シャーレの先生がポケモントレーナーである場合にありがちなこと 作:子々(ネネ)
――全部、先生が正しかった。
カイザーPMCの護送車に乗せられ、収容施設のような場所に入れられた私は、そんな後悔を心の中で吐き出した。
アビドス高等学校から引き剥がされ、カイザーPMCがアビドスへと攻撃することも止められず、黒服に実験動物として拘束される。
私はまた騙された。
絶対に信用しないと決めていた、大人に。
――ホシノ、君はアビドスの最上級生だ。
――君の行動1つで、後輩達の未来が左右される。
――……捨て身になるのは止めたほうが良い。
先生の言う通り、もうしばらく踏みとどまっていれば。
少なくとも後輩達が危険な目に遭うことはなかったかもしれない。
先生に見切りをつけていなければ。
カイザーグループと黒服の関係を、先生は見抜いてくれたかもしれない。
けれど、そんな先生に私は……。
――貴女の肩にはアビドスの未来がかかっているんですよ!? いつまでそんな夢見がちな事を言っているんですか!! 貴女は生徒会長でしょう!?
「…………ッ」
心臓が締め付けられる気分になる。
今更になって、あの時先輩の気持ちを思い知ることになるなんて。
生徒会に所属していた私は、たとえ生徒会が活動しなくなったとしても、私の肩にはアビドスの未来がかかっていた。
先生はそれに気づいていた。
……私が気づかなければならない事を。
――格好つけるんじゃない!!
――私を信用できないなら、私に大切なものを預けるな!!
――大人を信用出来ないなら、その大人に縋り付くんじゃない!!
――自分の大切なものは、自分で守れ!!!
……本当に、先生の言う通りだった。
黒服なんて、これっぽっちも信用できない大人なのに。
なのに私はアビドスや後輩たちの命運をアイツに託してしまった。
その結果がこれだ。
あの時、私は思わず立ち止まってしまった。
先生がああいう辛辣な言い方をする時は、それは間違っているのを強行するのを止める時だ。
なのに私は意固地になって、先生は得体の知れない存在だ、なんて自分に言い訳して振り切った。
それだけじゃない。
あんなに引き止めてくれたのに、私は酷いことを言ってしまった。
本当は先生への手紙も用意していた。
先生は最初全く信用できなかった。
けれど、先生は他の大人とは全然違うんだって。
だから、後輩達を任せられる。
そんな手紙を残すつもりだった。
だけど、先生に言われたことが受け入れられなくて、頭に血が上ってしまってその時の勢いでその手紙を破り捨ててしまった。
……頭が冷えた今にして思えば、正解だったと思う。
無責任。
本当に、どの口が言ったんだろう。
先生にあんな事言っておいて、そんな手紙を残したら先生にも同じ事を思われるだろう。
あの人は優しい人だ。
けれど、甘い人じゃない。
便利屋68には脅すくらいには容赦なかったし、銀行強盗の時も長い説教を受けた。
市街地で好き放題便利屋と銃撃戦していた風紀委員会にも凄んでいたらしいし。
だったらきっと、私のことも愛想を尽かしているだろう。
「助けには、来ないだろうなぁ…………」
そんな諦観が口から零れた。
アビドスはとっくに詰んでいる。
先生が打開策を思いつけなかったのなら、挽回の可能性はない。
先生はきっと、シロコちゃん達は助けてくれるかもしれない。
でも、私まで助ける余裕は無いだろう。
そんな義理も、先生には無いだろうし。
「…………せんぱい」
震える声で、在りし日の先輩を呼ぶ。
貴女が生きていてくれたら。
貴女が今もアビドスに居てくれたら。
私が貴女を見限っていなかったら。
「……何かが、変わってたのかな」
私は、そんな叶わない願いを呟きながら、意識を手放した。
…………ドンドンと、何かを叩く音が聞こえる。
――一番奥ってここ!?
――ん、それ以外の部屋はもう調べ尽くした。
「………………」
その音は、少しずつ近づいてくる。
――やけに厳重に閉められた扉ですね……。
――もしかしたらここに……っ。
音が一度ピタリ、と止まりその直後にバンバンバン、と何かを打ち付けるような音が部屋に響いた。
「……っさいなぁ」
完全に目が覚めてしまった。
もう目覚めないつもりだったのに。
打ち付ける音は絶えず響く。
――やたら頑丈なんだけど、この扉!?
