて危険度の高い指名手配犯なんですよ! これくらい投入しても――』
「それを君はどの立場で判断しているんだい? 私だって一応知ってはいるんだよ、風紀委員会のトップが誰なのかを。……私が組織のトップなら、許可なくこんな大勢の人員を勝手に動かさせたりしないけれど、当然空崎ヒナも認めているって事で良いんだよね? もしそうなら今すぐ取り次いで欲しいんだけれど」
『なっ、ヒナ委員長に取り次げなんて偉そうな事を言わないでくださいッ! そんなの私が許可するわけがないでしょうがッ!!』
「…………さっきから見てたけれど、随分焦ってるね」
『…………っ!?!??』
アコは言葉が詰まり、顔が引きつる。
そして態度に出てしまった事が痛恨のミスだと自覚した。
「……許可が出ているなら、もっと余裕のある態度をするだろうからね。大方勘付かれない内に、私を確保して凱旋したかった。……そんなところかな?」
『………………………』
ハメられた。
アコはそう確信した。
さっきから最後まで言わせず、遮るように何度も口を挟んでくる先生に段々と苛立ちが募るのを自覚はしていた。
だが、アコは短気な性格をある程度自覚はしているが故に、先生のネチネチとした物言いに我慢できなくなってしまった。
全てはアコがボロを出すための口論でしかなかったのだ。
はあ、と先生は短くため息をつく。
そして険しい表情で言い放った。
「……出直してきなさい。私は正当性を振りかざす人は嫌いだけれど、その程度の正当性すら確立できない人と政治の話をする気はない」
『〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!』
ふい、と先生はアコから顔を背け、話は以上だと言わんばかりに口を閉じた。
その瞬間、アコのプライドに決定的なヒビが出来た。
クスクス、と笑い声の方向へ見やると、俯きながら肩を揺らして笑っているカヨコの姿が。
「く、くく……、アコ、口論で負けてる……っ。やるじゃん、先生……」
『…………ッッッ!!!!!』
まさしくプライドが傷つけられた瞬間を笑いものにされて、アコはもう形振り構わないと、タブレット端末を構えて、怒りを完全に解き放つ。
『情報部の諜報能力も質が落ちましたね……。シャーレの先生は生徒達にとても優しく、真摯な応対をすると聞いていたのですが……。そういう態度をとるのなら、こちらにも考えがありますよ……!!』
アコは大声で叫ぶ。
『どうせやることは変わらないんですよッ! 素直に従わないのなら、実力行使で――』
『―――――アコ』
『―――――……っぃ!?』
またしてもアコの言葉が詰まる。
アコの隣に立つように現れたホログラム少女。
それは――
「げぇ、ひ、ヒナ!?」
アルから悲鳴が上がる。
毛量の多い白髪。
風紀委員会の腕章を付けた、ホシノよりも小柄な少女。
彼女こそが【風紀委員会】のトップ――空崎ヒナ。
(思ってたより小柄だな……)
先生はSNSで彼女の顔だけは見覚えがあるが、ここまで背丈の小さい少女だとは思っていなかった。
(5年前のラニュイより背が低いなんて……)
『部室がもぬけの殻なんだけど、貴女達何処で何してるの?』
『えっ!? いや、それは……そう、散歩を……』
「嘘ついてんじゃないわよ!」
ここぞとばかりにセリカがツッコミを入れる。
ギリ、と歯軋りをして、アコはセリカを睨みつけるが、それを受けてか否か、ヒナは小さくため息をつく。
『散歩、ね……――』
「――それは、こんなゲヘナから離れた場所で、これだけ大勢の風紀委員を連れてまでやる程のことなの?」
『えっ』
ざわざわ、と風紀委員に動揺が走る。
海が割れるように風紀委員が二手に分かれ、その間の奥には――
「………………」
無表情のヒナがアコを静かに睨みつけていた。
『ひっ、ひひひ、ヒナ委員長っ!?』
「あれが……」
「まさか、風紀委員に加勢を……!?」
セリカ達は警戒心を露わにするが、ヒナは見向きもせず静かにアコの下へと歩いてくる。
そして、風紀委員達を一瞥し、抑揚の少ない声音で話し出した。
「これだけの戦力を動かすなんて話、私には届いていないんだけれど。アコもそうだけれど、貴女達も変だとは思わなかったの?」
