第1話 序章
世界には、人が住んでいる。
だが、時折。
人ならざる者が現れ、世界に災いをもたらしてきた。
村を焼く竜。森を蝕む魔。天地を揺るがす災い。
そのたびに人々は怯え、祈り、時に無力を悟った。
それでも歴史は続いてきた。
災いの果てには、必ずそれを討ち滅ぼす者が現れ、
再び世界に調和が訪れるからだ。
「歴史は変わる」とは、よく言ったもので。
繁栄する王国もあれば、跡形もなく消えた文明もある。
揺らぐ思想、途絶える血脈。
だが、そんな歪み続ける歴史の中で。
ただ一つ、揺るがず語り継がれてきた予言がある。
『魔を討ち取る者、現れん』
『天の光を宿して、生まれし者なり』
それは『勇者』の到来を告げるものとして広まり、
時代ごとに形を変えながら、今もなお語られている。
誰もその正しさを測れないまま、
ただ…そういうものだ、と受け止めながら。
◇◇◇
やがて、世界は静かに変質し始めた。
山脈の向こうから現れる魔物の数が増え、
人里に降りてくるはずのない魔物が出没し、
古い伝承の中でしか知られていなかった姿の魔物さえ現れるようになる。
当初は一部地域の異変として片付けられた。
しかし程なくして、その異常は各地に広がっていった。
魔物の凶暴性が増し、夜道の外出が禁じられ、
街道の安全はもはや保障されなくなる。
そして──誰もが見たくなかった存在が確認された。
『魔族』
歴史の中でしか語られなかった存在。
人と似て非なる異形。強い魔力を持ち、人の理を超えた力を備え、
魔物を率いて集落を急襲し始めた。
とある都市が陥落した時。
その中心で、ひとりの魔族が高らかに宣言した。
「この世は、魔王アルベム様の物なり」
「人間どもよ。我らが王へと下るがいい」
その日を境に、世界の認識は変わる。
魔王襲来。
その事実は、遠い伝説や物語の中に閉じ込められていた存在である魔王を、
現実そのものへと引きずり出した。
各国は動揺した。
ある者は兵団の練兵を望んだ。
ある者は世界の団結を謳った。
ある者は魔王の忠誠を誓った。
ある者は……ただ勇者の誕生を願った。
だが願ったところで、勇者が生まれる保証などどこにもない。
予言が指し示す『天の光』が何を意味するのかさえ、誰にも分からない。
魔王襲来から約40年。
人と魔族は絶えず抗争を続け、
いくつもの国境が塗り替えられ、
数えきれぬ命が奪われた。
そして──
人類の希望となる何かが、ようやく動き始める。
これは、英雄を望まれた一人の青年が、
本当の意味で『勇者』になるまでの物語である。