――退いてくださいっ、私のガトリングで……!
ガガガガガ、と更に強く音が響く。
「……お願いだから、静かにしてくれないかな…………」
そんな言葉が、ポツリと零れる。
私の気も知らずに、扉を叩く音は絶えず響き、更に強さを増していく。
――ホシノ先輩、そこにいるの!?
――いるなら返事をしてくださいっ!!
――ホシノ先輩!
――お願いです、無事なら声を上げてくださいっ。
「静かにしてよ…………」
はっきりと私を呼ぶ声が聞こえた。
ここで聞こえるはずのない声。
聞こえてはいけない声。
「どうしてここに…………っ」
――ちょっとっ、意識があるなら返事してよ! こっちは言いたいことが山ほどあるんだから!!
ダンダンッ、と扉への衝撃が変わる。
その音が続く度に、ベコベコ、と歪むような音が出る。
――セリカちゃん、手が……!
――……っ、そんなの今はどうでもいいわよっ。
「お願いだから、もうほっといてよ……っ!」
こんなダメダメで、惨めで無責任な先輩を追いかけてこないで。
カイザーPMCの兵士が来る前に、早く……!
――絶対に諦めないわ、
「…………、ぇ」
俯いていた顔が持ち上がった。
およそありえない言葉が出てきたからだ。
あの人が協力するなんてありえない。
だってアビドスはもう詰んでいる。
ここは敵の本拠地。
先生が皆の逃げ場所にするには絶対に選ばない場所だ。
……けれど、先生でもなければ皆がここに来られるはずがない。
「どう、して……っ」
それはすなわち。
先生が私を助けるという、極めて
「どうして……っ」
あんなに酷いことを言ったのに。
露骨に拒絶したのに。
必死に引き留めてくれたのを振り切ったのに。
「どうして、私を……っ」
奥に見える扉から光が漏れる。
バンバンと、音が響く度にその光も揺れる。
――どいて、セリカ。
――シロコ先輩?
――これを使う。
――ちょ、シロコ先輩、何でそれを……!?
――ドゴオオォォォォォンッ!!!
そんな音とともに、奥から光が入り込んできた―――――。
無事、ホシノを救出できた対策委員会。
再会の喜び、帰還の挨拶も束の間に、ホシノはセリカを筆頭にあれこれと文句を言われることになる。
「……ったく、今回ばかりは本当に勝手すぎるんだから」
「う、うへぇ、もう勘弁してよ〜……」
「ん、しばらくは容赦しない。甘んじて受けてもらう」
「……というか、こんな悠長な事をしてて良いの? カイザーPMCの報復とか……」
「そっちは問題ありません。たった今先生からカイザーPMCの理事を筆頭に、兵士の拘束が完了したと連絡が来ました」
「……っ!?」
アヤネがタブレット端末を見ながら、ホシノの疑問に答える。
己の耳を疑うような反応をして、ホシノはポツリと呟いた。
「……本当に、先生がこんな無茶な事に協力してくれたんだ」
「……やっぱり、ホシノ先輩は先生を誤解されていますね」
静かにノノミがホシノの言葉に返答する。
「先生は厳しい方でもありますが、冷たい方ではありません。ホシノ先輩が間違ったことをしたからといって、見捨てるような事は絶対にしませんよ?」
「……だからって、今回ばかりは無茶苦茶だよ。先生はそういう無茶に、周りを巻き込まない人だと思ってたのに……」
「巻き込まれる? 勘違いしないで」
聞き捨てならない。
シロコは眦を釣り上げて反論した。
「私達は私達の意思で戦ったの。巻き込まれたつもりはないよ。先生が止めたとしても、私は一人でホシノ先輩を助けに行くつもりだった」
「シロコ先輩なら本当にやりそうですね……」
「そんで、先生がそれ以上に形振り構わず止めそうだわ……」
やれやれ、とアヤネとセリカが肩を竦めて首を振った。
「……というか、その先生は? 話が見えてこないんだけど、一人にさせて大丈夫なの? あいつらの報復に遭ってないといいけど……」
「そこは大丈夫じゃない?」
「ん、便利屋68と合流してるはず」
「それにいざとなれば、ポケモンに力を借りる、と言ってましたし」
「そうなってた場合、やりすぎてないかが心配ですね〜♧」
「えっ」
更に話が見えなくなった。
「えっと……?」
「そうだ、結局アイツら捕まえたの先生じゃない!? アビドスの存続の話ってどうなるの!?」
「……んん、このままじゃシャーレの手柄になる?」
