勇者の冒険譚   作:ソト

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第17話 勇者計画⑤

 

教会での邂逅から早、1ヶ月。

ただ、参加意思の表明をしてから、女はすぐに去ってしまった。今後の話や次に何処で何をするかすら、聞かされていない。

一報入れて城に突撃する訳にもいかない。そもそも、手紙を書いても何処に、どうやって渡せばいいのか。上手く渡せたとて、検閲的なのが入るか、処分されて終いだ。機密情報の取り扱いが分からない以上、こちらから動く訳にもいかない。

何も出来ない以上、ごく普通に剣を振り、授業を受け、変わらない日々を送ってきた。

少しは情勢について調べてもみたが、街に降りてくる情報はそこまで大したものでもない。

「…これでいいのやら」

愚痴を言いながら、廊下を歩き、自室へと赴く。その手には小さい封筒。

「さて」

部屋の椅子に腰掛け、封蝋を割る。

宛名は、『アレストル国家守備隊 兵務局』。

この1月の間に行われた入団試験。それの合否だろう。封筒から書類を取り出して、目を通す。

「……合格、」

ぼんやりと天井を眺める。

不思議な感覚だった。ほんの少し前まで夢を見ていた兵士、騎士への足掛かり。友といれば、騒ぎながら、小躍りでもしていただろう。 

手ごたえはあった。筆記はともかく、実技は全勝。採用官とも接戦だった。この結果には満足している。

…けれど、素直に喜べない。

決してヤケになった訳じゃない。やれる事をしなければ、と闘志は強く燃え上がっている。

だが、思えば、遠くまで来てしまった。そんな感覚だ。現実味がないといっていい。

「…やめだ」

がたっ、と音を立てて、立ち上がる。焦燥感で、身を揉んでも仕方がない。受かった、が、別の道を行く。それだけだ。

「散歩しよ」

部屋に篭っても、息が詰まる。今日は剣もそこそこ振った。気分転換に街を歩くのも良いかもしれない。

 

 

◇◇◇

 

 

「くぁ、…」

あくびをしながら、何も考えずにただ歩く。

気の思うままに、右へ左へ。たまに路地裏。見知らぬ道を躊躇なく歩く。もはや、碌に知らない場所まで来てしまった。

「どの区画だ、ここ…」

見覚えのある尖塔でも見つければ、大体分かる。小高い場所があれば。

「うぐっ」

「邪魔だ、ガキが‼︎」

考え事をしていたら、背中に誰かがぶつかった。酒臭い大男だ。

自身に悪態を付き、肩を鳴らす。向かいには、またもや大男。喧嘩をしている。

「おい、コラ喧嘩すんな‼︎」

飛び出したのは精悍な顔をした男。男は慣れた様子で二人の間に割って入り。

──数秒後には二人とも地面に転がっていた。

「、ぐ、う゛ぅ、…バ…ン、……テメ、…」

「悪いな兄ちゃん、迷惑かけたな」

ひらひらと手を振って、沈んだ2人を引き摺りながら、去っていった。

「……何だったんだ」

怒涛の流れに困惑してぽかん、と立ち尽くす。感情の行き場を無くし、きょろきょろしていると見覚えのある看板を見つけた。

「…、…あ、ギルドの」

ギルド周辺の区画だ。さっきのは冒険者たちなのだろう…通りで荒事に慣れた人の多い訳だ。

「あ」

目的を思い出す。尖塔でも探すつもりだったが、ギルド周辺なのが、分かれば苦労はない。アカデミーまで距離もある。そろそろ帰ろう。

「…もう日が暮れそうだな」

大通りを通っては時間もかかる。この辺りなら、路地裏を通った方が早い。そうと決まれば、足早に。

「アルド様」

ひゅっ、と喉がなる。路地裏の薄暗い影。人の気配はなかった。なのに、後ろに。

咄嗟に身を捩り、剣の柄を握りながら、距離を取る。

「、アンタは、」

「今、お時間はございますか?」

例のローブの女だった。相変わらず顔は見えない。ただ、有無を言わせぬ不気味な圧力がそこにある。

「…ありますよ」

だが、好都合。やる事が分からなすぎたくらいだし、詳細が分かるなら大歓迎だ。帰りの時間が遅くなるくらいしか不都合がない。

「どちらへ向かえば?」

「すぐ分かります…お手を」

「…手?」

差し出された手を見る。…握手、ということか。…手を引かれて、目的地まで?

