シャーレの先生がポケモントレーナーである場合にありがちなこと   作:子々(ネネ)

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踏み込む十六夜ノノミにありがちなこと

利息の返済が終わり、現金輸送車がアビドスから去っていく。

その際にアヤネが聞いたのは、借金返済のローンは309年とのこと。

 

(相手の金融機関は何を考えている……?)

 

借金返済が終わる前に、アビドスが廃校となる。

どう計算しても、今後のアビドスが返済できるようなローン設計ではない。

このままでは金融機関は大赤字だ。

 

何か見落としていることがあるかもしれない。

そんな事を考えながら、先生はアヤネがノノミに提案していることを聞き逃した。

その結果、

 

「あの、ノノミ?」

「何ですか、先生?」

 

現在先生は、ノノミに腕を組まれてブラックマーケットの道を歩いている。

隣のノノミはニコニコとあどけない笑顔を浮かべて、先生の横顔を見上げている。

 

「あの、腕を離してくれないかな? 正直歩きづらい……」

「ダメでーす♧ アヤネちゃんと約束しましたから」

 

言葉だけでなく態度で拒否するように、先生の腕に絡むノノミの力がぎゅっ、と少し強くなる。

お陰でノノミの圧倒的な柔らかさが先生の腕に伝わってくる。

 

(ラジュルネと同じくらい……、いや何を思い出してるんだ)

 

久しく会っていないカロスの妹分たちを思い出し、内心で頭を振って雑念を払う。

 

ブラックマーケットへ立ち入る前に、アヤネがノノミに提案したこと。

それは、ノノミが傍について先生が危険な事に首を突っ込まないよう監視役になることだ。

 

先生は思考の海に潜って見事に聞き逃したため、いきなりノノミが腕に抱きついてきてビクリと肩が跳ねた。

 

「別に、みんなが戦っている所に割って入るような事はしないんだけどな……」

『そんなの当たり前です』

 

ホログラムの姿でアヤネが目の前に現れ、じっと先生を睨みつける。

 

『そうでなくても、先生は今一番危険な立場に置かれているんです。誰か必ず1人は先生の護衛をしなければならないんですよ』

「なら、なおさら腕を離してくれないかな? これじゃノノミも戦えないだろう?」

「ご心配なく。私これでも鍛えてますので。いざとなれば、先生の盾になれますよ☆」

「それは、流石に……っ」

 

臆面もなく肉盾宣言されて、先生の顔がくしゃりと歪む。

いくら彼女達が先生より身体が頑強でも、目の前で自分を庇って銃撃を受けるのは、想像するだけでも気分が悪い。

 

「……ふふ、先生はやっぱり優しい方ですね」

「……っ」

 

表情に出ていたのを察し、ノノミが優しく先生に微笑む。

 

「先生はきっと、ご自身が私たちの足を引っ張るんじゃないかって、心配されてるんですよね?」

「………………………」

「確かに先生は私たちと違って、銃を持って戦うことは出来ません。ですが、物資の支援やセリカちゃんを助けてくれたことも、先生がいてこそ乗り越えられたんですよ?」

 

優しく諭すように、ノノミは先生に語りかける。

完全に胸の内を読まれていて、先生は何も言えなくなってしまう。

 

「ん、ノノミの言う通り。先生は私たちアビドスの仲間。これまで私たちがそうしてきたように、これからは先生も含めて支え合っていく」

「そうよ。大体、先生を足手まといなんて言う奴、アビドスには居ないわよ! そんな奴が居るなら私がぶっ飛ばしてやるわ!」

『それはそれとして、そういう大事なことはもっと早く私達に相談してくださいっ。万が一の事があってからでは遅いんですからね!』

「まあ、そういうことだからさ。大人しくノノミちゃんに腕組まれてなよ〜。ノノミちゃんみたいな女の子に密着されるなんて、役得でしょ〜先生?」

「ホシノ先輩、それセクハラみたいですよ?」

 

ホシノにからかう様に言われて、先生は気まずく目だけをそらす。

情けなくて何も言えなくなってしまった。

 

(導くべき生徒にここまで気遣われるなんて……)

 

