刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~ 作:阿久間嬉嬉(新)
大五聖祭の大会規定上、至極当たり前の事として「殺しをしてしまえばその時点で失格」となる。つまり氷王学院はここで確定敗退し、残り2人もいる以上これで千刃学院の勝利は確定したも同然。
しかして、そんな事重要ではない。
アレンが、危ない。
止めようのない狂刃が付きだされる様から、リアが、ローズが、クノンも、そして観客の多くが目を覆う。
そんな中。
「…………」
ムウは、一切目を反らさずにいた。
いたからこそ、彼女は
まず目にしたのは―――アレンの変貌。
シドーすらも攻撃に夢中で見えてはいないようなのだが、どういうわけかいきなり白髪となり、更には一気に長髪と化したのだ。
ほとんど気絶寸前ゆえに分かり難いが……元々どこか頼りなさげな彼の顔も、シドーの獰猛さと比肩するような凶暴なる様相へ激変している。
おまけとばかりに傷も消えていく。
この時点で彼の身体に何が起こっているのは分かるものの、それがどういう内訳なのか、それはさすがの異世界生まれなムウとて分からず終い。
(内側、別人格、霊核、別存在。肯定、近しい、のは……次点観測、戦意、増大中……)
辛うじて彼女の【眼】で読み取れたのは、どうも最近詰め込んだこの世界での知識の中にすら類似項が無い、ロクでもない存在がアレンに封印されていたらしい……という事のみ。
「あ゛……?」
続いて零れたのは、シドーの不快そうな声。
ここで他の者たちの内の半分ほどが恐る恐る顔を上げた。
どうしてシドーは不快感をあらわにしたのか。
“嗤えるオブジェ” とやらにならなかったことか? 否、違う、そんな雰囲気ではない。
それは、右手で掴まれていたからだ。
アレンに自身の<
「クソッ、火事場の馬鹿力ってやつか……?」
加えてシドーが振り払おうとしても、宛ら巌にめり込んだがよろしく、掴んだ手が微動だしない。
いっそ固定されているといっても不思議ではない程に。
ぶん回すだけで連撃を成し、振り払うだけで不可視の斬撃を生む、そんな彼の腕力ですらものともしないとは一体どれだけのパワーなのだろう。
こうなったら足でも使って引き抜くか、とそう考えたらしいシドーが体勢を変えおもむろに力を籠めようとした、正にその瞬間だった。
「うおっ!?」
アレンが掴んだ<孤高の氷狼>もろともシドーを持ち上げて、さながらクズ箱へゴミを放るかのように軽々とぶん投げたのは。
ポージングも傷の状態も、ほとんど力が入らなかろうにコレはおかしい。もはや火事場の馬鹿力どころではない。
それでも勢いそのものはさして早くなく、弧を描くようにフワッとした軌道だったこともあり、シドーはひとまず受け身を取って難なく着地してみせる。
「何だありゃ……」
彼の驚愕を表すかの如く冷気の霧が晴れていき……ここで漸くシドーが、そしてリアやローズといった生徒達が、クノン他の観客達が、アレンの変貌を目にし驚愕を覚えた。
元々そこまで長くない黒髪である彼が、あまりにも長い白髪とかすそれだけでもビックリだろうに、傷が欠片も見当たらない上で堂々仁王立ちしているのだ。
そんなアレン、と呼んで良いのか分からか無い未知の存在は、眼をギョロつかせて周りを見渡すといきなり笑い出す。
「ほんっっっとうにひっさびさだなぁ……何億……いや、何十億年ぶりっつうべきかぁ? ずいぶんとまぁ発展しやがてんじゃねぇかよ……ハハッ! ハハハハァ!!!」
(理解、困難)
ここでムウが、言葉の内容が引っかかる部分ばかりだったからか、しかし何故か鋼鉄のように固まったまま困惑し。
「『やはり出て来たか……』」
されど西門奥辺りから聞こえ、ムウの良すぎる耳へ届いた女性のどこか鋭い声音の呟きで少しだけ、彼女は確信を得た。