「え、あ、いや……」
「………………………」
イオリ達も何も言えない。
事実、風紀委員達はアコからの指示を深く考えもせず従っていただけ。
ヒナが許可を出しているかどうかまでは頭が回っていなかったのだ。
『ひ、ヒナ委員長……、これは……』
「……来る前に、私も情報部からの報告書を読んだわ。シャーレの先生がアビドス方面に向かった、と。つまり、シャーレの先生を確保するために、この大勢を動かしたんでしょ? ……当然、そんな許可を出した覚えはない」
『………………………』
ヒナから重厚な威圧感が発せられ、アコだけでなく、ざわついていた風紀委員達もシンと静まった。
(とんでもない娘だな……)
自身に向けられたものではないと頭で分かっていても、肌に感じるそれは生半可なものではない。
実際、先生やアビドス生徒達も息を呑んで一歩後ずさった。
はあ、とヒナはため息をつく。
そして、ヒナの顔は先生へと向けられる。
「貴方がシャーレの先生ね。うちの風紀委員、が………――」
ヒナは先生を目視した瞬間、
「――…………ッ!?!!?」
目を見開いて、ビクリと肩が跳ねた。
その表情は、恐怖で染まっていた。
「えっ」
「先生!!」
珍しく大声でシロコが叫ぶ。
庇うように先生の前に立ち、銃口を素早くヒナに向ける。
先生は止めようとして、ふとヒナに目が向かう。
「…………っ」
いつの間にか、彼女の大柄な銃の砲口が先生に向けられていた。
その動きを、先生は全く見抜けなかった。
『ひ、ヒナ委員長っ!? な、なにを……』
この行動は全くの想定外だったのか、傍にいたアコが驚いて声が裏返る。
「……っ、………………ッ!?」
「……どういうつもり? いきなり先生に銃を向けるなんて。自分が何をしてるのか分かってるの?」
「……ぁ、こ、これは…………??」
ヒナは無意識でやっていたのか、シロコの詰問に口を開閉させるだけで答えられない。
そして、ふるふる、と銃を構える腕や肩が僅かに震えていた。
「シロコ」
「先生、下がって。今日は私が先生の護衛役だから、絶対に守ってみせる」
「シロコ、落ち着いて」
先生がシロコを躱して前に立つ。
それを止めようとするシロコを、先生は腕を伸ばして制止する。
「大丈夫。何も心配はいらないよ」
「何を言ってるの? あいつは先生に銃を向けてっ」
「あんな震えた状態じゃ、この至近距離でも外すさ」
先生はそう言って、震えを抑えられないヒナに向けて冷静に口を開く。
「ただ……、流石に心外だな。君とは今日が初対面だ。そんな物を向けられるような事をした覚えはないよ。落ち着いて話も出来ないから、下げて欲しいんだけれど」
「ぁ…………っ」
ヒナはようやく、自身がしている事の意味を理解できたのか、ゆっくりと銃を下ろす。
そして、
「ごめんなさい…………」
と、か細い声で謝罪を口にした。
『ひ、ヒナ委員長……』
「…………、貴女達、この人を敵に回してよく無事だったわね」
『えっ』
空恐ろしいという風に、ヒナは若干震えた声音で言い放つ。
「この場にいる風紀委員各位、即刻部室へ戻りなさい。これは命令よ」
『な、ま、待ってください――』
「待って、なに? この上何をするつもり?」
『そ、それは……シャーレの先生は――』
「政治の話が気がかりならマコトに丸投げすれば良いわ。どの道、治安維持組織でしかない私達の出る幕じゃない。……出過ぎた真似をしたわね、アコ」
『ぅ、うう……』
「ま、待って委員長! それなら便利屋は……」
「便利屋68?」
ヒナはイオリの反論に、柴関ラーメン跡地を一瞥してから答える。
「……何処にいるの?」
「えっ……、って居ないっ!?」
イオリはさっきまでセリカ達の隣に陣取っていた、便利屋68の4人組が影も形も無い事に目を見開く。
「い、いつの間に……」
「アイツら本当に逃げたの!?」
それはセリカ達も同じ。
有言実行したことに驚愕の声が上がる。
「……話は終わり? なら部室に戻って反省文を書いていなさい。勿論、全員よ。……アコは千枚書くこと」
『え゛……!?』
「それと」
ヒナはここでもう一度先生を見やる。
「……命が惜しいなら、迂闊にシャーレの先生に喧嘩を売るのは止めなさい」
