シャーレの先生がポケモントレーナーである場合にありがちなこと   作:子々(ネネ)

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こちらは後編です。
前編から見ることを推奨します。


先生の逆鱗に触れた者達の末路にありがちなこと(後編)

アビドス校舎に戻ってきた一同。

道中はみんな閉口してある存在に視線が集中していた。

 

「イ?」

 

それは、このフライゴンという大きな生物。

 

「デカすぎんでしょ……」

「あくまで目測だけど、3メートル弱はあるね……」

「ま、まあ、私のフライゴンは結構大きめの個体だから……」

 

生徒達の第一印象に、先生は苦笑する。

 

先生はユウカにイエッサンを見られた日のことを思い出す。

ユウカにとっても、ポケモンとは得体の知れない存在だったはずだ。

なのに、イエッサンが元々気性が穏やかなポケモンとはいえ、「可愛い」だなんてすぐに言える彼女が特別だったのだ。

普通は、壁を作ってしまうような態度になるのだろう。

 

先生はモンスターボールを取り出し、一旦フライゴンをボールの中に戻す。

その光景を見て生徒達はギョッとする。

 

「コレも含めて、全部話すよ。だから空き教室に行こうか」

 

先生は使われていない教室へと全員を案内する。

遅れてアヤネがやって来て、全員揃ったのを確認してから先生は話し出す。

 

「とはいえ何から話した方が良いかな……」

「ん、だったらまずフライゴン……? ……について教えて」

 

シロコが挙手して質問する。

先生はそれを受けて、フライゴンが入ったモンスターボールを出し、ポイッと放り投げた。

そして、ポンッという音とともに、

 

「フラァ〜ゴ」

 

挨拶するように鳴き声を上げて、フライゴンが姿を現した。

 

「ありえない……。その手のひらサイズのカプセルに、そんな大きな生き物がどうやって入るの?」

「それがポケットモンスター――縮めてポケモンだからね」

 

カヨコの呟きに、先生はユウカにしてあげたように、ポケモンについての説明を始めた。

 

…………。

……。

 

「――先生の世界では、ありふれた生き物……」

「でもみんなの反応が示す通り、キヴォトスにポケモンはいない。だからなるべくポケモンを露出させないようにしてたんだ」

「え? 何でよ、自由にさせればいいじゃない。そんな窮屈そうなボールの中にいるより、ずっとマシだと思うけど」

 

セリカはそう疑問を口にするが、

 

「……さっきの砂嵐を、このフライゴンが起こしたと言ったら、それでもセリカはそう思うかい?」

「ぇ……」

 

先生にそう言われ、セリカは絶句した。

 

「フライゴンは元々砂漠を縄張りにするポケモンでね。砂嵐を起こして獲物を引きずり出して仕留める――そういう生態のポケモンなんだよ」

「砂嵐を、起こす……!?」

「さっきノノミは女の人の声、って言っていたよね?」

「えっ、あ、はい……」

 

いきなり名指しされ、パチパチと瞬きしながらノノミは反応する。

 

「フライゴンは羽ばたきで砂嵐を起こすことが出来るんだけど、その時の羽音が女性の歌声のように聞こえる、って言われているんだ」

「羽音? あれ羽音だったの!?」

 

信じられない、とムツキは声が裏返った。

 

「フリャ……!」

 

フライゴンは実際に聞かせてあげようと、翼を羽ばたかせて――

 

「ちょっと、ストップストップ! 屋内で羽ばたかないで!!」

「屋内で砂嵐は洒落になりません!!」

「フゥ??」

 

セリカとアヤネが全力で止めるのだった。

 

それを見て先生はまたしても苦笑いを浮かべる。

 

「心配は要らないよ。その現象はフライゴンが砂漠にいる場合の話さ。フライゴンの素早い羽ばたきで起こる振動が、砂漠の砂を巻き上げるんだ」

「し、振動ですか?? ですが、あの気流の乱れは……」

「あれは、ポケモンの技の“すなあらし”だからね。フライゴンの生態で起こす砂嵐より勢いが強いんだ」

「えっ!?」

「ポケモンの技、って事は……」

「まあポケモンにもよるけど、フライゴン以外にも砂嵐を起こせるポケモンは沢山いるよ」

 

