刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~ 作:阿久間嬉嬉(新)
それは兎も角として本編をどうぞ。
―――霊力―――
それは魂装を扱うための精神エネルギーのようなモノ。そしてある『別の使い方』もあるとされているまだまだ解明途中のパワー。
先程ヘルガも口にしていたが、基本は先天的なものよりも魂装そのものの鍛錬、あるいはそれを引き出すための霊晶剣での修練により、後天的に修行をすればするほどに増えていく類。
つまり理論上最大値に限界は無いともされている。
また、とある魔法陣で量を測定する事もでき、紫<藍<青<緑<黄<橙<赤、の順で判定が出る事が分かっているものでもある。
なお修行開始最初期に際しては、藍色が出せればその時点で優秀と言える……と聞けば魂装やら霊力の件がどれだけ狭き門なのか分かるだろう。
そしてヘルガはやや濃い黄色、ついでで測ったクノンは仄かな紫であり、人狼学院の魔法陣に何の不備も無いことが伺えた。
「それならば何故に飛び級ちゃんはカラフルなんですか? なんだが」
「何回測っても、同じですね……」
「……ん……」
正常である筈なのに何度やろうが、何分と続けようが。
ずっと極色彩に輝き続けている、魔法陣から立ち上る光の帯を眺めながら2人とも呆然と呟く。ついでにムウの元々小さな声量もガクンッと落ちる。
(なにも、存在し、得ない、わけ、ではない、けれ、ども……)
……本当の事を言うのなら、ムウ自身からすると一応の心当たりは、あると言えばあった。
それもまた件の“改造”に関連することであり、かなり端折って言えば彼女の中には、厳密に言うと霊力が無い・生まれ増え得ないだけで【別のエネルギー】は存在している。
ムウもそれを何となくではあるが知覚している。
されど、知覚こそしているだけで
心当たりこそあるがどうして極色彩となるのか、ムウ本人からしても一切不明なのである。
要するにいつも通り。
諸々足りずで話せない段階だという事に何ら変わりはなかった。
「いっそ測定不能とかならまだ容易いが測定可能なのにめっちゃレインボーかぁ。あぁ~……どう報告したもんか……」
「魂装とは関連、無いんですか……?」
「飛び級ちゃんは霊力こそ謎だらけだが魂装は未収得、霊核も無難っぽいとその辺は普通だからなぁ。持ってないのに何か持ってるって状況がややっこしいんだ」
使用機具やその材質に特別おかしなところはなく、用意された燃料もばっちり基準値自体は満たしていて、なのに性質だけがただただ異様。
こんなもの混乱以外呼ばなくともむしろ当然だろう。わあ凄い、とすら言いようが無い。
彼女がもう口にしている通り、いっその事その燃料の量自体が測れないほど莫大である方が全然マシと言えた。これからやるべき事も最終評価も変わらないのだから。
最終評価もやるべき予定も迷走中などもう始末が悪すぎる、これでは本当に言える事など無い。
―――霊力はあるみたいですけどなんか異質です、カラフルです―――
言えるとすればこれだけ。だが、果たしてこれは報告に値するモノなのだろうか……?
