シャーレの先生がポケモントレーナーである場合にありがちなこと   作:子々(ネネ)

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ニコとクルミをお迎えできませんでした泣。





かなわない小鳥遊ホシノにありがちなこと(中編)

翌朝。

アルの心には迷いがあった。

それは、好くしてくれた人を危険な目に合わせ、敵であるアビドスと肩を並べて戦ってしまったこと。

 

自分達が酷く半端なことをしている事に、アルの心は揺れ動いている。

そんな思いを抱えたまま、荷物を纏めてオフィスを出る。

 

現在のオフィスはアビドス市街地から遠くない場所にあり、風紀委員会――というよりもヒナに勘付かれる前に立ち去ろうと、全員で話し合ったのだった。

 

しかし、勘づいたのはヒナではなく。

 

「――なるほど、思っていたより近くを拠点にしていたんだね」

「――……ッ!?」

 

電柱を背にもたれるように立つ先生が、アル達を鋭く見つめていた。

 

「なっ、先生!?」

「どうしてここが……!」

「ま、まさか、捕まえに来たんですか……!?」

 

ムツキ、カヨコ、ハルカはギョッとして銃を構えるが、それをどこ吹く風とばかりに、先生は彼女達の正面に立つ。

 

「あの時に言ったはずだよ。『()()だけ見逃す』ってね」

「……っ、だからって一人で来る!? 無鉄砲にも程があるでしょ!?」

 

つまり、今はもう捨て置かない。

たった一人で交戦しに来たのかと、ムツキは声が裏返る。

 

「………………」

「本気でやる気? 言っとくけど、ヒナに勘付かれる前に退散しないといけないから、こっちは手加減しないよ」

「止めなさい」

 

そこで、ずっと黙っていたアルがムツキ達を腕で制止する。

 

「アルちゃん?」

 

アルは何も言わず、先生の真正面に立ち、深く頭を下げた。

その姿にムツキ達は絶句するが、構わずアルはそのまま話し出す。

 

「……本当に、ごめんなさい………」

「それは何に対する謝罪かな?」

「貴方が昨日言った通り、私達は無関係な人を巻き込んでしまった。それも、私達にとても好くしてくれた、あんなに優しい人を……」

 

アル自身は否定するが、その心根はとても優しい少女だ。

傷つけてしまったことを、傷ついた人のために怒りを露わにした人を、そんな人達と肩を並べて戦うことを。

色んな罪悪感がアルの中で抑えきれなくなってしまった。

 

「……だったら、謝る相手を間違えているね」

「…………っ」

 

そして、それは先生にはお見通しだった。

 

()()()()()()()()()、自分が楽になるために謝罪をするのなら、却って失礼だよ」

「…………」

「ちょっと先生! そんな言い方ないでしょ!!」

「ムツキは黙っててちょうだい!」

 

眦を釣り上げて、ムツキは声を荒げるが、それをアルが止める。

 

「……分かってる。貴方達に謝ったところで何の意味もないって。……でも、今自分が半端なことをしている事に耐えられない!!」

「…………引き金を引いた過去は消えない」

「ぇ……?」

「それは……」

 

それは数日前に、ムツキに対して教えてくれた文言。

それをアルにも教えるのか、とムツキは怪訝な表情をするが、続く言葉は想像とは全く違うものだった。

 

「それを貫き通すにせよ、省みるにせよ、その責任を果たさなければならない。……筋を通すっていうのはそういう事だよ」

「…………っっっ」

「出来ずに中途半端でいるのなら、その道を歩むのは辞めておきなさい。……後悔しないうちにね」

「っ、先生!!!」

 

忠告したにも関わらず、先生は真っ向からアルに対してそれを口にした。

ギリリ、と歯軋りしてムツキは銃を持つ手に力が入る。

 

「……どうしたら」

「ん?」

「アルちゃん……?」

「どうしたら貴方みたいに、貫き通せるの……?」

 

アルの脳裏には、昨日の先生が浮かび上がる。

あれだけ大勢の風紀委員に囲まれてもなお逃げず、怯まずにアコに対して啖呵を切る姿。

アルの目に焼き付いて離れないその立ち居振る舞いは、まさしくハードボイルドそのものだった。

 

「私を目標にするのは止めたほうがいい」

「えっ」

「私は一度、筋を通さずに逃げた事がある、いわゆる半端者だ。……だから、逃げたくないのなら、半端になりたくないのなら、諦めずにちゃんと自分が出来ることを考えなさい。そのためなら、私は幾らでも協力できる」

