シャーレの先生がポケモントレーナーである場合にありがちなこと   作:子々(ネネ)

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ポケモン風波「そんなに怖いか、新世代が?」
そんな事をポケモン公式から言われた気分でした。
この小説は第十世代を想定して執筆しておりませんので、発売された後はどうしようかと悩んでます。

とりあえずチュートリアルに登場したキャラ視点の話は一旦ここまで。

ハスミはエデン条約編辺りの話を書くときにでもメインに据えればと思ってます。


先生に一目惚れしなかった狐坂ワカモにありがちなこと

百鬼夜行連合学院。

かつて様々な学区が派閥争いを行い、そして一つの大きな学院へと統合された歴史を持つ。

この学院の周囲には様々な分校も点在しており、トリニティとはまた違った校風がうかがえる。

 

 

 

 


 

 

 

百夜ノ春ノ桜花祭。

百鬼夜行自治区では例年、春頃に行われる伝統的な祭事であり、その運営の手伝いを【お祭り運営委員会】よりシャーレに依頼された。

 

しかし、その実態はお祭り運営委員会に対する妨害の対処であり、前時代的な思想を持っていた者が祭事を台無しにしようとしていたのを突き止める事だった。

 

見事事件は解決され、桜花祭は恙無く開催された。

これはその後のお話。

 

無事桜花祭が滞りなく行われたことで、【お祭り運営委員会】委員長である河和(かわわ)シズコの提案により、運営に関わった者たちで小さな後夜祭を開こうという話になった。

 

百夜堂を会場として、お祭り運営委員会を筆頭に【修行部】の3人、シャーレの先生。

そして、

 

「主殿ー!」

「イズナ、そっちも買い物終わった?」

 

先生はシズコより頼まれた買い物を終えて、店の前で待っていると、両手に買い物袋を持って駆け寄る少女が1人。

久田(くだ)イズナ。

先の事件に深く関わっていた重要人物の1人であり、悪い大人に騙されて悪事に加担していた少女。

 

しかし、それを改め、桜花祭の運営を一所懸命に手伝ったことで、シズコも後夜祭に彼女を誘ったのである。

 

ただ、先生が気になるのは――

 

「はいっ、全てこの通り! ささ、百夜堂へ戻りましょう! イズナが道中、主殿をこの身をもってお守りします!」

「は、はは……。無理はしないでね?」

 

凄く懐かれたということだ。

大したことはしていないはず。ただ――

 

“イズナが忍者になれるかどうかはイズナ次第だが、それは忍者の存在を、イズナの夢を否定する理由にはならない。”

”私の世界には忍者も、超能力者も、魔法使いもいる。忍者の存在は私が肯定するよ。”

 

――という先生の言葉をイズナが聞いていたくらいだ。

先生にとってまったくの誤算だったのが、イズナの夢を肯定してくれることが彼女にとってこれほど重い事だったということ。

今もピコピコと頭の耳や尻尾が嬉しそうに揺れているイズナの姿を見ていると、何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないか、と不安になってしまう。

 

過ぎたことは仕方がない。

ゆっくりイズナとの距離感を改めてみよう。

そう思った矢先。

 

「……っ?」

「……主殿?」

 

先生は遠くから視線を感じて、建物の屋上を見やる。

そこには誰もいない。

 

念の為、足下をコンコン、と小さく足で叩く。

チラリと目線だけ下へ落とすと、()()()()()()「それ」

はフルフル、と小さく首を振った。

どうやら、既に視線の主は居ないらしい。

 

次に隣のイズナに目を向ける。

 

「何かありましたか?」

 

先生の視線を追ってキョロキョロと建物の上を見ているが、反応からして視線に気づいたように見えない。

イズナはホシノやヒナには劣るだろうが、その身体能力は百鬼夜行内でもトップクラスの才能を秘めていると先生は確信している。

その彼女が視線に勘付かなかったということは、それだけ手練か、あるいは……。

 

(気のせいか……?)

