シャーレの先生がポケモントレーナーである場合にありがちなこと   作:子々(ネネ)

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ブルアカのストーリーの続きが待ち遠しい……。
早い時は割とすぐですけど、時間が掛かる時は忘れた頃に来ますよね。


先生の逆鱗に触れた者達の末路にありがちなこと(前編)

翌朝。

対策委員会の部室にはみんなが集まり、机に置かれたその手紙を読んでいる。

 

…………ホシノを除いて。

 

先生はそれを、一歩離れた場所から静かに見守っている。

 

そして、長い沈黙を破り、

 

「――……ざっけんじゃないわよッ!!!」

 

ダンッ、と手紙を机に叩きつけて、セリカが激昂した。

手紙を叩きつけたとは思えない衝撃が、机だけでなく、部室をも揺らしたような気がした。

 

「何が“勝手なことしてごめんね”よ、何が“少しは楽になるはず”よ、何が“ヘイローを壊して”よ!! 勝手だと思ってるなら勝手なことしないでよ、切羽詰まってるなら相談してよ、諦めてんじゃないわよ!!! 人にあんな説教しておいて……、何でこんな……っ」

 

次第にセリカの声音も弱まっていき、その場でセリカは力なく膝をついた。

そんなセリカにアヤネが駆け寄り、何とか宥めようとしている。

 

「ホシノ先輩……」

「…………っ」

 

シロコももう一度手紙の内容を見終え、振り返って先生に目を向ける。

 

「先生、ホシノ先輩は……」

「ごめんね、シロコ……」

 

先生は静かに謝罪を口にした。

 

「君の信頼に応えられなかったよ……」

「…………ッ」

 

シロコの表情が歪む。

 

「……手紙に書いてある通りだろう。恐らく今ごろ、カイザーグループの系列会社に……」

「そんな……」

「っ、止めてよ!」

 

セリカが振り返って先生を睨みつける。

 

「こんな時まで冷静に分析しないでよっ。私たち仲間が減ったのよ、4人になったのよ!? どうすればいいのよ、あんな近くにカイザーの基地があるのに、借金だって大量にあるのに、どうやって乗り越えれば良いのよ!?」

「…………それは」

「教えてよ……私たち、どうすれば良いのよ……。教えてよ先生っ!!」

 

セリカはグッと先生の胸ぐらを掴む。

先生は目を細め、表情が歪み、その口が開くことはない。

 

「先生っ!!!」

「セリカちゃん、やめてくださいっ!」

 

ノノミが強引にセリカを先生から引き剥がす。

ノノミは先生とセリカを見比べながら、宥めるようにセリカに語りかける。

 

「悩んでいるのは、苦しんでいるのは先生だって同じですっ。先生1人の責任じゃありません……」

「………………………」

「これは、みんなで向き合わないといけないことなんです。先生も、ホシノ先輩も、アビドスの仲間全員で――」

「その仲間が、勝手なことしたんじゃないのッ!!!」

 

セリカはノノミの拘束から乱暴に抜け出す。

しかしすぐにまた膝をつき、頭を抱えて……。

 

「みんな、みんな勝手よ……。ホシノ先輩も、ヘルメット団も、便利屋も、風紀委員会も、カイザーも、みんなみんな……っ」

「セリカ……っ」

「嫌い、嫌いよ、みんなきらい……っ!!」

 

ポタポタ、と床に水音が立つ。

静かに涙を流すセリカに、誰も声をかけることができない。

 

「……先生」

 

ノノミが先生に声をかける。

こちらを気遣うように、優しく静かに問いかけてくる。

 

「先生も、あまり気に病まないでください。……恐らく引き留めてくださったんですよね?」

「……言い訳はしないよ。私の力不足だった」

「…………っ」

 

先生は己の不覚を、誇張せずそれでいて過小評価せずに、端的に伝えたつもりだった。

しかしノノミの表情が曇り、こちらに近づいてその両手を先生の両頬に添えた。

 

「私、ちゃんと吐き出してくださいって言いましたよね?」

「……ノノミ」

「教えてください。昨日、ホシノ先輩に何を言われたんで――」

 

 

 

 

 

―――――ドガァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

『…………!?!??』

 

校舎にまで届くほどの轟音、振動、爆風。

一同は窓際まで移動すると、校舎からほど近い市街地で煙が立ち上っていた。

 

「こんな時に……!」

「……そんなっ!?」

 

タブレット端末で何かを確認したアヤネが、戦慄の声を上げた。

みんなの視線が集まると同時に、アヤネはわなわなと口を開く。

 

「市街地を、【カイザーPMC】が攻撃しています! 数は数百人! 校舎の方にも近づいてきています!!」

「あいつら……!」

「…………上等だわ」

 