「………………………ぅぅっ」

 

アルから嗚咽が漏れる。

グズグズ、と水音が聞こえ、アルはその腕でゴシゴシと自分の目を擦る。

 

「ありがとう……先生」

「…………」

「今日、貴方に会えて良かった」

 

アルはそう言って、踵を返して歩き出す。

行くわよ、とムツキ達に促すが、ムツキ達はその場からまだ歩き出さない。

さっきまで険しい表情だったムツキは、ホッと息を吐いて表情が和らぐ。

 

「……もう、アルちゃんが前向きになれたから良かったものの、言わないでって言ったよね、先生?」

「悪いね。でも、あの娘の顔を見た瞬間、ほっとけなくてね」

「とんだお人好しだね、先生」

「う〜ん、私はお人好しとはまた違うと思うけど……」

 

うんうん、と首を傾げて先生は唸る。

その姿を見て、カヨコはぷっ、と吹き出した。

 

「アコはああ言ってたけど、情報部の評価は間違ってないと思うよ」

「えっ」

「先生は真っ直ぐ過ぎ、ってこと。普通、敵の私達にあんな説教する?」

「そりゃあ、君達だって生徒だからね。悩んでいるなら、力になりたいって思うよ」

「……ふふ、ムツキが先生を気に入ったの、ちょっと分かったかも」

「でしょ。ああいうのはアルちゃんとそっくりなんだから」

「わ、私はアル様の方がもっと素晴らしい所を知ってます……!」

 

アルと先生が似ている、と話題が出てハルカが対抗心を燃やす。

それをどうどう、とムツキが宥めてムツキ達もアルを追うように歩き出すのだった。

 

こちらに手を振って去っていくムツキ達を、先生はその背中が見えなくなるまで見届ける。

その後、近くの街路樹から鳴き声が聞こえた。

 

「クロー?」

「……今は良い」

 

長い付き合いだからこそ分かる。

木の枝に留まったクロバットは、“見逃していいのか?”と先生に尋ねた。

 

「……もし、考えたうえで引き金を引くのなら、その時は俺達も容赦はしない。……クロバットもそう思っていてくれ」

「クロバッ」

 

クロバットは短く返事をする。

 

先生はアルが肩から提げていた大きめのバッグを思い出す。

あれは銀行強盗の際に、シロコが闇銀行から奪ってきた大金が入ったバッグだった。

おそらく、柴大将へ渡すつもりなのだろう。

 

ケジメをつけた後、彼女達はどういう判断をするのか。

気にはなるが……。

 

「中途半端、か……」

 

先生は腰からモンスターボールを取り出し、自嘲する。

 

「本当に、どの口が言うのやら……」

 

 

 


 

 

 

時間は経ち、現在先生達はアビドス砂漠へ向けて進行している。

理由は2つ。

一つは、アビドス自治区の大半がカイザーグループに売り渡されていたこと。

もう一つは、そのカイザーグループの親会社である【カイザーコーポレーション】が、砂漠で何かを企てている、とヒナから教えられたこと。

 

アビドス自治区の土地の大半が、何年も前にカイザーコーポレーションに買い取られていた。

おそらく借金返済の補填のために、カイザーグループから示談があったのだろう。

当時の【アビドス生徒会】が取引した記録があり、柴関ラーメンがあった市街地もその例に漏れなかった。

アコが言っていたことは正しかったのである。

 

だからこそ、先生とアビドス生徒達はアビドス砂漠の調査へと赴くのだが……。

 

「うへぇ、相変わらず(あっつ)いねぇ。汗が止まらないよ〜……」

「………………………」

 

いつも通りに振る舞っているように見えるホシノと、そんな彼女を睨みつけるシロコ。

校舎を出てから、この2人の空気が重い。

その理由は、先生がアビドス校舎に着いたときに、シロコがホシノに対して乱暴に詰め寄っていたからだ。

その場に居合わせたノノミと共に何とか諌めたが、そもそもシロコがそんな事をした理由が――。

 

(退学届、ね……)

 

校舎を出る前にシロコから渡されたもの。

それはホシノが用意していたという退学届の用紙だ。

現在それは先生のコートの内ポケットに入っている。

シロコはその真意について、ホシノに詰め寄っていたようだ。

 

「……それにしても、この辺りの砂漠も、カイザーグループが買い取ったんだっけ?」

 

2人の空気を疑問に思いつつも、セリカは校舎で話し合っていた事について、改めて口にする。

 

