シャーレの先生がポケモントレーナーである場合にありがちなこと 作:子々(ネネ)
ちょっと冒険家になって千年の歴史を反復横跳びしていただけなんですがね……。
今月末には彼ヶ津村へ入村準備を始めているかもしれないので、今月中にはアビドス編2章は終わらせる予定です。
黒服との「話し合い」を終えて戻ってきた先生。
……思った通り、日を跨いで戻ってくることになってしまい、先生は申し訳ない気持ちになってしまった。
流石にみんな自宅に戻っているだろう。
そう思いながら、先生はアビドス校舎へと戻ると、対策委員会の部室だけ明かりがついていた。
まさか、と思いながら先生は対策委員会の部室を目指すと、偶然ドアを開いて廊下を見ていたシロコと目が合った。
「……っ、先生!」
「シロコ」
「えっ、先生が戻ってきたの!?」
シロコの反応に釣られるように、後ろから順に顔を出して先生を見やる。
「みんな、ずっと校舎にいたのかい?」
「そりゃ、先生のこと心配だし……」
「便利屋の皆さんは準備のために一度帰られましたが……」
アヤネはトテトテと先生に駆け寄り、両手で先生の伊達眼鏡を差し出す。
「この通り、ちゃんと大事にお預かりしました。お返しします、先生」
「ありがとう、アヤネ」
先生は受け取って、その場で眼鏡をかけ直した。
「それで、先生……」
「皆まで言わずとも分かってる。作戦会議だ――」
先生はそのまま部室に招かれ、対策委員会は夜通しホシノ救出のための作戦会議を行った。
翌日。
先生は【便利屋68】と連絡を取りつつ、対策委員会と共にアビドス砂漠へと駆り出す。
目的地は、黒服から教えられた【カイザーPMC】基地のある一角。
そこが、ホシノが収容されている実験室だそうだが……。
「まさか、旧校舎を基地に改装していたなんて……」
先生が位置情報を教えた時、アヤネがそんな事を口にしていた。
……正しくは、そこはアビドス高等学校の本校舎であり、現在使っている校舎が旧校舎であった。
過去の砂嵐が原因で砂に埋もれてしまい、カイザーグループはその土地も買収し、カイザーPMC基地に改装されていたということだ。
買収された以上、土地を取り戻す事は出来ない。
それはそれとして、ここまでアビドスの尊厳を踏み躙る行為に、対策委員会のみんなは静かに怒っていた。
「……敵影の確認、なし」
最前線を走るシロコがクリアリングをしながら呟く。
もうそろそろカイザーPMC基地が見えてくる頃だというのに、1人も兵士が出てこない。
「妙だな……裏手からヒナ達が陽動で引きつけてくれる、と言ってたんだが……」
先生はヒナと話し合ったことを思い出す。
それは、アビドスを警戒しているであろう兵士達の注目をこちらに引きつけるという、ある意味では囮の役割。
しかし、あくまで“陽動”なので、まさか全ての兵士が彼女達の方へ行くとは考え難い。
何かあったのだろうか。
先生はシッテムの箱を取り出し、モモトークでヒナに連絡しようとして、
「……! 皆さん、上を!!」
アヤネの一声で、全員が空を見上げる。
上空から飛来する大量のそれは、勢いよく先生達の目的地へと突貫し、
――ドゴオオォォォォォンッ!!