ぬるり、とセリカが静かに立ち上がった。

さっきまで静かに泣いていたとは思えないセリカに、一同はギョッとする。

その横顔は鬼気迫るものだった。

 

「もう誰でもいい……。胸の中のムシャクシャが収まんないのよ……、ぶつけないと気がすまない……っ!!!」

 

そして、銃を持って荒々しく部室を出ていった。

 

「シロコ、ノノミ!」

「は、はいっ」

「私も戦う。絶対に負けない……!」

 

セリカを追うように2人も駆けていく。

 

「先生、私達は――」

「アヤネ、この場は任せる」

「えっ、ま、待ってくださいっ。まさかまた――」

 

また戦場に出ていくのか。

今回は風紀委員会の時とは訳が違う。

カイザーPMCは確実に先生を殺害しに来るだろう。

絶対に止めなければならない。

アヤネは以前のようにその肩を掴もうとして、

 

「…………ッ!?!??」

 

その腕を、先生はアヤネを見ずに後ろ手で掴んだ。

 

「お願い、やらなきゃいけないことがあるんだ」

「せ、せんせい……」

 

優しい笑顔だった。

しかしその目つきは、笑顔に似つかわしくないギラギラとしたものだった。

 

アヤネは何も言えなくなり、腕から力が抜ける。

 

「サポートは任せた。私達を守って、アヤネ」

「…………は、はい……っ!」

 

絶対に守ってみせる。

今のアヤネには、そう考える事しか出来ず、部室を出ていく先生を黙って見届けるのだった。

 

「先生、一体何を……」

 

 

 


 

 

 

校舎に侵入しに来た兵士。

市街地を無差別に攻撃する兵士。

逃げ惑う民間人に手榴弾を投げる兵士。

 

その全てを撃退し、市街地の開けた場所にやって来たセリカ達。

その道路の真ん中で陣取るのは、

 

「――ふん、出てきたか」

 

不遜な態度を隠そうともしない【カイザーPMC】の理事。

理事はセリカ達を目視すると、合図を出して兵士達を前に送り出す。

 

「シャーレの先生も出てきたのなら好都合だ。アビドス諸共葬ってくれるわ!」

「……思いのほか早く行動に出ましたね」

 

大きな態度の理事に対して、先生は冷静に呟く。

 

「そんなに、ホシノがアビドスを出ていくのが待ち遠しかったのですか?」

「……どういう事ですか?」

「当たり前だろう」

 

ノノミの質問に先生が反応する前に、理事は嬉々として喋り出した。

 

「長かった。本当に長かったぞ。この日が来るまで座して待つのはな。アビドスの副生徒会長である小鳥遊ホシノが居なくなれば、アビドスは廃校が確定する! もはや貴様らも学生ではない!!」

『なっ……!?』

「まさか、ホシノ先輩を退学するように仕向けたのは……!?」

「そうだ、廃校した学園の自治区に、学生ですらない貴様らに、たった4人の子どもに、何より弾丸1発が致命傷のシャーレの先生に! もう一々配慮する必要などない!! このまま武力で制圧し、アビドスの全てをカイザーグループのものとする! これが我々の計画だったのだよ!!」

「………………………ッッッ」

「……アンタたち!!!!!」

 

セリカは銃を構え、隠そうともしない激情を理事にぶつける。

 

「そっちがその気なら好都合だわ! ここで全員叩き潰してやるわよ!!!」

「ほう? 自分が何を言っているのか分かっているのか?」

 

嘲るように理事は言葉を切り返す。

 

「貴様らはもう学生ではない。その身分を保証するものは何もない。言わば不良生徒――ヘルメット団と同じだ。そんな貴様らが正当な会社である【カイザーPMC】に攻撃すれば、たちまち貴様らはただの犯罪者になり下がる!」

『……っ、犯罪者は貴方たちでしょう!! 自治区に不法侵入して、民間人に攻撃して、武力で土地を占領するなんて!!』

「それを誰が証明するのだ? 貴様らか、それともシャーレの先生か?」

 

アヤネの反論を受けてもどこ吹く風。

何の恐れもないという態度に、アヤネは軽く怯む。

 

「このまま貴様らが我々に攻撃すれば、その瞬間から貴様らは犯罪者だ。犯罪者の言葉と、正当な地位と身分を持つ我々。世間はどちらを信じるだろうなあ?」

『…………っ!?』

「当然貴様らに協力するシャーレの先生も犯罪者になり下がる。連邦生徒会も、犯罪者の肩を持つことはすまい。超法規的権限も剥奪されるだろうな。……まあ、元より連邦生徒会は一度として、アビドスを助力したことなどないだろうが」