 

最近運動不足気味である事を鑑みて、先生はイズナの感覚を信じる事にしたのだった。

 

 

 


 

 

 

「――……冗談でしょう?」

 

先生の気のせいではなかった。

先生から遠く離れた場所よりその姿を捉え、注意深く観察していた着物姿の少女――狐坂(こさか)ワカモは恐怖心を覚える。

 

いきなり立ち止まってこちらを見てきたので、ワカモはその場から素早く逃げ出したのだ。

 

あの男を敵に回せば最悪、命は無い。

それがワカモの先生に対する認識なのである。

 

 

 

 

 

なぜ「災厄の狐」と呼ばれる程の危険度を持つワカモが先生を恐れるのか。

 

それはシャーレ発足日まで遡る。

不良生徒達を唆し、連邦生徒会の手の者に攻撃するよう誘導していた当時の彼女は、それらを迎撃する部隊を視認し――尻尾の毛が逆立つほどの恐怖心を覚えた。

 

学籍も、学年も、立場も違う4人組。

誰がどう見ても即席で結成されたとしか思えない部隊に、容易く蹴散らされる不良生徒達。

その部隊の後ろで戦闘指揮を執っている男を見たワカモは、得体の知れない何かを感じ取って、目的を急ぐ事にした。

 

目的とは連邦生徒会長が遺したオーパーツ。

これを台無しにすれば、忌々しい連邦生徒会長への仕返しになるだろう。

矯正局から脱獄したワカモが真っ先に思い浮かんだのがそれだった。

 

そして、シャーレオフィス内で先生と対峙した時、ワカモの先生に対する悪寒は正しかったのだと確信した。

 

「――君が、リンが話していたワカモかな?」

「……ッ!!?!?」

 

目的に集中し過ぎていて、後ろに迫られていたことに気づいていなかったワカモは、その声が聞こえてビクリと肩が跳ねた。

勢いよく振り返ると、怪訝な表情を浮かべて首を傾げる男が無防備に立っている。

 

ただそれだけの事なのに、彼女にはとてつもなく恐ろしく見えた。

そもそもヘイローを持たぬ、銃弾一発が致命傷になり得る人間がこの世界に立って、なぜこうも堂々としていられるのか。

「災厄の狐」を前にして、何の恐怖心も抱いていない、何なら若干の好奇心さえその表情からうかがえる、そんな自然体でいられるのは何故か。

 

ワカモは理解してしまった。

あの不良生徒達との戦闘も、自分の様な危険極まる人間と対峙するのも、この男にはさして命の危機を感じるほどのことではないのだ。

それこそ容赦なく蹴散らされた不良生徒達の様に、この状況からでもワカモの事などどうとでもなると考えているのだろう。

 

舐められたものだ。

そう思ったワカモは銃を構えようとして――

 

「……ええっと、君のことはよく知らないから、あんまり偉そうな事は言いたくないけど」

 

――先に、先生が口を開いた。

 

「あんまり危ないことはしないほうが良いよ。人間って忘れた頃に報復を企てるタイプの生き物だからさ」

 

そう、こちらをまるで気遣うような笑みを浮かべて、当然のように話すのだった。

だが、

 

――月夜ばかりと思うな。

 

ワカモには、暗にそう言われたような気がした。

 

「…………ッ!!!」

「ちょ――!?」

 

――バァンッ!!

 

衝動でワカモは引鉄を引いた。

しかし、

 

「あっぶな……問答無用かよ……っ」

 

ワカモは先生の頭部を狙った。

先生はそれを、首を傾けただけであっさりと避けたのだ。

 

()()()で、ワカモ(災厄の狐)が、()()()()()()()()()()()()()避けられた。

 

「……ぁ、ぁぁ…………っ!」

 

そこで初めて、ワカモは敵に回してはいけない相手と対峙したのだと、心の底から恐怖した。

シャーレオフィスに来た目的など完全に忘れ、ワカモはその場から脱兎のごとく駆け出したのだった。

 

 

 

「えぇ……、もしかして怖がられてる? なんで……?」

 

一方、問答無用で撃たれた上に逃げられた先生は納得できないと嘆くのだった。

 

 

 

 

 

ワカモはそれから、先生からの報復を恐れた。

 

先生が「シャーレの先生」として着任してから暫くして、キヴォトスの汚職を働いた飲食店や企業が幾つも摘発された。

中には、先生に直接報復しようとあの手この手で暗躍する者たちもいたが、等しく返り討ちに遭ったという噂も出回っている。

 

シャーレは所属する部員が戦闘を担当し、荒事の対処も行うようだが、中には先生単独で事態の収束も行ったという噂まである。

 

人々は流石に話を盛りすぎだ、と笑っていたが、ワカモはまったく笑えなかった。

それが出来るだけの底知れなさが先生にはあるのだ。

なぜ大衆はそれを感じ取れないのか。

 

ワカモはなるべく先生には関わりたくない。

そんな思いを抱えて、故郷の百鬼夜行自治区へと戻るのだった。

 

