刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~   作:阿久間嬉嬉(新)

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目覚め
空いた洞穴の先


―――戯機兵(エルガレイオン) 消失―――

―――個体名 無 し(ブランク)――― ―――低級・下位・ランク…―――

 

―――損害度合い 軽々微―――

―――転送先  界――― ―――脅威判定 グリーン―――

 

―――以下 観測続行―――― ―――回収放棄 放置前提――――

―――追加転送 検討―――

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 事の切っ掛けは、とても些細なこと。

……それは穴。永劫不変に流れ続こう闘争と逃走の日常の最中、ぽっかりと開いた穴。それも壁面や戦闘痕に刻まれ崩れたものなどではなく、呆れるほど綺麗で大きな穴が……文字通り虚空(・・)にアギトを開いたのだ。

 しかして唐突に出現せし極色彩の大口は、それすらも回避する手段を持ち合わせていた“彼女”―――いや、彼女にとっては些細な不意打ち(いたずら)に過ぎない。

 

 つまり……事が起きたのは、一重に彼女自身が踏み出したゆえである。

欲も心も摩耗して、記憶すらも己を駆動させ続ける燃料として一部反復する程度の意味しか持たぬ、戦うか否かのみの判断を常に強いられてきた。

だが逆に言うと、その燃料となる反復要素そのものは未だに消え去らず残っているという事に他ならず、それこそが明暗を分けたのだ。

 

【かえりたい】 【どこに??】

    【帰りたい】 【何処に?】

  【カエリタイ】 【ドコニ???】

 

 もはや意味を持つかも分からない……延々、連呼されるそのサイクル。

 

―――ここではひた走るだけだ、けれども目の前には真ん丸の扉が見えるじゃあないか。なら帰ろう。どこへ? どこでもいい、帰りたいのだから、帰ればいい――

 

 ともすれば陳腐とすら言えた、ほとんど偶発的に起きて差し込まれた僅かな思考が、眼前に開かれたアギトへ飛び込む決断をさせたのである。

 

 そして、飛び込んでからは早かった。

特定の形を持たずに渦巻いていく色彩の群れを潜り抜け、落ちるような感覚と共に筒の中をすり抜けて。

かと思えば昇るように押し上げられ、敢えて言うならばサイバー的としか表せない、電子空間に酷似した通路を見上げ。

まっすぐ、ひたすらまっすぐ前に。歩いてもいないのに、天地逆さの高原を風もなく進み続け。

ふと、地面を、踏んだような、そんな感触が、身体へとじんわり…………。

 

 

 

…………気が付くと、見知らぬ草原へ放り出されていた。

 

 

 ―――これが一連の流れであり、切っ掛けであり……事の顛末である。

 

「……???」

 

 当然ながら彼女は困惑を覚えた。

第三者がもしいたのならば、帰れたじゃないかと喜ぶかもしれない、或いは聞くかもしれない。

だが先の通り、削れに削れた彼女にとってはもはや『帰る』という言葉はウロボロスの輪に等しい意味しか持たない。

 

 それゆえ彼女はぺたんと座り込んだまま動けず、されど警戒をする習慣はやはりそのままなのか、周囲の景色を首だけで見まわす。

 

(ツノ……違う、居ない、どこにも……では、別階層、歪区画……否、そも、反応が、異様……)

 

 咆哮などは聞こえない(おんせいクリア)

 数多の熱気が届かない(そんしょうかいむ)

 それ以前に何も居ない(さくてきふひつよう)

 

 なんだここは。どこだここは。自分は一体どこに居るのだ。……本来ならば、遠い遠い以前の“彼女”であったならば、この状況はむしろ望むべくと言う所だろう。

だが今は違う。残念ながら、あるいは悲しいかな、染まり切りまた擦り切った彼女にとっては、このやや冷たいそよ風吹く場こそ気持ち悪かった。

 

(やはりまだ、だ、どこに、知らない、帰ら、なければ、どこに。帰ろう。ほら、帰ろう、なにへ)

 

 取り留めなく乱れ続ける思考の中でも彼女の動きは機械的で、不気味なぐらいよどみなく綺麗に立ち上がり、改めて周囲を見回すとどこへともなく歩き出す。

 

 

 

え……あ、あなた! どうしたの!?

