刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~ 作:阿久間嬉嬉(新)
……あの後。
限界を超えたかのように倒れてしまったアレンと、限界をとっくに超えていたシドーは……そのまま病院へと緊急搬送されていった。
そして肝心の試合結果だが。
双方が双方をプロレス的パフォーマンスなどでは無く本当に殺しにかかった、という重大なルール違反が見られたため、千刃・氷王両者ともに失格。
こればかりは仕方があるまい。
そもそもシドーの時点でもはやよく言ってグダグダ進行、悪く言えば大会続行中止は避けられなかったのだから。
なお当然ながら千刃学院も氷王学院も最終戦前に撤退。
観客の総数すら半減してしまった大闘技場から両学院の者たちが十人十色、千差万別の反応を見せながら去っていき、大五聖祭にあるまじき観客数となってしまったとか、なんとか。
せっかくアレンに注目していた者たちも怯えの方が勝ってしまい、よからぬ噂が流れそうになっていたのは、まあ彼には悪いが余談と言うほかあるまい。
―――なにあれともあれ大五聖祭自体は続行。
まだ
大五聖祭としてはあまりに寂しく異質と言うだけで、ムウとクノンをはじめとして疎らながらそこそこの数はまだ残っていたりした。
とは言え凶行2連発の後なのでまた色々と調整せざるを得なくなり、観客達のテンションに関しても嫌なぐらいに尾を引き、長々待っている間とっても静かで不気味だったと追記しておこう。
改めて出された表では、シード枠として皇が。
次戦として白百合と炎帝が選ばれており、今度こそ無難に、尚且つ燃える戦いが繰り広げられるという期待も、観客達の中で少しは膨らむ。
そして白百合と炎帝に限っては正しく、期待にバッチリと答え、事前に観客達が望んでいた素晴らしい戦いを繰り広げたのだ。
白百合と炎帝に限っては。
なんと、また暴走が起きたのか? というとそうでは無い。
曰く「今年の大五聖祭は最低に始まり最低に終わった」と言われ、その後も語り継がれてしまったレベルではあるものの、違う。
炎帝が白百合を打ち破り、決勝で皇と戦い、お互い大将戦までもつれ込んで、と本当に普通の大会でしかない。
皇の大将も、炎帝の大将も、シドーや【アレン】みたく殺意むき出しで武装を振るったわけでもない。
ムウがまた『傾きかけた』というわけでもない。
……というかムウの一連の行いは、シドーと【アレン】に皆が注目していたせいで、そしてかなりの隠密精度も誇っていたのか、その後一切取り出たされていないのである。
幸か不幸かで言えば間違いなく幸だが、これはムウが凄いのか状況の全てが悪かったのか……。
兎に角、暴走も無くイレギュラーも無い。
では何があったのか。
それは……上でも記した皇学院・大将 VS 炎帝学院・大将での一幕にある。
まず入場から舞台に上がるまではごくごく普通だったのだ。
皇側の大将・シン=レクス。
平々凡々なアレンと比べてすら細身に部類する少年で、10歳で《七聖剣》と呼ばれる一団入りする天才中の天才で、しかしそれ以上の情報がほとんどない謎の剣士。
炎帝側の大将・コレスタ=ボーエン。
恵まれた体躯、正々堂々を絵にかいたような豪傑漢。魂装は既に習得済みであり、鬼炎流と呼ばれる攻め寄り剣術の中でも著名な流派の皆伝でもある剣士。
互いに向き合い、審判が開始の合図を下し。
「
まずはコレスタが魂装を具現。青い焔を剣にともし、遠くでも分かるほどの熱量を浴びせながらシンを見据えた。
―――普通の大会と言えたのは、終わりは良いと言えそうなのは、ここまでだった―――
「……貴様、何をしている?」
憮然とするコレスタの視線の先。
そこにはいったいどういうつもりか……シンが横を向いて寝転がり始めたのだ。
「ごろ寝?」
「違う! この神聖な決闘の場でその行いをした理由を問うているのだ!」
激高するコレスタ、涼し気なシン。
とんでもない温度差だが、これはどう考えてもシンが悪い。いや悪いという以前の話だろう。
シドーのだらけた構えどころではない。ムウのいつものポージングでもない。
そもそもシドーだって気だるげではあったが戦おうとはしていた。
ムウは言わずもがな、構えが違うだけで戦いは真剣そのもの。