「災厄の狐」として活動している彼女は動きやすい格好かつ、狐のお面をつけて出歩いていたため、百鬼夜行で彼女の素顔を知るのは事実上生徒会である【陰陽部(おんみょうぶ)】か、治安維持組織の【百花繚乱(ひゃっかりょうらん)紛争調停委員会(ふんそうちょうていいいんかい)】くらいだ。

だが……。

 

「……随分と、堂々と【魑魅一座(すだまいちざ)】が出歩いていますわね」

 

故郷へ戻ってきたワカモが最初に気になったのは、百鬼夜行のいわゆる不良グループである【魑魅一座】である。

彼女達は特徴的なお面をいつも身につけているので遠目からでもすぐに分かる。

それと同時に、

 

「百花繚乱が見回りしていないのが原因かしら……」

 

【百花繚乱紛争調停委員会】はその制服である青の長い法被を常に羽織っている。

百鬼夜行の制服は赤や白を基調としたものが多いので、これもまた目立つのだ。

 

まず、情報収集が必要か。

 

そうして百鬼夜行で潜伏して数日後。

 

「な、何故……っ」

 

思い出したくもない特徴的な姿が、百鬼夜行の大通りを堂々と歩いているのをワカモは見つけてしまった。

白のロングコート。緑の眼鏡。

何よりヘイローを持たず、護衛を付けず一人でいる男。

シャーレの先生がそこにいた。

 

細心の注意をはらって調べてみると、どうやら桜花祭の開催に横槍を入れる勢力がいるらしく、その対処にお祭り運営委員会がシャーレに依頼を出したらしい。

 

そして、その下手人に協力しているのが魑魅一座の一派だった。

 

「馬鹿な人たち……」

 

シャーレの先生を敵に回す様な事をしているその下手人に、呆れてものも言えないワカモ。

事実、その下手人は先生が指揮する即席部隊にあっさりと返り討ちに遭って、百鬼夜行から逃げ出たのだった。

 

今頃先生が手を回してヴァルキューレに捕まっているだろう。

 

――気安く逆鱗に触れた者は、それが赤子であろうと竜は容赦しない。

――その怒りが収まるまで、地上は赤き炎で染まり、空は黒煙に覆われるだろう。

 

先生の背中を見て、ワカモはそんな例えが脳裏に思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

桜花祭が終わり、夜も耽る頃。

どうやら百夜堂でパーティーをやっていたらしく、お開きになったために先生はシャーレへの帰路についていた。

 

ワカモとしては、このまま先生がシャーレへ戻ってくれるのであれば、ようやく心の安寧が取り戻せる。

そうして気づかれぬように気配を殺して遠くから見ていると、先生が桟橋を渡っている頃に、

 

「……よ、ようやく一人になったなっ……!」

「…………?」

 

先生から遠く離れた後ろを、何者かの一団が陣取っていた。

 

「貴様さえ、貴様さえ首を突っ込んでこなければ今頃……っ」

「あの男は……」

 

ワカモには見覚えがあった。

お祭り運営委員会による桜花祭の運営を何度も邪魔していた男――ニャン天丸とかいう名前だったか。

どうやらまだヴァルキューレから逃げ果せていたらしく、傭兵も雇って攻撃準備をしていた。

 

「撃てッ!」

 

ニャン天丸の指示で、傭兵達は構えていたロケットランチャーをを発射させる。

先生は気づいていないのか、振り返る素振りもない。

 

ニャン天丸は勝利を確信し、

 

「“サイコキネシス”」

 

ボソリ、と先生が呟いた言葉に、ニャン天丸もワカモも気付かなかった。

ロケット弾は先生に着弾する寸前に宙で留まり、くるりと弧を描いて反対に向いた。

 

「へ……――」

 

そして、ニャン天丸達に向かってロケット弾は急発進し、着弾した。

ロケット弾の爆風が強く、ニャン天丸達は吹き飛び、ワカモも爆風に煽られバランスを崩した。

 

「しまっ……――!?」

 

何たる不覚。

そう思った頃には、ワカモは建物の屋根から足を踏み外し、そのまま川へと落ちていく。

 

「危ないっ!」

 

だが、視界の端から何かが飛び出て、ワカモを強く抱きとめた。

このままでは川に落ちることには変わりない。そんな中、

 

「ウツボット、“つるのムチ”だ!」

「キアアアアアアッ!」

 

ギュッと何かが巻き付き、そのまま重力に逆らって打ち上げられた。

くるくると回転しながら桟橋に着地した先生は、

 