「皇には
「ん……」
正当なものからズレた外れ値と言うには何もかもがおかしい、そんな彼女は入学早々とんでもない例えをぶつけられたが、当人は逆に納得しているのか2、3度ゆっくり頷いている。
いやまあ、その当人こそ僅かでも内実を知っている唯一の者なので、これこそ当たり前の反応ではあると言えようが。
何度か頭をひねった後に「これは最早そのまま言うしかありませんね、ってやつだなぁ。面倒がすぎるぜ」と堂々愚痴りだすヘルガではあったが、それでもこの場自体はひとまずしめねばと思ったらしく苦笑いしながら地下室からの退出を切り出した。
そのまま夕刻の日差しが照らす外に出、さっきはちょっと悪かったなと前置きしてから。
「ま、飛び級ちゃんがやるべき事はやったんだ。後は先生たちに任せとけ……んで」
やや天を仰ぐと、元々そのつもりだったけどもと言ってから、カギをクノンへと差し出す。
「ちょいと白々しくはあるんだけども、流石にもう遅いからな。お2人とも先生の部屋でどうかお待ちください、ってやつだ」
「でも、良いんですか? 私にカギを渡して……」
「悪用しねぇしできねぇだろ? 研修生ちゃんは。それともこっちになんか気があるのか? ん?」
「ち、違います!? それにその、他に返す言葉もないです、はい」
元々の性格として、魔剣士の組合所属として、如何にガラ悪かろうともつながりを持つ剣術学院の教師に、無体を働く事などそりゃあ出来ない。
クノンは頷きつつ、改めての確認を取ってからカギを受け取った。
そしていったん別れつつ、未だに何だか難しい顔をしてる気もしたムウと一緒に、クノンはヘルガの部屋へと向かって行った。
「明日から授業だよ、ムウちゃんはまじめにね」
「ん」
「魂装の会得も楽しみにしてるからね!」
「ん……ん、ん……」
「ムウちゃん?」
「ん!」
「?? ……うん!」
―――実に健気だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「霊力自体はあると思うとったし感じ取れはしたんやが、なんや妙にしっくりこんなと思っとったら……マジかぁ、まさかの“コレ”かいな」
……ところ変わって、学院長室。
そこでは何やら資料を持っているヘルガと、1枚の写真と1つ映像らしきものを前にして頭を悩ませ、ズレたサングラスのブリッジを押し上げているイグゼの姿があった。
手にある写真と映像に映っているのは、先ほど霊力の間で謎現象を見せていたムウ、および原因一切不明の極色彩の光。
どうやらいつの間にやら撮っていたらしい。
「学院長は前例をご存じで?」
「んにゃ。皇んトコの、ガロウ軽々越えの超絶特別天才剣士君が霊力測定で濃い赤やった、真っ当にぶっとんだ結果は知っとるがな。こんなびっかびかのレインボーなんぞ初見やわ」
本気で何とも言えない、という言葉がこれ以上ないぐらいに会う顔で、イグゼはへらへらと半ば笑ってしまいながらヘルガに返す。
「魂装自体はこれからやし良え、予想の内でもあった。せやけどまさか霊力の方で予想外が起きるとは思わなんだわ。まあ、一応
言い方からしてあまり期待していないのが伺え、しかし事例が事例ゆえ、相手が頼りにならないと言うより本当にどうしようもない出来事が起きたのだという事が分かった。
「良え実力の子ぉ見つけて、なんや霊力も持っとるやんおもろいわ万々歳やんけ思うてたところへ、これか。いう通りマジモンの
「そもそもの剣術が剣術であまりにもな、ですからね」
「“アレ”なぁ。剣術っちゅうより多種多様な戦闘経験と培った技術の集積体が近いやんけ、もう」
中々に鋭い所を突いたイグゼの言葉にヘルガも似た事は考えていたのか、頷く。
「それを偶々、今は剣をベースに実行しているような感じ、でしょうね」
「間違いなく本命は別にある、にしては一部振り方が中々に堂に入っとるんがなぁ? あの厄介ごとの種みたいな
「飛び級ちゃんにとっては素手がメインではなく、
「やろうなぁ……幸いっちゅうか、なんも分からんでもあの子は強いから良えんやが」
謎を今すぐ解き明かす必要はなく、このまま剣王祭その他の剣術の祭典に出しても、元から何とかなるレベルではある。それがイグゼやヘルガの心労をいくらか緩和してくれていた。
それに魂装さえ発現すればそこから、おおよその検討も付けられるだろうからだ。……それ前提で立てた計画が、机上の空論と化してしまう事を彼らが知るのは、さていつだろうか……。