「私を何だと思ってるのかな……?」
まるでギャラドスやキテルグマのような扱いをされている。
先生は納得がいかなかった。
ヒナの命令で風紀委員会の面々が去っていく。
この場に残ったのは、先生、セリカ達、そしてヒナ。
柴大将はアヤネが車で病院へと送っていったため、シロコ達は行動の制限がなくなった。
そのため、
「……ん、これで遠慮なく戦える」
「止めなさい」
またしても躊躇いのないシロコに、先生はすかさず止める。
「……なら、あなたはいつまでここに残るの?」
「…………まず、言わなきゃいけないことがある」
ヒナはその場で深く頭を下げた。
「この度は、【風紀委員会】が貴女達アビドス高等学校に多大な迷惑をかけてしまったこと。……本当にごめんなさい」
「……ん、謝罪だけならいくらでも言える」
「……そうね。でも同時に貴女達が風紀委員会の公務に首を突っ込んできたことも事実」
「はあ!?」
「……なに、やっぱりやる気?」
「そうじゃない。お互い、これ以上話を大きくしないほうが良い。貴女達にとってはその方が都合が良いでしょう?」
「それは……」
アビドス生徒達は瓦礫と化した柴関ラーメンを見る。
店だけでなく、土地も滅茶苦茶になっている。
そのため、ここに立て直すことは難しいだろう。
しかし、責任を追及すればまた、先程のような事態になりかねない。
「……泣き寝入りするしかないって言うの?」
「……店のオーナーには、後日私達も店の補填をしに行く。この辺りの土地が滅茶苦茶になったのも、私達が戦闘をしたことで悪化しただろうから」
「…………、その辺りが落としどころか」
外交問題になれば、アビドスに勝ち目はない。
セリカ達は納得し難い部分もあったが、先生がそう判断した以上それ以上何も言えなかった。
「シャーレの先生、さっきは本当にごめんなさい……」
「それはさっきも聞いたよ。だけど、どうしていきなり銃を構えたの?」
「……自覚がないの?」
「え??」
いきなりそんな事を言われて、先生はポカンとする。
「貴方のそれは――」
「―――――ちょっと〜、ここで何があったのさ〜。道路とか滅茶苦茶じゃ〜ん……!」
「……っ!?」
「ああ! ホシノ先輩!!」
「えっ……」
セリカ達は戻ってきたホシノに駆け寄る。
今まで何をしてたのか、何処に行っていたのか。
みんながホシノに詰問する中、
「あれが、小鳥遊ホシノ……?」
まるで信じられないものを見るような目をしながら、ヒナはポツリと呟いた。
「うへ、その制服ゲヘナの? ……なにしに来た……の…………っ!?」
質問攻めをかき分けてヒナの下へと歩いてきたホシノ。
だがホシノはこの時先生が視界の端に移り、ふとそちらに目を向けた瞬間、ビクリと肩が跳ねた。
「ええ……??」
目を見開いて一歩後ずさったホシノは、パクパクと口を開閉させながら、おずおずと尋ねてきた。
「せ、先生……もしかして、機嫌悪かったり、する……?」
「どういう意図の質問なのかな?」
「いや、だって、それ…………」
ホシノの表情には、明らかな恐怖が滲んでいた。
ホシノといい、ヒナといい、こちらを見て怯える光景には見覚えがある。
(ワカモもそうだったな……。何かした覚えもないのに、やっぱり納得がいかない……)
「その表情……貴女もそう見えたのね、小鳥遊ホシノ」
「そう聞いてくるってことは、あなたも?」
「ええ……」
悩む先生をよそに、ホシノとヒナは奇妙な共通点で意気投合したのだった。
そんな悩む先生の姿を、高い空から見ていた大きな生物。
「…………」
その気配が強くなって、出番が来たのかと思ったが、合図がないため留まっている。
「フゥ〜〜…………」
退屈なのか、翼を素早く羽ばたかせてグルグルと飛び回る。
そのまま砂漠の方へと飛び去っていった。
翌日アヤネから、昨晩砂漠で小規模の砂嵐が発生したと聞き、ホシノ達は警戒を強めるのだった。
大体3行で分かる! 登場人物紹介
シャーレの先生
・他校の生徒が大勢やって来て、周りを顧みずに銃撃戦を行う姿を見て、キヴォトスという世界観に対する認識の甘さを痛感した
・頭に血が昇った結果“色々”漏れ出た自覚がない
・先生の漏れ出ているものは、ある特定のポケモン達と波長が合うものみたい……?
