シャーレの先生がポケモントレーナーである場合にありがちなこと 作:子々(ネネ)
こちらは後編ですので、前編から見ることを推奨します。
【便利屋68】の襲撃に先手を打ち、撃退に成功したアビドス生徒達。
しかし、捕まえる判断をしない先生に、納得がいかない生徒達が先生へと詰問する。
「なんで逃がしたのよ先生! あいつら絶対、今までのヘルメット団と同じでしょ!?」
「ん、黒幕のことを調べる絶好の機会だったはず」
「今回の強気な作戦も、てっきり捕まえるためだと思ってましたけど……」
『君達こそ分かってるのかい? あのまま便利屋を捕まえたら、ゲヘナと外交問題になるかもしれないんだよ?』
それが何だと言うのか。
主にセリカとシロコが食い下がるが、それに待ったをかけたのがホシノだ。
「うへ〜、確かにそれは避けたいかも……」
「ホシノ先輩!?」
「みんなもよく考えてよ。ゲヘナ学園って何千人も生徒数がいる、いわゆるマンモス校だよ? 対しておじさんたちはたったの5人。戦力も組織力も政治力もケタ違いだよ〜? ……足元見られてなにふっかけられるか想像もできないよ」
フニャッとした表情が一転。
ホシノの真剣な顔つきがセリカ達に突き刺さる。
「で、でも! そういう時の先生でしょ!? たしか、超法規的権限ってやつで……」
『超法規的権限をあまり過信しないで欲しいな。あれはあくまで捜査に関する場合に適応されるものであって、外交問題を正当化させる言い訳にはならない。外交問題を手引きした、なんてゲヘナに解釈されようものならそれだけでシャーレの信用問題に係わるし、……そうなったらもう君達の力にもなれないよ』
「そ、それは……」
今先生の支援が無くなるのは困る。
特に戦闘指揮は、先生の優れた指揮能力あってこそ、乗り越えられたと言っても過言ではない。
何より、アビドス生徒とは違う視点からの意見に、みんなは助けられている。
それらが全て水泡と帰すのは何が何でも避けたい。
『歯痒いだろうけど、今回だけ受け入れてほしい。その代わり――』
「…………ッッッ!??!?」
先生は再び笑顔を浮かべる。
だが、その笑顔には確かな底知れない威圧を感じ、ホシノは背筋が凍った。
『――次襲撃してくるなら、熨斗をつけてゲヘナに送り返してあげよっか』
翌朝。
先生は登校中のアヤネと出会い、今日の予定を話し合う。
今日は利息の返済日であり、回収人がアビドスにやってくるので全員で立ち会う事になる。
そして、
「ブラックマーケットへ捜査に?」
「はい。これまでのヘルメット団、そして昨日の【便利屋68】。彼女達はブラックマーケットを根城にしているのもそうですが、あそこでしか取り扱っていない禁制品を入手しているのはずっと気がかりでした」
しかし、捜査に行けなかったのはセリカと先生の不和が問題として大きくなってしまったため、こうして危機を乗り越えた事でようやく先生と話し合うことが出来たのである。
今日の返済の立ち会いが終わり次第、アヤネはみんなに提案するつもりだと、先生に教えると、
「……確かに、そろそろ大元を調べる必要があるね」
正直気は進まないが、と先生は内心で呟く。
治安の悪い場所を生徒を連れて出歩くというのは、およそ先生のすることではない。
その上、自分も標的になっているので傍にいると足を引っ張るかもしれない。
だが、子供たちが行くのに大人である自分が安全な場所で引きこもるわけにはいかない。
先生はそう思い、アヤネの提案を肯定するのだった。
「――へえ、あそこ行くんだ。それも先生連れて? 大丈夫? あそこ結構危ない所だよ?」
「……なっ!?」
「…………ッ」
「やっほ〜、先生、メガネっ娘ちゃん♪」
弾むような声が辺りに響く。
そう思った瞬間、横からシュッと現れたムツキが先生の腕に抱きつく。
「おお、結構ガッシリしてる。鍛えてるの、先生?」
「えっと……」
「な、何してるんですか、早く先生から離れてくださいっ!!」
アヤネは強引にムツキを引き剥がし、まるでそこが定位置であるかのように、さっきまでムツキがいた場所にアヤネが立つ。
「あれあれ、ヤキモチ? 昨日も先生の隣に居たもんね〜」