という爆撃音が、鈍く届いた。
「……今のって、ミサイル……?」
「げ、ゲヘナ【風紀委員会】の支援ですか……?」
「いや、そんな話聞いてないけど……」
その時、先生のシッテムの箱から通知音が響く。
《先生、今のミサイル攻撃だけど。アコの話だと、あれはトリニティの方角から飛んできたそうよ。それも二度目。何か心当たりがある?》
「…………っ」
ヒナからのモモトークの通知が来て、先生の表情が引きつった。
「先生?」
「……どうやら、カイザーPMCの兵士が出てこないのは今のミサイルが原因かもね」
「ん、どういう事?」
「今のミサイル、トリニティの火力支援みたいだ」
「と、トリニティって事は、ヒフミさんが!?」
……実は、ヒフミからは支援を取り付けた連絡が返ってきていない。
元々そちらは望み薄だったので、協力が得られなかったとしても先生としては想定内ではあったのだが……。
「ちなみに、今ので二度目だそうだよ」
「はあっ!?」
「……流石に過剰では?」
「……まあ、トリニティとしてもここまでやる大義名分はあるだろうけれども、ね」
先生はヒフミがブラックマーケットで教えてくれたことを思い出し、思わず苦笑した。
「……そういえば、トリニティの【ティーパーティー】は大量のミサイル兵器を保有している、と実家にいた頃に聞いたことがあります」
ノノミが思い出すように、静かに呟いた。
そして、ティーパーティーの名が出た事で、先生は内心でため息を吐いて納得した。
(随分強固な“首輪”を渡してきたものだ……)
恐らくティーパーティーが支援の確約をしなかったのは、アコがわざわざゲヘナからアビドスまで風紀委員会を寄越したのと同様だろう。
ヒナ達はシャーレの業務として駆り出されたが、ティーパーティーはそうではない。
目に見える形で手を組む気はないが、支援だけはしてあげるのでいつか借りを返してもらう。
過剰とも言える火力支援は、そういう魂胆を込めているのだろう。
(しかも事後報告か……。タチが悪い……)
トリニティもトリニティで頭が痛くなる問題だ。
だが、今それを考えても仕方がない。
先生はモモトークでヒナに情報共有をしつつ、大声で対策委員会に指示を出す。
「予定を早めよう。カイザーPMCは今のを風紀委員会の仕業だと思うはずだ。戦力のほとんどが向こうに行ってるのかもしれない、急いで基地を制圧するよ」
『了解!!』
一同の歩みは早くなり、カイザーPMC基地へと突入する。
カイザーPMCの基地は見るも無残な状況だった。
建物は勿論、地面も穴だらけであり、ミサイルの爆撃に巻き込まれたのか倒れた兵士達がそこかしこで見える。
「…………いたぞ、あそこだ!!」
「……これだけ?」
奥からこちらを見つけて駆けつけるカイザーPMCの兵士。
だが、その数は数十人と、拠点であるにも関わらず常駐している兵士の数が少ない。
「先生の予想通り、手薄になってますね……」
「貴様らはアビドス!?」
「まさか、さっきの爆撃は本当は貴様らの仕業だったのか!?」
兵士達が口々に騒ぐ。
どうやら本当に、風紀委員会がミサイルを撃ったと勘違いしていたようだ。
……実際はトリニティの仕業だが。
「カイザーグループを舐めた真似、必ず後悔させてやる――」
「――……アヤネ!」
先生の指示を受けて、アヤネは素早くタブレット端末を操作する。
次の瞬間、
――ダダダダダッ!!
上空から銃の乱射音が響き、その次に連鎖爆発が起こる。
兵士達は頭上から爆風を浴び、後方へと吹き飛ばされた。
「今だ、作戦通りに行くよ!」
その指示を受けて、対策委員会は一直線へと走り抜け、先生はそれを見てから明後日の方向へと駆け出した。
意識があった兵士はそれを見て、
「二手に分かれた……?」
痛む体を引きずるように、無線機を取り出して理事に報告するのだった。
(予想通り、理事に連絡したようだな)
先生は後方から兵士の話し声を聞きながら、全速力で基地の中を駆け抜ける。
作戦はこうだ。
先生が囮となり、対策委員会に当てられる戦力を分散する。
そうすることで、ホシノを収容する実験室周辺の戦力を減らす事で、先生の戦闘指揮が無くともホシノを奪還できるはずだ、と。
当然、カイザーPMCの最優先の標的は先生だ。
囮になった先生は確実に抹殺するべく、かなりの戦力を送り込むだろう。
シロコ達は全力で反対したが、先生はある事を提案して納得させた。
先生が提案した内容とは――、
「ゲンゲラゲー!」
「……っ」
影の中からゲンガーが鳴く。
先生は近くの瓦礫に飛び込むように身を隠す。
――ダダダダダッ!!
次の瞬間、先生が先程まで立っていた場所に砂煙が舞う。
あのまま立っていれば、先生は蜂の巣にされていてだろう。
「――まさか、相手の本拠地に来て単独行動とはな」
絞り出すような声。
しかしそこには、確かな怒気を孕んでいた。
「舐められたものだな、シャーレの先生……!!!」
「…………」
ガシガシ、と踏みつけるような足音で前に出てくる大柄の男。
先生は瓦礫からその姿を覗き込み、静かに睨みつける。
「わざわざ自分から出向いてくれるとはね……」
カイザーPMC理事。
兵士達を連れてやって来た彼は先生の顔を見て鼻を鳴らし、吐き捨てるように呟く。
「流石に増長が過ぎるぞ。随分引っ掻き回してくれた様だが、貴様一人殺すのに我々が手こずると思っていたのか!?」
「よく言う。標的を目の前に雁首揃えて棒立ちしていた癖に」
「黙れッッッ!!!!!」
先生の挑発に、理事は顔が真っ赤になる。
「何をしたのか知らんが、あんな事何度も起きるはずが無い! ここを貴様の墓場にしてやるッ!!」
「…………、そう言えば今しがた舐められた、とか言っていたが」
兵士達の銃口が一斉に先生へ向けられる。
先生はそれに動じることなく、思い出したように口を開く。
「舐めてるのはそっちだ」
「……また何かの作戦か? その手には――」
――ヒュウ。
そんな飛来音が小さく泳いだ。
先生は後ろに飛び退いて、地面に伏せる。
次の瞬間、
――ボウッッッッッ!!!