「ワカモ、大丈夫かい?」

「え、ええ……」

 

ワカモをゆっくりと立たせ、彼女を気遣うように顔をのぞき込んでくる。

ワカモは思わずそのまま相槌を打ったが、

 

「……ぇ、え? ええ??」

 

自身の正体がバレていることに困惑するのだった。

それだけでない。先生のすぐ後ろに人の大きさくらいのウツボカズラの様な何かが立っていることに、ワカモはギョッとした。

 

「なっ、なっ、そ、その生き物は……」

「あ、あ〜〜……」

「キアア〜〜♪」

 

それは嬉しそうにピョンピョンと跳ね回り、ワカモに近寄る。

しかし、

 

「ひっ……」

 

その上部の口のような部分に鋭い牙があり、こちらに向けられるとひどく甘ったるい臭いがワカモの顔を歪ませる。

 

「あ〜、ウツボット。怖がってるみたいだから、一度ボールに戻ってくれ。お疲れ様」

「キア?」

 

ウツボットは首(?)を傾げながら、ボールの中へと入っていった。

 

「今のは一体……」

「出来れば秘密にしてほしいな〜、って……」

「出来るとお思いで?」

 

ワカモの目つきが一気に鋭くなる。

 

「得体の知れない方だとは常々思っておりましたが、まさかあの様な未確認生物を従える程だとは……」

「…………」

「私を助けたのは一体何が目的です?」

「えっ」

 

先生は予想外の問いを投げかけられて、目を見開く。

 

「先ほどの口ぶりからして、私の正体を知っていながら助けたのでしょう? 何が目的ですの?」

「目的って、何の話?」

「おとぼけにならずとも結構ですわ。私は所詮脱獄囚、利用価値でも見出さなければ相手から近づく理由などないのですから」

 

不良生徒達を扇動した時もそうだ。

ワカモの実力と脅威度を知れば、彼女に迎合し、その力を当てにする。

近寄ってきたのは誰も彼もそんな手合い。

しかし、

 

「……理由がなければ誰かを助けてはいけないのかい?」

「はい?」

 

ワカモにとって、そんな突拍子のない返答が出てきた。

 

「誰かを助けるのに、いちいち理由が必要なのかな?」

「だってそうでしょう? 貴方はシャーレという存在。これまで犯罪を摘発し、ヴァルキューレに逮捕させた。さっきのニャン天丸だって返り討ちにしたではありませんか」

「あ、さっきのってニャン天丸だったんだ……」

 

暗いせいで先生はそこまでははっきりとは分からなかった。

先生がワカモに気づいたのは、特徴的な耳や尻尾が生えていたからなのだが……。

 

「とりあえず、何処まで吹き飛んだのか確認しに行かないと。もしかしたら動けない状態かもしれないし」

「そんな事をする必要があるのですか?」

「そりゃ見つけないと逮捕できないからね。もし逃げられたら、また同じ事しでかすかもしれないし」

「どうせもう何も出来ませんわ。彼らはもう終わりです。なのに何故そこまで……」

「無事じゃないと罪を償えないだろう?」

 

それが常識であるように、先生は語る。

 

「罪は生きていないと償えないものだ。死んで終わりだなんて、私は絶対に許さない」

「……っ、それで……助けて、後ろから撃たれたとしてもですか?」

「その時はその時さ」

 

ワカモには理解出来ない。

ワカモには、先生があの様な下らない悪人に慈悲を向ける様な人間には見えない。

なのに、なぜわざわざ気遣うのか。

 

「あの様な下らない悪人など、改心しませんわ」

「さっきから助ける理由ばかり気にしているようだけれど、それは逆じゃないかな?」

「逆?」

「誰かを助けるのに理由なんて必要ない。助けたいと思ったならそれで良いんだ。そう思えないなら、それは助けない理由を考えているだけだ」

「……っ、何の得にもならないと言うのに、ですか?」

「損得を考えるのは、まさしく助けない理由から生まれる考えだろう? 助けることで生まれるメリットとデメリット。助けない事で生まれるメリットとデメリット。これらを天秤に掛けてどちらを取るのかが、助けない理由を考える人だよ」

 

ワカモの心の中に何かがざわついている。

それをうまく言葉にする事が出来ない。

 

「私はワカモの事をよく知らないし、実際に過去に何度も悪いことをしたのかもしれないけど、それはワカモを助けない理由にはならない」

「……っ、…………ッ!」

「さっきのニャン天丸だって、許されない事をしたけれど、だからって彼らに何をしても許されるなんて道理はない」

 