「………………………」

「分かったか? 貴様らはもう詰んでいるのだよ。挽回不可能な程にな!!」

 

理事のその主張に、先生はある納得と確信を得た。

正当な地位を持っているのは先生だって同じなのに、そうなる事を微塵も疑っていないのは、

 

(頭が痛くなるな……)

 

それだけその()()()が頼もしいのだろう。

……連邦生徒会でも幅を利かせられる程の。

 

そんな先生の冷静な思考をよそに、ドサリ、と音が響く。

音の方向を見ると、ホログラムの姿のアヤネが膝をつき手に持っていたタブレット端末が地面に落ちてしまっている。

 

「アヤネちゃん……!?」

『…………です』

「え……」

『もう、無理です……っ』

「……!!!!!」

 

ポロポロとアヤネの目尻から涙が流れる。

フルフルと力なく首を振り、遠心力で掛けていたメガネも地面に落ちてしまう。

 

『……ホシノ先輩もいなくなって、借金もなくならなくて、学園を守ろうとすれば犯罪者扱い……っ。どうすれば、どうすれば良いんですか……っ!?』

「弱音を吐かないで! だからって抵抗しなきゃあいつらの思う壺――」

『抵抗して、その後どうするんですか!?』

 

シロコの制止に、アヤネは泣き叫ぶ。

 

『誰も助けてくれない、打開もできない、そもそも勝てる保証もない! ……どうすれば良いんですか? どうして、どうして私たちがこんな思いをしなきゃいけないんですか……!?』

「アヤネ、ちゃん……っ」

 

どうして、どうして。

泣きながら、何度もうわ言のように呟くアヤネを見て、ノノミは肩が震える。

追い詰められていたのはセリカだけではなかった。

その事に気づけなかったのがあまりにもショックだったのだ。

 

「……もう、何だって良いわよ。アンタ達を叩き潰さないと気がすまないのには変わりない!!」

「ん、ボコボコにして、ホシノ先輩の居場所を吐かせる」

「ふん、どこまでも頭がお花畑だな」

 

セリカとシロコはやる気だ。

銃の引鉄に指を置き、いつでも発砲できる状態だ。

止めなければならない。

しかしどうやって?

ノノミは口を開閉させて、言葉が出ない。

 

「……っ、先生」

 

一縷の望みを賭けて、ノノミは先生を見やる。

先生は下がって片膝をつき、膝をつくアヤネに優しく語りかけていた。

 

「泣かないで、アヤネ」

『……グス、せんせい……っ。ごめんなさい、やっぱり、わたしには、むりです……っ』

「諦めなくて良い」

 

その言葉は、奇妙にも今この場一体に強く響いた気がした。

なぜならば、セリカが、シロコが、ノノミが、カイザーPMCが。

一斉に先生へと視線を集中させたからだ。

 

「アヤネ、よく聞いて」

『…………』

「カイザーPMCの主張には、1つ致命的な間違いがある」

「…………、何だと?」

 

それに反応したのは、アヤネではなく理事。

 

先ほどまでご機嫌に愉悦に浸っていたその顔は、訝しむように歪む。

 

「生徒会に所属する生徒が1人もいなくなる――すなわち、生徒会が無くなるからと言って、学園が直ちに廃校になるわけじゃない。後任となる組織を設立することが出来れば、廃校を遅らせることは可能だよ。これは連邦生徒会の七神リンに確認が取れている」

『ぇ……』

「ふん、馬鹿馬鹿しい。アビドスは現在、全校生徒数がたったの4人だぞ? 仮に設立出来たとして廃校寸前の学園をどう運営していくのだ? そんな何の益にもならん事を連邦生徒会は認めるとは思えんがな?」

 

理事の反論に、先生は答えない。

代わりに立ち上がり、ゆっくりとセリカたちの前に立つ。

 

 

「何より―――――

 

 

 

 

 

―――――こいつらはもう終わりだ

 

 

 

 

 

「…………っ!!?!?」

「し、シロコちゃん?」

 

さっきまでカイザーPMCに噛み付くような勢いのシロコが、萎縮したかのように一歩後ずさる。

先生が怒っている。

それはノノミの目から見ても明らかだが、シロコの反応は過剰だ。

まるでホシノのような……。

 

「終わり、だと? 何だそれは、追い詰められて気でも狂ったか?」

「人の話を聞いていなかったのか?」

 

さっきまでの冷静な態度が一変。

冷徹で重苦しい威圧感を孕んだ先生の声が、辺りに響く。

 

「ここはまだアビドスの土地だ。お前たちの土地じゃない。お前たちは学園自治区に不法侵入し、民間人へ暴力を働いたんだ。あまつさえ学園が管理する土地を武力制圧するなど、お前たちが今日やっていることは立派な犯罪だ」