音すらも吹き飛ぶような爆発が、カイザーPMC理事を中心に轟いた。
地面が抉れ、建物が吹き飛び、散乱する瓦礫すらも砕け飛ぶ。
地震が起きたと錯覚するほどの震撼を受け、先生は思わず身体が力むが、
『先生、そのままじっとしてて下さいねっ!』
アロナの声がシッテムの箱から響く。
強力な爆炎が拡散し、周りを吹き飛ばすが、先生を躱すようにそれらは駆け抜けていく。
シッテムの箱の演算能力が発動し、先生が受けるはずの爆炎は全て別方向へと逸れていく。
「ちょっと想定外の威力だな……」
……ちなみに、先程対策委員会と別行動する時に使った爆弾と、今の爆弾はハルカのクレイモアだ。
便利屋68の襲撃時と同様、相手を一掃するために空から起爆させたのだが、アヤネの話ではハルカが改造して威力を上げたらしい。
だからこそ回収した残りのクレイモアを、更に2分割にしてもう片方を持ち主に返したのだが……。
(それだけじゃ説明がつかない威力だな……)
……つまり、追加で爆弾を設置したのだろう。
そんな話、先生は一度も聞いていない。
「……げほ、げほ、い、今のは……っ」
「……全く、私が銃撃一発で致命傷になるからって、いくらなんでも油断しすぎじゃないのか?」
「何だと……?」
先生は立ち上がり、パンパンとコートに付いた砂を払いながら理事達を睨みつける。
「この期に及んで、私が最優先で狙われていると理解できないわけないだろう。だのに、私が単独行動してるからってノコノコ自分から出てくるとはな。自分が捕まったら終わりって自覚がないのか?」
「……っ、ではこれも貴様の作戦か!?」
「――そういう事よ」
理事の言葉に答えたのは先生ではなかった。
コツコツ、と四方向から理事達を囲むように、人影が近づく。
「……なっ、き、貴様たちは……!?」
「ふん……」
理事は目を見開き、自分達の後ろから現れたその少女を見て絶句した。
「一応、顔を合わせるのは初めてになるのかしらね、依頼主サン?」
「き、貴様ら……【便利屋68】!?」
理事に睨まれた【便利屋68】。
真後ろに立ったアルは、地面に蹲った理事達を冷たく見下ろしてから、もう一度鼻を鳴らして口を開いた。
「無様ね……。天下のカイザーグループの一角が、ここまでズタズタにやられるなんて……。名前負けにも程があるんじゃないの?」
「……っ、どういうつもりだ貴様ら! 我々を裏切るのか!?」
「裏切る? ちゃんちゃらおかしい言葉が出てきたわね」
呆れたようにアルは首を振って、もう一度理事を睨みつけた。
「元より私達【便利屋68】とアンタ達は、金で繋がった契約関係でしかない。仲間面されるのは不愉快だわ」
「それに、その金だって前金を貰っただけ。結局はアビドスの土地じゃなかったとはいえ、アビドスには打撃を与えたし、貰った前金分の義理は果たしてるよ。……ま、その義理も昨日までだけど」
サイレンサーをつけたハンドガンをクルクルと回しながら、カヨコがアルの言葉につけ足す。
「くふふ〜。契約相手に裏切られる可能性を考慮してないなんて、先生の言った通り舐め過ぎじゃない?」
「あ、アル様の敵は、全部排除します。殺します!!!」
クスクスと愉快に笑うムツキと、ギラギラとした目で理事達を睨みつけるハルカ。
「よ、よくも……っ!!」
理事はギリ、と歯軋りをしながら辺りを見渡す。
クレーターの上で倒れた兵士達。
起き上がる気配はない。
「こうなれば――」
理事は懐に手を入れて、ある装置の起動ボタンを押す。