少なくとも知る人が存在するような類、ゆえに未知中の未知ではさすがに無いのだ、と。
「にしても宝の持ち腐れたぁまたよく言ったもんだ……力とそこが一切釣り合わねえと来たか! ある意味、才能がねぇなぁ
ムウも“別存在”の項を思い浮かべてはいたが、どうやら今表出している存在は本当にアレン本人では無い様子。その証拠に、とは少し言い難いが、己のモノではないと示すように自らの身体へと語りかけている。
「なんだよてめぇは……霊核か?」
「あん? 俺か? 俺はだなぁ……あー……」
不意に来たシドーからの問い、魂装の源が乗っ取ったのか否かという質問に対し、アレン―――【アレン】は最初律儀に答えようとして何故かいきなり口をつぐむ。
「やめだやめ。そもそも教える必要がねえんだ……」
「はぁ?」
「皆まで言わすんじゃねえ、おまえは死ぬってことなんだよ」
“俺はこれからお前を殺す”
……それ同然なことを告げられたシドーの顔が、怒りと不快で歪んだ。
即座に形成された<
「テメェが消えとけや!!」
アレンの時とは比べ物にならない加速度で射出された巨大な氷柱刃は【アレン】へと向かっていきそのまま殴り砕かれた。
無造作なそれであっさり粉と化した。
「はぁ!?」
魂装という特別な力で作られたシドーの氷は見た目に反して鉄以上、いや、むしろ比べ物にならない強度を誇る。決して固体化した水よりも脆い筈がない。
「呆けたツラしやがってよぉ、こぉんな氷遊びが通用するとで……も?」
されど、そんなシドーを余裕で笑い飛ばそうとした【アレン】もまたどういうわけか、殴りつけた際わずかに出血したのだろう手の甲を見やり、見る間に眉を吊り上げて後方のとある一方を睨み付ける。
(観、測、認識)
それは彼より少しばかり早く、いつのまにやらムウが見ていた場所と、ほとんど一緒であった。
「こんの腐れ老爺がぁ!! この
無機質と怒髪天。
奇しくも対照的な2つの視線が重なった場所、そこには
頭髪も眉毛も髭も全てが真っ白で腰がはっきりと曲がった彼は、ムウの視線にこそ気付いていなかったものの、怒号を上げて示した【アレン】の視線には流石に気が付いて跳び上がり。
「ひょほっ!? くわばらくわばら……! 」
どういう仕掛けなのかすぐさま『透明』になってこの会場から姿を消してしまった。
西門で呟いていた推定アレン達の教師だろう黒髪ロングの女性といい、何やら訳知りなものがそこかしこに居るらしい。
それは逆説的に【アレン】の厄介さを薄々ながら示しているとも言えた。
「腰抜けが、今度会ったらただじ―」
「油断かましてんなよゴラァ!!!」
謎の仙人染みた男に気を取られまんまと後ろをさらした【アレン】の隙を逃さず、もはや笑っているような怒り顔を浮かべてシドーが突撃してきた。
―<
爆発的に噴出させた冷気によって得られる凄まじい推進力。
そこに恵まれた腕力と身体能力を存分に乗せて放たれし、必殺の刺突技。
見事……それは【アレン】の背をこれ以上なく確りと捉える。
「もっと笑える冗談を言いやがれ」
だから、まるで潰さないようにと優しく摘ままれ止められたのを理解するのに少しかかって。
「ざっけんな……嘘、だろ……!」
「こんなんが最強技かよ? さっきの油断とやらの正体は余裕だったらしいなぁ」
軽口を叩きながら解放されるシドーの顔には今や自信とプライドを穢された事から来る怒りだけでなく……恐怖も、混ざり始めていた。
対処の難しい基本技、無敵を誇った刺突技、己が天賦の才。全てがただの馬鹿みたいな力技で攻略されているのだ。
魂装なら、おかしな手品ならまだ分かる。
だが純粋なフィジカルでねじ伏せられてしまっては、それが絶望だろうが理解する他にない。
