勇者の冒険譚   作:ソト

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第3話 誕生前夜②

「っ、……あ…?」

ぱち、と瞼を開ける。ぼーっとする頭の中、何かがけたたましく駆け巡る。

鐘の音。

「……は?」

一度、意識が覚醒すれば、より鮮明に耳をつんざく。かつての事件を思い出すような。

慌ててベッドから飛び降りる。光が漏れるカーテンを乱雑にこじ開けた。

「……何が、起こってる…?」

寮から見える月明かりに照らされたいつもの街並み。遠くに見える城門が。その周辺が。赤々とした火の手が上がっているのが見えた。

「っ、……襲撃…⁉︎」

どくん、と鼓動が跳ねる。

カーテンを握る手が震えた。

「あ……、…ぁ………‼︎」

 

またあれを見るのか?

壊された街。

広がる血溜まり。

喪う人々。

次に帰ってくるのは、母か?叔父か?友人か?

 

「はぁっ、……はぁっ、…‼︎」

脳裏によぎって、膝をつく。

丁寧に死化粧をされた父の顔。

それでも隠しきれぬ戦禍の傷跡。

──また、あれを?

「……まず…動かないと…」

せめて何か指示が聞きたい。

どうしたらいい?

…何を、すればいいんだ?

 

 

逃げ出すように部屋を飛び出す。

廊下に出てから、腰の重みに気づいた。

──剣だ。

いつの間にか、手が伸びていたらしい。

そのまま足音を響かせて、広間へ向かった。どうやら、寮の人らも似たような考えだったようで、ざわざわと人がごった返していた。

「全員いるかッ⁉︎」

「また奴らが来たんですか⁉︎」

「やだぁ‼︎ 死にたくねえよぉ‼︎」

無数の声が飛び交い、誰が何を言ったのかすら分からなかった。 ただ、あらゆる不安と恐怖が、この空間を支配していた。

全員がパニックで、思い思いに叫ぶ。教師の顔も明らかに焦っており、指示が分からない。

「落ち着け、生徒らッ‼︎」

一際、声の通る覇気のある声。一瞬の間は凪のように伝わり、一転して静寂が場を包む。

「(教官…)」

現れたのはアカデミーの剣術師範。戦える大人の登場に、張りつめていた心が少し緩む。

「察しの通り、王都に魔王軍が襲撃してきた‼︎ 騎士団、兵団、魔道部隊と連携して、敵の排除を行うッ‼︎」

当然、ざわつく。が、鋭い眼光でそれ以上の会話を許さない。

「諸君らは隊列を組んで、避難所へと向かえ‼︎ 命を最優先に考えろ‼︎ 物を持ち出そうなどとは考えるなよ‼︎」

事件の概要。対策。そして、生き延びるための道筋。不安で揺らいでいた心に、それらが確かな光を灯した。

「隊列を迅速に組み直せ‼︎ 私に着いてこいッ‼︎」

教官らに護衛されながら、隊列を組み直し、避難所へと向かう。

「(これで助かる)」

漠然とした安堵感。浮き足立つ気持ちを抑え、避難所へと走る。周りも幾らか落ち着きを取り戻したようで、張り詰めた空気も多少は緩んだのを感じる。

「(大丈夫)」

剣が腰で揺れる。

「(大丈夫だ)」

今の自分じゃ、足手纏いだ。

「(手伝えることだってあるんじゃ?)」

何のために剣の腕を磨いた? 何のために魔法を覚えた?

「(違う…これは間違ってない)」

仕方のないことだ。教師は生徒を守らざるを得ない。迷惑をかけられない。

「(正しいはずだ)」

燻る心を押し殺し、ひた走る。

これは最善だ。自分に出来ることは何もない。

遠目に見える火を横目に。

ただ、流されるように走っていく。

ブレるな。考えるな。

 

「クソ、もうあそこまで火の手が…‼︎」

「兵士が足りてねえのかよ⁉︎」

「まずは生徒を避難させてからだ‼︎」

周りで話す大人の声が耳に入る。

 

濁った目で、火の手を見やる。

城門に近い、大きな図書館が目印の場所。

「…え」

また、火の手が上がる。

建物が崩れるのが見える。

「おい、止まるな‼︎ 走れ‼︎」

「あの、場所は…」

「聞いてるのか⁉︎ おい‼︎」

 

見覚えがある。

あの建物の周りで友人と走った。

母と歩いて、りんごを買った。

叔父が打った、この剣をくれた。

……俺の街。

 

「おい⁉︎ 何処へ行く⁉︎」

「錯乱したか⁉︎」

「止まれ、アルドッ‼︎」

 

知ってしまったら──

見て見ぬふりなど、出来やしない。

 

何かに取り憑かれたように。

理性も、感情も置き去りにして。

足が、前に出ていた。

 

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