次の瞬間、ズボンッ、と大きな音を立てて、少し離れた場所から黒く大きな何かが地面から飛び出す。
アル達は思わずそっちの方向を見てしまい、理事から目を逸らしてしまう。
「カヨコ、理事を!!」
「……っ!」
「遅いわ!!」
走り去る理事に一番近いカヨコに先生は声をかける。
カヨコはハッとしてその勢いで銃撃するが、理事には当たらず、地面から現れた黒く大きな何かに理事は乗り込んでいった。
「あれは……」
「多分、アイツらが昨日言ってたゴリアテだと思う」
人型有人兵器ゴリアテ。
カイザーPMCの最強戦力であり、理事の切り札。
金属音を立てながら、ゴリアテは立ち上がり、巨大な兵器とは思えないスピードで跳躍し、こちらに着地してくる。
「みんな下がれ!」
あの質量が着地すれば、発生する衝撃は凄まじい。
先生は大声で指示を出し、大きく後退して衝撃に備える。
ズシンッ、と地響きが起き、砂煙が高く舞う。
衝撃に怯んだ先生達は、砂煙の奥からこちらを見下ろす大きな影を見やる。
「みんな――」
「皆まで言わなくても良いわ、先生」
先生から見てもかなりのスペックが想定される。
流石に慎重にならざるを得ないと、便利屋のみんなを気遣うように声をかける先生は、アルに遮られた。
「貴方にはお得意様でいてほしいの。私達の戦いぶりを改めて見てほしい。だから、一言だけ頂戴――仕事の時間だ、って」
「…………わかった」
アル達は先生の前に集まる。
そして、一斉に銃を構え、
「仕事の時間だ、目標を確実に撃破して!」
『ラジャー!』
その掛け声とともに、アル達は駆け出す。
「愚かな――!」
ゴリアテはその大きな砲口を先生に向ける。
しかし、
――パァンッッッ!!!
「ぐっ……!?」
突如として耳を劈くほどの轟音が鳴り響く。
音がした方へ理事が目を向けると、
「……どう、怖気づいた?」
サイレンサーを外して、ハンドガンを空へと発砲するカヨコの姿。
「カヨコっちばかり見てて良いのかな〜ッ!?」
クスクスと露悪的に笑うムツキが、手提げのバッグを乱暴にゴリアテへ向けて投げる。
続いてムツキがバッグへ向けてマシンガンを乱射すると、横一直線に絨毯爆撃が起きる。
グラリ、とゴリアテの足が崩れ、片膝をつく。
それでもゴリアテは砲口を構えようとして、
「それを、誰に向けようとしてるんですか……?」
ゴリアテの腕に、ハルカが立っていることに理事は遅れて気がついた。
「アル様を撃つつもりなら……許しません……ッ!!」
ハルカは銃を構えて、ゴリアテの胴体に向けてショットガンを構える。
「死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください―――――!」
パァンッ、パァンッ、パァンッ――!!!
何度も何度もショットガンを乱射し、ゴリアテの胴体部分がベコベコに凹んでいく。
「ええい、止めろ――!!!」
まとわりつく虫を払うように、ゴリアテがブンブンと腕や胴体を左右に振る。
ハルカは遠心力に耐えきれず払い落とされるが、
「上出来よ、ハルカ」
ゴリアテの正面には既にアルが立っていた。
「この距離なら絶対に外さないわ――」
アルは見逃さなかった。
ハルカの乱射によって、胴体に亀裂が走っていることに。
「食らいなさい――私の起爆弾を!」
アルは片手でスナイパーライフルを構え、胴体へ向けて起爆弾を発射した。
そして、
――ドガァァァァァンッ!