だがシンは戦うつもりすら見られないのだ、コレスタの怒りはもっともすぎる。
おまけにシンは「ごろ寝しちゃダメってルールはないでしょ~?」と詭弁を吐き散らかす始末。
さすがにコレスタも審判にルール上アウトかどうか聞くのだが、ルールでは『腹か背中が完全に付いたらカウント』なので、横向きに寝ている彼は確かにまだセーフであり、問題 “は” ない。
「あいつが七聖剣……?」
「ちょっとあれは本気で……」
「駄目、だろ……あれ」
「なん、で……?」
「ん……」
だが、元より問題は “そこでは” ない。
あんまりにも程がある立ち合いに観客達はアレンとシドーの時以上に困惑してしまっている。
「剣士の戦いは真剣勝負だ……屁理屈を宣い正当化する場では無いっ! 尋常に立ち会え!」
セーフセーフと審判の言に続いてへらへら笑いだすシンにとうとう堪忍袋の緒が切れたコレスタは怒鳴り、波の者なら気絶しそうなほどの威圧感が放出される。
されどもシンはやはりどこ吹く風。それどころか鬱陶しそうな顔になっていた。
「うるさい、熱苦しい、喋りは古臭い……はぁ……ほらもう御託はいいからさっさと来なよ」
オマケにコレスタの方が遅延行為をしているから悪い、と言わんばかりだ。
相手側に負を押し付ける……アレンとカインの「100年に耐えられた程度で何で騒いでいるのか」というやり取りでも似たものを含んではいたが、あちらは戦いの結果と意図せぬすれ違いでしかなく、大前提として両者とも剣士として向かっていた。
シンは、なんだ。
もはや剣士どころか人としてアウトがすぎるではないか。
「貴様……!」
コレスタはもはや言葉もないとばかりに魂装を構え直す。そして大上段から振り下ろしつつ、眩い蒼炎のを尾を引き、シン目がけて一直線に突き進む。
「鬼炎流・奥義―
刃はシンの身体を芯からとらえる素晴らしいコースで振り下ろされた。
そして砕かれた。
……そう、砕かれたのだ。【アレン】がシドーの<氷結槍>を砕いた時と同じように、拳で。
手首のスナップだけで。
「な、に……?」
「《伏せ》」
次いで素人にも近くできるほど莫大な霊力がほとばしり、コレスタは有無を言わせず舞台の上でうつ伏せにされてしまう。
必死に抵抗するものの、遂には腕を立てることままならなくなり……審判が無慈悲にカウントを取る。
それでもコレスタはあきらめなかった。
拳から血を流し、両の眼からも赤い雫をこぼし、立ち上がることが絶望的であろうとも、力を籠め続けた。
そんな彼を見てカウントを続ける、審判の顔すらも申し訳なさそうに歪んでいたのは、決して見間違いではあるまい。
「ナイン……テンッ……!」
無情にもカウントは終わってしまい、コレスタはシンと一合すら交えることなく敗北を喫する。
『しょっ勝負あり! 勝者、皇学院・大将シン=レクス! こ、これにより、今年度の大五聖祭を制したのは、皇学院!!』
アナウンサーの声にも戸惑いの色が強く含まれ。
あくびをかましているシンは、同胞である皇学院の者たちにすら応援も歓声も挙げられず、ただ嫌悪のみが向けられてる。
とっくに謎の能力は解けているコレスタはしかし、「これまでの自分の鍛錬は何だったのか?」と、大粒の悔し涙を流しながら四つん這いのまま自問自答するしかない。
そんな彼の背にかけられたのは。
「えーっと、君、コレスタくんだっけ? ……無駄な努力今までご苦労様ぁ!」
不要。
ただ相手を貶める意外に理由無し。
汚らわしき嫌味だった。
「っ!!?!?!?」
「あ、おいシン! 表彰式にぐらいは……チッ、なんであんな奴に権利を……あのクソ野郎に」
そのまま突如として走り出していってしまった為に、仲間が嫌味を返すことすらできず。
こうして……「最悪の始まりと最悪の終わり」として語り継がれる、今年の大五聖祭は幕を閉じたのであった。
「今の……気のせい、か? 現に払おうとしたら、そのまま払えた……くっ……権利使って探って貰えばいいけど、ふ、不愉快な……っ! ボクは
……少年は喜ぶべきだ。
その大本と出会うのは、高々と伸ばした鼻を“素振り”にて圧し折られる時なのだから。
……少年は悲しむべきだ。
その大本の情報は異界のモノ、かつ大会から探っても何一つ出ず正体不明で終わるのだから。
