勇者の冒険譚   作:ソト

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第9話 誕生前夜⑧

「ガアァァッ‼︎‼︎」

一息ついたオークキングは距離を詰め、槍を構えている。

一か八かだ。

このままでは勝てない。

ただ、一瞬でも動きを止めれたら。

剣を届かせる隙が作れたら。

「喰らえッ‼︎」

瓦礫に転がる鉄の盾を掴み、回転させるようにぶん投げる。

「ガゥッ⁉︎」

ガギョンッ‼︎ と、鈍い音を立てて、槍に盾が命中し、弾かれる。

「もう1発ッ‼︎」

一瞬の好機。盾の衝撃でたじろぐ巨体、その足が半歩止まった。

倒壊した鍛冶屋から露出していた『それ』の持ち手を掴み、全身のバネを使って振り抜く。

空気を裂き、弧を描きながら頭上へ。

狙い通り、脳天前方に落下してくる。

「グァッ⁉︎」

「よし、完璧…‼︎」

鍛冶屋で鍛え上げられた重量級のバトルアックス。落下すれば、毛皮も頭蓋も貫くことは分かっている。

「グォアアアッッ‼︎‼︎」

一瞬、衝撃でたじろぐオークキングは反応が遅れるも、巨槍を振り上げ、その勢いでバトルアックスを打ち砕く

バゴオォンッッ‼︎‼︎

「グゥッ⁉︎」

凄まじい轟音と飛び散る火花。

割れた斧の破片は散弾にと変化する。脳天近くで割った物を避けられる道理はない。

「グォアアッ‼︎‼︎」

割れた刃や持ち手。大破した斧の破片が肩や顔を裂き、血が吹き出す。

痛みに悶え、息が漏れる。

「これもくれてやるッ‼︎」

瓦礫の隙間に白銀の刃が光る。聖なるナイフが3本落ちている。

躊躇う暇はない。

即座に掴み、悶えるオークキングに投擲する。

「グッ⁉︎ グァアッ‼︎」

1本外れたが、2本は刺さる。急所ではないが、充分深手なのは一目瞭然。

目を瞑り、破片を抜こうともがいている。厄介な槍も機能していない。

巡り巡ったチャンス。今なら当たる。

体の魔力を手に集中させていく。

「焼けちまえッ‼︎ メラーッ‼︎‼︎」

腕に纏わりつく炎は火球となり、放たれた。

「ォォオオオッッッッ‼︎‼︎」

狙い通り、引火した。

槍を取り落とし、炎を払うが、回りが早い。

燃え上がる炎が毛皮を伝う。

肉が焦げた匂いが鼻を突く。

皮膚の焦げる音がパチパチと響く。

今なら行ける。

奴は武器もない。剣を振い、首を刎ねれば、倒せる。俺が、勝つ。

「っ、は、……は、………っ……?」

今が勝負所だと、頭は分かっているのに。

狙いが上手くいっても、まだ倒せてないのに。

「…あ、…か、……」

口からぼたぼたと唾液が垂れる。

息が苦しい。

気持ち悪い。

体が動かない。

「、……?」

視界の端が暗くなる。

剣を握る手の感覚が認識出来ない。

溜まりに溜まった疲労が莫大な負債となって、体にのしかかる。

がくっ、と膝をつき、項垂れる。

顔を上げて、オークキングを見やると、赤い炎の中から緑の光が輝くのが見える。

「(…回復呪文…)」

まだ消火されていない。

追撃を。

立て。剣を持て。

そう、分かっているのに。

体はピクリとも動かなかった。

「はー…っ、………はー……っ………」

分かっている。

奴はまだ立ち上がる。

幾ら呼吸をしても満たされない肺の痛みを感じながら、その時を待っている。

 

「ク、ソ…」

乱暴に身体をむしり、火を掻き消す。願いも虚しく、消火までに追撃が終ぞ出来なかった。

「フーッ…フーッ…‼︎」

怒りに燃えるオークキングは転がる槍を掴んで、それを支えに立ち上がる。

「はー…っ、…」

深く、息を吸う。

どちらも動けなかったが、間を開いたことで消耗しきった身体は多少なりとも回復した。

…動ける、戦える。

剣を再び構え、オークキングを見据える。

数分の休戦を終えた。

オークキングの体には所々食い込んだ破片が見えている。

見た目にほとんど変化はない。

だが、一度全身を燃え尽きたのをここまで回復させたのだ。

相当の魔力を消費しただろうし、体力も消費している筈。そうであってくれ。

「(…最低限の余力はある。…けど、長期戦には耐えられる気がしないな…)」

のそり、とオークキングが歩き出す。

自分の残った体力を勘定していても、どうにもならない。覚悟を決めろ。

槍を構えている。

肩が動く。

地面を蹴る。

ヒュンッ、‼︎

無造作に繰り出された突き。

顔の横を一閃。

空気を裂く、変わらない重たい一撃。

だが、穂先がブレている。

槍を引く速度が先程より遅い。

弱っている。

「ゥォォオオオッッ‼︎‼︎」

真っ直ぐ。斜め。上から。下から。一瞬の間に繰り出される怒涛の攻め。

「ぎっ、ぐっ、‼︎」

先程よりは対処が出来る。避けきれないのは剣を当てて、しのぐ。相手が前に出たら下がり、横へ動けば逆に逃げる。

何処かで攻めに転じなければ、どうにもならないのは分かっている。だが、コイツには剣の一太刀も入れていない。そんな簡単に槍の雨を抜けられるのなら、ここまで苦戦していない。

ギョロ、。

「(右)」

体を捻り、左へ流れる。槍は先程までいた場所を貫く。

「(薙払い)」

足を踏み出し、槍を下げるのが見える。頭を下げて避ける。

「(下)」

奴の目は確実にこちらを捉えている。地面を蹴って、更に後方へ。

「(左)」

奴の視線、肩の動き、槍の角度。次は左、右へと飛ぶ。

「え」

槍が止まった。静止している。

体を捻り、手首を返す。

フェイント。

「ぐっ、‼︎」

ガァンッッ‼︎‼︎

すんでのところで構えた剣に穂先が吸い込まれ、吹き飛んだ。骨にまで響くような強烈な衝撃。握力がなくなるような痛み。

「がぁっ‼︎ クソが…ッ‼︎」

何とか着地をする。オークキングが薙ぎ払いの構えをしている。右、右から来る。

「っっ、‼︎‼︎」

剣を添えて、来たる衝撃に備えて、息を止める。

「う゛」

右下から掬い上げるように打ち込まれ、剣ごと体が浮いて。

視界がひっくり返り、背に衝撃。

その勢いのまま、建物を貫いた。

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