勇者の冒険譚   作:ソト

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第18話 勇者計画⑥

 

休日の昼下がり。

街を散策していた時だった。

 

「‼︎」

気配がする。咄嗟に柄に右手を添え、振り返る。

「…召集ですか?」

「話が早くて助かります。こちらへ」

エレミーが来た、ということはそういうことだ。躊躇なく、差し出された手を握り、目を瞑る。

「ルーラ」

 

 

 

葉が擦れ、木々がざわめく。土の匂いが鼻を掠める。目を開けると、以前来た施設の前にいた。

「こちらへ」

手招きされて、背後を歩く。

さて、何の話だろうか。順当に考えれば、確定しているも顔を合わせ損ねた3人目との顔合わせ。ギルドからの人間にも会うかもしれない。

「失礼します」

以前誘導された部屋とも変わらず。中に入ると、エードとスペリア、そして見知らぬ男性が1人いた。

「……」

紫がかった黒髪。椅子に深く腰掛けながら、こちらを品定めするようにじっと見つめている。視線にやりづらさを感じながら、指示された椅子に座る。エレミーはそれを見届けると、一礼して、部屋を去っていった。

「…エードさん。これで全員かい?」

「いや、あと1人来るはずだ。暇だろうが、茶でも飲みながら、待っていてくれ」

男がエードに話しかける。軽薄とまではいかないが、堅物のような性格ではなさそうだ。

「………」

スペリアは変わらず無言のまま、ぼんやりと窓の外を眺めている。

何とも言えない時間が過ぎ去る。少しの時間が経ったのち、廊下を歩く足音と、戸を叩く音が聞こえた。

「失礼します」

入ってきたのは、ローブを被った男性と青髪の女性だった。

「…え?」

案内役は全員ローブという決まりでもあるのだろうかと、考えるのも束の間、見知った顔に思考が止まる。どうやら、それは相手もそうだったようで目をぱちぱちさせて、周りを見ている。