「なっ、何を言って……!」
「赤縁のメガネっ娘ちゃんと、緑縁のメガネ先生。結構お似合いだよ? もしかしてホントに付き合ってる?」
「な、なななな、なっ…………!!」
「流石にその風評は先生として勘弁してほしいな……」
アヤネは耳まで真っ赤にして、ムツキのからかいに何も言い返せなくなってしまった。
そこで、聞き捨てならない言葉を言われて、先生もようやく口を挟む。
「しかし、驚いたな。まさか昨日の今日で顔を見せに来るとは……」
「ああ、心配しないで。今はプライベート。仕事の時間じゃないから」
「ちょっと待ってください! まさかこのまま話を続けるつもりですか!?」
「え、嫌? ムツキちゃん、メガネっ娘ちゃんのこと結構気に入ってるんだけどな〜」
「だ、か、ら! メガネっ娘ちゃんって呼ばないでくださいっ!!」
くふふ、とアヤネの反応を楽しみながら、ムツキの視線は先生に向く。
「それにしても昨日はしてやられちゃった。まさか不意打ちだなんて、アルちゃんショック受けてたよ」
「あの娘が私に何を求めているか知らないけど、私はあくまでアビドスのために作戦指揮をしただけさ。生徒の居場所を守るためだからね」
「生徒の、ねぇ。だったら私たちにも力を貸してくれる事もあるってこと?」
「それを口にするのなら、まずはそちらの社長をどうにかした方が良いんじゃないかい? 先生として危ないことをするのを認めることはできない。それに、はっきり言って彼女には向いてないよ、その道は」
「それ、アルちゃんの前で言わないでね? 絶対怒るから」
ムツキは笑顔を浮かべているが、そこには確かな威圧を感じる。
人をよくからかうような性格に見えるが、超えてはいけない一線というのが彼女にもあるようだ。
先生はそれに肩を竦めて言葉を続ける。
「……見たところ、君が一番アルと付き合いが長そうだね」
「まあ幼馴染だからね〜」
「なら危ないことをするのは、なおの事止めるべきじゃないかな?」
「アルちゃん、肝心な時以外はヘタれるから、本当に危ないことはあんまりしないよ?」
アウトローの道を歩んでいる時点で十分危ない橋を渡っている。
そう言いたいが、相手はその幼馴染なので釈迦に説法みたいな事は言えなかった。
だからこそ先生は切り返す。
「……今、私を狙わないのも、アルが危険な事に巻き込まれないようにするためかい?」
「んん??」
「先生っ?」
「ムツキは先ほどプライベート中だと言っていたけれど、それでも私は君達の最優先の標的のはずだ。たとえ仕事の時間外だとしても、狙えるうちに始末しておいた方が、依頼人に良い報告が出来ると思うけれどね」
「ちょっと待ってください先生! 一体どういう事ですか!?」
アヤネは知らない事実に驚き、先生に詰問する。
後で説明する、と先生はアヤネを宥め、ムツキの返答を待つ。
「……それ、自分から言う? 度胸がすごいのか、馬鹿なのか……」
「馬鹿、ねえ。昔何度か言われたことあるよ。もしかしたら、本当にただの馬鹿かもしれないね」
「う〜わ、ホントに食えない人って感じ」
呆れたように首を振るムツキ。
「さっきの質問だけど。アルちゃんさ、それ何かの冗談だと思ってるんだよね」
「はっ?」
「だってさ、先生って今やキヴォトスで一番有名な人って言っても過言じゃないんだよ? そんな人をいきなり殺せってさ。キヴォトスが混乱するようなこと本気で考えてるのかな〜、なんて本気で首傾げちゃうの。そういう娘なんだよ、アルちゃんは」
「………………………」
「昨日カヨコっちが言ってたけど、【便利屋68】は金さえ貰えたらどんな仕事もするんだよ。普通、疑問に思っても冗談だとは思わないでしょ?」
だがアルはそう解釈した。
他の3人は切り替えられるのに、アルだけは純粋さで危ない橋を避けるようなことをしている。
「天然なのか、馬鹿なのか……」
「くふふ、さっきの私と似たような事言ってる〜♪」
「そんな人が何で裏社会の道に……」
アヤネもあまりのアルの純粋さに、呆れて絶句してしまう。
「まあ、それくらい天然さんで、夢見がちなアルちゃんだからさ? 先生にも結構理想抱いてたってこと。中々罪深いよ〜先生」