ゴリアテの体は、起爆弾の爆発を受けて、内部から爆発した。
そのまま前に倒れ、コクピットから転がり落ちるように理事が出てくる。
「そ、そんな、そんな馬鹿な……っ」
ありえない、と理事はボロボロの姿になって、力なく首を振る。
地面に這いつくばった理事に、カツカツと足音を立ててアルが近づき、銃口を向ける。
「これで正真正銘、アンタの負けよ」
「ぐっ……」
冷たく静かに理事を見下ろすアル。
ギリ、と理事は歯軋りして、絞り出すように声を発した。
「負け、だと……? ふざけるな、認められるか、こんな……!」
「………………………」
「見下ろすな……、私を見下ろすなッ!!」
そして、理事は吠えた。
「私は【カイザーコーポレーション】の理事だぞ……。貴様のような不良学生なんぞとは、天と地ほどにも差がある地位にいるんだぞ!」
「………………」
「それを、よくもことごとく邪魔しおって! 貴様らさえ余計なことをしなければ、シャーレの先生がいなければ、シャーレさえ存在しなければ、こんな――」
「…………ッ」
「我々の計画は完璧だったのだ、そこにいるシャーレの先生だって認めていたのだぞ!? なのに何故こんな事になる!? 貴様らさえいなければこんな事には――」
「甘ったれたこと言ってんじゃないわよッッッ!!!!!」
この場の全ての音がかき消された様な気がした。
ムツキが、カヨコが、ハルカが、そして先生が目を丸くしてアルを見つめる。
険しい表情のアルは、銃を握りしめる手の力が強まり、カタカタと銃が震えた。
「この期に及んで他人の所為にするの? 呆れて言葉も出ないわ……!」
「な、何だと……」
「昨日先生も言ってたでしょう? アンタが負けたのは、アンタのこれまでの行動の結果よ! 大体、これまで散々後ろ暗いことやってた癖に、いざ槍玉に挙げられたら被害者面するなんて、盗っ人猛々しいのも大概にしなさい!!」
「黙れッ! 不良学生風情が、私に説教する気か!?」
「悪事に手を染めれば、その分いろんなものを背負わなきゃいけないのよ……。悪事を暴かれ、裁きを受ける――そういう筋を通す気も無かったのなら、初めからこんな事しなければよかったのよ!」
アルのその言葉に、理事は歯を食いしばり、何も言えなくなってしまった。
そして、先生もアルのその言葉に、静かに瞑目する。
「アンタみたいな中途半端な三下は、初めから成功するはずがなかったのよ! 自分がしでかしたことの責任を取りなさいッ!!!」
「黙れ黙れ黙れェッ!!!」
理事は握り拳をアルに向けて払う。
その時、
「……っぅ!?」
理事は握りしめていた砂を、アルの顔に向けて放つ。
突然の事で防御出来なかったアルは、その砂を顔面で諸に受けてしまい、顔を手で覆いながらよろめいてしまう。
「アル様!!!」
「アルちゃん!?」
「コイツ、よくも……!!」
ハルカとムツキがアルに駆け寄り、カヨコが理事を睨みつけて銃を構える。
理事は素早く何かのボタンを取り出し、躊躇いなく押した。
――ドガァァァァァンッ!
ゴリアテが自爆し、辺りを黒煙が舞う。
そして、誰かが走り去る音が響いた。
「……まさかアイツ、逃げた?」
黒煙が晴れ、倒れていた理事はもうこの場にいない。
先程の足音は理事のものだったと見て間違いない。
「よくもアル様を……!」
「ハルカ、ストップ!」
遅れて駆け寄った先生がハルカを止める。
「アルの方が優先だ。……アル、大丈夫かい?」
「……だ、大丈夫よ。ちょっと、目に砂が入ったくらいだから……」
「無理はしないで」
「本当に大丈夫よ? 目を洗えば、すぐに治るから……」
アルはそう言うが、声には先程までのような力がない。
先生はそれを受けて、理事が逃げた方角を見る。
そしてゆっくりと歩き出した。
「先生?」
「ムツキ達は、アルをお願い」
「……何処に行くの?」
「私が理事を追う」
そう言って、先生は眼鏡を外した。
「…………ッ」
ブルリ、とムツキ達が震える。
そのまま先生は何も言わずに、理事が逃げた方へと駆け出した。
「…………アイツ、終わったね」
カヨコがそう呟いた。
ムツキとハルカがゆっくりと頷く。
走り去る前、先生の横顔は冷たい激情で染まっていた。
理事は完全に焦っていた。
頼みの綱のゴリアテも破壊され、使える兵士も後わずかしかいない。
実験室にいる兵士を呼び戻せば、ホシノが奪還される。
そうなれば、先生と合流されて今度こそ終わる。
「そうなる前に、先に殺すしかない……!」
何とかかき集めた残りの兵士を編成して、理事は指示を出す。
「まずは最優先目標の、シャーレの先生を抹殺し――」
――次にアビドスを潰す。
理事は最後まで言うことが出来なかった。
――ビュゴオオオオオォッ!!
突然の砂嵐で、理事の声がかき消されたからだ。
「うああっ!?」
「こ、こんな時に……!」
「さっきまで天気は穏やかだったのに、なんで……??」
兵士達に動揺が走る。
昨日もいきなり変な音が聞こえたと思ったら、突然自分達の周りにだけ強い砂嵐が吹き荒れた。
今回もそうだ。
いきなり、この場だけつつみ込まれたように砂嵐が巻き起こる。
すぐ先の景色が全く見えない。
吹き荒れる砂の音にかき消されて、何も聞こえない。
……そのはずなのに。
――ザッ、ザッ、ザッ。
砂を踏みしめる音が、理事達の耳に確かに届いた。
「ま、まさか……」
理事はある予感がした。
この足音の主は――、
「―――――――――」
砂嵐に人影が浮かぶ。
その背格好を見て、理事は兵士達に指示を飛ばす。
「目標が現れたぞ! 撃てェッ!!!」
指示を受けて、兵士達は人影に向けて集中砲火を行う。
しかし、
――カァン、カァン、キィン、キィン!