「だからそれを誰が証明するのだと――」

「目の前にいるのが誰だか分かっていないのか?」

 

理事を前にして一歩も怯まない。

それどころか先生が放つ威圧感はさらに高まっていく。

 

「お前達が言いたいのは、要は証明する手段がない――そういう事だろう? だったら手段を用意すればいいだけの事だ」

「なにっ?」

「馬鹿な連中だ。もう少し忍耐強ければ、こんな簡単に証拠を掴まれることもなかったんだ」

「貴様、何を……」

 

「――閣下、あれを!」

 

兵士の一人が空を指差す。

釣られて理事は空を見上げる。

 

そこには人の頭くらいの大きさのカメラが浮いていた。

上部にはプロペラが回っており、カメラドローンだと理事はすぐに解った。

 

「破壊しろ!!」

 

理事の鋭い指示に、兵士が発砲してカメラドローンは破裂し、墜落していく。

それを見届けた先生は、

 

「あ〜あ……」

 

と、抑揚のない感嘆を漏らしていた。

 

「……ふん、流石はシャーレの先生と言っておこうか。油断も隙もない。しかしこれで証拠は完全に無くなった。大方写真を撮って連邦生徒会に提出するつもりだったのだろうが――」

「写真だと?」

 

先生は呆れたように鼻を鳴らす。

 

「そんな、幾らでも加工の説明がつくものを物的証拠にするわけないだろう」

「……!? ならば、あれは――」

 

 

 

 

 

「“生配信”だ」

 

 

 

 

 

何ということもない。

ごく自然体に、短く、そう断言した先生に、理事は理解に時間がかかってしまった。

 

「………………………、は?」

「あのカメラドローンはミレニアムサイエンススクールの生徒会から借りた、撮影用カメラだ。写真だけではなくリアルタイムの映像や音声も高画質、高音質で配信することも出来る、かなり高性能なものだ」

「な、な、なにを……」

「勿論使用目的は【セミナー】にも説明済みだ。シャーレに所属する部員もいるからな、“()()()()()()()で生配信する”とちゃんと伝えてある。つまり、証拠の真偽はミレニアムが保証してくれると言うことだ」

「なっ!?!!?」

「ああ、そうそう。ついでに言っておくが、生配信のURLリンクは【クロノス報道部】に送りつけてある。今ごろテレビはどの局も臨時ニュースをやってるんじゃないか、“カイザーグループ、侵略行為か”みたいな見出し文句でもつけてな?」

「………………………」

 

ついに理事は何も言えなくなってしまった。

わなわなと口を開閉させて、肩が震えている。

 

『…………ほんとだ』

「えっ」

「アヤネちゃん?」

 

アヤネは震える手でタブレット端末を操作し、ニュースのページを開く。

 

『ここでの出来事が、ニュースになって取り上げられてる……!』

「ばっ、馬鹿な!?」

 

慌てて理事もスマホを取り出し、そして見つけたニュース記事に腕が震える。

 

そこに書かれてあるのは――

 

 

 

 

 

カイザーグループ、侵略行為か

本日〇〇月✕✕日午前△△時、カイザーグループの系列会社【カイザーPMC】は、その大多数の戦力を侵攻させアビドス高等学校自治区へと不法侵入した。そこで民間人へ問答無用の攻撃を行う一部始終が動画配信サイト【■■■■■■】で生配信されるという異例の事態により各方面にその事実が流出。これに対し、【カイザーコーポレーション】の社長は“カイザーPMCの独断であり、本社は何も関与していない”と関係性を否定。【ヴァルキューレ公安局】は当該会社を武力制圧による侵略行為の容疑で――』

 

 

 

 

 

「そんな、馬鹿なっ……!?」

 

理事の震えがさらに強くなる。

 

「ほ、本社は何をやっている……! 何故情報統制がされていない!?」

「社会人とは思えない発言だな。インターネットの影響力を過小評価している」

「……ッ!」

 

先生はニュースに目を通していない。

だが、内容を全て見透かしたように、淡々と理事の疑問に答える。

 

「インターネットとは、言わば底なしの大海原だ。水平線の果てまで続くほど広大で、底なしのごとく深い。一度投げ込まれた情報という名の“小石”が二度と海から這い出てこないように、取り沙汰された話題はいずれ注目されなくなろうとも消えてなくなることはない。……しかし時として、波に流され砂浜に出てくることがあり、また波に飲まれ海へと還っていく」

「………………………」

「分かったか? どれだけ制御しようとも衆目に現れ、また投げ込まれる。ネットの情報に、期間限定なんてものはない。一生ついて回るぞ?」

「お、おのれ、よくも……!!」

 