「そんな事言われてもね。私はそうする必要があるかもしれない、って判断しただけだからね」
「それがあの不意打ち? アルちゃんじゃないけど、先生ってあんまり
「そりゃそうさ。私は正義の味方じゃないし、そう気取っているつもりもない」
「ええ…………」
あっけらかんと宣言した先生に、ムツキは絶句する。
「じゃあさ、先生は何のために“シャーレの先生”やってるの?」
「先生としての責任を果たす、っていうのもあるけれど……」
ふむ、と先生は顎に手を当てて、自分の中で言葉をまとめる。
先生が先生を目指すことになった、そのルーツ。
それは――
「――間違わないこと、後悔しないこと、無限大の可能性を諦めないこと」
「え、いきなり何?」
「そういう事を、子供たちに教えていきたいな、って」
「……どういう意味ですか?」
隣で聞いていたアヤネも、ムツキも同時に首を傾げる。
「引き金を引いた過去は消えないように、過去に行動した事実は絶対に無かったことにはならない。けれど、それがあるから今の自分がある」
だから、過去を後悔して今の自分を否定してほしくない。
後悔だけは軽々しくしないこと。
「子供の頃の私はもっと別の夢を掲げてた。……でも、がむしゃらにその夢を追えなくなってね。だから、見方を変えれば未来の自分なんて星の数ほど可能性がある」
だから、視野狭窄となってただ一つだけを見続けてほしくない。
無限大の可能性を諦めずに信じること。
「……そして、正しいことなんてあんまりしなくて良いんだよ」
「ええっ!?!??」
「えっ、それ先生が言って良いのかな?」
「“正しさ”なんて人の数だけ存在するし、そのほとんどが独り善がりさ」
独り善がりですら無い場合もあるけれど、と先生は注釈する。
「そういう独り善がりを振りかざす人や、大声で正当化する人は経験上ろくでもない人ばかりさ」
「「…………」」
「それに、あれが正しい、そうする事が正しい、って考えで行動すると痛い目に遭うよ」
「なら間違わない、っていうのはどういう意味?」
ここでムツキも、試すような笑みが完全に失せ、真剣なものに変わる。
「四択問題解いてる時に、これが正しいって真っ先に答えを見つけることは早々ないだろう? ちゃんと冷静に見えているもの、見えていないものを把握して、どれが“間違っていない”のか答えを出せば良い」
「それで間違えたらどうするの?」
「間違えたなら、次に間違えなければいい。どうしても間違えてはいけないものを間違えそうになるのなら、周りの人を頼ればいい。私のような大人を頼ってくれてもいい」
だから、正義なんてものを振りかざすよりも、間違っていることを見つける方が悪事は減る。
そして、間違いを知って、間違えずに生きる。
「……言いたいことは何となく分かるんだけどさ」
だが、ここまで聞いたムツキは努めて明るい声で投げかける。
「敵同士とはいえ、不意打ちしてまで私達を追い払ったのは間違ってないって言いたいわけ?」
「……どうだろうね。もっと穏便に済ませられるならその方が良いだろうけれど、あの時の私は学園間での問題に発展するのは避けたい、と判断した。その結果があれだよ」
「私が聞きたいのはそういうことじゃなくってさ」
ムツキの語気が強くなる。
「生徒のため、守るため、そうやって言い訳しながら選択肢絞っていって、結果無法じみた行動も辞さない……、そう言いたいの?」
「まさか。私は無法は大嫌いだ。無法を振りかざす奴はそれを自由と勘違いしている。悪事と分かっていながら、下品な笑顔で自慢気に語る」
「…………っ」
隣に立っているアヤネは、横から見た先生の冷たい表情に肩が震えた。
「そういう人間は、
「………………………、ふ〜ん♪」
ムツキは黙って聞いた後、満足気に何度も相槌を打った。
そして、くるくると楽しそうに先生の周りを歩いて、ニマニマと先生に笑顔を向ける。
「そっかそっか。先生ってそういう人なんだね♪」
「えっと……?」
「そうだ先生! 先生はアルちゃんのこと随分心配してるみたいだけどさっ」
ムツキは一歩先生から離れて、くふふ、と笑う。
「多分先生はアルちゃんのこと、凄く気に入ると思うよ」