生徒達はここで、またしても絶句した。

つまり、意図的に砂嵐を起こせるポケモンは、先生の世界では大して珍しくもないと言うことだ。

 

「……分かったかな? 私がポケモンをみだりに外へ出さない理由が。もちろん、そんな事にはならないように躾けてるけど、キヴォトスはポケモン達にとっても慣れない場所だからね。万が一にもトラブルの原因にされたくないんだ」

「………………………」

 

話のスケールが想定より大きかった。

質問には答えてくれたが、かえってどう反応すればいいか分からないセリカだった。

そこでカヨコはふと思いつく。

 

「……もしかしてだけど、私達の居場所が分かったのも、フライゴンのお陰?」

「いや、そっちは別。……探すのには結構苦労したんだよ」

 

先生は夜通し便利屋の逃げた場所を、クロバットと一緒に探していたのを思い出す。

 

(あんな事になるなら、ボスゴドラよりルガルガンを先に連れてくるべきだったかな……)

 

嗅覚に優れたポケモンを思い出し、先生は後悔しそうになるのだった。

 

「他に質問は?」

「ん、なら続けて私が……。アビドスの学園存続が出来るって本当?」

「あ〜……」

 

シロコの質問に、先生は気まずそうに唸る。

 

「……もしかして、勢いで言っただけだった?」

「いやいや、嘘じゃないよ。ただ、【カイザーPMC】に言った時は、少し誇張が入ってたと思う」

「どういう事ですか?」

「アビドスが廃校寸前に陥っているのは、生徒会が活動しておらず学園自治区の運営が困難である……、という状態になっているからだ。故に、まず生徒会の後任組織を立ち上げる必要があるんだけど……」

「それが、カイザーPMCを捕まえることとどう繋がるのよ?」

「後任組織を立ち上げたとしても、学園自治区の運営が困難であると連邦生徒会に判断されれば、廃校が通達されてしまう。だから、問題なく運営能力があると証明する必要があるんだ。その1つが――」

「……! 治安維持能力……!」

 

そういうこと、と先生は頷いた。

 

「けど勘違いしないで。たとえカイザーPMCをアビドスが捕まえられたとしても、確実に廃校が撤回されるわけじゃない。アビドスという学園を存続させるには他にも沢山の問題がある。それは、わざわざ私の口から言わずとも、君たちの方がよく理解しているだろう」

「「「「…………」」」」

「……先生、何で上げて落としたの?」

「いや、別にそんなつもりはないんだけど……」

 

シロコ達の顔が曇ってしまった。

ムツキは白けた表情で、先生を睨みつける。

それを受けて先生は咳払いして、何とかフォローする。

 

「とにかく、まずアビドスの喫緊の課題は“新たな生徒会組織を立ち上げること”だよ。その手続きを行うテンプレートは、連邦生徒会から既に受け取っている」

「そうなんですかっ? ……ですがそれは……」

「…………そうだね。君たちだけで勝手に決めるのは、筋が通らないね」

 

【アビドス廃校対策委員会】は、5人揃ってこそ。

今この場にはホシノがいない。

この話題はホシノがいないと前へと進めないからこそ、ホシノを取り戻す。

それが()()()()の喫緊の課題だ。

 

「……でも、肝心のホシノ先輩は、今何処にいるの……?」

「……ん、手紙の内容だと、カイザーコーポレーションの子会社に加わる、って事だった」

「ですが、さっきの襲撃では、ホシノ先輩の姿はありませんでした。つまり、カイザーPMC以外の系列会社に加わっていると考えるのが妥当ですが……」

 

セリカ、シロコ、アヤネが口々に話し合う。

そんな中、ノノミは静かに先生へと視線を向ける。

 