「うん、市街地や住宅街だけでなく、自治区外の周辺の砂漠もカイザーコーポレーションの所有地になってるみたい」

「当時のアビドス生徒会が、そう取引したんですよね……」

「でも、ホシノとノノミの話だと、生徒会は2年前になくなってるんだよね? それからは取引は行われていない、と」

 

そう、ホシノはアビドス生徒会の一員だった。

所属していたのは2年前。

しかし、当時の生徒会はホシノと生徒会長の2人しかいなかったようだ。

 

「そうだよ~。……もしかしたら、おじさんが把握してないだけで、あの人もアビドスの土地をカイザーコーポレーションに売り渡してたのかもね〜……」

「…………」

「本っ当に、馬鹿な人だったからね……。馬鹿で、能天気で、無鉄砲で……、巻き込まれた側からすれば堪ったものじゃなかったよ……」

「ホシノ先輩……」

 

先生とアヤネは現在、装甲車に乗って砂漠を走っている。

残りの4人は装甲車の周りを囲んで走っているのだが、ホシノは先頭を走っている。

それ故に、どんな表情をしているのかは先生には分からない。

ただ、ホシノのその発言に、生徒会長に対して万感の想いが込められているのが、ノノミの表情で分かってしまう。

 

(そりゃ、名乗り出ない筈だ……)

 

ホシノにとって生徒会時代は、恐らくかけがえの無い時間だった筈。

それを、外からいきなりやってきた大人が生徒会を探ろうとすれば警戒もするだろう。

先生はホシノが生徒会役員であったことを、今まで先生に伝えなかった理由に納得した。

 

(まあ、どちらにせよ生徒会はもう活動していない。ホシノ一人が公的に声明を出したとして、効力は低いか……)

 

やはりリンが言っていた通り、生徒会の後任組織を立ち上げる必要がある。

この調査が終われば校舎に戻って改めて話をしよう。

 

先生はそんな事を考え、砂煙をかき分けながら一同は砂漠を進んでいく。

そしてしばらくした頃、それが目に入った。

 

幾重もの有刺鉄線の奥に大きく、広く設けられた物々しい基地。

周りには哨戒用らしきドローンも飛んでいる。

 

「なに、あれ……?」

「まるで軍用基地ですね……」

(軍用基地……!?)

 

隣のアヤネがそれを口にして、先生はある最悪なケースを想定してしまう。

 

……いや、ヒフミの話から可能性としては“それ”があってしかるべきだった。

しかしそれでも、こうも堂々とアビドスの近くに構えられるのであれば、

 

(もしかして、アビドスは既に……)

「……ん、あそこ、なにかマークがある?」

「遠くてよく分かんない……。誰か見えない?」

 

シロコが基地の建物を指差し、マークを見やる。

三角形のマークに、アルファベットが綴られている。

遠目からでは分からない……。

 

「……カイザーPMC」

 

ボソリ、と先頭にいるホシノが呟く。

ホシノにはそれがはっきりと見えたようだ。

それを拾ったのがセリカ。

 

「カイザー!? またカイザーグループなの!? もう聞き飽きたんだけど!!」

「待ってください! ホシノ先輩、今PMCって……!」

「PMC……民間軍事会社(Private Military Company)か……!」

「へっ……!?」

 

ノノミが反応し、そして先生はカイザーグループへの認識の甘さを悟った。

 

……先生にとってカイザーグループとは、多岐にわたる事業を営むギンガ団やフレア団の様なイメージだった。

この2つの組織も、かつて表側では大規模な会社だったが、裏では野望のために様々な悪事に手を出していた。

カイザーグループもその手の組織だと高を括っていた。

 

しかし実態は全く違う。

ヒフミは、カイザーグループは治安組織も抱えていると教えてくれた。

それはすなわち企業内に公式的な軍事組織が存在する、ということに繋がる。

そう、民間軍事会社とは表側でも公的に活動できる“会社”なのだ。

 

(冗談じゃないぞ……! 表側でも幅を利かせられるロケット団とか、一番ヤバいやつじゃないか……!!)

 

かつて先生をボロボロになるまで追い詰めた組織を思い出し、先生の表情が強張る。

そして、今ここで取るべき最善策は――。

 

 

 

―――――Beep! Beep!

 

 

 

軍用基地から激しいブザー音が鳴り響く。

一体何事か。一同は困惑すると、

 

「侵入者を発見!」

「直ちに排除せよ!!」

 

この場にロボット人間が素早く集まってくる。

そして問答無用で銃を向けられ、発砲してきた。

 

(もう嗅ぎつけられたのか!?)