先生が「先生」を目指すきっかけをくれた恩師に言われた言葉を思い出す。

教え導くべき生徒に、気遣われるような態度や言動は軽々しくしないこと。

「先生」と「生徒」は「友人関係」ではない、平等に見守り教えを説く事が出来ていないと見られたら、誰も「先生」と見てはもらえない。

 

だが、

 

(この娘達には、この距離感の方が良いかも知れない……)

 

生徒一人ひとりに適切な距離感がある事も教えられた。

まだまだ未熟な部分が多いと痛感させられる。

 

「……うん、みんなの言うとおりだね。ごめんね、みんな」

 

だから、今はちゃんとして精一杯自然に笑顔を見せる。

分かれば良いんだ、そういう風に生徒達は何度も頷く。

 

雨降って地固まる。

改めて当初の予定通り、襲撃犯についての調査を再開すると、大通りから騒がしい声がする。

それはどんどん近づいてきて、

 

「そっちに曲がったぞ!」

「逃がすな! 捕まえれば身代金で大金持ちだ!!」

「あ、あわわわわっ!?」

 

白いセーラー服を着ている少女が逃げるようにこちらに近づいてきて、その少女をスケバン達が追いかけている。

 

「シロコ、セリカ、行って」

「了解」

「任せて!」

 

短く先生は指示して、シロコとセリカは駆け出し、追いかけてくるスケバンを殴り飛ばして撃退する。

 

「ふぇ?」

 

突然のことで立ち止まったセーラー服の少女は、事態が飲み込めずキョロキョロと先生達を見回した。

 

(今度は……トリニティか……)

 

その少女のセーラー服に刻まれている3つの円が特徴的な、トリニティ総合学園の校章を見て先生は内心でため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

トリニティ生徒の少女――阿慈谷(あじたに)ヒフミ。

彼女を執拗に狙ってくるスケバン達を念入りに撃退してから、単身でブラックマーケットへやって来た経緯を聞きながら、彼女の目的地へとやって来た。

 

「――ありました、これです!」

 

ヒフミは雑貨店から何かを抱えて出てくる。

抱えているそれは――

 

「わあ、それってこの間限定発売された“忍ペロ人形”ですねっ」

 

ノノミが目を輝かせて口を開く。

ヒフミは輝くような笑みで頷く。

 

「トリニティ自治区ではもう完売してて、このペロロ様はもうブラックマーケットでしか販売されてなかったんです! ようやく手に入りましたっ」

(あんなのが人気なのか……?)

 

目の焦点が合わない鳥みたいな、あまり可愛げのない表情をしているぬいぐるみ。

キヴォトスではああいうのが流行っているのだろうか。

ノノミは楽しそうにしているが……。

 

「うへ〜、最近の若い子の流行はよく分からないな〜……」

「私たち、歳そこまで離れてないでしょ……」

「………………………」

『ひ、ヒフミさんはモモフレンズの大ファンなんですね……』

 

ノノミ以外のアビドス生徒は、先生同様微妙な表情をしている。

どうやら先生は少数派ではないようだ。

 

(しかし、改めて見ると……)

 

先生はもう一度そのペロロ人形を見やる。

 

(体型はコダックで、顔のパーツはポッチャマっぽいけど、どっちとも全然似てないな……。これが本当にピカチュウやピッピみたいに人気なのか?)

 

先生の世界で子供たちに人気なポケモンを思い出し、このペロロと同列に扱われるのだろうか、と先生は真面目にズレた考えを巡らせる。

 

それをよそに、ホシノが本題に入るように、陽気にヒフミに話しかける。

 

「――それじゃ、約束通り、今度はヒフミちゃんにおじさん達のこと手伝って貰おっかな〜」

「え、えっと、はい。どこまでお力になれるか分かりませんが……」

 

苦笑を浮かべながら、ホシノの言葉にヒフミはおずおずと首を上下に振る。

 

スケバンからの攻撃からヒフミを守ったことで、ホシノはそれを対価に自分達に協力してほしいと目ざとく提案した。

しかし先生が、恩着せがましいと待ったをかけて、せめてヒフミが何をしに来たのか、その目的を手伝ってから改めてヒフミに意思確認すればいい、と折衷案を出した。

 

そして、ヒフミの意思は肯定。

つまり、ここからはヒフミをアビドスの問題に関わらせることとなる。

 

(これも下手すりゃ外交問題になるかも……)