「……あっ、先生から連絡が来ました。今すぐ旧住宅街まで戻ってきて欲しい、ですって」
「旧住宅街?」
ホシノはそれを聞いて首をかしげる。
その場所はかつて住宅地が沢山あった場所だが、アビドスの校舎同様砂に沈んでしまった場所だ。
「……ってちょっと待ってっ。今アビドスの存続って――」
「後にしてホシノ先輩! 早く先生に合流しないとっ」
本当に急いでいるのか、ホシノの質問も雑にあしらってセリカ達は旧住宅街へと走っていくのだった。
そんな彼女達の背中を見て、
「今度は何したの、先生……」
会いたいような、会いたくないような。
そんな複雑な心境を含んだ言葉だった。
旧住宅街。
砂に埋もれた家屋の屋根に腰掛けた先生は、シッテムの箱を操作しながら、対策委員会の帰還を待っていた。
そして、砂を踏みしめる音に気づき、そちらの方向を向いて微笑む。
「……ふふ、皆おかえり」
「先生、ただいま! どこも怪我してない?」
一番に駆け寄ったセリカとアヤネが先生の身体中を見渡し、怪我が無いことを確認する。
「信用ないなぁ。アル達もいたし、怪我なんてしてないよ」
先生ほ苦笑をする。
それを聞いたアヤネは、ふと辺りを見渡して、それが視界に入りギョッとする。
「せ、先生? あの白い塊って……」
アヤネが指差した方向に全員が顔を向ける。
そこには、頭だけを出したカイザーPMCの面々が白い何かに埋まり、巨大な白い球体と化している様態。
駆けつけた時には建物の残骸かと思っていたが、よくよく見てみると滅茶苦茶不自然な物体だった。
「いやぁ、念入りに拘束したらあんな事になっちゃって……」
「何をどうしたら……、いや、これもポケモンなら可能なの……?」
「ここまで運ぶのに苦労したよ」
「ん、こいつらどうするの?」
「勿論逮捕してもらうのさ――【ヴァルキューレ公安局】に」
先生は話す。
先程ヴァルキューレ公安局に通報し、護送用のヘリコプターでアビドスに向かってきてくれている様だ。
アビドス生であるホシノ達は引き渡しに立ち会い、それを先生が記録して連邦生徒会に報告すれば、治安維持能力を認められアビドス高等学校の存続は延命されるだろう、と。
「えっ、えっ、えっ!? 何がどうなってそんな話になってるの!?」
つい先程までカイザーPMCに捕まっていたホシノは話についていけず、ただただ困惑するだけだった。
「聞いてよホシノ先輩! こいつら昨日、アビドス自治区に武力侵攻してきたから、先生が犯罪者として全国指名手配犯にしたのよ!!」
「ん、後は私たちが捕まえたら連邦生徒会に学園存続が認められる」
「それと、生徒会の後任組織を立ち上げないと、ですね」
「そう言えば先生、便利屋の皆さんはどうされたんですか?」
「アルが怪我しちゃってね。風紀委員会の事もあるし、先に帰らせたよ」
「ん、あいつらも捕まえたら更に功績が大きくなったのに」
「まだ言ってるんですかシロコ先輩……」
「は、はは……、なにそれ…………っ」
たった1日。
たった1日アビドスにいなかっただけで、ここまでアビドスがホシノの与り知らぬ情勢に変わっていたことに、ホシノは渇いた笑みが漏れ出た。
だが逆に言えばそれは、ホシノが予期した通り先生がシロコ達を導いてくれたということになる。
「なら、私が今までやってた事って一体…………」
「ホシノ先輩?」
「………………………」
ホシノは俯き、ブツブツと呟いている。
シロコ達は訝しんで声をかけるが、ホシノからの反応はない。
だが、最初何を呟いていたのかは、先生の耳にははっきりと届いていた。
「ホシノ」
「……っ、先生」
先生はホシノの正面まで近寄り、声をかける。
「先生……、わたしは…………」
ホシノは顔を上げるが、先生とは顔を合わせようとしない。
フルフルと首を小さく振り、口がモゴモゴと開閉しポツポツと声が漏れる。
それはまるで、親に叱られる前の子供のようで。
「そ、その、私……――」
「謝罪なら、受け取る気はないよ」
「――うへっ??」
ホシノの顔がポカン、と呆ける。
「あの時、ホシノが私に言ったことは間違いじゃなかった。特に意見も出せず、詰んでいると諦めかけていたんだ。……私を信用できないのも無理はない」
「…………なに、それ」
先生は目を伏せながらも続ける。
