刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~ 作:阿久間嬉嬉(新)
それでは本編をどうぞ。
校長や理事長の、学生にとっては気怠い時間である少し長めの式辞だろうか。
それとも在校生代表や生徒会長による、畏まった歓迎の挨拶だろうか。
現代ならば綺麗に並べられたパイプ椅子、あるいは木の椅子もありえるかもしれない。
冬場の空気が残っていれば大型のストーブ等と言った暖房具はほぼ必須だ。
いや、学院の財力に寄ってはもしかすると凍えながらの式、という事もあり得るだろうか。
左右や後ろに並ぶのは先生方だろうか。
在校生達が何人か脇を固めていたりする可能性もあろうか。
ならば、剣術学院が主であるこの世界だ。
帯刀した先輩が放つ威圧感との格闘も視野に入るかもしれない。
歓迎の言葉かかれた横断幕も所によっては存在しよう。
他の関係者各員、居るならばどこに並ぶだろう……上のように新入生の左右や後ろか、舞台の脇だろうか。
どこまでも静かな式典を思い浮かべる事も多かろう。
それこそ厳格な式ではあるのだから、剣術学院であろうがその辺は変わるまい。
あるいは、子供ならではのソワソワからのざわめきもあろう。
それで注意されると言う、悪い意味で貴重な体験をする子すらも、居るやもしれない。
座る場所は決められているのか?
自由なのか? それとも予め渡されているのか?
すでに同クラスの面々と顔を合わせていたりするのだろうか?
これからと言う可能性も勿論あるだろう。
座って待つだけでなく、きっちりと入場することもあろう。
学院によりその形式がまちまちなのは言うまでもない。
五学院はそれこそ確り形式を守るのだろう。
他の学院はどうだろうか、そこも自由なのか? もしくは五学院よりも厳しいか?
だが共通して言えることがあるとするならば…… “門出” だ。
中等部から上がる者も、高等部から入る者も、皆新たな道へ進んでいく。
そんな式典こそが入学式なのだ。
皆が大なり小なり緊張し、またこれからに想いを馳せ、慣れぬ校舎を見回し。
こと剣術学院であるならば、数多の剣術の祭典に心を奮わせて。
さあ……今日から初々しきその1歩を―――。
「てめェ、ガンつけて何様のつもりだァ!?」
「んだボケェ!! 喧嘩売りてぇならそう言えや!!」
「うるさいんだよあんたらァ!! ぶっ飛ばすぞ!」
「おうおうやってみろや!?」
「賭けるか!? 何ゴルドだ!」
「おれぁハゲの方に500ゴルド!」
「んじゃ俺はモヒカンに470ゴルドで!」
「自分はあの女に610ゴルド!」
「ねー、ダルぃしさっさと帰んない? 剣の授業明日からっしょ?」
「でも剣術学院だからさ、色々守んないと後で面倒だよぉ?」
「うっわ、マジダルい……まあしゃーなし、終わったらバックレっか」
「さんせー」
「んがああぁ……んごっ! んごぁ……zZZ」
「お前まさかあのガロウ=ユンドラーか!? ガチで
「暴力事件起こして飛んでくるたぁロックだなぁオイ!」
「どこだろうが関係無いぜ、俺は超天才剣士だ! のし上がってやるよ」
「おっ、中々言うなぁ? さすがに魂装持ちは伊達じゃねえな!」
「~♪」<ジャカジャカシャカシャカジャジャンジャカダンダン
「何だこのチビァ!? 迷子は人狼にお呼びじゃねえイデデデデデ腕ェ!?」
「……ん」
「やるじゃないあのちっこいの! ねえこっちでも賭けようじゃん!」
「じゃ、あのガキに670ゴルドだな俺ァ!!!」
「ギャハハ! 超賑やかじゃん!!」
「礼儀カス過ぎィ! バハハハハッ!」
「おめーも人のこと言えねぇけどなぁ! ぐはは!」
結論から言おう……アホほどうるせぇ、と。
「まあこうなるだろうなと言うか」
「ううん、いつも通りの光景ですね、だなぁ」
「周囲の中等部に不良校が多すぎなんじゃ」
「妙に凄い子が居んね? あそことか」
「あ、あはは……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――少しだけ時を戻して。
クノン達に見送られながら孤児院を出立し、途中で待ち合わせていたヘルガと合流したムウ。
彼女がヘルガに案内されてやってきたのは人狼学院・本館のすぐ横にある、体育館に属するだろう建物。ここが入学式式場らしい。
実はこの時点で既にもう、外にやや聞こえるほどクッソうるさかったりするのだが、ヘルガが言及しなかったこととムウがスルーしたことで、何事もなくそのまま入館。
チラッと視線を向ける生徒は何人かいたものの、腐っても剣士、教師にまでカツアゲ染みて近寄るほどでは無いようで何事もなくムウは席へ付けた。
身内限定かもしれないが、力の上下関係には大なり小なり敏感なのだろうか?