 

格式張ったトリニティの上層部は、果たしてこの少女の危険極まる行動には全く目を光らせていないのだろうか。

少なくとも、こんなアングラな場所に一人で来るような生徒が在籍する学園とは思えないが……。

 

頭が痛くなり、小さく息を吐く先生。

そんな彼を、

 

「…………」

 

当然、隣にいるノノミが見逃すはずもなかった。

 

 

 

 

 

黒幕についての調査が全く進まず、一旦休憩しよう。

そう話が出て、丁度近くにたい焼きの屋台が見つかった。

 

「それじゃあ、私達が買ってきますね☆ 行きましょう、先生っ」

「あ、ああ、うん……」

 

私はみんなと待ってるから。

そう言いかけた先生だが、この危ない場所で女の子を一人にさせて、しかもお使いに行かせるというのは、あまりにも紳士的ではない。

よって先生はそのまま腕を引っ張られて一緒に行くことに決めた。

 

「……先生とノノミさん。さっきからずっと腕を組まれてますが、もしかしてお付き合いされてるんですか?」

「違う。あれは先生のボディーガード」

「ぼ、ボディーガードですか? なら、どうして腕を? あれでは動きづらいのでは……」

「多分ノノミちゃんがそうしたいからそうしてるんじゃないかな〜。何だかんだ、ノノミちゃんも先生のこと気に入ってるみたいだし。……だから嫉妬しちゃダメだよ〜アヤネちゃん?」

『邪推しないでくださいっ。私と先生だってそういう関係ではありません!』

「その割には最近よく先生と一緒にいるじゃん、アヤネちゃん」

『セリカちゃん!?』

 

姦しい談話が先生の背中を叩く。

 

(丸聞こえなんだけど……。せめて聞こえないように喋ってくれないかな……)

 

女子のそういう話題ほど気まずいものはない。

聞かなかったふりをしつつ、聞こえているであろうノノミに目を向けると、

 

「ふふっ♧」

「……っ」

 

優しく微笑むノノミと目が合った。

 

「え、えっと……どうしたの?」

「いえいえ、先生はやっぱり大人の方だな、って思いまして」

「どういう意味?」

「私達が普段あまり深く考えていないことを、先生は常に考えています」

 

ノノミは先生から視線を外し、宙を見つめる。

 

「さっきヒフミちゃんもブラックマーケットについて、色々教えてくれましたが、私はそんな事を何も知らずに、ただ調査をするだけでした。……アビドスの外にも沢山問題があることなんて、アビドスに来る前から解っていて当然のはずなのに」

「…………」

「ゲヘナと外交問題になるかも、って言われたときもそうでした。ただアビドスに迫る危険を遠ざけたいって、それだけしか頭になくて。先生は私と見ているものが全く違っていたんだ、って思うと……」

 

ノノミはそこで言葉が止まる。

先生はまだノノミの事をちゃんと分かってあげられていないが、その続きの言葉を察せてしまった。

だが、その続きの言葉を代わりに言ってあげるようなことはしない。

それは、先生の今の立場では少々傲慢な気がしたから。

 

「…………」

「………………」

「……そうやって、一線を引くから視野が広いんですね、先生は」

「ちゃんと周りを見ないと、“先生”はやっていけないからね」

「……ふぅ。それでも、踏み込んでくれても良かったんですよ? 『ノノミが一番みんなの足を引っ張ってるのかも』って言って」

 

だが、その一線をノノミが踏み越えてきた。

 

「……そんな事、これっぽっちも思わないさ」

「……ですが、私は」

「私はまだノノミの事をよく知らない。……というか、まだアビドスのみんなの事を全て分かっているとは口が裂けても言えないけれど」

 

踏み越えてきたのなら、しっかりと真正面から受け止める。

それが先生としてやるべきことだ。

 

「ノノミがみんなの事をよく見ているのは理解してる。……みんなも、それをよく知っていると思うよ」

「…………ッ」

 

ノノミの頬がほんのり赤みを帯びる。

気恥ずかしげに、その表情が先生に見られないように顔を背ける。

 

「ただ、そうだね。それだけ気を揉んでいるのなら、もう少し自分の事も気遣ってあげると良いと思うよ」

「……それ、先生がおっしゃるんですか? 今一番危険な立場なのに」

 