「くっ、何すんのよ……!」

「ん、やる気?」

「待て、反撃するな!!」

 

喧嘩っ早いシロコとセリカが銃を構え、引鉄を引こうとして先生が止める。

ビクリ、とシロコとセリカは止まるが、相手は銃撃の手を止めない。

 

「うあっ、なんで止めるのよ先生!?」

「絶対に相手に反撃しちゃ駄目だ! 防御をしつつ距離を取れ!! ……アヤネ!!」

「は、はいっ……!」

 

距離を取れ、と言われ声をかけられたアヤネは車を急いでバックさせる。

ホシノを殿として、相手のロボット人間達から少しずつ距離をとっていく。

しかし相手はなおも攻撃を続け、その上相手の数が次第に増えていく。

 

開けた場所まで出てくると、いつの間にか先生達はロボット人間達に囲まれていた。

 

「囲まれた……!?」

「もう、なんで反撃しちゃ駄目なのよ!?」

「分からないのか!? 相手は公的に活動している“会社”だぞ!! 暴力に訴えるようなことをすればどうなるか――」

 

「――フッ、そういう事だ」

 

『――…………!?』

 

ロボット人間達の攻撃がピタリ、と止まる。

そして道を開けるように二手に分かれ、その奥から大柄なロボット人間が現れる。

 

「騒がしいから出てきてみれば……アビドス高等学校の面々ではないか。侵入者は君達だったのか」

「…………!!」

 

その人間が現れた瞬間、ホシノの表情が強張る。

 

「お前は……!」

「…………っ?」

 

ホシノの纏う空気が変わったことに、先生は息を呑む。

それに気づいたか否か、男はホシノの表情を見て鼻で笑う。

 

「……やれやれ、我々の私有地に無断で踏み入ってくるとは、一体何が目的かな?」

「……まずい……」

 

旗色が悪い事を確信した先生は、装甲車の中を見渡し、メガホンを手にして大声で話し出す。

 

『こちらは連邦捜査部【シャーレ】です。アビドス高等学校より、砂漠に見慣れない建築物があると通報を受けまして、調査に来た次第です。決して不法侵入の意図はありません』

「せ、先生……?」

「……ほう?」

 

苦し紛れの言い訳だった。

アビドス生徒達が先生に視線を集中させる。

一体何をするつもりなのか、先生を見守っていると、今度は男のほうが話しかけてきた。

 

「……君が、ゲマトリアが言っていたシャーレの先生か。そう言えば、アビドスの臨時担当顧問になった、という噂があったな」

「…………!?」

 

先生は一瞬顔が強張る。

そして、意を決して装甲車から出て行き、面と向かって話をすることにした。

 

「待ってください先生! 外に出るのは――」

「いや、【シャーレ】を名乗った以上、直接話をしなきゃ駄目だ」

 

アヤネの制止を振り切り、前に出てきて男の正面に立つ。

 

「……私のことはご存じのようですね。そういう貴方は、【カイザーPMC】の代表者とお見受けしますが」

「いかにも、私は【カイザーコーポレーション】、【カイザーローン】および【カイザーコンストラクション】の理事を務めるものだ。現在は【カイザーPMC】の理事を務めている」

「…………」

「アビドス生の面々にはこう言った方が分かりやすいかな――君達が借金をしている相手の責任者だ、と」

 

その台詞に、アビドス生徒達は息を呑み、表情が強張る。

 

「……つまり、貴方がアビドスの土地を奪っていった元凶……!」

「散々アビドスに攻撃してきた、その黒幕ってことね!!」

「止めなさい」

 

先生は、今にも発砲しそうになるシロコとセリカを制止する。

しかし、耳に入ってないのか躊躇わずに銃口をカイザーPMC理事に向ける。

 

「アンタのせいで、アビドスは……!!」

「ん、持っていった土地、全部返してもらう」

止めろ!!!