「余裕ついでに付き合ってけやこっちのウォーミングアップによぉ!」
今度は向こうから突撃してきた【アレン】の拳。それを見切ることは到底かなわず、シドーは殴り飛ばされる。
地を転がり、立ち上がろうとした起き抜けに蹴りが飛んで来た……かと思えばアッパーを打つ形で強引に直立させられ、拳打の連撃が雨霰と襲いくる。
迎撃をしようとシドーも<孤高の氷狼>を振りかざし、振り下ろし、振り回し。
自身の野性唸るままに蹴りを打ち出し、鉄拳を突き出し。
……その全てが正面から抑え込まれ、再び、サンドバッグにしてやるとばかりに【アレン】の暴威が降り注いだ。
遊びと慣らし目的で剣を使わずの蹂躙、もはやシドーのプライドはズタズタだろう。
「はぁ……はぁ……っ! くそったれぇ……!!」
それでも尚、傷とアザだらけであろうとも、2本の脚で確りと立っていた。
余程の負けず嫌いなのか、恐怖で揺れる瞳の中にもまだ炎が灯っていた。
恐らく上回られたと思っていた天賦の才、反応の速さや身体のしなやかさ、それが急所を狙う【アレン】の打撃から体を少しでも逃していたのだろう。
そして実の所、無敵に思える【アレン】にも弱点が存在し、更にそれをシドーは知っている。
どれだけ強くとも霊核は霊核。
不確かな存在である為に、
即ち時間稼ぎさえ出来ればシドーは勝てる。
「も う あ き た わ」
……その勝機すらも気まぐれで失われた。
ウォーミングアップという建前すらも放り投げた【アレン】はおもむろに横へ腕を伸ばし、何かを“集める”かのように五指を曲げる。
現れたのは―――黒い剣。
その3文字をシドーだけでなく、観客達にすら、芯を震わせるレベルで感じさせた代物。
「うわあああぁぁ!?」
「た、たっ、助けてえぇぇ!?」
観客たちは逃げた。
例え【アレン】にその時点で認識されてしまうとしても、半数以上が無意識に逃走を選んだ。
「アレン……!?」
「お、おいシドー……!」
千刃と氷王は逃げなかった。
なまじ戦えるという事実が、彼らに現実を受け入れるまでの時間を遅らせた。
「来い、やぁ……!!!」
シドーは逃げる選択肢を放棄した。
一度“下”と認識した者に自ら負けを認めるなど、彼にとっては死よりも重い事であった。
「そ れ じ ゃ あ な」
友人のような気楽さと、物を退けるような手軽さで、全てを塵と化そう暗黒の尖端が迫る。
「永劫の時を鎖せ! <
大狼吼えるが如く叫び、鉄以上の硬度を誇る薄氷100枚を重ねた不落の城壁がそそり立つ。
それすら薄衣を引きちぎるが如く破られ、しかしてシドーは
理不尽が突き進み続ける中で、一欠けらの強者は矜持を守る。
「承諾」
ムウは逃げる気など無かった。
まるで本当に機械か何かのように、僅かに蘇っていた筈の表情すらも決して。
瞳の中に歯車を浮かばせ。
摩耗していた精神に
【アレン】の放つ殺気を浴びて、さながら熱に浮かされたかのように。
黒い剣の放つ絶望を目し、あたかもそれが燃料と化したかのように。
「存在 規定」
【眼】にて
ああ、そうなのだろう。
されども彼女にとってそれは世紀を飛び越えて過去を引きずりだす、糸に過ぎず。
ゆえに、狂いの2文字とは縁遠く。
日常がここに在る。
『日常』がここに在る。
だらりと両腕を下げて、こけそうなほどに前のめりとなり、踏みしめた席が不気味なほど綺麗に足形に陥没していく。
殺気無き戦気が増し、無色透明の戦意が感知を許さずすり抜けていく。
……万理耐攻の、兆しが、はじけて。
全てが揃った。
追加転送確認要請。
闘争再会。逃走検討
肯定。肯定。肯定。肯定。肯定。肯定。肯定。肯定。
ブランク、駆動。
「逃走 不必要」
―――戦え。
「脅威度 低」
―――闘え。
「是 闘争」
―――た た か え 。
「励起完了」