また “腐っても剣士” 、と言うのはなにも目上に一々突っかからないという事だけでなく、むやみやたらに剣を抜かないと言うところも確り踏襲はしている様子。
……拳や脚は振るうし、少なくともこの場では面倒の方が上回りそうと判断した奴が多いのか、剣以外の暴力が極少数ながら横行してはいるのは、ガラの悪い学校らしい景色と言うべきか否か……。
そもそも暴行沙汰を起こして五学院入学の件が流れた生徒もいる時点で推して知るべしか。
人狼学院は所謂、そういう生徒や若輩剣士の受け皿でもあるのかもしれない。
ちなみに席順は自由だったのでムウは教師たちの側に近い所に座っていたりする。
いたりする、のだが……。
「いぢぢ……なんちゅう力じゃこのチビ! 見誤っとったわ!」
「おっ、賭けはガキンチョの勝ちか?」
「じゃあかしいわ! まだ何も決まっちょらん!」
「続行だー!」
「じゃが式典かつ殴り合いは向こうの2番煎じ……特別じゃチビィ! 鞘相撲だ!」
「ん」
「ウハハハハそういうのも好きだぜ! おもしれー!」
「てか向こうも鞘で剣術モドキ始めたし~」
「うーん……あの小っちゃいのけっこーパワーあんだねぇ」
これこの通り、もうがっつり巻き込まれていた。
鞘を使った押し合いに発展して普通に対応してぶつかり合っていた。……と言うか、なんだか奇天烈なまでに馴染んでないだろうか……?
(ある意味、不安要素はひとつ取り除かれました、って言うべきかこりゃ?)
流されるがまま、振り回されるがまま、どのグループにも入れず孤立してしまうより、入学式時点である程度の繋がりを作れている、と捉えるならマシと言えばマシなのだろう。
『剣術学院の入学式』と言う場も手伝っていると言える。そうでなければこれよりもっと深く、決闘や模擬戦沙汰の連続だったかもしれない。
まあ、とは言えじゃあ式典外の日常如何でそれが起きないかと言われると間違いなく “否” なのだが、それはそれだ。
そして鞘相撲でムウがパワーで押さずバランスを崩させる方法を選び、巨漢の男子生徒をひっくり返して歓声をもらい、しゃあねぇと彼も認めつつちゃっかり落ちた
一時の勝ち負けであれこれ左右させようとはしないのか、と言うより決闘でも無いからする気が無いのか……それとも単純に別の方に意識が向いたのか、それは定かではないのだが。
なんとか、喧嘩騒ぎもひとまず多少は収まり、けれどもやっぱりあちらこちらが騒がしい中―――。
『あ~……テス、テス……よっし』
その空気を切り裂くかの如く、いやに通る男性の声がスピーカーより放たれた。
見れば……壇上には校長か理事長らしき、サングラスをかけた背の高い男の姿がある。
『ではただいまより人狼学園入学式を始めます……っちゅう堅苦しいのは抜きにしよか』
公人としての顔を見せたのは一瞬ばかりで、すぐさまギラついた笑顔に変わった。……そこから放たれる威圧感は本物であり、ヤジを飛ばそうとしていた少数の生徒すらも思わず口を噤むほど。
……伊達や酔狂で、そして気まぐれや流れで、この問題児だらけの剣術学院を治め、まとめ上げている訳ではないのだろう。
『おれは人狼学院長・イグゼいうもんや、以後よろしゅう。んで、や。入学早々盛り上がっとるのぉ、悪童共。今までの他学院でどんだけブイブイやっとったかは知らんが……これだけは言うとく』
眦がより吊り上がり、口角が引き上がって、されど学院長・イグゼはどこか楽しそうで……。
『人狼学院は
明確に、おまえらはそもそも強い方なのだと告げて。
『1回の勝ちで油断しとったら喉笛、持ってかれる。1回の負けで這いつくばっとったら、髄まで腐り落ちる。下見るんも勝手や、その内弾きだされてオマエが下んなっても知らん……そういう場所や、
その手の暗黙のルール。
無秩序ではなく無法であるべしと言う理念への理解。