目を見開いて、信じられないと言いたげにノノミは先生を見つめる。

 

「失敬な。私だって死にたくはないし、適度に気を抜いてるさ。……ただ、自分の事はちゃんと客観視しておかないと。“先生”は信用の仕事でもあるからね」

「…………何だか言いくるめられているような」

「だから、ノノミも抱えているものを抱えきれないなら、一度吐露してみるといい。幾分か楽になるよ。ホシノに出来ないなら、私が受け止めるさ」

「……〜〜っ」

 

小さく唸るような声がノノミから聞こえた気がした。

さっきよりもノノミの頬には赤みが増し、

 

「……ふふふっ♧」

 

悪戯っ子のように、満面の笑みになる。

 

「だったら、先生の抱えているものは、当然私に吐き出してくださるんですよね?」

「えっ」

「さっきご自身でおっしゃっていましたもんね、『ノノミも――』って。だから、先生もアヤネちゃんに出来ないなら、私にぜ・ん・ぶ、吐き出しちゃってくださいね☆」

「……あ〜あ、一本取られちゃったな」

 

言質を取られてしまい、言葉でノノミに勝てないことを察した先生。

 

「うふふっ♧」

 

機嫌が良さそうに、ノノミは先生に絡める腕により力を込めて、胸に抱き寄せる。

そのつもりはないのだが、これではもう逃げられない。

 

(この手の女性は、本当に苦手だ……)

 

強い芯が心にある女性には昔から頭が上がらない。

しかも、ノノミは年下だ。

 

(年上ならまだしも、年下相手にそう思うとは……)

 

先生はもう抵抗するのを諦め、ノノミに抱きつかれた腕から力を抜く。

その後、鯛焼き屋の店主に恋人だと勘違いされ、先生が否定する間もなくノノミに肯定され、鯛焼きをオマケで幾つか貰ったのはまた別のお話。

 

 

 


 

 

 

その後、先生と生徒達は鯛焼きを食べ歩きしていた時に、ある現金輸送車が目に留まる。

それは、今朝アビドスから利息支払金を受け取った車と同じであり、車から出てきたのは回収人と同一人物だった。

 

『あのアタッシュケース、間違いなく今朝渡した物です! どうしてブラックマーケットに……』

「ちょ、ちょっと待ってください! 皆さんはもしかして、【カイザーローン】からお金を借入してるんですか!?」

 

事情を全く知らないヒフミは、現金輸送車の側面に描かれたマークを見て、驚愕の声を上げる。

 

「カイザーローンに、何か問題があるのかい?」

「カイザーローンは高利金融機関で有名な、カイザーグループの子会社です……」

 

カイザーグループについてよく知らない先生の質問に、ヒフミが説明をする。

 

親会社の【カイザーコーポレーション】を筆頭としたカイザーグループは、多岐にわたる事業に携わっているが、同時に犯罪スレスレのグレーな行為に手を伸ばしていると噂の、キヴォトスでも一、二を争う大企業である。

そして、このブラックマーケットにも幅を利かせている企業であり、大規模な治安組織も抱えているとか……。

 

「…………っ!?」

「ちょっと待ってよ、それって……!」

 

そのカイザローンの人間が、たった今明らかに合法ではない銀行の人間に現金を入れたケースを渡していたのを目撃し、我慢できなくなったセリカは大声を上げる。

 

「私たちは借金返済のつもりが、犯罪資金を提供してたかもっていうの!?」

「………………………」

 

誰もその問いに答えられない。

その代わりに、全員の表情が固く、険しくなっていく。

 

「アヤネちゃん、あの現金輸送車のルートって調べられる?」

『…………いえ、ハッキングを試みても何も情報が出てきません。おそらく、現金輸送の全てをオフラインで管理しているのかもしれません』

「……そう、なら私達もオフラインで調べるしかない」

「えっ」

 

シロコはポーチから何かを取り出す。

それは――、

 

「ちょ……!?」

 

先生は絶句した。

それは昨日、対策会議でシロコが提案した際に全員に見せた、額部分に数字が書かれている覆面である。

 

「なんで常備してるんだよ……!?」

 

思わず先生は素でツッコんでしまった。

そして、躊躇いなく青い覆面を被ったシロコは、

 