――― タ タ カ え 。
「実行」
タ タ カ エ
「ちゃ……」
キの、カオり、が
「ムウ、ちゃん……?」
「 あ 」
……クノンは、逃げられなかった。
ムウが居るから。
彼女が居るから。
強いとしても。
足手まといでも。
誰にも負けないと信じていても。
怖くても、一緒にいなければと、思っていたから……。
「……ク……ノ、ン……」
言葉がこぼれ、懐の木剣の軽やかな音が驚くほどに場へ通る。
「え……? へっ?」
「……! ……」
その柄尻を、何かごと確かめるようにムウは握る。
呆然としているクノンへと振り返って、ムウは―――いつものような無機質寄りな顔で、しかして彼女の手を両手でしっかりと握る。
「ん」
「不安だって、思っててくれたの……?」
「……ん!」
「うん、ありがと……!」
意志なんて伝わらなくとも。互いにすれ違っていても。
温度が交わせればと、そのような意図が込められた言葉に、双方頷き返す。
何も知らぬまま1つが解決して……しかし、最も大きなものがまだ鎮座し続けている。
「でも、どうしよう……もう試合どころじゃ……!」
「なんとか、する、よ」
「え!?」
このまま共に逃げるかどうか、まずそういう意味で言ったのだろう言葉への、ムウの思わぬ返答でクノンは驚きに見舞われた。
何とかする。
つまりあの中へ混ざろうというのか。
シドーを殺しに掛かってる【アレン】を止めようと?
「けどシドーさんの時の比じゃないんだよ!? あの変な剣……怖いのが……!」
「……直接 は、違う。少し、跳ぶ、けれど、遠間、から、やるよ」
クノンの言葉を遮ることなく、言い終わるまで待ってから紡ぐムウ。
その手には……いつ手に入れたのだろう、サバイバルナイフが握られている。
いや、いつも何も無い。あの時の小柄な人物の正体こそがムウだっただけ。
試合中の発言にクノンが驚いたのも、ムウが一時的に席から消えていた為だろう。
されどサバイバルナイフのリーチは短い。投げれば別であり、ムウならばほぼ確で当てられるだろうが、リスクの方が高い。
そも【アレン】自体が丈夫にすぎる。
いつも持っている剣は狭さ的にも振り回せず、今は預けているので非所持。必然、ナイフに頼るしかないのだが……いったい何をするつもりか。
「さぁーん……」
だが悩んでいる時間など無い。2重の<氷瀑壁>に剣を阻まれたはずの【アレン】が、不気味なカウントダウンを開始していた。
審判が企みに気付き、己の身の安全など知った事かと走り寄るものの間に合うかどうか。
間に合った所でフィジカル面では、【アレン】の前ではたかが知れている。
シドーは気付いていない。疲弊と負傷が大きすぎる。
両学院理事長は沈黙中。狙いは無い、恐らくは手を出し損ねてしまったのだ。
リアとローズも駆けだしているが、ショックからか覚束ない。辿り着いても時間切れ。
フルで動けるのは……ムウだけ。
「にーい……!」
「……フッ」
「っ!(ムウちゃん……!)」
サバイバルナイフを手に、ムウが跳躍。
声を飛ばしかけたクノンは、信じて口を自ら塞ぐ。
「いーち!」
「…………」
漆黒の邪気にまぎれ、無色透明の戦気を湛え、【アレン】の頭上を逆さまとなったムウが取る。
「(『一の太刀―……』)……空間、振幅……切傷」
直近のとある“光景”を、そこから算出した答えを刃に乗せ。
……知らずの内に、彼女の右手首へ幾何学な線が走り、仄かに光り。
「ぜろぉ!!」
<氷瀑壁>が破られ、闇塊の切っ先が弾丸の如くシドーへ迫る。
身をよじる。
心の臓を避けられるか。
果たして―――。
「いちのたち、ひえい」
―――その直前に刃が閃き、斬撃が飛んだ。
衝突する。刃と、刃が。
「あ゛?」
ガウンッ! と黒の剣の先端を、強く、強く、弾き落す……!