ざわつきが強く、大きくなる。

 

「だからワカモ、たとえまた君が私を撃とうとも、君が危険な目に遭ったら私は助けるよ」

「…………!!!!!」

 

ワカモの耳が、尻尾が。

腕が、脚が、全身が震える。

心の中のざわつきが、炎を灯し燃え盛る。

これは、一体――。

 

「……って、あれ? よく見たら顔が赤い……?」

 

先生は暗がりでよく分からなかったが、ワカモの頬に赤みが帯びている事にようやく気が付いた。

それを指摘されたワカモの尻尾はピン、と伸び、

 

「……、……し、し」

「し?」

 

「失礼いたしますわ〜〜っ!!!」

 

「え、ええ〜〜…………?」

 

またしても、先生の目の前で脱兎のごとく走り去ったのだった。

 

 

 


 

 

 

その後、何か納得できない思いを抱えながら、吹き飛んだニャン天丸達をヴァルキューレに突き出した先生。

爆発音は町中の方でも聞こえていたために、陰陽部から呼び出しを受け、経緯を説明するのだった。

 

そして今度こそ帰路につく先生。

百鬼夜行自治区の郊外まで出てきた先生は、周りに人の目が無いことを確認し、路地裏に入る。

そして、

 

「ゲンガー、今日もお疲れ様」

「――ゲンゲラー!」

 

ぬるり、と影から「それ」が出てきた。

ところどころ刺々しい、遠目から虚ろな影が蠢いている――そんな外見のポケモン、ゲンガーはクスクスと笑う。

 

「なあ、ゲンガー」

「ンゲ?」

「俺って、怖いのかな? ホシノやヒナにもちょっと怖がられてたし……、またワカモに逃げられたし……」

「ンゲー?」

 

よく分からない。

そう言いたげにゲンガーは首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

一方。

ワカモは今までに感じたことのない感情が暴れ出そうとしていた。

 

「ぁ、ああ……。そんな、こんなのって……」

 

――たとえまた君が私を撃とうとも、君が危険な目に遭ったら私は助けるよ。

 

「……ッ、…………ッ!!!」

 

あの時の先生の言葉が何度も脳内で反芻する。

その度に顔の熱が強くなる。

 

「…………うふっ」

 

先生が怖い。得体が知れない。

この考えは変わっていない、そのはずなのに……。

 

「うふふふふっ♪」

 

目を閉じるとその姿が思い浮かぶ。

ワカモに語りかけてくれる、優しい言葉が何度も反芻される。

 

 

 

 

 

――この気持ちをワカモが言語化出来たのは、もうしばらく先であるのはまた別のお話。




大体3行で分かる! 登場人物紹介

シャーレの先生
・ポケモン達の前だと一人称がたまに「俺」に戻ってしまう
・ワカモやイズナのような、ポケモンの耳や尻尾みたいな物が生えている彼女達を物珍しくジロジロ見てしまう
・ワカモの銃弾を避けられたのは本当に偶然

狐坂ワカモ
・矯正局から脱獄し、現在も逃げ果せている、後に【七囚人】と呼ばれる指名手配犯の一人
・先生の姿に「(ドラゴン)」を見てしまった少女
・一目惚れ()していない

久田イズナ
・一流の忍者を夢見て、後に【忍術研究部】の門戸を叩く少女
・身体スペックはキヴォトスでも上澄みレベル
・先生に耳や尻尾を見られているのに気づいていない

ウツボット(♀)
・先生がトレーナーになって間もない頃にゲットしたマダツボミが進化したポケモン、大きさはS
・陽気な性格で人懐っこいが、見た目で怖がられている自覚がない
・アニポケのウツボットもこんな鳴き声だったはず by作者

ゲンガー(♀)
・先生がトレーナーになって間もない頃にゲットしたゴースが進化したポケモン、大きさはS
・影の中に入る事ができ、一緒に小物や小さいポケモンも連れていけることが出来る
・シャーレ発足日、一人になった先生の影の中にいたが、ワカモの銃撃に全く反応できなかった



はい、というわけでくさタイプはウツボット、ゴーストタイプはゲンガーでした。
ゲンガーは1文字ヒントで分かりやすかったと思います。

ワカモは一目惚れはしていないのでサブタイ詐欺ではありません。
なぜワカモは先生を恐れたのか。
ホシノとヒナが先生を怖がったのは何故か。

次回「ポケモントレーナー先生とのメインストーリーにありがちなこと」アビドス対策委員会編。

次回をお楽しみに。

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