 

 ……否、歩き出す、筈だったのだ。ここで声を掛けられなければ。

 

「どうしてこんなに……っ! お母さんは!? お父さんは!?」

「? ……??」

 

 そこに居たのは、クリーム色の長いポニーアップを揺らす一人の女性。いや、大人びてこそいるがおおよそ10代後半~20代ぐらいであろうか? 少し幼く柔和な顔立ちをしていた。

その様子、彼女にとってはあまりにも隙だらけで、あまりにも戦意足らずで、だからかあまりにも容易くて……そのせいで、咄嗟の迎撃すらできぬほど。ゆえにか小首をかしげてしまう始末。

 

 一方、女性目線で見れば慌てるのは無理からぬことだった。

なにせ……今の彼女はボロのテックウェアはまだ良いとしても泥だらけゴミだらけ、傷だらけ血だらけ、ついでに何かの欠片だらけ……と、実はそんな有様なのだ。

お分かりだろう、どう見たってまともではないのだと。女性が優しい方なのもあろうが、それでも声は掛けてしまうだろう。

 

 本来ならば起き得なかったかもしれない、奇妙なまでのすれ違い。もしくは幸運が生んだ異様な間。彼女が何も言えずにいる事を、女性は別の意味で悟ったらしく、思わずと言った感じで抱きしめてきた。

 

「大丈夫だからね……っ! すぐに協会から魔剣士を呼ぶから……っ! 聖騎士様達にもなんとか協力を仰ぐから……っ!」

「…………?????」

 

 そのまま抱えられ一目散に駆け出していく女性の腕の中、彼女はずっと困惑に包まれていた。

こんな絞め方では自他の強度を測ることもできないのでは? そもそもどうしてこれだけなのか? と。

 ……まだまだ無機質さの目立っていた顔へ、僅かにそう言いたげな色が宿ったのを知らずにすんだこの一幕。そしてこの後の捜索で『獣の襲われた被害者のなきがら』が草原わきの森林から見つかった偶然は、女性にとっては果たして幸か不幸か。

それは恐らく……何に至ろうとも、女性以外は知り得ぬことであろう。

 

 

 

 閑話休題。

 

 親が獣に殺された(という事になった)彼女は、引き取り手も居ないということで1度孤児院に預けられる手筈となり……本当にあれよあれよと言う間に決まってしまったからか、当人は未だに困惑の最中にいた。

 

「ごめんなさい、おばさん。無理言っちゃって……っ」

「何を言ってるの! こういう件こそアタシの出番! もっと頼りなさい! ……おじょうちゃん、ここにはお友達もいっぱいいるからね、怖がらなくても良いのよ」

「……? ……?」

 

 何を言っているのかは理解できているのだろう。意味合いすらも不明、ということはあるまい。だが……それら内容を受け取って噛み砕き、己のものとする事が出来ていない。

 元来そうであったのならばともかく、彼女は壊された側(・・・・・)なのだ。そんな修復すらも困難な状態に加え、反芻し続ける願いに沿って飛び込んで結果こんな場所に居るという異常事態。一向に沁み込まず吸収できないのも無理からぬことと言えよう。

 

 そんな彼女に構わず、と言うより心に傷を負っていると判断してあえて踏み込まない事を決めたらしい女性2人は、しかしここで何かに気付いたように彼女へと近づいてきた。

 

「ねえ、おじょうちゃん。あなたのお名前は?」

 

 なるほど、確かに思いついて然るべき件だった。そもそも彼女は一切名前を名乗っていないのだ、何よりここで世話をするのならずっと“あなた”や“おじょうちゃん”呼びでは不便である。

 

 対し、彼女は何でもないかのように一言で応えた。

 

「無い」

「……え?」

「無い」

 

 一見するとあまりにもぶっきらぼうすぎる、あるいは警戒心の発露なのかとも取れようが、実はこれこそまごう事なき事実なのだ。

削れ壊れたゆえに【元の名前】はもはや2度と思い出せぬにひとしく、【今の名前】などそもそも付けられてすらいない。ここであえて表現するとしても……。

 

「さ、さすがにそんな……っ」

「あるいは、ななし(ブランク)

「こと……そんな、いや、そんな事……っ」

「まさかショック症状ってやつかしらね……それとも……」

 

 こうなる。

当然ながら今度は女性2人の方が困惑、そして悲痛を胸に抱える羽目となり、外見にそぐわぬ語彙が混ざった事にも一時気付かず、沈痛な面持ちで言葉を交わす。

 

「名前を思い出すまで待ちますか?」

「いや、新しい名前を付けてあげようじゃないか。思い出すのが辛い可能性もあるからね」

「あ……そう、ですね」

 

 ひとまず質疑応答は終わったのかと彼女(ブランク)は棒立ちの状態で2人を見やっていた。

闘争は勿論のこと、逃走の必要性も今の所は皆無だからか、実に大人しいものだ。……それが2人の庇護欲を無意識に増幅させているのはさて置こう。

 