「ん、銀行を襲う」

 

そう言い放ったのだった。

 

「本気で言ってるのシロコ先輩!?」

「カイザーローンの車はもう走り去った。どこに向かったのか分からない。なら、方法はもうこれしか無いよ」

「え、ええ……、で、でも……」

 

躊躇うセリカ達。

最初に折れたのは……。

 

「……うへ〜、覚悟決めるしかないかなぁ……」

「ホシノ!??!?」

 

絶対に反対するだろうと思っていたホシノがピンクの覆面を被り、先生の声が裏返った。

 

「うふふ、覆面水着団の始動ですねっ♧」

「ノノミっ!?」

 

いつの間にか先生の腕から離れ、シロコから緑の覆面を受け取ったノノミも、躊躇いなく覆面を被った。

 

『ほ、本当に、本当にこれしか方法がないんですか……?』

「冗談でしょ……!?」

 

乗り気になれない後輩2人は、キョロキョロと視線が泳ぎ、そして先生に助けを求める。

 

「先生……、そう先生よ! 先生が認めるはずないわ!」

「んん……」

 

シロコもそれを理解しているのか、一瞬言葉が詰まる。

 

「先生……」

「セリカの言う通り、私は絶対に認めないよ。それは犯罪行為だし、君達を犯罪行為に送り出すことも認められない」

「ん、先生ならそう言う。それは分かってた」

 

先生の性格を理解しているシロコは、それでも、と言葉を続ける。

 

「でも先生。今私達がこの一線を越えないと、黒幕にたどり着けない」

「あの銀行やカイザーローンが黒幕と繋がっている証拠はない」

「でも証拠が無いと証明する方法もない」

「だから銀行強盗? 理屈として論外だよ。君は物を盗まれたら、犯人探しのために近所の家を片っ端から空き巣に入るのかい? ……シロコが言ってるのはそういう事だよ」

 

うぐ、とシロコはまたしても言葉を詰まらせる。

 

「……先生の言ってることは、()()()

「…………っ」

「そして、私の提案は()()()()()。それは理解してる。成功しても証拠がなかったら無駄骨だし、失敗したら私達は全員終わり。選択肢としてあまりにも()()すぎる」

「………………………」

「だからこそ、私達もその危険を冒す必要がある」

「なっ……」

 

予想外の言葉に、先生は絶句した。

 

「だって、今一番危険な目にあっているのは、他の誰でもない先生」

「それは……」

『そうですが……』

「私を理由にしないで。君達が犯罪に手を染めるのと、私が標的になってるのは何の関係も――」

「関係ならある」

 

シロコの語気が強くなる。

シロコは一歩、また一歩と先生へ歩み寄り、その白と黒の瞳孔が真っ直ぐに先生へと向けられる。

 

「先生は今、命の危機が迫っているかもなのに、逃げない。逃げていない」

「…………ッ」

「生半可な覚悟じゃないはずだよ。なのに私たちは保身のために諦めるの? 先生はここまで付き合ってくれてるのに? そんなの、筋が通らない」

『「………………………」』

 

セリカとアヤネは黙ってしまう。

そして、今度は先生が言葉を詰まらせてしまった。

 

今のシロコの目は、かつて先生が危険と分かっていても、自分の体に鞭打って勇気と覚悟を振り絞る、そう訴えていた目にそっくりだった。

だが、その勇気と覚悟が齎した結果は、理想と現実のギャップという、先生にとって「諦めるきっかけの一つ」にしかならなかった。

 

過去は軽々しく後悔しない。

だからこそ、それを戒めとして止めなければならないのに。

 

「〜〜〜〜ああ、もうッ!! それを言われたらやるしかないじゃないッ!!!」

 

セリカはガシガシと頭を掻いた後、半ばひったくるようにシロコから赤い覆面を受け取り、そのまま被った。

 

『……まさかこの時のために、これを置いていったんですか?』

 

部室に置いていっていたのか、アヤネもいつの間にか黄色の覆面を被っていた。

 

アビドス生徒の意見は満場一致となり、先生は頭が痛くなった。

 

「これが、先生に示す私達の覚悟だよ」

「……いいや、それでも認めるわけにはいかない」

「……っ、どうして?」

 

