刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~   作:阿久間嬉嬉(新)

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どこまで原作の描写を持ってくるのか、どこを省くのかで四苦八苦してます。
ですがもうちょいで書きたい所も書ける、その楽しみは何よりのモチベです。


それでは本編をどうぞ。


暴虐なる大将

 千刃学院、1勝。

 氷王学院、1敗。……否、2敗(・・)

 

 

 カイン=マテリアルの<百年の地獄(ヘル・ハンドレッド)>を破れる剣士がまさかいるとは予想していなかったのだろう……強気の中堅未登録が裏目に出た形となり、次で早々大将戦となってしまった。

 

 先までの勝利ムードはどこへやら。

 今や氷王学院側は暗い空気に包まれており、黄色い声援とは程遠いざわざわとした不安の声ばかりが聞こえる。

 

 対する千刃学院側は依然として高揚中。

 先鋒のアレン1人で実質3連勝してしまえそうなのだ、これで盛り上がらない方が嘘というものだろう。

 

 他の観客達の反応は千差万別。

 共に応援する者、不安視する者、剣術だけに興味を持つ者、先の試合の感想を語る者、心無い意見をこぼす者。

 その全てが混ざり合い、氷王学院のそれとはまた違ったざわめきを見せている。

 

 そして―――。

 

…………

ずっとダメな人を見る眼してる……こんなムウちゃん初めて……

 

 ―――こちらの2人は変わらずこの調子であった。

 

 西門の向こうへ消えて行ってなおムウの眼の色は変わらず、見えぬアレンの背中に視線を届けているかのよう。

 

 これが恋慕の発端ならば、少なくとも外見的にはとても背伸びしてる可愛いモノにも見えたろうが残念、実際は昨日今日会ったダメ男を見る眼である。

 

 淡く甘酸っぱい恋でも何でもない、なんならそこには味すらない。

 どこまでいっても無味無臭。

 始まりの予感はゴムの味で封殺されている。

 

 孤独なる100年の牢獄に閉じこめられた経験を、『自分は平気だったから』で驚いている相手を不思議に思うような所作、あるいはお前の方が変だと言いたげな態度を取る、ズレすぎた少年を見たのなら仕方ないと言えば仕方ない。

 

 ……まあ、彼女の “人” としての欠片が戻ってきている事は喜ぶべきなれど、直近における原因はどれもがあまりにもあんまりな類すぎないだろうか……。

 

 

~ 閑 話 休 題 ~

 

 

 カインの魂装と言う側面から見れば思わぬハプニングではあったものの、大五聖祭と言う面で見ればアレンが不屈で勝利をもぎ取ったにすぎぬのが今の1戦。

 運営においてもっとも考慮すべきは氷王側の中堅がいないという事態の方。

 

 なのでステージの再セッティング、そして決着までの早さが早さだったので後の予定との調整の必要が出たか、また少し間が空く。

 

 暇中の歓談に花が咲き始める。

 

「そう言えばさっきの、アレン=ロードルさん? 桜華一刀(おうかいっとう)流を使ってたよね?」

 

 2人もまた何でも無い雑談を交わす中、ふとクノンは先程アレンが使用したある技に付いて思い返していた。

 

「ん」

「だよね。ってことはまさかあの子が……あれっ?」

 

 ムウの肯定を受けた事で、唐突を重ねた試合中での見間違いでは無かった事を理解して。そして、そこでとある“違和感”に気付く。

 

 それは、とある人物が魔剣士として登録しているため、クノンもそれ経由で粗方知っており。

 

「桜華一刀流の今代って確か中堅の『賞金狩り』ローズ=バレンシアさんの方じゃ……?」

 

 それを除いてなおよく存じている千刃側の剣士との矛盾が生じるからだ。

 

「遠い国のチェリン出身だって情報もちゃんとあるし。……えと……じゃあ、何で?」

()っ、た?

ムウちゃん言い方!? けどそうだよね、マネして自分のものにしたとしか……でも一子相伝ってそんなに容易く取れるのかな……」

 

 クノンの疑問はごもっとも。

 そんな見て簡単に取れる技術や流派であるのなら、一子相伝などと語られるはずもない。

 

 ……このからくりは恐らく、ムウが見ていたある景色。カインの力に囚われていた最中のアレンに覚えた蓄積されている感覚にあるのだろう。

 “間違っているが結果的に正しい鍛錬”との評価も踏まえれば、もしかすると100年の中(・・・・・・)でひたすら仲間の剣術を練習していた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)可能性は無きにしも非ず。

 

 いかな見様見真似であろうとも、それに何十年と掛けたなら、さすがに1つの形を成してしかるべきだ。

 