 そしてああでもない、こうでもないといくつか緩やかに議論を交わした後、2人はいくつかの名前を彼女(ブランク)へ見せてきた。どうやら自分で好きなものを選んでもらおうか、と言う気づかいらしい。本当に優しい人達らしかった。

気づかわれている当人が一切受容できていない事が、少し悔やまれる。

 

 一方、名を選んだ方が良いという事自体は何となく今の状態でも理解できたようで、ある1つ(・・)の名前を指さした。

 

ムウ……」

「そっか、それが気に入ったんだね?」

「うんうん。良かったよ、悩んだ甲斐があったもんだよ……っ!」

「これからよろしくね、ムウちゃん」

「……ヨロシク?」

 

 個体名が決まった程度でなぜ泣くのか。どうしてそんなに喜悦を浮かべるのか。言わずとも本来分かる筈のそれを最大の謎として受け取ってしまう、そんな現在を一向に気にする事は無く。

結局、この日は最後まで困惑が取れなかった彼女―――ムウであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 ――――ムウが孤児院の世話になってから早一か月半ほど。

季節はまだまだ移り変わりの色も見せない頃。

子供たちのはしゃぎ声が聞こえる時刻。

 

 

「ううん……」

 

 孤児院の保母であるおばさん・ターリアは少しだけ頭を悩ませていた。

まあ、言わずもがな、ムウのことだ。

 

「たどたどしくて幼くみえて、なんだか意外と成熟してるっぽいから、やっぱりうちのどの子達よりも年上なのかねぇ。ううんなら何でああなっちゃうのか……」

 

 先からずっと記しているように、ムウは幾星霜続けた闘争の世界における日常と、その中で壊されたことの2つが折り重なり、未だ暴力的な騒ぎはまだ起こしていない事がいっそ『奇跡』とも言える境遇にある。

当然、ターリアはそれを知らないのだが……しかし、現在彼女を悩ませているのは例え知れども知らずとも、あまり関係無い部分にあった。

 曰く……。

 

「何度注意しても男子トイレに入るし、男子側の更衣室を使って、男子の方へいきなり混じっていて……」

 

 ……これなのだ。そう、そもそもが男であるまま体のみを変えられてしまったせいで、そして自意識が傾く前にすり潰されてしまったせいで、女の子として行動するよう言っても意味が無い。

これが自認などの複雑な性事情にあるならばともかく、ムウ自身そんなことは決してない。男だ、と言った事すらないのだ。

 いわば先と同様、ただただ【カエリタイ】という想いと同じく、沁みついた残滓にすがり続けているのに近しい。

 

 もっと言えば注意すると数日は守るのも厄介なのだ。そのうえ周期にばらつきが存在する。……嫌がらせか何かなのか。

 

「お風呂の時間も全く守れない……ご飯も言わないと食べないし、皆と遊ぶどころか息抜き自体が苦手なような……」

 

 さらに消えてしまった三大欲求もまたターリアを悩ませる一端だ。

騒がないだけで寝ない。好き嫌いは無い、けれど食べない。

最後の一つについては孤児院のほとんどがまだ発展途上なので無問題。

 とにもかくにも今までの流れがここで逆さに変わり、人として大切なものが欠けていることと、集団行動があまりにも苦手なことが露呈し足を引っ張っているのである。

 

 幸い、ムウは勉学には佳くはげむので何も詰め込めない、理解を促せないという事は無さそうなのだが……。

 

「思った以上に傷は深いってことなのかねぇ……またクノンにセラピーでも頼むべきかしら」

 

 クノン……恐らく先に居たもう1人の、クリーム色のポニーテールの女性あるいは少女にも手伝ってもらっている事がここで分かった。

まあ、最初に抱きしめられた時に抵抗せず(第三者視点)実のところクノンとなら一応会話らしい会話もしてくれる(第三者視点)のだから、頼りたくなるのも無理からぬこと。

 

 やはり、真実は知らない方が良さそうだ。

 

「……あれから獣の被害者も無意味な動物殺しに傷害前提の強盗にやってた指名手配の悪党ってことが分かったし、だから子供作っておいてこの仕打ち……なんとかしてあげたいけど……」

 

 そして地味に追加情報が存在した事も明かされる。

割と洒落にならない犯罪を続けていた連中かつ男女のペアである事は確定したが、全く関係無いことに巻き込まれているのは……まあ、悪因悪果と言うべきか。

 

 ともかく、ムウの異質さが今後の課題なのはどうあっても覆せない。そして彼女にばかり真剣に取り掛かり、他の子達をないがろにするのもいけない。

 

「まあ、煮詰まっていても仕方ないねぇ……ちょっと子供たちの様子を見てこようか」

 

 

 

「まてまてー!」

「やーだよーだ!」

 