先生も引くわけにはいかない。

やることがやることだ。勇気や覚悟といった言葉で正当化するなどあってはならない。

表情が歪むシロコに、頑とした気持ちで先生は答える。

 

「シロコ。君はその犯罪行為に――」

 

先生は、そのまま視線をスライドして、

 

「ふぇっ!?」

 

ヒフミを一瞥して言葉を続ける。

 

「何の関係もない他校のヒフミを巻き込むつもりかい?」

「………………………」

「ヒフミが協力を申し出ているからと言って、限度ってものがある。もしトリニティの生徒会に知られれば、今度こそ外交問題だよ!」

 

【便利屋68】の時とは訳が違う。

あの時は相手が指名手配犯なので、捕まえるべき理由もあったが、それでも万が一の可能性を捨てきれなかった。

だが今回は、ヒフミを巻き込めば全面的にこちらの過失だ。言い逃れなど出来ない。

 

「…………先生」

 

その言葉が漏れたのはヒフミ。

ヒフミは全員を見渡す。

 

「…………っ」

 

そして、意を決したように、ヒフミは駆け出して先生とシロコの間に割って入った。

 

「ありがとうございます、先生。でも、でも私――」

 

ヒフミは一度息を吸い込んで、そして吐き出すように続ける。

 

「やりますっ!」

「………………、はっ?」

 

何を言われたのか、先生は暫く理解できなかった。

真剣な眼差しのヒフミは呆然としている先生に、その様子も気づかず主張する。

 

「皆さんとは本日出会ったばかりですが、それでも皆さんが悩みに悩んだ結果その結論を出したことは分かります。先生も、皆さんや私のために厳しく言っていることも!」

「…………っ」

 

我に返った先生は、苦虫を噛み潰したような顔をする。

そして、ヒフミは一歩先生に近づく。

 

「でも、カイザーグループはアビドスだけの問題じゃないんです!」

「……どういうことだい?」

「カイザーグループの企業は、トリニティ自治区にも進出しようとしてるんです。【ティーパーティー】は常に目を光らせてて……。だから、もしカイザーグループがアビドス自治区を害しようものなら、トリニティにとっても他人事じゃないんです!!」

「…………!!!」

 

予想外の所から真実を聞かされ、先生は目を見開き絶句する。

それは先生だけでなくアビドス生徒達も同様だ。

 

「そ、それに、私は【ティーパーティー】の生徒会長と個人的な知り合いでもありまして……」

「はっ!?」

「ですので、私だってカイザーローンの事を、危険を冒してでも調べる根拠はあります!」

 

そしてヒフミは、その場で深く先生に向けて頭を下げる。

それが意味することを理解した先生は頭が痛くなり、表情が歪む。

 

「お願いします、【シャーレ】の先生! どうか連邦捜査部シャーレのお力を、貸してくださいっ!」

「……ん、私からもお願い……します」

 

続くように、シロコがヒフミの後ろから頭を下げる。

それに倣って、ホシノが、ノノミが、セリカが、アヤネが先生に頭を下げる。

 

「……〜〜〜〜……っ!」

 

言葉にならない何かが込み上げそうになったが、先生はグッと飲み込み、代わりに大きなため息をついてしまった。

 

「……なら、今から私の言うとおりに従ってもらう」

 

小さく、そして低い声で絞り出すように呟く。

 

決意に満ちた生徒達に下された、先生の指示とは――。

 

 

 

 

 

先生の指揮のもと、生徒達は覆面を身に着け、【覆面水着団】として闇銀行に突撃する。

 

シロコに身に着けさせた盗聴器から、中の声がシッテムの箱を介して聞こえてくる。

 

――ゲホッゲホッ、煙……いやガスか!?

――大人しくして、言われた物を今すぐ差し出して。

――覆面水着団、参上だお♧

――強盗!? 【マーケットガード】に連絡を!

――ダメです、さっきから連絡しても繋がりません! 通報ボタンも反応がありません!

――え、え、なに!? 銀行強盗!?