 まあ、よりぶっちゃけた話をするならば。

 流派大本が名を許していない以上、勝手にその流派を名乗っているやたらと巧いモノマネ以外の何でもないのだが、それはひとまず置いておこう。

 これに関してはそれこそアレンとローズら当人達の問題である。

 

「なんか、色々とおかしな人だったねアレンさん」

「ん……ほんと、にね」

「ムウちゃんが言葉に出しちゃうぐらいなんだ……」

 

 呆然としたように言うクノン。

 顔の向きは戻したムウ。

 

 インパクトがあったようにこそ見えるが、詳細な感想は彼女らの内にしかあるまい。

 

 

 

 ―――そんな感じで雑談をしながら暫く経ち。

 

『ご来場の皆様! 大変……大変にっ! 長らくお待たせいたしました!』

 

 実況席から少し興奮気味な声が聞こえ、とうとう最終試合が始まろうとしていた。

 

 同時に観客席、千刃と氷王の応援席、その空気が一気に変わる。

 これは一重に氷王有する大将・シドー=ユークリウスへの、そして千刃先鋒・アレン=ロードルへの関心を多分に含んだものだろう。

 

 例えアクシデント染みた一幕であろうとも。

 桜華一刀流の出所が怪しくとも。

 アレンの放った剣術の冴えが偽物になどなりはしない。だからこそ、次なる試合に皆が期待を寄せているのだ。

 

 

 そのまま実況に三度促される形で、まずはアレンが西門側から入場。

 

 

 彼がゲートをくぐり舞台傍へと1歩踏み出した瞬間、上がった多方からの歓声は初戦の比ではなく、尋常ならざぬ熱気を放っていた。

 なにより千刃側の熱狂っぷりが特別凄まじい。

 

 されど当然、アレンがここで負けようとも後に2人も残っている上で、そのアレンすら中々の強者だ。

 常勝から常敗への転落、それがここに来て息を吹き返そうとしているも同義。

 ならばアレンの同級生達は言うに及ばず、先輩達からの応援に熱が入ろうと決して不思議では無かった。

 

「あの人、次はどんな技を見せてくれるんだろうね。ね、ムウちゃん」

「……ん」

「もしかすると色んな流派を務めてたりして?」

 

 先までの疑問の顔はどこへやら。クノンすら今やアレンの活躍に期待を持っている。ムウは……まあお察しください、と言った方が早かろう。

 

 千刃からも他の客からも期待値が跳ね上がる中、いくらか初期の緊張っぷりがマシになったアレンが舞台に上がり……いよいよ氷王学院側の選手入場のターンとなる。

 

『東門! 氷王学院・大将! シドー=ユークリウス選手の入場です!!』

 

 アナウンスが終わるか終わらないかの内に、しかしてマイペースで緩慢に、東門側から入場してきたその青年。

 

 初見の印象を1言で言えば…… “獰猛”

 

 背は高く、ガタイもよく、着崩してなお白い制服は彼の褐色肌をより目立たせ。

 髪色は雪の如しだが、乱雑に揃えられているワイルドさと黒や灰色などが混ざる混沌さ、それらにより美麗とは程遠い印象を醸し出し。

 黒い瞳はあまりにも、眼光だけで斬り裂けそうなぐらいに鋭く。

 

 その顔立ちから、そのたたずまいから。何から何まで凶暴さを演出し、そしてそれを隠そうともしていない。

 

「ひ、氷王側の人達、シーンとしちゃってる、ね……」

「…………」

 

 どう見ても問題児だろう振る舞いに違わず、なんと本当に『氷王の切り札であり問題児』らしく、氷王学院側の応援席な皆一様に盛り下がっている。

 

 同級生らしき者達も、先輩らしき剣士達すらも、誰1人として声を上げたがらない。

 

 藪をつついて蛇を超え、竜を出すなどごめんだと、暗にそう告げているかのよう。

 冗談抜きに不気味なほど閑散としていた。

 

 いっそ引くほどの温度差と一切の後押しも無い中、シドーは微塵も気にすることなく舞台上へのっそりと上がる。

 

 そんな彼を見るムウの眼は……少しばかり細められていた。

 

(戦意、充満……測定、判定、結果……勝率、は……)

 

 自分が刃を交える訳でもないのに進められる思考。

 ……思わず【眼】を、『日常(とうそう)』の負の遺産を引きずった癖が発露している事からして、どうやらシドーは本気で強い類らしい。

 

 見ればアレンもシドーの【強者のオーラ】のような力を感じ取っているのか表情が見る間に硬くなっている。

 

 裏側で緊張感が高まっているとも露知らず、実況席は更に場を盛り上げようと声を張り上げた。

 