「…………」
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大会後の帰路。
ムウとクノンは、とぼとぼというオノマトペがよく似合ってしまう様子で歩いていた。
「楽しみにしてたのに……なんか、嫌なまま終わっちゃったね」
「…………」
アレン、否【アレン】VSシドー然り。シンVSコレスタ然り。
五学院期待の1年生たちの戦いを見に来たのに、なぜ凶行のぶつかり合いや腐った性根を見せつけられねばならなかったのか。
クノンがそこまで思っているかは不明、というより違かろうが、ムウと一緒かつ期待に胸を膨らませていた大会がこの有様なのだ。
気持ち的に沈み切ってしまっても何らおかしくはあるまい。
そんな彼女の手を……珍しく、ムウの側からぎゅっと握った。
「あ……ごめんね、心配かけちゃった」
「…ん」
首を横に振る。
どう考えたって悪いのはシドーと【アレン】、そしてシンだ。ただの観客の1人でしかないクノンに、何の非がある筈もない。
(自分、もあの時、の、残り火、が、影響、した、のか、“送っちゃった”、けどね……)
何やら意味深な事を考えつつも、自身の握力を最大限に抑えながら、そっと触れるように包むようにしてクノンの手を握り続けるムウ。
そんな彼女へと、クノンは決意した様な声音で告げた。
「ムウちゃん。やっぱり改めて剣術学ぼう? 木剣も、もっとちゃんと作るから」
今日の試合を見てやはり思う所があったのだ。
ムウに際しては、我流が強いのは分かっている、我流の方が良いのも分かっている。
けれど、どうしても、今日の一幕……二幕を見て、思わず言わざるを得なかったのだろう。
そんな進言に対してムウは少し黙った後、顔を上げる。
「ん」
「……」
一拍置いて。
「荒天流、から、やるよ」
「……!」
出した答えは、
―――あの戦いを見て我流に、そして立ち合い方に思う所があったのは、何もクノンだけではない……ムウもだ。
言われるがままに戦い、今までのように闘い、『日常』に流されるままそれでも良いと交わる。
それでは駄目だ。
1番強いからそれを使う? それだけではいけない。
……踏み込もう。
疵は決して消えないのなら、刻まれた理由から紐解いて。使えぬのなら、プリセットを組み直してでも『自分が』使えるようにして。
そこからだと。
戦いにきちんと向き合おうと。
ムウはそう決意した。
「ムウちゃんも、いろいろ考えてたんだね」
「ん!」
「あ、ごめん、当たり前……だよね」
「ん」
「ふふふ、そうだね」
暴虐でしかない【アレン】。自身も似通っている……ならばあれを刃とするにはどうする?
もはや剣士では無いシン。彼を努めて見習わないようにする1番の道程は?
(や、ろ、う)
この世界においていまだ大目的は掴めない。
どこに『カエリタイ』のかも定まらない。
けれど。
長く伸びる小目的は、どうにかここで、掴めそうで。
(孤児院の、ヒーローで、居よう。剣士に、なってみよう)
ここからだ。
「我流に立ち戻るのか、荒天流のムウちゃんになるのか」
「ん……」
「楽しみだね」
「ん」
と―――そう、決断を下す。
「じゃあ、帰ろっか。皆のとこに!」
「ん!」
剣士にしたい。剣士になろう。
二人の想いが、重なって、暖かみをともす。
……決して晴れやかにはなり切れずとも。
その想いが翼となったか。
ムウとクノンの足取りは、少しばかり、軽くなったのであった。
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――――区画 建造中―――― ―――度合 中―――
――――機装 発達中―――― ―――度合 大―――
――――発現済 可能性・大――――
Q8.シンをめっちゃ睨んだ(比喩表現)のムウだよね?
A.そうですね、隠すことでもないのでぶっちゃけます。
……原作だとその後のエピソードでとある素振り大好きさんが全部ぶち折ってくれるんですが
今作だとそこに行くまでまだまだかかるので、ここで一回ぶっ刺しておきました。
どうしてもモヤモヤが残る方はweb版最新章を見に行くことをお勧めします。
アレンについて重大なネタバレこそ喰らいますが、しっかりと叩き返してくれてますので。