 

「上手くいってるな……」

 

ガスで視界が悪くなり、電波障害と停電で向こうは身動きがマトモに取れない。

 

後は証拠となる物を回収させて、ブラックマーケットから撤収する。

ちなみに、アヤネにはホログラム通信を切らせてある。

万が一にも逆探知をされないためだ。

向こうがオフラインで管理するのなら、こちらもオフラインを徹底させる。

通報する猶予など与えない。

 

「……ネッ」

 

コートの裏側を伝って何かが登るように蠢く。

生徒達を突撃させた直後に外へ出したポケモンが戻ってきたようだ。

 

「戻ってきたか――デデンネ」

「デーネ」

 

裾から手のひらサイズの小さな身体が覗く。

尻尾やヒゲの先端がアンテナのような形をしているネズミのような生き物――デデンネはニンマリと笑う。

 

デデンネには“かいでんぱ”を辺り一帯の電波通信網に浴びせ、その後銀行の電気を吸わせることで電波障害と停電を引き起こさせた。

 

「ゲンガーもお疲れ様」

「ンゲ」

 

先生の影から短く鳴き声が聞こえ、ゲンガーの顔が出てくる。

ゲンガーには“くろいきり”をまき散らさせて、視界の妨害を図った。

 

「さて、何が出てくるやら……」

 

シッテムの箱からは覆面水着団が銀行から逃げ出した、と聞こえてくる。

先生は合流地点へと足を運ぶのだった。




大体3行で分かる! 登場人物紹介

シャーレの先生
・この先生が銀行強盗なんて簡単には認めないよね
・おっとりしてて、かつ芯の強い女性には頭が上がらない
・ホウエン地方を旅していた頃、幼少期のバトルハウス四姉妹の面倒を短期間見ていたことがあり、その後カロスで再会

十六夜ノノミ
・自分のスタイルの良さにはそれなりに自信がある方だが、先生は全然狼狽しなかったのでちょっぴりムキになった
・不意打ちで包容力を見せられ、ちょっぴりクラついてしまった
・悪ノリのストッパーにはならない娘

砂狼シロコ
・先生が真面目な人なのは分かっているので、どう説得するか真剣に悩んだ
・予想外の角度から援護射撃がして嬉しい誤算
・電波障害と停電はともかく、ガスのことは聞いてない

小鳥遊ホシノ
・最初はノノミもただからかい混じりでやってるかと思ったが、お使いから戻った時の変わりようにびっくり
・率先して周りを巻き込んでいる自覚が薄い
・実は先生を折れさせる理論武装は頭の中で用意していた

黒見セリカ
・義理堅い性格なので、助けてくれた先生を引き合いに出されると折れるしかない
・率先して不満や不平が声に出るタイプ
・銀行の中で聞き覚えのある声が聞こえたような……

奥空アヤネ
・アニメ見る限り、ホログラムでの通話は相手の場に投影可能……?
・だから銀行強盗の際は先生が通信を切らせた
・お陰で無事で戻ってこられるか凄く心配

阿慈谷ヒフミ
・トリニティ総合学園高等部2年生、現在はまだ帰宅部
・マスコットキャラクターのために一人で治安の悪い場所へ来る少女
・ナギサにとってはありがた迷惑な行為である

デデンネ(♀)
・先生がカロス地方でゲットしたポケモン、大きさはXS
・手のひらサイズの大きさなので、服の裾の中にも潜り込める
・久しぶりに好物の電気をたらふく食べられて大満足

ゲンガー(♀)
・デデンネを影に入れて現場に潜り込ませた
・“くろいきり”にちょっぴり“どくガス”を混ぜている
・シッテムの箱の演算機能をライバル視しており、いつでも“まもる”で守れるように特訓している



PokémonChampions配信おめでとうございます。
私も早速やりましたが、メガウツボットの特性が“とびだすなかみ”とかいう冗談みたいな特性で頭を抱えてます。
せっかく本作にもウツボット登場させたので、叶うならもっとバトル映えする特性が良かったなぁ……。(たとえばどく技がはがねタイプに抜群とれる、みたいな)
まだ最初期環境ですし、道具とか実装ポケモンもそんなにないので、メガガルーラの再来がないようにしてるのかも知れませんが、それでももっと他になかったものか。
しかもメガシンカポケモンの特性変更はまだ一つも前例がないので、下手すりゃずっとこのままかもしれませんし。

まあ楽しいから今後に期待ですね。私みたいなZAからランクバトル始めましたって人でも割と結構ハマりますよ。
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