『先の紹介の通り、氷王は中堅未登録によりシドー選手が大将! 即ちこれが最後の戦いとなるかもしれません! そしてこの戦いにアレン選手が勝てば、千刃は十年来の最下位脱出となるでしょう!』

「負けんじゃねぇぞぉ!!!」

「常勝の千刃を取り戻すんだ! 頑張れぇー!!」

 

 実況アナウンスの目論見通り順当に盛り上がっていき、ワクワクの高まりを受けて実況席は改めて両陣営の選手の説明を行う。

 

 さてアレンは、シドーは、いったいどこの流派に属しているのか。

 アレンは本当に桜華一刀流なのか? 微かな疑問を漂わせつつ、実況席は昂ぶりを抑えぬままどんと情報を開示した。

 

『事前情報によりますと……両者はなんと、共に我流(むしょぞく)っ! 誰からも剣の教えを受けておりませんっ!』

 

 途端に広がり、歓声に混ざるは困惑の声。

 

 まさかまさかの戦う前からの番狂わせ。

 シドーは未だ一閃も放っていないゆえに評価しがたいが、桜華一刀流を使っていたアレンも我流とは驚きだ。

 

 再三言うが、この世界における 『我流』 の立ち位置は悲惨のそれ。

 数多の門前払いをくらった3流未満の剣か、傾奇がすぎにすぎた酔狂モノの剣。総じて肩身が狭かろうものな上で世間が見る眼はとても冷たい。

 

「ムウちゃんと同じ……って言うか、やっぱり今代の桜華一刀流はローズさんの方なんだ……」

「…………」

 

 地味に答えを得ていたクノンは観客達とまた別方面で驚いている。ムウもこれには反応せざるを得なかったのか、眉が一瞬ぴくり と動いた。

 

 されども。

 

『これは型にはまらない刺激的な試合が繰り広げられる予感がいたします! きっと未知のやり取りにてこちらを魅せてくれることでしょう!』

 

 さすが実況者、プロのアナウンサーだ。

 

 我流だからと無為に下げて蔑むことなど無く、むしろそれこそ上等とばかりに組み込んで、尚且つアレンの先の試合の印象もある程度ながら利用し、言葉を選びながらも臆せず放つ。

 着実に盛り上がる方へとシフトさせていた。

 

 ……の、だが、彼女の頑張りだけで覆るのなら世間における3流の印象緩和は容易いわけで。

 半ば常識と化しているなら、どうあっても心無い言葉は止められないもの。

 

「お、おいおい今の時代に我流って……ぶふっ、さぞかし低レベルな試合になるんだろうなぁ……っ!」

 

 現に観客席の一部からは嘲笑が巻き起こり、表立って嗤いにかかる男まで出る始末。

 

 アレンの方は……どうやら今まで数えきれないほどの誹りを受けて来たのか、それもまた仕方がないと受け入れているらしい。

 そもそもこれは【大将戦】。それが我流、ともすれば3流未満な剣士同士の戦いになるかもしれないなど、普通に考えれば残念としか言いようがない。

 

 嗤うことを正当化できるわけでは決してない。だが、そう言われてしまう理由自体はあるのだ。

 

「……そんなわけ、無いよ。絶対に無い」

 

 身内に『凄まじく強い我流』が居るクノンからしても、否元々性格的なものもあり嗤う気になどなれないらしく、寧ろ大っぴらに蔑んだその男に不快そうな目を向けている。

 先のムウの目線よろしく、珍しい顔だ。

 

 そしてシドーの方もまた獰猛に見えてアレンと同じ心境なのか。

 俯くように下を向いて、おもむろに懐へ手を伸ばす。

 

 そのまま……何かを掴む。

 

 陽光でギラリ、光るそれはサバイバルナイフ。

 制服の裏にズラリと並んだ複数ある内の、大ぶりな1本。

 

 それを、どうする? まさか?

 

 まさか―――躊躇なく観客席へと全力で投擲してきたではないか。

 

(嘘……!)

 

 息をのむクノン。

 

 狙いは先ほど嗤いにかかった男。彼の元へ寸分たがわず、豪速で飛来。

 

「ひいっ!?」

 

 ターゲットにされた男は反射的に頭を抱えて屈み……何も聞こえないことから、まさか外れたのか? 脅しのつもりだったのか? と期待して顔を上げた。

 

 

 

眼前に、ナイフの切っ先が

 

ぎゃああああぁぁぁ!?