「先生、今朝のこと覚えてますか?」

「…………」

「昨日、ホシノ先輩に何を言われたのですか?」

「…………っ」

 

ノノミの芯のある声が先生に突き刺さる。

ノノミは先生の正面に移動し、先生の両頬に手を添えた。

 

「ノノミ……?」

 

珍しく、ノノミの表情はかなり険しかった。

 

「先生、今朝からずっと表情が暗いです。自覚がありませんでしたか?」

「………………………」

「の、ノノミ先輩?」

「三度目です。……ホシノ先輩に、何を言われたんですか?」

 

真っ直ぐなノノミの眼差しが、先生を真正面に捉えている。

先生は表情が歪むが、すぐに元に戻り、苦笑を浮かべながら話す。

 

「……本当に、大した事は言われてないんだよ。…………ただ、私は初めからホシノの信用を勝ち取れていなかった。……本当に、ただそれだけの事なんだ」

「はあ!?」

「……なにそれ」

 

信じられないとばかりに、セリカ達から驚きの声が上がる。

 

「ホシノ先輩が、先生を信用していない……? 本当にそうなんなんでしょうか?」

「あの娘から見た私は、相当な“異物”みたいだからね。私も彼女からは壁を感じたし、信用を勝ち取るのを後回しにしたツケが回ってきたみたいだ」

「異物って……」

 

シロコはカイザーPMCと対峙した先生の姿を思い出す。

あの時の先生は、シロコ達とは決定的に違う空気を纏っていた。

だがそれは――、

 

「それってフライゴン――ポケモンの事でしょ? ホシノ先輩は鋭いし、ポケモンの事も気づいていたのかも」

「それに、時々凄い気迫出してたのも、ポケモンがずっと傍にいるからでしょ? 隠し通してた理由も理由だし、先生はそこまで気に病まなくていいと思うけどなぁ?」

「フリャンッ」

 

シロコだけでなく、ムツキも先生をフォローしてくれる。

名前を呼ばれたフライゴンはクイッと首を上げて返事をした。

 

「……でも、肝心な時に何の意見も出せなかった。そういう無責任な事をしていたのもまた事実さ」

「無責任って何よ! 先生はずっと色々考えて、私達を助けてくれてたじゃない!」

「そうだよ。今日のことだってそう。私たちはカイザーPMCの襲撃なんて全く想定してなかった。先生は予期していたからこそ、先んじて手を打っていたんでしょ?」

「それを予期できたのは、ホシノがアビドスを出ていった後だよ」

「えっ」

「そ、それは…………」

「……言い換えれば、ホシノがアビドスを出ていかなければ、私はカイザーPMCの思惑にずっと気づかないままだったかもしれない」

「だから、無責任だと……。ホシノ先輩がそう言ったんですね?」

「…………」

 

ノノミの核心を突く言葉に、先生はまた沈黙してしまう。

 

「……先生、どうかホシノ先輩を誤解しないでください。ホシノ先輩は、先生を信用できない大人だとは思っていないはずです」

「ノノミ……」

「だから、ホシノ先輩とちゃんと話し合ってください。ホシノ先輩も、きっと先生を誤解しているはずです……」

「……うん、ありがとうノノミ」

 

先生の表情は晴れない。

ただ先ほどと変わらず、苦笑交じりの愛想笑い。

ノノミは先生のその顔を見て、もっと踏み込まなければならないと思った。

 

「……そういう表情は、少しホシノ先輩と似ていますね」

「えっ」

「ホシノ先輩も、誤魔化すときはいつも愛想笑いでした。……だから先生、辛いなら、悲しいならちゃんと言葉にしてください……っ。私達は仲間なんですから、一人だけで苦しみを背負おうとしないでください……」

「ノノミ……」

 

頬からノノミの両手が離れる。

その代わりに、先生の手をノノミの手が優しく掴む。

ノノミの瞳が潤み、目尻が垂れ下がる。

 

先生はそれを見て、一度大きく息を吐いた。

 