 

ブワッ、と圧が放たれたような気がした。

鬼気迫る顔で凄む先生に、シロコとセリカは竦み上がる。

それだけでなく、ホシノたちも顔が青くなり、何も言えなくなってしまった。

 

それを見たカイザーPMC理事はクックック、と喉を鳴らす。

 

「……よく()()()()()()()()ようだな、シャーレの先生」

「………………」

 

先生は理事に向き直る。

愉快なものを観るかのように、ニヤニヤとこちらを見つめてくるその目には、邪悪に見下す感情が強く滲んでいた。

 

「だが正解だ。もしこちらに攻撃してこようものなら、慰謝料で三億円ほど要求していたところだ。……聡明な()()()に恵まれて、運が良いものだなアビドスよ」

「…………ッッッ」

「………………………」

 

ギリ、とアビドス生徒達から歯軋りが聞こえた。

先生も何か言い返そうとしたが、グッと堪えて無表情を貫く。

 

「……さて、本来なら侵入者である君達を捕まえるなり、報復なりするところだが……。面白い見世物も見せてもらったのでな、今回だけ大目に見てやらんでもない。調()()に来ただけだろうし、なあ?」

「…………」

「それにしても大した胆力だ。よもや自ら前に出てくるとは……、自分がどういう立場なのかは理解しているだろう?」

「……こういうのは、代表者同士が話をするものかと思いますので。()()()()であれば臆する理由などありませんよ」

「フフフ、そうかそうか。……気に入ったぞ」

 

理事はなおも愉快そうな表情を崩さない。

 

「どれ、あくまで調査に来たのだ。そんなに知りたいことがあるのなら、私が答えられる範囲で答えてやっても良いぞ? ……まあ、守秘義務があるので教えるかどうかは私の独断とさせてもらうが」

「………………………」

「ただし、質問は3つまでだ。昨晩の砂嵐で兵士達も気が立っているのでな。部外者が長居するのは、理事として認めることは出来ん」

「……であれば、お言葉に甘えますが」

 

先生は何とか話し合いの場を設けることに成功した。

後ろにいる生徒達の我慢が解かれないように、冷静に取捨選択する。

 

「まず1つ、アビドスの土地を買い漁って、こんな砂漠の僻地に軍用基地を建設して何をされるおつもりで?」

「……ふん、先ほども言ったが守秘義務がある。なので、宝探しをするとだけ言っておこう」

「宝探しぃ……??」

「ん、絶対嘘に決まってる……!」

「セリカちゃん、シロコちゃん」

 

食って掛かりそうな態度を崩さないシロコとセリカに、ホシノが静かに声を掛ける。

 

「お願いだから、少し静かにしてて」

「「…………っ」」

 

ホシノからも制止の声がかかり、今度こそ2人は口を噤む。

 

「…………、2つ目。貴方達はアビドスの廃校を望んでいるようですが、宝探しが目的であればアビドスを廃校に追い詰めずとも勝手にされれば良いでしょう。既に大半が貴方達の土地だ。なのに何故攻撃するのですか?」

「……っ!? ど、どういう事ですか、先生!?」

 

初めて知った先生からの事実に、アヤネは装甲車から顔を出す。

だが、この先生の発言に反応したのは、

 

「……まさか、昨日先生が言いかけてたのって……」

「シロコちゃん……?」

 

シロコは昨日、アビドスのゴーストタウンの如き惨状を見て、何かに気づいたような事を言っていた。

その後、風紀委員会の騒ぎで聞けずじまいだったが、先生はいち早くカイザーグループの悪意に気づいていたのだ。

 

「……何を聞くかと思えば」

 

呆れたような口調で、理事は質問に答える。

 

「現に君達はカイザーPMCの基地に不法侵入したではないか。宝探しには君達の介入は邪魔なのだよ」

「何が邪魔よ!! 一億歩譲って、ここがもうアンタ達の土地だとして、近所でそんな物々しいもの設けられて、黙っていられるわけないでしょうが!!」

「それに、学校が無くなれば借金の返済は出来ません!! お金が返ってこなくなるのは、貴方たちにとっても困るのではないのですか!?」

「ふたりとも……!!」

 

堪らずセリカとアヤネは反論する。

それをホシノが咎めようとするが、ホシノが口を挟む前に、理事が言葉を切り返す。

 

「……まさか、本気で借金を返すつもりだったのか? これは驚いたな、諦めたのを正当化するために無駄な足掻きをしているのだと思っていたが」

「…………ッッッ」

「まさかあの天文学的な数字の負債を、たった5人で返済するつもりでいたとはな。頭がお花畑とはこういう時に使う言葉だな」

 

ハッハッハ、と高笑う理事。

 

「勘違いするなよ、アビドス。君達など今すぐにでも潰すことくらい容易いわ。そうしないのはあくまでコストの問題に過ぎん」

「コスト?」

「何故たった5人を叩き潰すのに、我々【カイザーPMC】が直々に出動せねばならんのだ? そんな事せずともヘルメット団や【便利屋68】を使えばより安価になる。他にも……今回の報復に、借金の利息を最大まで引き上げさせたり、とかな」