「んな゛あっ!?」
「ぐお…っ!」
哀れ【アレン】の剣はシドーの前の舞台床へめり込み、その衝撃でシドーは吹き飛ぶ。
当たり所が悪かったのか、疲労もあって上手く立てなくなってこそいるものの、命に別状はない。<孤高の氷狼>もしかと握られたまま。
「ありえねぇ!? なんだ! 誰だァ!!」
本当に感知できていなかったらしい【アレン】が泡を食って辺りを探り出す。その様は、奇しくも先のシドーにそっくりだった。
だがしかし、結末は異なる。
最終的にスルーされたのが彼ならば、分からずとも鎮める事を選ばれたのが【アレン】であり。
唐突さのせいで意識が傾いてしまったのか、
その『歪み』はどうしてだろう、アレンが使った謎のトラップにそっくりで……。
「……ばん」
大闘技場の観客席の、端の端の影に潜んだムウが呟き、閉じた拳を勢いよく開く。
合わせて、歪みから飛ぶ斬撃が吹っ飛んできた。
「魂装……じゃねえぞ霊力なんざ微塵もねぇ!! じゃなんだ!? こいつぁアレンの
そして、受け止め狼狽える【アレン】へ襲い掛かるは3度の不意打ち。
一瞬遅れて飛ぶ斬撃が複数同時に体へ命中する、極大のサプライズだ。
「時間差で八咫烏っ……あ゛あ゛あ゛ざっけんな何のデタラメだクソがぁ!!」
怒鳴る【アレン】はどういう理屈か無視できぬ傷を負っており、パフォーマンスが落ちたかよろけている。
シドーはさすがに追撃できない。
しかしもう2人は、これで確実に間に合う。
「アレン!!」
「アレン……ッ!」
リア、そしてローズ。2人がアレンの身体へ勢いのまま飛びつき、抱きしめるようにして止めにかかる。
「誰だてめぇらぁ!! 放しやがれ! どいつもこいつ、もぉ……? 手、が……!?」
よく見るとシドーの冷気による影響がここに来て現れたらしく、【アレン】の手がかじかみ始めていた。
知る3人。
知らぬ1人。
理不尽を超えた暴虐の権化はここに来てすべてに枷をかけられた。
「お願い……いつもの、優しいあなたに……!」
「いつもの、剣を振ることが好きな、貴様に……!」
「「戻ってよアレンッ!!」」
「……っ……!!!」
2人の声に呼応するかのように何かが鼓動を放って……【アレン】はとうとう膝をつく。
【お膳立てされて、やっとこ主導権をっ、奪い返しやがるぐらいなら……それでも、それが出来んならよぉ……端っから根性見せやがれぇ……っ!!】
憎悪だけにあらぬ複雑な想いを吐いた後。
【アレン】の髪は黒に、長さは短めに戻っていき、目元の謎の紋様が消え失せて。
「……リ、ア……ロォ、ズ……」
「「アレン!?」」
ようやく―――【アレン】から、アレンが戻り……2重の殺意を消す戦いは、終わりを告げた。
「ムウちゃん、凄いよ、頑張ったよ……!」
「…………」
―――違うよ。
―――不安なのはむしろこっちなんだ。
「やっぱり強いんだね……予想なんて超えちゃう」
―――過去はしょせん過去だなんて。
―――過去の産物にちょっと引っ張られる程度だなんて。
―――そう思っていたのに。
「ん……」
―――浮かんだものを形に出来ない、形にならずに捻じ曲がるばかり。
―――永久にこうかもしれない。
―――逃れられる時なんて来ないのかもしれない。
「疲れた、の?」
―――通り道を過ぎて尚、自分はあの尖塔群の魔の1部でしかない。
―――火種を抱え込むだけじゃ、どうにもならないんだと分からされた。
―――摩耗した部分を埋めた所で、疵は消えやしないんだ。
「…………」
―――カエリタイ。
―――違う、帰れない。
―――なら……どうするんだ?
―――分からない。
―――少し進んだと思ったのに、また振り出しだよ。
―――分からない。
「……ムウちゃん?」
―――でも。
―――だからこそ。
―――今は……。
「ん!」
「わっ……もう」
――― だいじなあなたに、“ありがとう”を。
次回、「不可思議な遭遇」章、その最終話です。