何かに弾かれて、人影に銃撃が届いていない。
「どういう事だ!?」
その疑問に答える間もなく、
「……ふん…………」
砂嵐から、先生が姿を現した。
「きっ、貴様……性懲りもなくノコノコと一人で……っ」
先生の冷たい双眸は静かに理事を捉えている。
まるで大蛇に睨まれたカエルのような気分になるが、理事は怯まずに兵士達に攻撃させる。
しかし、
――ズボォッ!!
「…………!?」
何かが飲み込まれたような音が聞こえ、理事は周りを見渡す。
――砂だ。
現在理事は兵士達の待機所にいる。
基地内の地面はカイザーコーポレーションの手による改装で埋め立てがされており、コンクリートを敷いたうえで建物が建設されている。
なのに、辺り一面の地面は、砂嵐が吹き荒れているだけでは説明がつかないほど、砂で埋まっていた。
まるで度重なる砂嵐で砂の海に沈んだ、アビドスの土地のように。
そして、その砂の海へと沈んだみたいに、兵士達が立っていた場所に不自然な窪みが出来ていた。
「な、何が……一体何をした貴様!」
「まだ他人の所為にするのか。さっきアルに言われたのに、学習能力が無いんだな」
「惚けるな……! 昨日といい、貴様が矢面に立てば何か妙なことが起きる。無関係とは言わせんぞ!!」
「何度詰め寄っても答えは同じだ。ただ、そうだな……」
ふと、先生は思い出したように呟いた。
「お前達、砂漠で宝探しをするんだったか? ならきっと、砂漠の精霊を怒らせて、罰が当たったんじゃないか?」
「ふざけているのか貴様ァ!」
「ふざけているのはお前の方だ」
先生の声色が更に低くなる。
「喚き散らすのだけは一人前で、結局私一人殺せない。敗北も認めることも出来ない。意地汚く逃げ回る。本社にも切り捨てられたのに、私の命一つで本社に返り咲けると甘い考えをしている」
「ぐぅ……っ」
「大人しくしていれば、これ以上苦しむこともなかったんだ」
「ほざけ――!」
理事は苦し紛れに懐から拳銃を取り出し、先生に向けて構える。
「甘い考えをしているのは貴様だ! 一発だけでも命中すれば、私はこの地獄から抜け出し、やり直すことが出来るのだ!!」
「いいや、お前の行き着く先は――“すなじごく”だ」
先生がその言葉を呟いた瞬間、
――ザアアアァァァッ!
「うあっ!?」
突然地面が崩れ、理事はバランスを崩し、尻餅をつく。
そして自分の目線ががどんどん低くなっていることに気づき、地面を見やる。
「……!? こ、これは……!」
砂の渦が出来ていた。
そして、ゆっくりと自身の身体が砂の中へと沈んでいることに理事は気づき、乱暴にもがく。
しかし砂の渦に飲まれた体は全く動かせず、何かほかの方法がないか、理事は辺りを見渡して“それ”に気がついた。
「なぁ…………!?」
何かがこちらを見下ろしていた。
砂嵐に浮かぶ、先生よりも桁違いに巨大な影。
先生の背に立ち、ウネウネと蛇のように、その胴体が左右に揺れている。
「ば、馬鹿な……10メートルはあるぞ!?」
問題なのは、それが先程のゴリアテの倍はありそうな巨体。
巨体と、その体のシルエットで、理事は以前黒服から教えてもらったことを思い出した。
「ど、どういう事だ……、なぜ
(……? いきなり何の話をしているんだ?)