「ホシノが私を受け入れていないのは初めから気づいていた。なのに、私はその関係改善よりも、アビドスや皆のために出来ることを考えようとしていた。……関係改善は後からでも遅くはない、なんて自分に言い訳して」
「やめてよ……っ」
「その結果、君達がバラバラになりかける事態になった。担当顧問としてこれほど情けない話は――」
「勝手に話を纏めようとしないでよッ!!!」
シロコ達は目を丸くする。
そんな後輩達をよそに、ホシノは素早く先生に詰め寄り、コートの襟を掴んで強く引き寄せた。
「なっ、ホシノ先輩何を――」
普段のホシノではありえない、感情的すぎる行為にアヤネは異常事態だと判断し、止めようと駆け出して、
「……っ、ノノミ先輩?」
「………………………」
がしり。
その肩をノノミに掴まれた。
ノノミの表情は今までに見たこともないくらい、真剣なものだ。
「ホシノ……」
「何で自分が一番の悪者みたいになろうとしてるのさ……」
ホシノの震える声に比例するように、彼女の目尻が少しずつ下がっていく。
「先生は何も悪い事してないじゃん!! 散々私に振り回されたのに、無責任な事した私なんてほっとけば良いのに、シロコちゃん達を守ってくれていればそれで良かったのに!!!」
「………………………」
「昔からずっとそうだった……。間違ってばかり、無責任な事してばかり、傷つけてばかり……。こんな私なんて居なくなったほうが皆のためになるのに……」
「……どうやら、他にもお説教しなきゃいけないことがあったみたいだね」
「…………ぇ……」
ホシノは涙目になりながらも、先生の顔を見上げる。
先生の顔からは笑みが引っ込み、大いなる何かのような空気感がホシノに突き刺さった。
「自分の事を無責任だと言っているが、無責任に対する贖罪が捨て身の献身だと思っているのなら、それこそ大きな間違いだ」
「…………ッ」
ブルリ、とホシノは竦み上がる。
先生から手を離し、一歩後ずさる。
先生はそんなホシノの姿を一瞥して、続いてシロコ達を見渡した後に空を見上げる。
陽は傾き始め、群青と茜色のグラデーションが出来ていた。
「昔話をしよう。……ある2人の馬鹿な男がいた。男達はそれぞれ、自分達の考えが世界の発展に必要な物だと信じて疑わず、色んな人やポケモン、物を巻き込んでいった。……そして、世界の滅びの引鉄を引いて、あわや世界滅亡――なんてことがあったんだ。……まあ、こうして私が生きているから異変を止められたわけだけれど。
問題なのは、2人は自分の行いを反省して罪を償うために甘んじて裁きを受ける覚悟をしていた。そんな2人にこんな事を言った人がいるんだ―――――」
―――――罰を受けるのは誰しも一瞬。本当に大切なのは自らの過ちに対して、何をすべきかではないかね? それが、自らの行いの責任を果たすという事だと思うがね。
「責任…………」
「それまで私は、悪いことをしたやつは警察に捕まって裁きを受けて、それで
先生はホシノに向き直る。
「ホシノ、自分のこれまでのことを過ちだと感じたのなら、それは自らに罰を科すのではなく、これからの行動で何をすべきかを考えた方が建設的だと思わないかい?」
「………………………」
ホシノは目を伏せる。
そして、ゆっくりと言葉を発した。
「出来るかな、私に……。正直、全然自信ないや」
「一人で分からないなら、皆に相談すればいいじゃないか。何も言えない、何も相談できない仲間なんて、本当に仲間と言えるのかい?」
「……っ、それは…………」
ホシノは改めて、後輩達を見渡す。
「みんな……」
「ん、先生の言う通り。アビドスはこれから沢山やらなきゃいけないことがある」
「そうよ! あいつらをヴァルキューレに引き渡しても廃校が完全に撤廃されるわけじゃないんだから、対策委員会の活動はまだまだ続くのよ!!」
「私達も先生も、ホシノ先輩の退学は認めていませんし、今も私達【アビドス廃校対策委員会】の仲間なんですよ。勝手な事してそれで終わりだなんて、絶対に認めませんからね、委員長!」
「ホシノ先輩……」
ノノミは前に出て、先生の隣に立ちホシノへと言葉を送る。
「私も、自分自身に責任を感じている身です。そして、今の先生のお話で私も覚悟が持てました。ホシノ先輩の抱えているものを、私にも少しでも抱えさせてください」
「ノノミちゃん、みんな…………」
ホシノの目尻に大きな雫が溜まる。