「……生徒にそんな顔をさせるなんて、“先生”失格かな……」

「先生っ」

「…………辛いとか、苦しいとかじゃないんだ。……ただ、ホシノを止められなかった……、それが悔しかったんだよ」

「…………」

 

先生の笑みが引っ込み、その表情が曇る。

だがそれも数秒間だけだった。

 

「……本音を吐き出したつもりだけれど、ノノミから見てどうかな?」

「……今はそれで良いです。どうやら、もっと聞かせてもらえるほど、先生からの好感度が足りてないみたいなので」

 

ノノミは手を離し、困ったような笑みを浮かべた。

先生はそれを見て思うところがあったが、一先ず打ち切って本題に戻る。

 

「……私のことは、今はここまでで良いだろう。問題は――」

「……ホシノ先輩の行方、ですね」

「……! そうよ、先生ホシノ先輩と話をしてたのよね? 何か手がかりになりそうな事言ってなかったの?」

「……残念ながら、昨日私がホシノから聞いたことは、ほとんど手紙に書かれてある内容と同じだったよ」

「そっかぁ……」

「でも、気になる事は言ってたかな」

「気になる事って?」

「ゲマトリア」

 

先生がそう呟いた瞬間、空き教室がシン、と静まった。

 

「フゥ?」

 

空気が変わったことを理解したフライゴンは、先生の顔を覗き込む。

先生は誤魔化すようにフライゴンの頭を撫でると、フライゴンは嬉しそうに先生のコートの裾を噛むのだった。

さっきは止めろと言っていたが、今はされるがままになって先生は沈黙している。

 

「……なに、その『ゲマトリア』って?」

「……分からない。ホシノが言うには、そのゲマトリアが紹介した会社に所属すれば、借金の大半を肩代わりする、と言われたらしいけれど……」

「……それって、そのゲマトリアがカイザーPMCと繋がってるって事じゃない!」

「私もそう思ったんだけど……」

 

先生はそこで、口を噤む。

顎に手を当てて思案する姿に、セリカは続けて問いかける。

 

「何か気になることがあるの?」

「気になることというか、違和感があると思ってね。何か、根本的なことを見落としているような……」

「……ぁ、あの」

 

おずおずと、ハルカが口を開く。

一斉にハルカへと視線が向き、ハルカはビクリと肩が跳ねる。

 

「ひっ、すみませんすみません……。わ、私のようなゴミクズが話の腰を折ってしまって……っ」

「ハルカ、何か気になることがあるなら遠慮なく言ってちょうだい。……それで、どうしたの?」

「あ、アル様……」

 

アルに気遣われて、ハルカは落ち着きを取り戻す。

ハルカはスマホを手にしながら、たどたどしく話し出す。

 

「そ、その……途中から何を話してるのかよくわからなくって……。それで、その……ゲマトリア? というのを今調べてたん……ですけど……」

「何か分かったの、ハルカちゃん?」

「い、いえ、それが全然……。け、検索結果も、何も出てこなくって……」

「何だって?」

 

先生は目を見開く。

 

「ハルカ、それは本当かい?」

「ひっ、は、はいぃ……」

 

ハルカは怯えながら、スマホの画面を先生に見せる。

ゲマトリア、と入力欄にはあり、その検索結果は0件。

 

「………………………!!」

「ホントだ、検索結果が出てこない」

「どの検索エンジンでも引っかかりません。余程秘匿性の高い組織なのでしょうか……?」

「……違う、そうじゃない」

 

セリカ達も自分のスマホで検索するが、何も出てこない。

そんな彼女達の呟きに、先生は気づいたことを口にした。

 

「前提から間違ってたんだ……。ゲマトリアはカイザーグループと何の関係もない組織だ……!」

「えっ、どういう事?」

「ゲマトリアがカイザーグループと関わりのある組織なら、何かしらカイザーグループに関する単語のページに引っかかるはずだ。それすらないのなら……」

「ゲマトリアはカイザーグループの新興組織か、全く別の勢力か……って事だね」

「ん? だったら新興組織の可能性もあるんじゃない?」

 