唐突に心当たりのない単語が出てきて、先生は一瞬だけ怪訝な表情を浮かべた。
だが、後で調べれば良いと判断し、
「強めろ」
先生は短く、そう指示を出した。
「ぐあぁっ!?」
理事の身体が砂に沈む速度が上がる。
理事は、兵士達がこの砂の渦に飲まれたのだと理解し、自分の末路も想像できてしまった。
だからこそ、
「た、頼む……助けて、助けてくれ……っ!」
そんな縋るような言葉が、理事の口から出てきた。
「………………………」
それに対し、先生は口を開かずに冷たく見下ろしていた。
その瞳は、影が差していたにもかかわらず、炎が灯されているように爛々と輝いて見えた。
「い、いやだ、嫌だ! 死にたくない、死にたくない!」
嫌だ、嫌だ、と駄々をこねる子供のように、理事は首を振って喚く。
しかし先生は何もせず、ただ黙って見下ろすだけ。
そして、
「ガッ、ネエェェェェェィルッ!!!」
影が咆哮する。
流砂が更に強まり、理事は砂の中へと呑まれていった。
「う、うああああああああああッ!??!?」
理事の断末魔を残して。
「…………はあ」
完全に砂の中へと呑まれていった理事を見届けて、先生は小さくため息をこぼす。
「もう砂嵐はいいぞ、ハガネール」
「ガッ、ネ」
先生がそう言うと、砂嵐がパァ、と晴れていく。
「少ししてあいつらを引き上げてくれ。気絶してるだろうから、後は拘束して【ヴァルキューレ公安局】に突き出す」
「ガッネィル」
全身が鋼鉄の塊で出来ている巨大なヘビのポケモン――ハガネール。
ハガネールは重量感のある首肯をしてから、砂の中へと潜っていった。
「後はどう拘束するかだが……」
先生はシッテムの箱からモンスターボールを引き出そうとして、遠くから視線を感じた。
そちらを見ると、青い顔をして先生を見つめている便利屋68の面々。
「どうしたのみんな?」
「いや、だって……」
「あんな声聞いたら誰だって気になるでしょ……」
どうやらハガネールの咆哮はアル達にも聞こえてたらしい。
先生はアルへと近づき、声をかける。
「アル、目は大丈夫?」
「……ごめんなさい、まだ目は開けられそうにないかも」
アルはムツキに手を引かれている。
ここまでムツキが盲導したのだろう。
だからアルはハガネールを見ていないのか、ほか3人と比べてそこまで怯えてはいないようだ。
「社長の事もそうだけど、さっきのありえないくらい大きなのは何? あれもまさか――」
カヨコが言い切る前に、
「ガッネェェェェェィル!!」
「「きゃあああああッ!?」」
「……ひっ……!?」
「……え、なに、なに!?」
ハガネールが地上に戻ってきた。
いきなり近くに現れて、ムツキ達は悲鳴を上げ、アルはキョロキョロとせわしなく首を振る。
「ハ?」
「ハガネール、戻ったか。理事達は?」
ハガネールは尻尾を地面から引き抜き、尻尾で巻き付けた理事達を砂の上に置く。
「……死んでるの?」
「生きてるよ。生きてないと困る。そもそもポケモン達にそんな罪を背負わせるわけにはいかないよ」
先生は理事達の様態を確認しながら、カヨコの言葉に返答した。
「後は、……こいつに頼むか」
先生はシッテムの箱を操作し、モンスターボールを引き出して投げる。
「ヂュヂュッ!」
出てきたのは、黄色い蜘蛛のポケモン、デンチュラ。
「ひぃっ!?!??」
「ちょ、ハルカちゃんストップストップ! 気持ちはすっごく分かるけどストップ!!」
虫が苦手なハルカは、如何にも蜘蛛の見た目のポケモンが出てきてショットガンを構える。
青い顔をして銃撃しようとするハルカを、ムツキが全力で止める。
「ヂュ〜……」
怖がられているのに気づいたデンチュラは、ショボンと顔が俯く。
「……ハガネールは身体が大きいから怖がるのも無理ないけど、デンチュラがそんなに怖い? つぶらな瞳してて可愛いと思うけど」
「そんな2メートル弱の蜘蛛を見て可愛いとか言うの、先生だけだと思う……」
「えっ、蜘蛛? 蜘蛛がいるの??」
目を閉じているアルはキョロキョロと、怯えながら辺りに顔を向け、ギュッとムツキの手を握る。
(不憫だな、デンチュラ……。アロナちゃんにも怖がられてるのに……)
先生は基本的に、シッテムの箱の中ではポケモンをボールから外に出している。
だが、デンチュラだけはアロナが怖がって、ボールの中に入ってもらっている。
「デンチュラ、あいつらを拘束してくれ。“ねばねばネット”を使ってうまく出来ないか?」
「……ヂュヂュ?」
デンチュラは気絶している理事たちを見て、少しの間首を傾げ、カサカサと近寄る。
そして何かを思いついたように、キリッとした顔でプッと糸の塊を吐く。
続いて、カサカサと移動して糸を吐き続け、理事達はどんどん糸に巻かれていく。