忌々しげに先生を睨みつける理事。

しかし、どこ吹く風と先生全く怯まない。

 

そこで理事の手にあるスマホから着信音が流れる。

画面に映し出された相手の名前を見て、理事は歯軋りして乱暴に電話を繋いだ。

 

「貴様、一体どういう事だ!! 何故我々が指名手配犯になっている!?」

『―――――――――』

「立場が分かっていないのは貴様の方だ!! 我々に協力関係を持ち出してきたのは――」

『―――――――――』

「おい、待て! 勝手に話を……!!!」

 

ブツリ。

乱暴に通話を切られた音が、先生にも聞こえた。

プルプルと震える理事は、その手に力が籠り、ピシピシとスマホから亀裂音が聞こえる。

 

「どうやら、()()()にも見離されたようだな。“しっぽきり”ってやつか?」

「……どこまで、どこまでが貴様の作戦なんだ!?」

「私がしたことは、お前達の犯罪の証拠をクロノス報道部に送りつけただけだ。お前達が破滅したのは、ひとえにお前達の行動の末路に過ぎない」

 

呆れたように先生は続ける。

 

「お前達の敗因はただ1つ、最後の最後で杜撰な行動に出たことだ。襲撃はともかく、借金は私にはどうすることも出来ない。連邦生徒会から廃校の通達が来るまで待ってれば、お前達の完全勝利だったんだ」

「…………!?!!?」

「【カイザーコーポレーション】――お前達の謀略は私より桁違いに上だ。そこは素直に負けを認めよう。だからこそ、お前達は自ら勝機を(ドブ)に捨てたんだよ」

「………………まけ、負けだと……?」

「さて、これでお前達は名実共に犯罪者だ。後はアビドスのみんなでお前達を捕まえれば、治安維持能力を認められ学園存続に繋がる」

「えっ!?」

「廃校じゃなくなるってこと?」

 

セリカ達に希望の光が灯る。

さっきまでその目には絶望しか無かったのに、一転して力強いものへとひっくり返る。

 

「どうせお前達にはもう逃げ場は無いんだ。せめて最後くらいはアビドスの役に立ってもらおうか」

「き、き、貴様ァ……!!!」

 

歯に衣着せない物言い。

カイザーPMCを堂々とトロフィー扱いした先生に対して、ついに理事の怒りが爆発した。

 

「……まだだ! まだ終わっていない!!」

「触れ」

「ここでアビドスとシャーレの先生を消せば、まだ挽回できる……! アビドスなど初めからなかったように見せかければ、証拠不十分になり得る!!」

「こ、こいつら……!!」

「ん、形振り構わなくなってきた」

 

理事はまだ諦めていない。

ボソリ、と先生が小さく呟いたのにも気づかず、理事は荒々しく兵士達に指示を出す。

 

「そうと決まれば、まずはシャーレの先生を殺す!! お前達、今すぐシャーレの先生を殺せ!」

「っ、先生!!」

 

後ろにいたシロコが先生に駆け寄る。

しかし……、

 

「……?」

「え……??」

 

銃声が全く聞こえない。

理事は兵士達を見渡して怒鳴る。

 

「お前達、何をしている? 私は撃てと命令したんだぞ!! 聞こえているなら早くやれ! そこにいるシャーレの先生を殺せ!! 撃てェ!!!」

 

何度怒鳴っても兵士達は動かない。

代わりに、呻くように傍にいた兵士達が口を開いた。

 

「か、閣下……」

「ああ?!?!?」

「う、動けません……」

「何を言って――」

 

「お、俺も」「わ、私も」「指一本動かせん」「な、なんで……」「だ、誰か」「誰か助けて……」

 

口々に兵士達は呻く。

なんの冗談か、そう思い理事は傍にいる兵士の肩を揺する。

そのまま兵士は、銃を構えた姿のまま、石像のように横に倒れた。

 

「…………!?」

 

そこで初めて理事は、得体の知れない感覚を覚えた。

そして、

 

「どうした? 殺すんじゃなかったのか?」

 

先生は一歩、前へと踏み出した。

 

「お前達の目の前に、最優先の標的が、無防備で立っているぞ。撃たないのか?

「……ッッッ!?!??」

 

理事は一歩後ずさる。

目の前の男に、言いしれぬ恐怖と異物感を覚えてしまった理事は、震えながら声を絞り出す。

 

「き、きさま、貴様は一体、何なんだ……!?」

「………………………」

 

先生は一度鼻を鳴らし、伊達眼鏡を外す。

そして、左胸のポケットに着けてあるシャーレの首掛けステッカーを前に突き出して、圧を込めて宣言した。

 

 

 

「連邦捜査部【シャーレ】だ。【カイザーPMC】――お前達には学園自治区への不法侵入、民間人への暴行、および武力による侵略行為の容疑がかかっている。既に証拠は挙がっている。全員潔く神妙になれ。……もう一度言っておく。

 

 

 

お前達は、もう終わりだ!