「なっ……!?」

「そ、そんな無茶苦茶な……!?」

「無茶苦茶だと? さっきも言ったが、私はカイザーコーポレーションの理事でもあるのだぞ。本社に“アビドスは借金返済の信用を置けない”と一言呟けば、今言ったことはすぐ実現するぞ」

「そ、そんな……」

 

アヤネが絶句し、口元を手で押さえる。

ただでさえ毎月800万弱の利息払いでもギリギリなのだ。

これが更に引き上げられれば、もう首が回らない。

アヤネだけでなく、アビドス生徒全員の顔が曇る。

 

「これで分かったか? 君達の首輪に繋がった手綱を、誰が握っているのかをな。その気になればアビドスなど、私の指先1つでどうとでもなるのだよ」

 

そう言って理事は再び高笑う。

 

(……詰んでいる)

 

おくびにも出さないが、先生は絶望的な事実に内心でそう呟いた。

目の前の男は、宝探しという一種のギャンブルのために、何十年も前からこの事態を手繰り寄せるように計画していたのだ。

その気が長くなるような作戦に、先生は敗北を覚悟した。

 

「……さて、最後の質問は何かな?」

「…………、宝探しが終われば、貴方達は何をするつもりですか?」

「……最後の質問がそれで良いのか?」

 

つまらない、と言いたげに理事の表情が白ける。

そして鼻を鳴らし、吐き捨てるように返答した。

 

「……宝探しが成功しようと失敗しようと、その後の判断をするのは【カイザーコーポレーション】社長のプレジデント閣下だ。私の知ったことではない。それこそ、アビドスを叩き潰そうが、改めてシャーレの先生を抹殺しようが、その裁量は閣下に委ねられる」

「………………………」

「さて、これでもうここには用が無いだろう。回れ右してお帰り願おうか、()()()()?」

 

先生は数秒沈黙し、数歩下がって背中を見せる。

それを見てセリカは、堪らず声をかけた。

 

「せ、先生、ホントにこのまま帰るの?」

「…………ここですることはもう何もない。みんな、帰るよ」

「でも、コイツらは――」

「帰るよ」

 

有無を言わせぬ先生の態度に、アビドス生徒達は何も言えない。

それを見た理事は兵士達に指示を出す。

 

()()()()がお帰りだ。丁重にお見送りしてやれ」

 

その言葉に、統率の取れた動きで兵士達は銃を構え、横一線の陣形を取る。

そのままジリジリとこちらに近づいてくる。

立ち止まるなら撃つ。

そう言いたげな圧力だ。

 

「………………っ」

 

殿のホシノは歯噛みしつつ、ハンドサインで装甲車を発進させる。

 

そして、先生達が去っていくのを見て、理事はまた大声で高笑うのだった。

 

「………………………」

 

その笑い声を聞いて、先生は俯く。

その表情に、どれほどの激情が籠っているのか、隣で運転しているアヤネには見えなかった。

 

 

 


 

 

 

今日の明らかになった真実を受けて、各々異なる受け止め方をしている。

故に頭を冷やすべく、今日は解散という事となった。

しかし、日が暮れてもなお帰ろうとしないホシノに対して先生が呼び止め、廊下へと連れ出すのだが……。

 

「……この辺りにも砂が入り込んじゃってるね〜」

「窓は閉めてるみたいだけど、何処から砂が入ってくるんだろうね?」

「元々はこっちが旧校舎だったからね、もしかしたら老朽化で出来た隙間から入っちゃうのかも」

 

ジャリジャリ、と足音が響く。

 

「最後に掃除したの、いつだったかな〜……」

 

過去を懐かしむように、しみじみとした声音でホシノは呟く。

そんな姿に先生は、心が締め付けられるような気分になる。

 

「……大丈夫かい、ホシノ?」

「うへ、それ先生が言うの〜? 先生の方がずっと顔色悪いけど?」

「……そうかい?」

「もう〜、しっかりしてよね。みんな先生のこと頼りにしてるんだから。特にシロコちゃんとセリカちゃんは喧嘩っ早いから、昼間みたいにビシッと言ってくれる先生がいないと〜。もうおじさんだけじゃ止められる自信ないよ〜」

「そうかな?」

 

おどけるような態度に、先生は苦笑しつつ反論する。

 

「確かに気を許してくれてるけど、それでもホシノと比較されたら、君の方に傾くだろう。皆のために出来ることはしてるつもりだけど、それでも築いてきた時間は君の方が大きいよ。一昨日だって、セリカにしっかりお説教してたじゃないか」