カヨコが先生の結論を引き継ぎ、そう言葉にした。

それに対し、ムツキが疑問を口にする。

 

「いや、恐らくそれはない。カイザーグループの系列ならば、昨日カイザーPMCの基地に行ったときに、あの理事が改めて勧誘したはずだ。ホシノをカイザーグループへと引き抜くためなら、何もそのゲマトリアだけじゃなく、他の奴らだってそうするだろうからね」

「……!? ちょ、ちょっと待ってください! それじゃあホシノ先輩は……!?」

「カイザーグループはあくまで“生徒会”のホシノを、アビドスから引き剥がす……、それが目的だった。ホシノの身柄を欲していたのは、全く別の勢力であるゲマトリアの方だ……!!」

「「「「……!?」」」」

 

 

 

 

 

紐解かれる真実。

ゲマトリアの謎、そして目的。

剣呑な雰囲気が流れるなか、全員の意見が一致した事がある。

 

「……つ、つまり、あのホシノさん、という人は……、騙されていた、って事ですか……?」

「……ただ騙されたんじゃない。私達が今勘違いしていたように、間違った認識を植え付けるようにホシノを騙していたんだ。はっきり言って相当タチ悪いよ、これ」

 

ハルカが代弁し、それをカヨコが補足した。

そして、胸糞悪い、とカヨコはつけ足した。

 

「……ゲマトリアから悪意を感じていたのは私も同じだ。だが、ここまでだとはね……」

「……ちょっと待ってよ」

 

セリカが震える声で先生に尋ねる。

 

「な、なんか、意味わかんなくなってきたんだけど……。なんで、そんなこと……っ」

「ん、確かに。ゲマトリアがカイザーグループと何の関係もないなら、どうしてゲマトリアは借金の大半を肩代わりしてまでホシノ先輩を? 何のメリットがあってカイザーグループに協力してたの?」

「……わからない」

 

ゲマトリアと接触していたホシノならば、ゲマトリアがどういう存在なのか知っていたかもしれない。

しかし、今この場にはゲマトリアについて知るものは誰もいない。

ホシノはいない。

 

「分からないが、何か良からぬことにホシノを利用するのかもしれない……」

 

だから、と先生は続ける。

 

「ホシノがゲマトリアの所に居るのなら、ゲマトリアの居場所を探さないといけない。けれど……」

「問題は誰も知らないんですよね。便利屋の皆さんはお会いしてないんですか?」

「うちは基本、依頼は電話受付だから依頼人と顔を合わせることってそんなに無いのよね……。今回だって、カイザーグループの下っ端らしき人が前金を持ってきて話をしただけだし……」

「まあ素寒貧になったときは自分の足で仕事を探しに行くんだけどね」

「余計な事言わないでよムツキっ!」

 

チラチラと先生を見ながら、ムツキにツッコミを入れるアル。

生暖かい視線がアルに集中しつつ、話が元に戻る。

 

「……それじゃあ、本当に手がかりがないってこと?」

「……ん、ゲマトリアにばかり気を取られるわけにはいかない。悠長な事をしてると、カイザーPMCが報復に出るかも」

「今後の事を考えると、カイザーPMCは私達の手で決着をつけるべきです。ですが……」

「便利屋68の皆さんが協力してくれるとしても、それでも8人……」

「何言ってるのよアヤネちゃん、先生のポケモンがいるじゃない。さっきみたいに――」

「悪いけど、フライゴン達を頭数に入れないで欲しいな」

「えっ」

「フゥ??」

 

急に先生から梯子を外される。

セリカは慌てて先生に詰め寄る。

フライゴンもやる気だと腕を振り上げていたが、キョトンとした表情で先生を見つめている。

 

「ちょ、ちょっと何でよ先生!? フライゴンならあんなヤツら――」

「そりゃあ容易く蹴散らせるだろうけどさ。さっきも言ったけどポケモンをみだりに露出させたくないんだ。それに……」

「……それに?」

「……これは私の我儘なんだけれど、あんまりカイザーグループの連中の前で、ポケモンを出したくないんだ」

「何か都合が悪い事があるの?」

 