そして、自らの袖でそれを拭き取り、ふにゃりとした笑みを浮かべた。
「みんな、本当に頼もしくなったねぇ。先生には本当に感謝しないと〜」
ようやくホシノが調子を取り戻してきた。
シロコ達はそう確信し、つられて笑みが零れた。
「……ありがとね、先生。おじさんにチャンスをくれてさ」
「チャンスって?」
「え? いや、先生が言ったんでしょ? 自らの過ちに対して何をすべきか、って。きっとそのために無茶をしながら助けに来てくれたんじゃ……」
「いやいや、そんなこと考えてる暇なんて全然無かったよ、こっちは」
「ええ??」
「アヤネがさっき言っただろう? ホシノは今でもアビドスの生徒だし、対策委員会の委員長だよ」
それに、と先生は続ける。
「ホシノを助けるのに、いちいち理由が必要なのかい?」
「…………!!!」
ホシノは目を丸くして閉口する。
うへっ、とホシノは鳴き声を上げて、目を何度も瞬かせる。
そして、ボソリと小さく呟いた。
「……本っ当に、敵わないなぁ」
その後。
ヴァルキューレ公安局に指名手配犯であるカイザーPMCの理事及び兵士をアビドス生徒が引き渡したことは全国ニュースとなり、しばらくテレビやネットのホットニュースとなった。
そして、カイザーグループの親会社である【カイザーコーポレーション】がヴァルキューレ警察学校に接触があったようだが、それがいつの間にかアビドスとの示談となり、カイザーコーポレーションがアビドスが背負う負債の約半分を、自治区への損害に対する補填を名目にして免除という結果となった。
続いてアビドス高等学校だが、ホシノが校舎に戻ってきて、改めて先生立ち会いのもと、【アビドス対策委員会】の名で後任の生徒会が設立された。
その他あれやこれや、エトセトラ……。
先生は纏めた報告書を、連邦生徒会統括室でリンに拝見してもらっていた。
「ありがとうございます、先生。まさかカイザーコーポレーションがこのような事を画策していたとは……」
「やっぱり、企業がこういう事するのって、連邦生徒会としてもかなり問題なのかい?」
「学園自治区は連邦生徒会の認可によって自治、治安維持を学園に委任している形でもあります。土地の一部を契約によって企業に貸し与えていたのならまだしも、今回のアビドスのように連邦生徒会の与り知らぬ場で土地を企業に売却するというのは、信用問題にも関わります」
何より、とリンは報告書とは別にある用紙を見る。
リンはそれを睨みつけて、先程より一層低い声で先生に尋ねる。
「ここに書かれてある内容は事実なのですか?」
「まだ明言は出来ない。けれど、あの時理事は連邦生徒会にしか伝えていない、
先生は一時報告の際に、リンにはアビドスの臨時担当顧問になった事は伝えてある。
そして、連邦生徒会から「シャーレの先生は仕事によりしばらくシャーレオフィスを留守にしている」という告知を頼んである。
「カイザーグループへは、連邦生徒会から情報漏洩したものだと考えるのが自然だ」
「………………………」
リンはこめかみを抑えて沈黙する。
「……これから犯人探しをすると?」
「いいや、尻尾を出すまでそれは放置でいい」
「それは、どういう……」
「目的が分からない以上、炙り出そうとしてもかえって別のトラブルが生まれかねない。だから
「秘密……、ならこの用紙は――」
「今ここで破棄する。……いい機会だから、リンにも紹介しておこう」
「紹介?」
リンの怪訝な表情をよそに、先生はモンスターボールを取り出した。
「私の世界には、ポケットモンスター――縮めてポケモンと呼ばれる生き物がいてね」
「ポケモン、ですか」
「ああ、こっちに連れてくることになったんだけど、普段はこのボールの中にいるんだ」
「えっ」
リンの視線がモンスターボールに向けられる。
先生はボールを放り投げ、そして、
「グルオォォゥッ!」
「……!?!!?」
ボールから、成人男性並みの大きさの生物が現れてリンは絶句した。
全体的にオレンジで、コウモリのような大きな翼。
爬虫類のような雰囲気があるが、その尻尾には大きな赤い炎が灯っている。
「ドラゴン……?」
その姿形を見て、リンは思わず呟いた。
先生はリンから用紙を取り上げて、クシャクシャに丸めて放り投げる。
「リザードン、頼む」
「ルウォォォォォッ!」
――ブオオオオオォッ!!