「まあ、そりゃあ先輩だしね〜。でも、お説教なら多分、先生のがよく効いてるんじゃないかな? シロコちゃんが先生の言う事よく聞いてるくらいだし。去年のあの娘ってば、本当に反抗的だったんだからね〜?」

「だったらなおのこと、ホシノの指導が効いてるんじゃないかな?」

「…………うへ、先生は謙虚だね。そういう所をみんな信頼してるのかもね。やっぱり自信失くしちゃうよ」

 

みんな信頼している。

何処か他人事のような言い方に、先生はある事実に納得する。

そして、切り込むならここだと、先生は踏み込んだ。

 

「……だから、こんなものを用意したのかな?」

「…………ッ!?」

 

先生がコートの内ポケットから取り出した物を見て、ホシノの目が見開かれる。

 

「…………、それ、もしかしてシロコちゃんから受け取った? だから今朝は妙に突っかかってきたんだね〜。手癖の悪さは矯正できなかったか〜」

「…………」

「ま、そこは今後の先生に任せるとして〜――」

「ホシノ」

 

先ほどから先生に何もかもを任せるような物言いに、ついに先生は口を挟む。

ホシノはビクリと肩が跳ね、そして観念するように小さく息を吐いた。

 

「……やっぱり、誤魔化せそうにないね」

「軽い気持ちで用意したんじゃないのは分かってる。だから教えてほしい。……昨日、何処に行っていたの?」

 

先生は退学届を突きつけながら、単刀直入に尋ねた。

そして、ホシノは数秒の沈黙の後に話し出す。

 

借金の大半を代わりに返済する対価として、アビドスを退学し相手の企業に所属すること。

その相手には、2年前から勧誘を受けていたが、昨日改めてまた勧誘を受けたこと。

そしてその相手が、

 

「ゲマトリア……」

 

それは昼間、あの理事の口からも出ていた単語。

一体何者なのか、詳しいことはホシノも知らないようだ。

 

だが、借金の“大半”を肩代わりとは……。

 

「まさかとは思うけど……」

「……いや、辞めておくよ。グラついたのは認めるけどさ」

 

そう言って、ホシノは退学届を先生から受け取り、目の前でビリビリと破り捨てた。

 

「結局、信用できないことには変わりないからね」

「…………」

 

ホシノの表情は打って変わって、吹っ切れたような清々しい笑顔をしている。

それは、結論を出したと言うよりは……。

 

「ありがとね、先生。きっと心配してくれてるんだよね。今日先生と話ができて、私も冷静になれたよ」

「………………………」

「それじゃ、()()()()

 

ホシノは先生を躱して去っていく。

こちらに顔を合わせようとしない。

だから先生には、立ち去る時のホシノがどんな顔をしているのかは分からない。

 

だから、先生は()()()()

 

「――罠だ」

 

ピタリ、とホシノの足音が止む。

先生はホシノに振り返る。

ホシノは先生に背中を向けたまま、暗い影の中で沈黙している。

 

「借金の“大半”と言っていたけれど、“全て”ではない所に、アビドスとカイザーグループの関係を見透かした悪意を感じる」

「…………」

「それだと結局アビドスはカイザーグループの掌からは抜け出せない。むしろ、こちらの戦力が減ってしまう分、カイザーグループが直接的な手段を取る可能性が高い」

「………………………」

「ホシノ、君はアビドスの最上級生だ。君の行動1つで、後輩達の未来が左右される。……捨て身になるのは止めたほうが良い」

「…………ッッッ」

 

ピシリ。

空気がひび割れるような感覚。

しかし先生は躊躇わずに続ける。

 

「何より、君が居なくなればアビドスは――」

「―――――じゃあ、他に何か良い方法があるの?」

 

冷たい声音だった。

ようやく先生に振り向いたホシノの瞳には、熱と光が全く籠っていなかった。

 

「長々とお説教してくれるけどさ、結局他に方法が無いのなら同じことでしょ? ……それとも先生はその自慢の戦術でどうにか出来るの?」

「………………………」

 

……先生は言い返せない。

先生の脳内では、アビドスは既にほぼ詰んでいる状態だ。

先生が来た時点で、アビドスは挽回不可能なレベルにまでカイザーグループに追い詰められていた。

その上、相手のご機嫌次第で締め付けは更に強くなる。

どうメスを入れれば良いのかすら分からなかった。

 

「……確かに、私は何も案を出せていない。説得力が無いのは認める。けれど、諦めたらそれこそ同じことだよ。希望の明日を諦めないで――」

「それ、初日にも言ってたよね」

 