砂狼シロコ
・負けず嫌いなので、レスバでも負けたくない
・先生を守らないといつか大怪我をすると感じ始めている
・犬呼ばわりされるのが嫌い
奥空アヤネ
・心が折れかけたが、シロコのお陰で何とか持ち直した
・風紀委員を撃退するには便利屋68との協力が不可欠だと判断し、便利屋に加勢するよう指示を出した
・最後は先生が政治の話を打ち切ってくれたので、その間柴大将を救出する手はずを整えた
小鳥遊ホシノ
・原作通り、ゲマトリアの下へと招かれていた
・セリカ達には、セリカと同様バイトを探していたと言い訳しているが、シロコとノノミには信じてもらえていない
・先生から青黒い炎が常に渦巻いているように見えている
鬼方カヨコ
・シロコがやって来て、敵が増えただけかも、と冷や汗をかいた
・先生の威圧感を受けて、ヒナに凄まれた時と同じものを感じた
・その後、アコがレスバで打ち負かされて先生への好感度が若干上がった
天雨アコ
・先生の威圧感を受けて、ヒナの方が凄いと疑わないので特に何も感じなかった
・アコの心に刻まれた、先生への ただいちどの はいぼく!
・情報部の報告書には、小さな子供が被害にあったという、飲食店の汚職を摘発した事について書かれていた
空崎ヒナ
・ヒナの耳にも、先生が数々の企業や飲食店の汚職の摘発をしたことが入ってきている
・お陰で【美食研究会】による被害が相対的に減っていて感謝していたのだが、実際に出会って先生が「
・この後、原作通りカイザーコーポレーションが砂漠で暗躍していることを先生に伝え、連絡先を交換している
Who is that Pokemon?
・じめん、ドラゴンタイプだよ
・先生はこのポケモンとホウエン地方で出会ったよ
・このポケモンが飛んでる時、砂嵐が起きるよ
知りたかったキャラの苗字が続々公開されて、書き手としてはとてもありがたいことです。
あとはソラちゃんの苗字も公開してほしいなぁ……。
他に苗字が分かってないキャラっていましたかね?
そんな事より、ブルアカ第二部始動おめでとうございます。
連邦生徒会長の正体、新たなゲマトリア、まだ見ぬ生徒達。
世界観が広がっていく感じ、とても大好きです。
ちなみに私はまだニコもクルミもお迎えできていません泣。
PokémonChampionsもシングルはマスターボール級まで行けましたが、そこからグッと勝率が落ちました。
ダブルはハイパーボール級で挫折してます。
前にメガウツボットの特性を馬鹿にしちゃいましたが、使ってみて対面の威圧感はかなり強いので心強いです。
それでも、対応策はもう浸透してるのか、呪いとかステロサイクルでちまちま削ってしっぺ返しを最小限に抑えようという戦術が組み込まれているので、あんまり活躍させられませんでした。
あと、単に私の読み合いがクッソ弱いので、勝てる場面で深読みして後悔する、という場面が結構多いです。
皆さんはそんな経験ありますか?
最後に、アビドス編も折り返しですが、中々ポケモンの本格登場が書けず、私のプロット構成に問題があることをつくづく痛感させられます。
なのでこれを戒めとして、次のメインストーリー編を書くときはもっとクロスオーバーらしいお話を書けるように頑張っていきますので、長いお付き合いの程をよろしくお願いします。