 

 思わず悲鳴を上げてしまった男ではあるが、よく考えるとおかしい。

 ぶん投げられているのだから、付きつけられているようなこの状況、どうあっても変だ。

 

 気付いた彼がよく見てみると……。

 

「……へ? だ、誰だアンタ!?」

…………

 

 見た事の無いウェアに身を包み、フードを深く被って人相を隠した、とても小柄な人物がいるではないか。

 なるほど、その人物がサバイバルナイフを直前で掴み止めてくれたようだ。

 

あれ……ムウちゃんは……?

 

 僅かな声しか聞こえないほど静まり返る大闘技場。

 あわや大惨事になるところであったものの……シドーはそれが面白くなかったようで。

 

「テメェ……邪魔した挙句にコソコソしやがってんじゃねえよチビ」

 

 吐き捨てたその鋭い声色から、本気で当てるつもりだったのだろう事が伺えた。

 

 あわやどころではない。

 大五聖祭自体が中止の憂き眼に合う寸前だったのだ。

 

「…………」

「あ? 生意気な目ぇしやがるな。顔を憶えてやりてぇところだが……特別に今だけ見逃してやるよ、先約がいるんでな」

 

 猛獣の如き笑みをフードの人物へ向けた後、サッと怒り一色へ変え嗤った男の方へ向き直る。

 

「テメェ、今俺様の事を嗤ったろ」

「い、いい、いえ! そっ、そんなこ、ことは……」

 

 誰かが言ったのは分かっても、誰が言ったのは分からなかろう群衆。その中から正確に探り当てる地獄耳。

 そして先の投擲―――弱くはない風が吹き、距離も100メートル以上はあり、その中で正確に狙撃できた眼と腕に鑑みれば、もうこの時点でシドーの実力は疑いようが無かった。

 

 それでも。

 嗤われたという1件をシドー側はもみ消す気など毛頭無いらしく、極寒を思わせる冷たく低い声を会場全体へ、叫んでも居ないのに響かせる。

 

「精々夜道に気を付けろ。俺様はテメェの面ぁ……よぉく憶えたからな」

 

 男はもはや悲鳴も上げられず、小柄な人物へのお礼すら言えず、恐怖で突き動かされるまま半ば転げ回るようにして会場を後にする。

 

 凄まじくキレた人物であることをこの上なく教えてくれた危険行為。会場は、先の氷王よろしくシーン… と静まり返ってしまっていた。

 

「次はテメェだチビ。さっさと顔を見せやがれ、嫌だっつうなら剥ぎ取ってでもおがんで――」

 

 “今だけ”の時間があまりにも短い、そんなシドーが次の標的に狙いを定めた、それと同時。

 

 その人物も石らしき何かをぶん投げた

 

「あ? ……っと!」

 

 シドーに倣いつつ捩じったのか、飛来物はアレンとシドーのちょうど間に着弾。土煙すらも線となり、次いで吹き飛ぶそれは、弾丸の如く綺麗にステージへめり込でいる。

 

 そして一瞬そちらに気を取られた隙に小柄な人物も消えてしまう。

 

「囮のつもりで何投げやが……おいナイフ持ってきやがったなアイツ!?

 

 本当に見失ってしまったらしいシドーは歯ぎしりをしながら目を向いて、意地でもその小柄な人物を探し出そうとし始めた。

 

 目の前にいる呆然状態のアレンにはほとんど目もくれていない。

 

 だがアレンもアレンでただこの状況に驚いているだけではなく、百面相よろしく表情を変えていることからして、シドーの実力をゆっくりと飲み込み、昇華しているのだろうことが伺える。

 

 けれどこのままでは大会が始まらず、実況も言葉が無い。

 

 すると。

 

シドー? 今は大五聖祭に集中せんとあかんよ?

「…っ! ……お嬢」

 

 背後から聞こえてきた女性の声で、シドーはあたかも涼風でも浴びたかのように、嘘のようにクールダウンした。

 

 そこから一旦東門内に下がって何やら2人で言葉を交わしたらしく、少し嫌そうな顔をしながらシドーは舞台の上へと戻ってくる。

 

 ……またもや静寂が満たす中、ここが最後のチャンスとばかりに実況は上ずりながらも必死に声を張り上げた。

 

『ちょ、ちょっとしたハプニングはありました! が、仕切り直し! これより大五聖祭、千刃学院・先鋒と氷王学院・大将による、第2試合を開始いたします!!』

「……両者、準備はよろしいですか!?」

「は、はい!」

「さっさとしろ」

 

「それでは―――初めっ!!




Q7.ムウの【眼】ってよく考えると反則じゃないです……?

A.実際そうですね。
気絶していない、或いは戦闘不能じゃない事を確り見抜き、彼我の差を考え追撃が可能。
……と考えたら中々に恐いです。
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