先生は数巡の迷いの末、低い声で喋り出した。

 

「……ポケモンの中には人知を超えた能力を駆使して、とんでもない現象を引き起こす種もいる。そして、そういうポケモンは悪事を企てる奴らに狙われやすい」

「……カイザーグループは、まさにそういう連中って事ね」

「ああ。……居たんだよ、過去にカイザーグループによく似た組織が。あいつらは、金儲けの為なら本当に何でもやっていた……。犠牲になった人や、ポケモンも少なくない……ッ」

「ポケモン、って……!?」

「犠牲……っ?」

 

先生から威圧感が漏れ出て、生徒達はその深刻さを肌で理解した。

 

しかしこれでは戦力が足りない。

時間が足りない。

手掛かりもない。

次の行動に踏み切れない。

シロコ達の表情が曇り、俯いて何も言えなくなってしまった。

 

「……ちょっと、何よこの空気」

 

しかし、アルが一言、強く呟いた。

 

「せっかく先生が希望を繋いでくれたのに、貴女達が諦めてどうするのよ?」

「あ、アル様……?」

 

納得がいかないとばかりに、アルの語気が強くなっていく。

 

「確かに手掛かりはない。私達も協力するつもりだけど、戦力も心許ない。時間も足りない。……だから諦めるの!?」

「……!」

 

先生は、強く響くアルの声に目を見開いた。

 

「あそこまでコケにされて、仲間も騙されて連れ去られて! 少しはやり返そうって気分にならないわけ? 俯くくらいなら、銃を持つ手に力を込めなさい! 馬鹿なことした仲間を連れ戻して、1発ぶん殴るくらいの気概を見せなさいっ!! 貴女達がそんなんじゃ、助けられるものも助からないでしょうがッ!!!」

『…………!!!』

 

アルの強く響く言葉が、全員の顔に熱を取り戻した。

元々は敵同士だった。

しかしここまで心に響く言葉を臆面もなく言えるアルの姿に、先生は目を瞬かせる。

そこで、ツンツンと腕を突く感触に目を向ければ、いつの間にか先生の後方にムツキが居た。

 

「どう、先生? アルちゃん、気に入った?」

「……ふふ、完敗だよ」

「くふふ〜♪」

 

自分にとっても胸に響く言葉だった。

そう思った先生は、アルの言葉を引き継ぐようにシロコ達へと声をかける。

 

「アルの言う通り、諦めないで」

 

今度は先生に視線が集中した。

 

「まず戦力については、……分の悪い賭けだけれど、当てはある。私がこれから訪ねに行ってくるよ」

「これからですか!? ですが、カイザーPMCが警戒しているのでは……」

「そこはフライゴンに任せるよ。空から直接移動するから、それほど時間もかからないしね」

「フラァゴ!」

「だからみんなは、その間ホシノがいそうな場所に目処を――」

 

シッテムの箱から通知音が鳴る。

先生はシッテムの箱を取り出し視線を落とすと、液晶が光りアロナの姿が映る。

 

『先生、シャーレのメールボックスに、1件メールが届いています』

「…………」

 

アロナの声は生徒達には聞こえていない。

なので、先生は視線だけで返事をする。

 

『ですが、その……相手のメールアドレスのドメインに……』

「…………?」

『……げ、gematria(ゲマトリア)……と、書かれてて……』

「……!?!!?」

 

先生は声を上げそうになった。

 

「……先生? どうかしましたか?」

 

突然目を見開き、表情が強張った先生を見て、思わずアヤネが声を掛ける。

 

「ごめん、みんな」

「……?」

「ホシノの居場所……、手掛かりが見つかったかもしれない」

「ぇ……!?」

「ど、どういう事、先生!?」

「それをこれから調べてくるよ。ただ、今日中には戻ってこられないかもしれない」

 

先生の顔からは笑顔が完全に消えている。

この場にいる全員は理解した。

 