 

 

 

 

 

絶望的な状況だった。

絶望的な戦力差だった。

絶望的な事実だった。

 

たった一人の大人に、全てが逆転されるまでは。

 

「………………」

 

シロコは、今目の前にいる大人が、初めて自分とは決定的に何かが違う存在だと確信した。

一瞬だけ錯覚した、ギラギラと太陽のように輝く赤き炎をその背に纏った先生の姿。

得体の知れない何かが存在感を発する様を見て、シロコは竦み上がってしまった。

 

だが、今はその輝きが頼もしく、温かく、そして希望を感じた。

 

「……っ、こ、こんな馬鹿なことが、あってたまるか!」

 

その炎の威圧感に当てられ、たじろぐ理事は背を向けて後退する。

 

「アイツ、逃げるつもり!?」

「兵士達が動かないのは変ですが、逃がすわけにはいきません!」

 

セリカとノノミも続けて前に出る。

だがその時、

 

 

 

――オ オ オオ オオ オ …………♪

 

 

 

「えっ」

 

「むっ……?」

 

動ける者たちはみんな足を止めた。

その場に鈍く響く、歌うような何かの音。

 

「なに、この音……?」

()()()()()……?」

 

ノノミは思わずそう呟いた。

まるで女性がメゾソプラノのコーラスを歌うような、妖しい歌声。

そんな風に思った時、後ろにいたアヤネが慌てて声をかける。

 

『皆さん、そこから逃げてくださいッ!!』

「アヤネちゃんっ?」

『今、この場に――砂嵐が発生します!!』

 

「「「……!!?!?」」」

「何だと……!?」

 

アヤネのその言葉を聞いた、先生を除く一同は絶句する。

 

「ちょ、ちょっと待ってよアヤネちゃん! ここ街中よ!? 砂漠ならともかく、こんな街中で砂嵐が発生するわけないでしょ!?」

『で、でも、この気流の乱れは砂嵐が起きるとしか思えないよ!?』

 

アヤネはタブレット端末と空を交互に見比べ、焦りながらもそう言い返した。

 

「馬鹿馬鹿しい、付き合ってられるか――」

 

理事がそう呟いた瞬間、

 

 

 

――ビュゴオオオオオォッ!!!

 

 

 

強い風が巻き上がった。

 

アヤネの宣言通り、アビドス市街地に砂嵐が発生した。

先生達の目の前で、竜巻の如く巻き起こるそれに、カイザーPMCは一人残らず飲み込まれた。

 

「んん……!?」

「きゃあっ!?」

「嘘でしょ、本当に……!?」

 

激しい強風と、叩きつけてくる砂にセリカ達は怯む。

当然、巻き込まれたカイザーPMCが受けるダメージは、その比ではない。

 

中から聞こえてくるのは兵士達の悲鳴。

そして幾重もの爆発音。

 

(……爆発音?)

 

先生は顔を顰める。

手榴弾の破裂音とは違うそれに、カイザーPMCは他にも爆弾を持ってきたのか、と勘違いした。

 

……やがて砂嵐は収まり、視界が晴れる。

そこには砂に埋もれ、死屍累々のごとく倒れている兵士達。

そして、

 

「ぐ、ぐぅ……」

 

傷だらけの理事。

 

「お、おのれ、いつの間に爆弾を……。砂嵐といい、これも貴様の作戦なのか……っ」

「…………、言いがかりも甚だしいな」

 

怨嗟の如き呻きに、あることに気づいた先生は否定する。

 

「爆弾もそうだが、まさか私が砂嵐を発生させたと思っているのか? だったら言わせてもらうが、人間がどうやって砂嵐を発生させるんだ? 後学のために教えてくれ」

「……〜〜〜〜っ!!!」

 

小馬鹿にするような先生の物言いに、理事は唸りながら立ち上がる。

 

「……ええい、いつまで倒れている貴様ら! まだ動けんのか!?」

 

その言葉に、ようやく動けるようになったのか、兵士達が次々と立ち上がる。

セリカ達は警戒し、銃を構えるが、

 

「か、閣下……お身体に傷が……」

「私のことより、シャーレの先生を早く抹殺しろ!! このままでは我々は本当に犯罪者として逮捕されるのだぞッ!!」

「く、それが……」

 

兵士は砂だらけになった銃器を見せる。

銃口から漏れ出ている砂を見せながら、おずおずと口を開く。

 