「ええ??」
「アルちゃんも先生の事誤解してそうだし、面白いお話聞かせてくれたお礼に、誤解だけは晴らしてあげるねっ♪」
じゃ〜ね〜、とムツキは腕を振りながら去っていった。
(嵐のような娘だったな……)
ムツキがいなくなった途端、この場はシン、と静まり返ったような気分になる。
そして先生は去り際に投げかけられた言葉が気がかりとなる。
おそらく嫌われた訳ではないようだが……。
(俺の立場からして、アルは間違ったことをしている娘だと思うけど……)
事実、他の自治区に攻撃するなんて間違ったことをやっているのだし、そんな彼女の何を気に入るのか。
もう一度会ってアルと話をしてみるべきか。
そう考えていると、隣から静かに声をかけられる。
「……先生、最優先の標的ってどういう意味ですか?」
「ん、ああ。セリカを助け出すときにヘルメット団からそう言われて――」
「へえ」
底冷えするような声。
自分にそれを向けられたと理解した先生は、バッとアヤネに振り返る。
こちらを見上げるアヤネの無表情。
瞳に滲む感情は、メガネの光の反射で全く読み取れない。
「そんなお話、一昨日には聞いた覚えがないんですが」
「………………………」
またしてもやらかした。
その場で正座させられた先生は、ようやく自分がまた間違えていた事を自覚したのだった。
――その後、立ち合いにギリギリ間に合った2人は、みんなから先生の下半身が砂まみれになっている事を追及される。
先生は、アヤネの笑顔に凄まれて、白状するしかなかったのだった。
大体3行で分かる! 登場人物紹介
シャーレの先生
・シャーレの超法規的権限を極力行使しないようにしている
・正しいことをするのではなく、間違っていることを減らすのをモットーとする
・カロス地方での旅を最後に、ジム巡りは引退した
奥空アヤネ
・気づいたら危険なことをする先生に激怒
・危険な立場に置かれている自覚が乏しい先生を見て、あることをノノミに相談することを決める
・ムツキに遊ばれていると思っている
小鳥遊ホシノ
・先生なりにアビドスを慮って思案してくれていることは理解している
・それはそれとして恐ろしい
・アビドスに関わって先生も標的になっているのが頭痛の種
黒見セリカ
・良くも悪くも直情的
・政治は同級生のアヤネに任せっきり
・先生とアヤネの会話についていけない時があり、若干モヤる
砂狼シロコ
・次に便利屋を見かけたら捕まえて報奨を貰おうと考えている
・シャーレなら銀行強盗しても揉み消してもらえるという淡い打算が瓦解した
・実は、覆面を常に持ち歩いている
十六夜ノノミ
・一番に悪乗りするタイプ
・アヤネからあることを相談される
・セリカやアヤネと比べて、先生と距離が中々縮まらないので丁度いい機会だと確信した
浅黄ムツキ
・先生がアルと同類ではないかと考える
・からかい上手の浅黄さん、だけど計算高くてフォロー上手なムツキちゃん
・メガネ属性フェチ疑惑、少なくとも公式ではないはず
Q.全然話進んでないけど、この話いる?
A.わからない。私は雰囲気で執筆している。でもなんか筆が乗ったので後悔はしていない。
ということで、少し遅くなりました。
元々不定期更新ではありますが、ブルアカのストーリー自体が長いのもあって、区切りどころが分からないんですよね(メイン、イベントの違いに関わらず)
さて、この前後編でポケモンの影も形も全くない、このままではクロスオーバー詐欺になりそうなので、次回からポケモン要素は必ずワンシーンは入れていくべきか考えております。
なので、次回更新までの間にちょっとしたアンケートを取りたいので、ご覧の皆様にはご協力をお願いいたします。
ブルアカ×ポケモンのクロスオーバー作だけど、こういうポケモン要素が全くない話があるのはアリ、ナシ?
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もっと要素出せ(ナシ)
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たまになら良いと思う(アリ)