世界に6つある大国の1つ『アレストル』。
安定した気候、物流を持つ盤石な国家であり、軍事国家と肩を並べる強国だった。
──8年前の魔王軍の襲撃までは。
王都は甚大な被害を受ける。保有する騎士団は半壊し、多数の死者が発生。
国力は大きく衰えた。
それでも、状況は落ち着きつつある。
王都はかつての精強さを取り戻す為、復興を進め、街には活気が戻り始めていた。
そして──
その街角で、ひとりの少年が剣の腕を磨いていた。
◇◇◇
「精が出るな。アルド」
構え、袈裟斬り、返し、突き――型を繰り返しているところへ声を掛けられた。
「…ロイド」
「少しは休め。休息の大事さが分からない訳じゃないだろう?」
軽く投げられた皮袋を受け取る。
「はは、ありがとう。少し集中しすぎたかな」
栓を開け、水を一口飲む。
「もう少しで兵団の試験だったか。お前なら通るだろう。そんなに根を詰めることか?」
「俺は騎士になりたいんだ。あの、背中に追いつきたい」
ロイドは一瞬だけ黙り、アルドを見た。
「…親父さんか」
ロイドは少し息をつき、話を続けた。
「お前も知っているだろうが、この国の戦う組織は三つだ」
「まず、兵士の入り口 国家守備隊。通称【兵団】。外の見張りや治安維持とかの雑務であちこち飛ばされる」
「次が アレスナ騎士団。兵団の中でも選ばれた連中だけが昇格できる精鋭たち。親父さんがいたのはここだ」
「最後が 魔道部隊。前線には出ないけど、支援や研究で騎士団と組むこともあるらしい。お前には関係ないな。…あぁ、でもお袋さんがいるんだっけか」
アルドは黙って聞きながら、剣の柄を握りしめる。
「…お前の目指す場所は卒業して、兵団で経験積んで、そこからだ。最低でも数年はある。アカデミーの卒業だって、半年は先だ。焦りすぎも良くないと、俺は思うがね」
「…けどなぁ」
「お前、昨日教授に仕事頼まれて帰り遅かったよな? ろくに休まないで、倒れる奴に騎士が務まるか?」
「う、悪かった。そろそろ戻るよ」
中庭の草木が風で揺れ、夕陽に照らされた道を2人で寮へと歩く。
「腹が減ったなぁ」
「そうだな。肉が食いたい」
「肉なんて…最後に食ったの、いつだっけな」
「炊き出しの残りに混ざってた骨付きじゃないか?」
「あれは肉って言わないでしょ…」
他愛のないやり取り。
寮に戻って飯を食い、一眠りして、
朝になれば授業を受けて、剣を振る。
それを繰り返すと漠然と思う。
──それが、今夜までとは知らずに。
◇◇◇
「ふぁ、…」
「おい、弛んでんじゃねえのか?」
「深夜だぜ。あくびも出るっつーの…」
城門。夜空の中、篝火の側で平原を眺める。生憎の天気で、雲に覆われて、月は見えない。
「よっ、交代だぞ」
「水と芋を持ってきてやったぜ」
裏手の階段から2人の兵士が軽食を持って、やってきた。
「お、やーりぃ。芋までくれるなんて、上は太っ腹だなぁ」
「や、くすねたんだよ」
「……言うな。共犯にする気か」
溜め息をつきながら、塀から草原を見る。徐々に雲が流れ、月明かりが大地を照らす。
「…ん?」
──そこには、魔物がいた。夥しい数が。
咄嗟に声も出せなかった。
ただ、呆然と、月明かりに照らされた異形の影を見つめていた。
人の形をしているようで、していない。
牙と爪が月光を反射し、無数の赤い瞳がこちらを睨んでいる気がした。
そして次の瞬間、咆哮が夜を引き裂いた。