「これでは使い物になりません……」

「閣下、ゴリアテの関節部に砂が大量に入ってます!! これでは動かせません!!」

「何だとぉ!?」

 

兵士の一人の報告に、理事は顎が外れそうなほど口を開けて絶句する。

 

「……おのれ」

 

理事は、認められなかった。

しかし認めるしかなかった。

 

「おのれおのれおのれおのれ……!」

 

銃弾1発が致命傷になる、無力な人間に敗北したことを。

 

「おのれェ!!!!!」

 

ただ吠えることしか出来なかった。

 

「後悔するぞ、シャーレの先生! いや、必ず後悔させてやるぞ、カイザーグループを敵に回したことを!!!」

 

そう言って理事は指示を出し、アビドス自治区から撤退していくのだった。

 

「なっ、アイツら逃げていくわよ、先生!」

「落ち着いてセリカ。さっきも言ったけど、あいつらにもう他の逃げ場はない」

「だったらなおさら――」

「でも向こうにはホシノがいる」

「……っ!」

 

セリカは瞬時に理解した。

カイザーグループにホシノの身柄がある以上、迂闊に追い詰めれば人質にされかねない、と。

 

「だから、作戦を考えるために、こっちも準備する時間が必要だ。……どうせ、あいつらの逃げ場は砂漠の基地しかないからね」

「ですが、ホシノ先輩の居場所は分かっていない……」

「そういう事」

 

希望に満ちた目の輝きが一転。

セリカ達はその表情をまた曇らせてしまう。

 

「一先ず、校舎に戻ろうか。それに――」

 

くるり、と先生は振り返り、大声で問いかける。

 

「君達はどうするつもりなのかな?」

「えっ」

「先生……?」

 

先生の視線を追うように、アビドス生徒達はそちらに顔を向ける。

先生は路地裏の方に声をかけている様だが……。

 

「さっきカイザーPMCが言ってた爆弾って、君達が仕掛けたんだろう? どういうつもりなのか釈明をしてほしいんだよね」

 

………………………。

 

「ついでに言っておくと、私は視線には敏感な方なんだ。砂嵐が収まってから、ずっとこっちを見てるのは気づいてるんだよ。だから顔を見せてくれないかな――【便利屋68】」

「えっ!?」

『便利屋68!?』

 

「…………あ、あはは〜。アビドスのみんな、一昨日ぶりだね〜」

「………………………」

 

路地裏から出てきたのは、引きつった笑みを浮かべるムツキと気まずそうにゆっくり歩いてくる、苦い顔をしたカヨコ。

 

「あ、アンタ達まだアビドスにいたの!?」

「うちの社長がずっと気にしててね……」

「いや〜、あんまり旗色悪そうならムツキちゃん達が加勢しようと思ってたんだけど……」

「そんな必要無かったね……」

 

2人はそう言って先生に視線を向ける。

 

「……そう、それが君達の選択か」

「ま、これ以上アレに顎で使われる義理もないからね」

「そ〜いうこと♪ メガネっ娘ちゃんを泣かせたし、ブチ殺し確定だよねっ」

 

過激なことを言うムツキに、先生は引きつった笑みを浮かべる。

 

「……ところで、君達2人だけかい?」

「「えっ」」

 

先生にそう問われて、ムツキとカヨコは後ろを振り返る。

 

遅れてアルとハルカが路地裏から出てくるのだが……。

 

「………………ぁ…………」

「あ、アル様、どうかお気を確かにっ」

 

まるで熱に浮かされたような、頬を赤く染めたアル。

そして、そのままボーッとして自力で動けない彼女を、ハルカがゆっくり背中を押している。

 

「……ムツキ、アルはどうしたの?」

「……う〜〜〜〜ん」

 

先生に尋ねられたムツキは数秒唸った後、苦笑いを浮かべて、

 

「強いて言うなら、先生のせいかな?」

「ええ??」

 

人のせいにされて、先生は納得いかないと顔を顰めるのだった。

 

「……まあ、それはともかく。君達も色々聞きたいことがあるだろう。もう事を構えないと約束するなら、このままアビドスに招待するよ」

「良いの、そんな口約束で?」

「約束を違えるようなら、こっちはもう容赦はしないよ。()()は全力で抵抗するとだけ言っておく」

「…………ッ」

 

ブルッ、とカヨコの肩が震える。

 

「……降参。あんなの見せられて、先生に挑もうなんて馬鹿な真似しないよ。……社長もそれで良いよね?」

「………………」

「ちょっと、いつまでも先生に見惚れてないで、しっかりしてよ!」

「み、見惚れっ!? いきなり何言ってるのよ、カヨコ!?」

 