混乱のまま女性が席につき、エードが話を切り出す。

「さて、今日は本計画の実働部隊として確定した4人の顔合わせが主目的だ。…説明は各自で済ましてある。今後の動きに関しては追って連絡する」

エードが椅子から立ち上がる。

「僕は事務仕事があるんだ。残った4人で後は話しておくといい。行くぞ、モズ」

「はっ」

モズと呼ばれたローブの男は短く答えると、エードを追って、部屋を出て行った。

「……」

要は交流会らしい。色々と混乱しているが、ひとまず息を整え、口を開く。

「えっと…まず、自己紹介をしましょうか。

俺は、アルド・グリフィスです」

女は眉を顰め、男は頷きながら問う。

「アルドね。見ての通りの剣士か?」

「はい。後は呪文を少し」

「剣に呪文、ね。…そりゃあ凄えな」

目を細めて、薄く笑う。が、すぐに表情を崩すと、自己紹介を始めた。

「…さて、俺はバント。ギルド所属の冒険者……まぁ、武闘家だな」

バント。自身よりも遥かに背が高そうだし、頑強そうな肉体だ。武闘家というのも納得である。

「で、そちらの嬢ちゃんは」

ちらりと視線を向ける。

「…私。私はモルク・エメルト。回復呪文が得意です」

「モルクか。宜しくなー」

任務の同行者。回復職。それだけなら、何も思わなかった。この人選にも、何か意図があるのかもしれない…だが、聞かない訳にはいかなかった。

「…モルク、何でここに」

「…そっちこそ。アルド君、何でここに?」

「何だ? 知り合いだったのか?」

「…アカデミーの同級生ね。それなりに交友関係はあったみたいよ」

混乱する2人をよそにバントがスペリアに問う。それに構わず、声を荒げて立ち上がる。

「分かってるのか…⁉︎ 死ぬかもしれないんだぞ…⁉︎」

「…アルド君も、騎士になるんじゃなかったの?…同じことだよ、君も、私も」

それを言われると何もいえない。危険度は同じだ。回復呪文の練度で言えば、モルクの方がよっぽど安全かもしれない。

「…スペリアさんは知ってたんですよね?、どうしてあの時…」

モルクの言い分に何も言えない自分は。

文句、やつ当たりにも近い…やり場のない感情をスペリアにぶつける。

「…機密情報よ。言える訳ないじゃない」

「ははっ、その通りだな」

あっさりと返すスペリアにケラケラと笑うバント。何も言えなくなって、すとんと座る。

「…まぁ、全員知っているでしょうけど、改めて。スペリア・ケルヴァラ。魔法使いよ」

「…ケルヴァラ。ケルヴァラね。アンタ、もしかしてアレストル出身じゃないのか?」

全員の名前を聞いたと思えば、バントが突如切り込んできた。言われてみれば、あまり聞かない姓かもしれない。

「まぁ、そうね。幼少期はクレイザムで過ごしたわ。…すぐにアレストルに引っ越したけれど」

クレイザム。火山地帯にある遠く離れた異国。名前くらいは知っている。

「へえ、裕福だったんですねえ」

「…いや、そういう訳じゃないけれど…」

「違うのか?」

世界各地が魔王軍によって不況が続く時代だ。引っ越しが出来るなら、それなりに裕福だと思うけれど。

言い淀むスペリアに俺とモルクは首を傾げる。

「……いや」

「あー、アルドとモルクはアレストル出身か?」

「え?、あ、はい」

「俺もです」

「アカデミー生なんだろ? 優秀な奴しか入れないって聞くぜ?そこで何を習うんだ?」

「基礎学問に…俺は剣とか兵法、呪文とか」

「私は…経済とか薬学、回復呪文ですね」

「ほお。ってことはスペリア含め、実戦的な知識とかはない訳か? 野営とか出来るか?」

「…私は出来るわよ。そこまで専門的に詳しい訳じゃないけど経験なら」

「俺は剣の試験の時に少しだけ」

「私は無いです…」

「じゃあ意外と旅はどうにかなりそうだな。もし、未経験3人だと、流石にきちーからな」

「…一応魔道部隊も兵士よ?索敵とか食料確保とかは問題ないわよ。地図とかだって、読めない訳じゃない」

「地図くらいなら、俺もいけますよ。…経験がほぼ無いですけど」

「…食材とか物資の管理くらいなら…」

「あー、充分充分。駄目にすると面倒だからな。助かるわ」

何が出来るかを聞いて、役割を回す。ギルドから選ばれた冒険者なだけあって、明らかに旅慣れしていると感じた。

「…凄いですね、バントさん。旅慣れてるというか…会話が上手いというか」

「経験だ経験、年の功ってやつだよ」

「年の功って…貴方、21でしょ」

「何で知ってんだ、スペリア」

「…一応、上から情報は得てるからよ。経歴とか…生まれとか…、分かるところだけだけどね」

「え?全部知ってるんですか?、そんなとこまで?…俺たちにも何か教えてくださいよ」

「バントは15のときに冒険者になった、とか?」

「自分のを言え、自分のを」

バントのヤジにため息をつきながら、スペリアが答える。

「…私は23。ある程度前に魔道部隊入りをしたわ」

「ある程度…? 16とかですか?」

「10」

「…10?」

「ガキじゃん」

「そんなに幼い頃から…? どうしてそんな…?」

「…長い話よ。それよりモルクは?」

「え、私ですか?」

「年齢とか経歴をいう流れでしょ?」

「あぁ、……えっと、私は18です。商会で生まれて……現アカデミー生です。…あ、僧侶の資格がありますよ」

「何だソレ」

「ざっくりいうと…回復呪文を扱うための資格、みたいなものですね。教会に所属する資格ではありません」

「あぁ、冒険者の僧侶連中が破戒僧ばっかなのはそういうことなのか…?」

「ははは。…そういえば、バントさんはどこの出身なんですか?聞いてない気がします」

「俺? ストロイドだよ」

「ストロイド?…ストロイドって軍事国家の?」

「そうそう」

ストロイド。軍事力では世界随一とも言われる大国だ。

「…何でそんな国から冒険者に…? 兵士を目指す方のほうが多そうですけど…?」

「はは、兵士なんて、性に合わなくてな。俺は自由にやりたいんだ。…ま、俺には俺なりの理由があるもんさ」

「へぇ…、俺、冒険者のことはあまり知らないんですよ。何をしてたか聞いてもいいですか?」

「おう、いいぞ。てかアルドもモルクも敬語もいらねえよ外せ」

「え、急に言われても…」

「慣れりゃ外れんだよ、慣れろ」

 

その後も、他愛もない話は続いた。

アカデミーでの話、旅の失敗談、各国の文化。内容は取り留めのないものばかりだったが、不思議と退屈はしなかった。

 

そうして時間が過ぎた頃──。

 

 

モルクはポットを持ち、カップに注ぐ。ぽた、と水滴が一粒垂れた。

「あ、…紅茶がない…」

「結構話したな。どれくらい経った?」

「さあ、…どちらにせよ、お開きね。足音が聞こえる」

「…、…本当だ」

「ま、今後も呼ばれるだろうし、長い付き合いになる。これからも、宜しく頼むぜ」

バントが纏めると同時に戸を叩く音が響く。

「失礼するよ」

書類仕事を終えたからか、やや疲労の見えるエードは部屋に入るやいなや、そのまま椅子に腰掛けた。ちらり、と空になったカップを見て、微笑む。

「楽しく話せたようで何より。…さて、今日の要件は終いだ。繰り返すが、今後の任務については追って詰めていく。それまでは…各自自由に、そして、旅立ちの準備を進めて欲しい。

頼んだよ」

 

 

◇◇◇

 

 

「もう夕方だな」

「そうだね」

施設を出た後、アカデミー近くの路地裏に帰ってきた。同じ寮へと帰る俺とモルクは道を歩く。

鳥が鳴く。風が吹き、枯葉が舞い散る中、口を開く。

「モルク。俺は後悔しないよ。進むべき道を見つけた」

少し目を見開いたモルクは、小さく笑う。

「………私も。

うん。決めたよ。後悔しない。私も…私の出来ることをするから」

 

差し出された拳にこつんと、拳で返す。

旅立ちは、数ヶ月後。

それでも、その日は確実に近づいていた。

 

 




ルアスはストロイドからの留学生だったりする。
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