ぴしゃり、と遮られた。

 

「打開策も提示できないのに、諦めるなだの、希望をだの……。それこそ無責任じゃないの? 先生も結局、無責任な事ばかり言ってる大人の一人って訳だね」

「……っ、この際私を信用できないのは良い。事実私は頼りないだろう。それでも、それでも君の後輩達は――!」

「シロコちゃん達なら、先生がいれば何とかなるよ。私は先生じゃないからね、さっき言った事でも教えてあげてよ。先生ならカイザーグループだって返り討ちに出来るんじゃないの?」

「っ、君は――!!」

「だから、後は任せた」

 

そう言って、またホシノは背中を見せて歩き出す。

先生は止めようと何度も声をかけるが、その足は止まらない。

 

「……っ、格好つけるんじゃない!!」

 

苦し紛れに、先生は叫ぶ。

 

「私を信用できないなら、私に大切なものを預けるな!! 大人を信用出来ないなら、その大人に縋り付くんじゃない!! 自分の大切なものは、自分で守れ!!!」

 

もうホシノの足音は廊下に聞こえない。

先生の言葉は、ホシノには届かない。

 

『せ、先生…………』

「……やっぱり、私じゃホシノを止められないか……」

 

初めて会った時から拒絶の意思を感じていた。

キヴォトスには碌でもない大人が多い。自分もその内の一人だと見られている。

そう思っていた。

 

だが、自分に向けられたあの恐怖心に塗れたホシノの顔。

あれを見て、先生は自分自身という個人がホシノにとっての異物なのだと、そう感じてしまった。

 

「…………」

『せ、先生、どうしましょう? リンさんの話と照合すれば、生徒会に所属していたホシノさんが居なくなれば、アビドスは……!』

 

アロナは最悪の可能性を口にする。

そして、このままではそれが実現してしまう。

 

「…………、そうか」

『えっ』

「そういうことだったのか……」

『せ、先生、どうしたんですか?』

 

先生はここで、ある1つの可能性が見えた。

ならば、次にするべき事は――。

 

「アロナちゃん、今すぐユウカと電話を繋いで」

『ゆ、ユウカさんですか?』

「急いで。その後あいつを街中まで呼び戻す」

『え、ええ!? そんな事したら――』

「分かってる。だから、私も覚悟を決めるよ」

 

アロナは急いでモモトークを開き、ユウカへと通話を繋げる。

その時に見た先生の瞳には、ギラギラとした太陽の如き炎が渦巻いているように見えたのだった。




大体3行で分かる! 登場人物紹介

シャーレの先生
・焦ったことで素の口調が出てしまう
・カイザーグループの謀略に対して、先生は敵わないと思ってしまった
・ホシノの地雷を踏み抜いたことに、アビドス編3章まで気づかない

小鳥遊ホシノ
・カイザーPMC理事とのやりとりで成す術もない先生を見て、それが駄目な方向に自分の背中を押すきっかけとなった
・自分と先生、どちらが後輩たちを導けるか考えた結果、先生に軍配が上がってしまった
・かつて自分が先輩に言った言葉が自分に返ってきて、頭が真っ白になる

砂狼シロコ
・退学をほのめかすホシノを問い詰めようとしたが、のらりくらりと躱された
・先生に凄まれて、前日の威圧感は勘違いではなかったのだと確信した
・先生ならホシノを引き留められると思っている

黒見セリカ
・先生から圧を直接向けられて本気で恐怖した
・柴大将からカイザーコンストラクションの事を聞き、アヤネと一緒にアビドスの土地の権利を調べていた
・理不尽に対する怒りが心の中で渦巻いている

奥空アヤネ
・今日も今日とで先生の隣
・先生が止めてくれなければ、アビドスは更に追い詰められていたと思うとどんどん自信がなくなっていく
・翌日、アヤネが見たのは退学届と()()()に対して綴られた手紙

十六夜ノノミ
・ホシノの先輩に関してはノノミにとっても地雷
・2年前の生徒会がカイザーグループに土地を売ったとは考えていない
・先生が追い詰められているのに気づいているので、翌日話を聞こうと思っている

アロナ
・急いでユウカに電話を繋げる
・青の教室からあるポケモンを連れ出そうとしている
・翌朝に向けてある事を準備中



大分長くなってしまいました。
次回も長くなると想定しています。
次回はようやくクロスオーバー詐欺にはならない展開になると思いますので、どうか気長にお待ちくださいませ。
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