「…これでいいですか?」

「結構です。では、行きましょうか」

「…どうやって…」

女は懐から青みがかった緑に輝く石のようなものを取り出した。

「…それは」

「目を閉じていた方がいいですよ」

「え、目?」

「ルーラ」

石は淡く光ると、一瞬で世界は弾けた。

 

 

 

ぐらりと世界が捩れる。

激しい光に目が焼けたような感覚に陥る。

「…ご忠告なさいましたよね?」

「早すぎますって…」

ぱちぱちと目を幾度か瞑り、ようやく視界が戻る。…が、何処だここは。

「…先程、…ルーラでしたよね?、ここが目的地ですか?」

「その通りです」

「ここは何処なんですか?」

「…正式に任務に参加になったとはいえ、依然全容は機密です。少なくとも今、現在全てを開示する訳にはいりません」

「…それもそうですね」

顔を上げると、何かの建物が側にあった。全容はよく分からない。…が、周りは木々が立ち並び、人の気配は感じられない。

…少なくとも、見知った場所ではない。

「こちらへ」

案内に誘われるまま、中へと入る。薄暗い…が、汚れはない。人の出入りはある…国の施設か何か、か。

廊下を歩き、目的の場所へ着いたのか、コンコンと戸を叩く。

「入れ」

「失礼します」

「、失礼、します」

中にはやつれた中年男性と赤髪の女性がいた。…が、印象に囚われてはいけない。

「アルド・グリフィスをお連れしました」

「ご苦労」

やつれてはいるが、覇気がある。身が縮こまるような圧があった。

「……アルド、よく来てくれた。…そこに座ってくれ」

「…はい」

「…はじめまして、俺はエード・アンブロス。情報部の人間だ」

「…はじめまして、アルド・グリフィスです」

「…まず初めに。厳しい任務であるにも関わらず、快諾してくれたこと。心より感謝する」

遥かに立場が上の人物が自分なんかに頭を下げている。それだけで、この任務が自分が思っている以上に危険なもので、大事などだと、改めて実感をする。

「さて、ついでに紹介しておくよ。……いや、君からするかい?」

ちらりと背後に立つ女を見る。

「最低限で構いません」

「釣れないね。顔くらいは見せてあげなよ。

…彼女はエレミー・トラウト…ザルグ君の部下だ。今は彼女は臨時で情報部の実務部隊に入ってもらっている。今後も君に用があるときは彼女を通して接触するよ」

エレミーを見ると、フードを脱いだ妙齢の茶髪の女性がいた。こくりと会釈をしたが、それ以上の会話はない。

「そして、俺の隣にいるのは、スペリア・ケルヴァラ。魔道部隊所属だ。既に本計画への参加が決定している。今後、君達は行動を共にすることになるよ」

「…宜しく。アルド・グリフィス」

「どうも、…宜しく、お願いします」

赤髪の女性。魔法使い。…年齢は自分より何歳か上…といったところだろうか。

「さて、本題に入ろうか。

君はどこまで任務を知っている?」

「、えっ…と……、超少数で行う魔王軍の索敵・情報収集任務と聞いています」

「そうか。なら、話は早いね。

現在、任務の参加が確定しているのは3名。更にギルドから1人参加を予定している…まだ選定中ではあるけれどね」

「…計4名…、…確定している残り1人は?」

「諸事情で今日、顔合わせが難しかったんだ。旅立ち前に一度は場を設けさせてもらう。…まぁ、君には不要かもしれないが」

「?」

「…まぁ、今日はそこまで肩肘張るものじゃないんだ。今後の共有の流れや追加説明、スペリアとの顔合わせが主目的だからね」

「…追加説明、とは?」

「大したことじゃない。任務の最中に頼みたいことだ。スペリアが窓口になるだろうからそこまで仰々しいものではない。…定期的に情報の連絡をしてもらいたいんだ。滞在している場所、こちらで持つ情報、別途で手に入った情報…それらによって任務の動きは大きく変わるだろうからね」