「とりまムウ=マジャクゥからはより一層目ぇ離さん方がええやろ。きな臭い組織も最近出て来とるさかい、
「ええ、勿論です」
その後2、3つほど題を変えながら話を続け、報告を終えたヘルガが「失礼致します」と部屋を出る。
そして、足音が完全に聞こえなくなり、それから更に少し経ってから……イグゼは煙草を咥えて火をつけ、紫煙を燻らせながら上を見やった。
「抱えるんは構わん。問題児結構、不明上等。……せやかて何も分からんは流石に怖いのぉ」
彼らからすれば、よく考えると出自すら分からないのだ、ムウは。
どこで拾われたのか、それだけだ。
それ以前の話が一切なく、あくまで可能性の域を出ないものしかない。
その可能性すらも、例えば指名手配犯グループのとある男女の子供だったのでは? と言うように、ムウの実力や不鮮明さを考えるなら間違いなくおかしいことばかり。
ぽっと出の天才児があり得ないと言うわけではない。
孤児であるからこそ不明な点も多いのは当然だ。
しかしどこまで行っても
仮に、事実そうであったとしても、人には今までの経験則およびそこから弾き出す常識というものがある。
『非常識それ以前の存在がぽっと出で生まれてたまるか』という思考は、基本どうあっても避けられなかろう。
あまりにも頭が痛いこの一見。それでもやはり、イグゼはそれだけの件とは見ていないようで。
「こっちも予想だにせん、ものごっつヤバい嵐を起こすんかもなぁ、
最終的には少し笑いつつも、軽く紫煙を吐き出した。
―――さらに場所は移り変わって、ヘルガの部屋前。
「お待たせしました、だぜ。まあ短い間だし気にするな、くつろいでくれ」
「は、はい。お邪魔します」
「しま、す」
「おっと飛び級ちゃん貴重なあいさつ!」
やってきた彼女に促されるまま中へと入った2人は、そこで意外なものを目にする。
「綺麗、ですね」
「そりゃ整えてますから、だぜ」
意外や意外。
どこかガサツな部分があるヘルガではあったのに、部屋の内装は驚くほどきちんと整えられていた。
物はそこまで無いのだが、殺風景にならない程度には観葉植物などで飾られている。
剣士の
オンオフが激しい方なのだろうか。
着替えなどを詰めたバッグをクノンが隅に置き、その傍にムウが寄せて、背の低いテーブル傍に座る。
見れば洗濯機や冷蔵庫もある。人狼学院教師の給与が良いのかどうかはまだ定かではないが、それを用意して尚且つ維持するだけの儲けはあるらしい。
……ちなみに剣術や魂装や魔剣士組合など、パッと見の印象だけではそこまで文明が発展していないように聞こえるこの世界。実はそれらに傾倒しているからこそ、所々が意外と発展していたりもする。
特に巨大な放映機材などは剣術の祭典をより多くの人に楽しんで貰うためなのか、それとも別の理由があったのか、ホログラム的な放送ツールすら存在していたりするのだ。
とは言え現代ほど多く普及している訳ではなく、それら発展技術も現代と比べてもなおかなり限られた部分にのみ支給されているため……と言うかだからこそ発展しきっていない様に見えるのだろう。
他の一見歪に見える乖離にも、一応の理由があるのやもしれない。
それはそれとして。
冷蔵庫から炭酸水を3本取り出しつつ、部屋着に着替えたヘルガは2人の傍に腰かけた。
「まあ、とりあえずはお疲れ様という事です、だな」
「すみません、色々と……」
「こっちにも飛び級ちゃん中心に下心あっての致せり尽くせり、にはまあ足りないが、そういう事さ」
あっけらかんとそう言い切ったヘルガはボトルの口を捻ってプシュッ! っと開くと少し飲み、次いで炭酸水へじーっと視線を向け続けているムウの方を見やる。
「飛び級ちゃん、お節介で悪いんだが……もしかすると不安になってるかもしれない、と言う前提で話すぞ」
「ん?」
「自分にあるもの、それが何なのか分からない。分からないのは、不安だ。だからこそ今は深く考えず人狼学院を楽しんでくれ、と言わせてくれ」
「ん……」
「ま、似た事はもう言われてるかもだがな」
必ず不明を解明するから任せろ、と言う間接的な励ましにムウはいつもよりも少し早めに頷き返す。そこに、クノンが続いた。
「私が教える訳じゃないけど、これから憶えることいっぱいだからね。そっちに集中すれば、きっとムウちゃんの凄さはもっと凄くなるんじゃないかな」
「……………」
「違うね、きっと凄くなる、私、信じてる。もっと凄くなって欲しいから、だから念を押す。もっとちゃんと頼ってね」