「なぁ……!?」
リザードンと呼ばれた生物が、口から炎を吐き、丸められた用紙を一瞬で焼き消した。
「せ、先生、そ、その生き物は……」
「そう、こいつがポケモン。私にとってはありふれた存在で――」
――私みたいな人を、ポケモントレーナーと呼ぶ。
大体3行で分かる! 登場人物紹介
シャーレの先生
・ホウエン地方での旅で、背負うべき責任、果たすべき責任というものを学習した
・理事達を引き渡した後に、カンナと一緒に【ヴァルキューレ公安局】へと同行した
・5年前、ある事件解決に関する責任を果たす事から逃げた
小鳥遊ホシノ
・アビドス高等学校3年、【アビドス対策委員会】委員長
・このまま黒服の実験動物にされて死ぬのを覚悟していただけに、夢でも見ているのかとさえ思った
・先生はまだ怖いけど、信じても良いと心から思えた
砂狼シロコ
・アビドス高等学校2年、【アビドス対策委員会】所属
・ハルカの強化クレイモアを1個だけくすねていた
・ホシノと先生が喧嘩を始めたらどうやって止めようか、実は内心すごくハラハラしていた
十六夜ノノミ
・アビドス高等学校2年、【アビドス対策委員会】所属
・ホシノと先生が本音で語り合う絶好の機会をどう作るべきか悩んでいたら、特に自分から何かをする必要はなかった
・責任の果たし方について、色々思うところがある
黒見セリカ
・アビドス高等学校1年、【アビドス対策委員会】所属
・生徒会の名前を真面目に考えている間に、勝手に決まっててちょっと出鼻を挫かれた
・アルが怪我をしたと聞いて、素直に心配している
奥空アヤネ
・アビドス対策委員会1年、【アビドス対策委員会】副委員長
・生徒会名の命名者
・先生が自分たちと別れて行動するのを最後まで反対していた
七神リン
・アビドス編での登場は前回が最後と言ったな、あれは嘘だ by作者
・ポケモンという胃痛案件を知ったが、許可なく先生が連れてくるような性格ではないと理解してるのですぐ冷静になった
・それはそれとして連邦生徒会長はよ戻ってこいと強く思うようになった
リザードン(♂)
・先生がポケモントレーナーになった日にオーキド博士から貰ったヒトカゲが進化したポケモン、サイズはM
・先生にとっては兄貴分のような存在
・本来覚えない“だいふんげき”が使える
これにて、アビドス編2章は完結となります。
最後は先生とホシノの問答を必ず入れようと考えていたのですが、これがなかなかまとまらず……。
何かおかしいなあ、解釈違いだなあと、感じたら書き直すかもしれません。
さて、以前にも告知した通り、次はアーカイブ編を何話か書いた後に、パヴァーヌ編1章を書く予定です。
それと、最後に先生の相棒であるリザードンが登場したわけですが、実はリザードンの登場はもっと引っ張るつもりでした。
しかし、これから登場ポケモンをどんどん増やすつもりなのに、最初に来たポケモンを出し渋ってどうすんだよと考え、急遽登場させました。
私はこういう見切り発車なこともしたりしますので、ご容赦くださいませ。