次第にそれは球体の形となり、最後には毛糸玉のような大きな糸の塊になっていた。
「ヂュ〜!」
人仕事終えたと言わんばかりに、フゥ、とデンチュラは大きく息を吐く。
(ここまでしろとは言ってないんだけどな……)
理事たちを拘束する糸の塊は、いつの間にか大型バス並みの大きさになっており、人の手では運べない有り様になってしまっている。
(仕方ない、カイリキーに運んでもらうか)
先生はそんな投げやりな感じに思考を終わらせて、アル達に向き直る。
「君達はこの後どうするの?」
「どうするって……」
「一応、私の立場としては君達を何の理由もなく見逃すことは出来ないんだけど。……まあ、大きな借りが出来ちゃったからね。恩を仇で返すような事はしたくないんだ」
「……ふふ、さっきも言ったわよ先生」
目を閉じたままのアルは、得意げな表情で返答する。
「先生にはお得意様でいてほしいの。今後も先生とは良い関係でいたいから、今後ともご贔屓にしてもらいたいのよね」
「……ああ。危ないことをしないと約束するなら、そうさせてもらうよ」
「あら、手厳しいわね。その約束は守れそうにないわ」
だって、とアルは続ける。
「私達は【便利屋68】。どんな依頼も報酬を貰えば必ず受ける、裏社会を貫く弾丸だもの」
「…………、そうかい。なら次に会う時はまた敵同士かもしれないよ?」
「その時は……、まあ、何とか逃げ切ってみせるわ! ヒナすら振り切る逃げ足を見せてあげる!」
「アルちゃん、それちょっとカッコ悪いよ……」
「し、仕方ないでしょ! さっきも言ったけど、先生とは良い関係でいたいの!」
「ハハハッ! なら、敵として出会わないことを祈ってるよ」
先生のその言葉を最後に、アル達はアビドス砂漠を去っていった。
その背中を最後まで見送った後で、少し離れた場所から爆撃の音が届いた。
そちらを見やると、黒煙がもくもくと立っている。
あの場所は黒服が教えてくれた、実験室がある場所だ。
「向こうも潮時か……」
ポツリと、先生は続ける。
「俺じゃ無理だった。だから、取り戻してくるんだ―――――」
―――――君達の、大切な仲間を。
大体3行で分かる! 登場人物紹介
シャーレの先生
・先生、キレたッ!(二度目)
・後日アル達に報酬を支払いに行く
・先生がポケモントレーナーになって間もない頃の最初のフルメンバーは、????ン(????)、???ド?(?????)、クロバット(ズバット)、ハガネール(イワーク)、ウツボット(マダツボミ)、???ン(???) ※()内のポケモンは進化前
陸八魔アル
・アビドスを差し置いて引導を渡す気は無かったが、それはそれとして怒り心頭
・翌日先生から紹介してもらったセリナに目の治療をしてもらう
・多少格好悪くとも、筋を通す事が大事だと学習したことで少し度胸が付いた
伊草ハルカ
・虫が苦手
・爆弾を一晩で改良してくれました
・アルを傷つける奴は許さないが、それ以上に先生や先生のポケモンに怯えている
ハガネール(♂)
・先生がポケモントレーナーになって間もない頃にゲットしたイワークが進化したポケモン、オヤブン個体
・“ワイドガード”で先生を銃撃から守り、“すなじごく”で地面を砂へと変質化させた
・先生にとって、ロケット団との因縁の始まり、その象徴であるポケモン
デンチュラ(♀)
・同じ女の子なのに、女の子に怖がられるのは結構ショック
・デンチュラの糸は電気を纏っているので、縛られた理事達はピリピリと電気攻めされていた
・先生「そう言えば、ブルーベリー学園でも電気石の岩窟に立ち寄らない生徒はそこそこいたかも……」
大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
不定期更新とはいえ、あんまり間が空くと読み手の方だけでなく書き手の私も話の流れが忘れやすくなるので、良くないことなんですがね。
しかし、HD-2Dは初めて体験したのですが、もしかしたらポケモンBWのリメイクもあんな感じの方が作風が崩れなくていいかもしれません。
私の記憶の中でも、BWシリーズは建物とか結構立体的なの多かったですし、相性は悪くないと思うんですよね。
さて、先生のポケモン達ですが、今回のアビドス編で登場したのは、
じめん:フライゴン
はがね:ハガネール
でんき:デデンネ
でした。
ハガネールとデデンネは分かりやすかったと思いますが、フライゴンは中々出てこなかった読者の方が多かった印象です。
ゲーム開発部編ではもっとポケモンの登場回数の改善を行い、更にポケモンの数を増やす感じのストーリーへとなっていく予定なので、今後とも宜しくお願いします。