「ん」
今度は少し遅めに頷き、炭酸水のボトルに手を伸ばすと、何を思っているのか額にコツ……と当てる。その様子を見て、これ以上あれこれ言わない方が良いと、2人ともに思ったのか視線を互いへ向けた。
「んと……そうだ。直接的スポンサーじゃないが、魔剣士組合と大五聖祭の会場は縁あるからな」
言いながら確かここにと少し乱暴に取り出したのは、2枚のチケット。
「既に予約はとってあるし、って言うか自分は下手に警戒されても何だから実はいけないし……研修生ちゃん、特待生ちゃんへ自分の代わりに付いててやってくれ」
「い、良いんですか!? 大五聖祭を見に行っても!」
「あくまで人狼学院と魔剣士組合合同の仕事だよ、仕事。あんま浮かれるなよ?」
「はっ、はい、勿論です! ……ムウちゃん、一緒に見に行けるよ!」
「…………ん」
返事をしてから即、先の反応に戻ってしまったクノン。
彼女へ視線を傾けるムウの顔に呆れが宿ったのは、そして先よりもより間が空いたのは、恐らく気のせいではあるまい。
何とも言えない顔で彼女らを見るヘルガは、気分を切り替える為か話題を進めた。
「そういや報道あったし、初戦の組み合わせはもう決まってたな。たしか……千刃と氷王か」
「ですね……あっ……あの、そういえばどっちも、最近成果が奮わないって聞いた事があるような……」
「正しいな。常勝の千刃も今や昔だし、氷王も釣られるように落ち目だ」
強豪、五学院、そうは言うものの、言われてきたらしいものの、やはりそれもまた時代の流れと変化には逆らえないものなのか。
クノンの思い出すかのような疑問にヘルガは肯定で答え、横目でそれを見ながらムウは炭酸水を手に取る。
「だから目玉はその後の3つさ。なにより、皇には超超ド級の新入りもいるらしいですからね、ってやつだ」
「白百合にも『神童』が入ったんですよね! 組合の支部長さんから聞きました!」
「炎帝はそもそもが安定しているし……仮に飛び級ちゃんが戦うとしても、中々ヤバイだろうなぁ」
「…………」
話題に出され、言われながら見つめられているムウは、既に2人から目線を外して炭酸水を緩慢な動作に飲んでいる。
やれこれもまたいつものように、興味があるのかないのか、だ。
「もう、またマイペース……」
「感想ぐらいは伝えてくれよ? 飛び級ちゃん」
「……ん」
それに対しては返事をし、炭酸水に口を付け直したムウ。……そんな彼女の抱く思考の色、それは意外にも興味へ傾いていたりする。
(未知、を、既知、へ移行、する、ならば、また、1つ、戻った感覚、を、掴んだまま、で、要られ、る……かな)
そうとはもちろん知らない二人は、片やポンポンと軽くたたき、片や優しくなでつけて。
「疲れてる、と言うか腹減ってるのかもな。じゃあちょっと待ってろ」
「作るんですね! お手伝い……」
「いや宅配だぞ。そっち、材料もないぜ」
「……えぇ~……?」
そんな、そこはズボラなんですかなやり取りを交わしながら。
人狼学院初日の夜は、とっぷりと更けていくのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――観測中
―――個体名
―――
―――上記個体 再励起 観測――― ―――性質・不安定 出力・安定―――
―――ランク上昇 可能性 総合・中―――
―――個力 判定 判定 判定――― ―――結果・未取得―――
―――機装 判定 判定 判定――― ―――結果・未発達―――
―――区画 判定 判定 判定――― ―――結果・未建造―――
―――発現 可能性 総合・大――― ――――発現 可能性 短期・大――――
―――以下 観測続行――――
―――追加転送 検討―――
「……ん……っ!」
「ムウちゃん、どうしたの? ピザ辛かった?」
「…………」(ふるふる)
「意外と丈夫だなぁ、飛び級ちゃん」
「ん。……ん……」
―――現在の主人公―――
名:ムウ=マジャクゥ
性:女
※元は男。根底から改造された為、全てにおいて元の要素も名残りも無い
身長:約140㎝程。
容姿
:無機質的な表情が多いが実はタレ目、瞳の色はアンバー(琥珀色)。
濃い灰色が半分から
また体のとある
武器:やや長め・大きめの剣
※持てと言われたから持っている数打ち物。
流派:我流
※剣技も未収得なため「無し」が近い。
魂装:無し
※そもそも発現しない
霊力の色(量):無(極色彩)
※そもそも持ち得ていないが“何故か”色は出る