……その手掛かりとは、先生にとってはあまり嬉しいものではないのだと。

 

「……1つだけ教えて、先生。いつごろ戻ってこられそう?」

「……相手次第、かな」

「相手って……」

「でも、必ず戻ってくるよ」

 

そう言って、先生は自身の伊達眼鏡を外す。

それを、先生はアヤネに渡した。

 

「せ、先生っ?」

「メガネを扱ってる者同士、そのメガネの管理はアヤネに任せるよ。必ず受け取りに戻る」

「…………っ」

「……いや、メガネを預けたからって何になるの? というか、メガネを外して外に出るとか、ちゃんと前見えてる?」

「え? そのメガネ、伊達でしょ?」

『えっ』

 

カヨコのツッコミに、アルがキョトンとした顔で反応する。

 

「……そう言えばアルちゃん、去年までメガネ掛けてたよね。伊達かどうかって分かるんだ」

「……よく分かったね。それ、わざわざレンズを伊達にしてくれたんだ」

「……その言い方、もしかしてプレゼントですか?」

 

ノノミが思わずそう尋ねた。

先生は何かを思い出すように、フッとノスタルジックに笑った。

 

「ふふ、私の初めての教え子がくれた、大事なものなんだ」

 

そう言って、先生はフライゴンをモンスターボールに戻し、空き教室を出ていった。

 

 

 


 

 

 

先生は校舎を出て、改めてアロナに声をかけた。

 

「アロナちゃん、さっきのメールだけど」

『ウイルススキャンは既に終えてます。位置情報が添付されただけの、至って普通のメールでした。ですが……』

「構わない。開いて」

 

アロナはメールを開き、その内容を先生に見せる。

 

「………………………」

 

先生の目つきはドラゴンポケモンのごとく、鋭くメールの文章を睨みつけるのだった。




大体3行で分かる! 登場人物紹介

シャーレの先生
・ホシノとのやりとりを詳らかに話すと、ホシノを悪く言う娘が出るかもしれないからなるべく話したくなかった
・先生のメガネはあるキャラの瞳と同じ色をしているので、縁の色が緑
・メールの誘いに乗る前に、ゲヘナ学園へと向かう

十六夜ノノミ
・100%の本音を先生から引き出せなかった
・出会ってまだそんなに経っていないので、先生の心に踏み込むのはもう少し時間をかけようとポジティブに考えている
・初めての教え子にちょっぴり嫉妬した

砂狼シロコ
・ホシノの気持ちは理解したが、先生を信用できない理由にはならないと思っている
・ポケモンバトルの事を知り、先生の戦術能力の高さに納得
・ゲマトリアに怒り心頭

陸八魔アル
・暗い空気になってきたところを一喝
・実質無報酬でアビドスに協力することとなったが、全く気にしていない
・少しでも先生に負けないハードボイルドな振る舞いが出来ているか気になっている。

フライゴン(♀)
・本人にとってはスキンシップだが、噛みつくたびに先生の衣類に穴が空く。
・振動とか屋内で砂嵐は起こせないとかは全部独自解釈 by作者
・別に先生と一緒に怒りを露わにしていたとかではなく、先生の威圧感は大体先生一人のもの

アロナ
・不本意だがゲマトリアのメールを受け取っている
・青の教室内ではアロナもフライゴンに噛みつかれる
・先生がフライゴンに乗って移動する間、ヒフミに電話を呼出している



PokémonChampions、次のシーズンが待ち遠しいです。
はよ未解禁のメガストーンと道具解禁して、と言いたいのですが、メガストーンはまだしもこだわり系アイテムはもうちょっと遅らせてもろて。
ハチマキガブとかメガネブリジュラスとか考えたくもない……。



そして、旗見(はたみ)エリカついに実装ですね。
エリカ推しは随分待たされたのでは?
あとメインストーリーも更新の予告が来たみたいですね。
ユキノはいつ頃になるやら……。
下手すりゃ第二のセイアみたくなるのも覚悟しなきゃですね。
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