「…なるほど」

「もう一つ。現在、ギルドとも協力体制を取っている」

「ギルドと?」

「あぁ。あくまで中立の範囲内だがね。情報提供や手続きなど、多少の便宜は期待できるだろう。…更に物資の供給を依頼した。完全な補助…は難しいが消耗品、食料、金銭などは確約した。旅の最中に困った時に尋ねるといい」

「!、ありがとうございます…‼︎」

国家、更にギルド。2つの巨大組織が援助をしてくれる。無謀な任務であることに変わりはないが、胸中に渦巻く不安を掻き消し、安心感をもたらすには充分だった。

「さて、こんなところかな。……ふう、しんどい話で息が詰まるね。エレミー、一服付き合ってくれないか」

「……承知しました」

エードが立ち上がると、葉巻を咥え、エレミーと共に外へ出る。場には自分とスペリアの2人だけが残った。

「……」

「……」

気まずい。旅に出る仲間とは聞いたが、それ以上は何も知らない。年齢、性格、出身、特技……、何か話した方がいいんだろうか、こういうものなんだろうか。

「……私の顔に何かついてる?」

「え、?、いや」

「……ふふっ、百面相ってこういう事をいうのね」

「…そんなに、ですか?」

「面白いほどにね」

くすくすと笑うスペリアを見て、少し緊張がほぐれる。

「スペリアさんは」

「気楽でいいわよ。気にしないなら、呼び捨てでも敬語じゃなくたって。私は気にしないわ」

「…スペリア………さん」

「…まぁ、慣れるわよ。どうせ私たちは、旅に出れば、数年は共に過ごすことになるのだから」

「…それも、そうですね」

「…アルド、だっけ。貴方はどうして、この任務に?」

じっと、見つめているスペリアの目。吸い込まれそうな深い、深い緑に息を呑む。

「…色々は、当然悩みましたよ。…けど、もう納得しています。

それじゃあ、ダメですかね?」

上手く説明が出来ない。

散々悩んで、決めたこと。

今更、迷いたくはない。

「そう、ならいいわ」

「…スペリアさんは何故?」

「私?……上からの指令ね。…まぁ、何より…」

「……?」

「ごめん、何でもない。ただの勅令よ」

お互いに手探りだ。まだ出会って数分だ、仕方ないだろう。ただ、無言に耐えられないので、周りから話を聞いていく。

「あー、…他に…参加者がいるって話でしたよね? 何か聞いてますか?」

「…回復呪文が得意、とは。貴方は剣に加えて攻撃・回復魔法を扱うけれど専門じゃないでしょう? 私みたいな攻撃魔法特化のように回復魔法特化の人材だと思うわ」

「回復………スペリアさんは何の攻撃呪文が使えるんですか?」

「…メラ系、ギラ系、イオ系、…辺りね。後は補助呪文を少し」

「へえ。イオ系……俺は使えたこともないです」

「ふふ。他にもヒャド系も使えはするけど、少しコントロールが苦手なの。……アルドは?」

「えっと…メラ、ギラ…くらいですね。他はホイミ、ベホイミくらいで」

「なるほど、十分ね」

一応デインも使えなくはない。だが、まだ発動や命中精度が不安定で、あの夜のように思い通りには放てない。要はレベルが足りていないのだろう。

「ん」

「…帰ってきたわね」

コンコン、と音が響く。先程喫煙に向かったエードとエレミーが帰ってきた。

「失礼するよ」

エードは椅子に腰掛けると、間髪入れず話し始めた。

「…多少は話せたかな?」

「は、はい」

「それは何より。…さて、今日は要件は終いだ。先程も言ったが、今後も用があれば、エレミーを通して行う。今後も急な要請にはなるだろうが…応じてくれると助かるよ」

「分かりました」

「ありがとう。…エレミー、アカデミーまで送ってくれ」

「はっ」

エレミーが戸を開け、こちらを一瞥する。またルーラで帰るのだろう。今は何時なんだろうか、食堂は開いているのだろうかとぼんやり考えながら、立ち上がる。

「…アルド君。残り数ヶ月、…学生生活を悔いのないように過ごすといい。怪我などないことを祈っているよ」

「…はい、ありがとうございます」

一礼をし、部屋を出る。

 

本格的に計画が動き出す。

不思議と、足取りは軽かった。

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