混沌としているからこそ布かれるべき法。
『守るべきもんは見定めろ。人や何ややない。仲間や身内にすらやりたい放題だけやっとったら……ぐさり! いかれるで? ちゅうこっちゃ。その前に一端の剣士なら……最後は刃で決めぇや? な?』
人狼学院の新入生である面々に、イグゼの言葉はその【大前提】を少ない言葉で教え込み。
『人狼学院職員一同歓迎したる。せやから……折れてくれんなよ。今日からここがオマエらのアジト、お前らを強く鋭くする居場所や、悪童共』
そう占めると同時に―――剣の柄を叩いた。
『ほんなら人狼学院入学式のメインディッシュと行こか。新入生3人、呼ぶからそれぞれ立ってくれや。そんで1人は教師と、2人は互いに戦うてもらうさかい』
ここでプレッシャーから解放されたかの如く新入生がざわつき、または声をあげる。そもそも血の気の多い連中なのだ。剣士としての戦闘を初日から見られる、そしてやれるかもしれないならそりゃあ歓迎だろう。
餓狼たちの戦気を一身に受けて尚イグゼは揺らぎもせず、ついでに教師たちもほとんどが動じてすらいない。本当に、日常茶飯事だと窺える。
通常の学校であるならいざしらず、剣士の学院だからこそ恐らくは彼らの悪ガキっぷりもある程度は放置していて、それゆえにか大いに慣れ切っているらしかった。
『記念すべき初試合する名誉な一年坊はァ、ッと出たで! まず、教師と戦うんは……有名な男やん、ガロウ=ユンドラー!』
「おっと俺か? 早々に呼ばれるたぁ運は良いじゃねぇか」
「いきなり見れんのかよォ、アイツの試合!」
「百花繚乱流の皆伝とかちょー楽しみだわ。マジ見とこ」
立ち上がったのは金髪を整髪料でバッチリと決めた、すこし気障な雰囲気のある男子生徒。
すでに制服は改造されて太もも辺りが鋭角に切り取られ、シャツは学校指定ではなく、だからかロッカーな雰囲気が漂う。
コームを取り出して軽くチャッ…とやった辺り、やはり髪にはこだわりがあるらしい。
また、彼こそが以前のムウの入学試験時、リサ達が乱入する遠因にもなった、鳴り物入りの新参でもあった。
名の通り様からしてもかなりの実力者である事は間違いないだろう。
そして新入生達がより血気盛んになってきたのと同時に、もう1つの組み合わせがイグゼより発表される。
『そんで1対1で戦うてもらうんは……カイデル=ランデスと―――』
「むっ、ワシか!」
立ち上がったのは先程ムウと鞘相撲をやっていた巨漢の男子生徒だ。
ダンとは違い筋肉の塊と言うよりはやや脂肪が目立つものの、その下の筋肉が伺える肉体であり、決して不摂生ゆえとは思えない。
油断と鞘相撲と言う特殊な形式だったからこそ引っ繰り返されたが、剣術勝負では分かるまい。
もっとも相手が誰かは不明だし、ムウとは限らないので分かるまいも何もそもそも分からなかろう、なのではあるが……ここでヘルガは何故か眉をひくひくさせていた。
(非常に面白い予感がいたしますね、ってやつだなぁ。これあれだろ、この流れってまさかのまさかだろ)
こみあげて来る笑いを堪えようとした結果と、純粋な引きつり、その2つがそうさせているらしい。
そうして感じた予感のままにイグゼ学院長の次の言葉を待つ……。
『―――ムウ=マジャクゥや! ほな立ってくれな!』
「ん」
「あっ、さっきのチビじゃな!?」
「ゲハハハ! 再戦早ぇ!」
(ほぉら見ろ)
(ムムムムムウちゃん最初から目立っちゃうのぉ……!?)
見事、大当たり。
どうやら入学式にすらも波乱の種、混乱の刃は滑り込んでいたらしかった。
Q3.「魂装を得られない」ってことはここから先
ムウは特殊能力も魔力的な強化も無しで戦うんですか?
A.これについてはハッキリ「NO」と言っておきます。
あくまで「魂装・霊力は使えず身に付かない」だけです。