ようやく我に返ったアル。

否定しないんだ、とムツキは思いつつも、アヤネ達に声をかけた。

 

「と、言う訳だからご厄介になるね〜。良いよね?」

『……まあ、先生が許可を出されたのなら』

「ふん……、下手な真似したら速攻ブチのめしてやるわ」

「ん、お金にする」

「シロコちゃん、ちょっと抑えましょうね〜♧」

 

渋々ながらも、アヤネ達は便利屋を受け入れたのだった。

こうしてこの場に残った全員で校舎に戻ることになったのが、その際に、ムツキは気になっていた事を先生に尋ねる。

 

「ところで先生、いつまでメガネ外してるの? メガネ掛けてる方が断然似合ってるよ?」

「ん、ああ、忘れて……た……っ!?」

 

先生は右手に持っていた伊達眼鏡を持ち上げ、その瞬間表情が固まった。

 

「やばっ――」

『先生?』

 

先生は空を見上げる。

何事か、アヤネは尋ねる前に、

 

――ブウゥゥゥゥゥゥン……

 

そんな高速で空を切る、羽音のような怪音が凄まじい勢いで近づいてくる。

そして、

 

「――フリャ〜ンッ!」

 

ブオッ、という風圧と共に、大きな何かが地上に勢いよく降り立った。

 

『…………!?』

 

風圧に怯んだ生徒達は、突然現れたその大きな生き物に目を剥く。

 

「ちょ、ま、待てフライゴン! 勘違いだ、まだ合図は出してない! だからせめてタイミングってものを……!」

「フゥ〜〜♪」

「うあ、袖を噛むなっ」

 

フライゴンと呼ばれたトンボに近しい大きな生き物は、先生のコートの袖をガシガシと噛む。

嬉しそうにコートを噛む姿は、フライゴンなりのじゃれつきなのだろう。

 

『せ、先生……、そ、その生き物は……っ?』

「あ、あはは……」

 

締まらない。

校舎に戻ってから紹介するつもりだった先生は、見事に出鼻を挫かれたのだった。




大体3行で分かる! 登場人物紹介

シャーレの先生
・先生、キレた!!
・ゲンガーの特性“のろわれボディ”を利用して、ゲンガーに兵士達へ触れさせる事で金縛り状態にさせた
・ユウカから借りたカメラドローンを破壊されて、地味に言い訳に困ってる

黒見セリカ
・もう我慢の限界で、完全に自棄を起こしていた
・絶体絶命だと思ったら、先生が全部ひっくり返してくれた
・初めてポケモンを見て、デカすぎることに絶句している

奥空アヤネ
・何とか保っていた自信を完全に砕かれてしまった
・理不尽を嘆いていたら、可能性が残されていることを先生に教えてくれた
・初めてポケモンを見て、未確認生物に対し恐怖を覚えている

砂狼シロコ
・ホシノが先生と距離を取っている理由をついに理解した
・しかし、それはそれとして先生が助けてくれたことは事実なので受け入れている
・初めてポケモンを見て、珍獣ショーとしてお金設けできないか考えている

十六夜ノノミ
・先生がネガティブになっているのを見て胸が締め付けられた気分になった
・それでも冷静でいる先生に、何とか本音を引き出させたいと思った
・初めてポケモンを見て、結構可愛いと感じている

陸八魔アル
・カイザーPMCの動きを見て、アビドスに力を貸すべきだと社員を説得する
・カイザーPMC理事が声高に話す内容を聞いて怒り心頭だったが、全部ひっくり返した先生に見事に見惚れてしまった
・初めてポケモンを見て、白目を剥いている

鬼方カヨコ
・アルを甘いと思いつつも、地味にカイザーPMCの所業にはキレている
・しかし先生がたった一人で盤面をひっくり返したことに戦慄
・初めてポケモンを見て、先生が銃を向けられても堂々としていることに納得した

浅黄ムツキ
・先生がアヤネに声をかけてなければ地雷を爆発させてた娘
・アルが先生に惚れたと確信した
・初めてポケモンを見て、威圧感の正体に合点がいった

伊草ハルカ
・アルに命令されて急いで追加の爆弾と地雷を設置した
・先生を敵に回したら死ぬ、と心が理解した
・初めてポケモンを見て、またしてもガタガタと震えてアルの影に隠れている

フライゴン(♀)
・先生がホウエン地方でゲットしたナックラーが進化したポケモン、大きさはXL
・ナックラーの頃から治らない噛みつき癖がある
・先生のメガネを持ち上げて合図=戻って来い、ステッカーの反射光で合図=“すなあらし”の指示、先生がメガネを外す=全力でやれ



便利屋の見せ場は別に用意するつもりです。
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