「美味しい?」

「もぐもぐぅ……うん、とっても!」

 

「おりゃあ、ひゃっかりょーらんりゅー!」

「こっちはこんごーりゅうーだぁー!」

 

 言いながらターリアが向かった庭。

そこでは子供たちが鬼ごっこで走り回っていて、また別の所では砂場で意外なほど砂像の造形に凝ったおままごとを、また別の場所では木の枝を使ってちゃんばらをしていた。

 思い思いに遊ぶ彼ら、彼女らは今日も今日とて元気がありあまっている様子。それを見やって、ターリアは先までの疲れを吹き飛ばしたかの如く嬉しそうに頬を緩ませる。

 

「そう言えば来月あたりだったかねぇ、剣術学院の入学試験」

 

 ―――ここで少し詳しく説明せねばなるまい。

 

 この世界、ムウが落っこちた(・・・・・)このかつてとも前とも異なる世界では、ある1つの概念が重大な基盤となっており、なおかつ盛んなのだ。

 それこそが剣術

 この世界における《ある特異な力》の性質上、どうあっても武器との関係性が避けられない事も手伝ったのか、この世界ではそれこそ星の数ほど剣術の流派が存在している。

万能性を主体にしている流派があれば、徹底して突きへと重点を置いた流派もある。広く門度を開いている流派があれば、一子相伝を貫いている流派もある。

 

 そして重要であるからこそ選択肢が多く、選ぶにも苦労するそれらを一堂に介させ、吟味し、集中して学べる場がこれまた中・高除いても数多存在する剣術学院―――と言うわけだ。

 

 だがそこまで広まりまた重要視されているからか……どこにも属さぬ『我流』の剣士は、酔狂モノか三流未満でしかなく、名乗っただけで嗤われたりさげすまれる事も決して珍しくない。

我流を名乗り、覚えられるだけの事をやってしまえば、あとで訓えを乞うても袖にされるのがオチだろう。

あまりに極端と言えば、本当にそうとしか言いようがない。

 

 逆に言うと多くの人が希望と期待を寄せ、また相手を測る時の基準やアドバンテージにも出来るほど根まで浸透しているとも言え、ゆえエンターテイメントとしても中々に盛んで。

特に大五聖祭や剣王祭と呼ばれる学生たちの決闘の場は、彼ら彼女らにとって将来を決める場という事もあり、一層盛り上がるため皆が毎年楽しみにしていたりする。

 

 無論、ターリアもその一人だ。

特に新入生は情報が無いこともザラなので、思わぬ活躍が見れるのもまた面白いのだ。

 

「今年はどこが勝ち上がるのかしら。大五聖祭はやっぱり皇かねぇ、千刃や氷王は昔の勢いも無いし……剣王祭はうちの近くだと人狼があるけども、ううん……」

「以前本戦まで行ったりしましたけど、あまりにガラが悪すぎて素直に応援できませんよね……」

「まあねぇ……おっと? おや、クノンじゃないか」

「こんにちは、ターリアおばさん」

 

 独り言への返答にターリアが振り返った先、そこには小さな荷物を下げるクノンの姿があった。

どうやら自ら来てくれたらしい。

 

「ムウちゃん、どうですか? やっぱりまだ……」

「馴染めてないねぇ。元々酷い目にあったのもあるんだろうが、生来中々のじゃじゃ馬かもね? あの子」

 

 冗談を言えるぐらいにはなった、と暗に示すターリアにクノンは笑む。

 

「ふふふ。でも、怯えたり怖がったりはないんですよね……嬉しいなって」

「その調子でもうちょっと馴染んでくれたら、と思っちゃうねぇ……ほら、今も」

 

 ターリアが指さしたその先。

そこには案の定、1人でなおかつ何もせずに突っ立っているムウの姿がある。

 

 濃い灰色をしており、しかして半分から暗いくすんだ黄緑色(きくじんいろ)に変わる、獣耳のような愉快でワイルドなミディアムロング。

洗ってもらったのか新品同様になった、相変わらず前方をやや開けっ放しな、今居るこの世界では何かと目立つテックウェア。

……言うまでもなく浮いていた。

 

「最初こそみんな声を掛けてはいたんだけどねぇ。押しても押しても風の如く、とうとうみんな諦めてしまったよ……」

 

 どこか悲しそうに言うターリアにクノンは顔へ影を落とす。

あの時ムウを見つけた彼女にとって、この状況は傍から見た以上に芳しくないものと言えよう。

 そもそも自分とすら比較的なんとかやり取りするだけ、心を開いて何とかしてくれているとは、とても言えない。

詰まるところ、良い事とは決して言えないのだから。

 

「でも……今は、孤児院の中だから良いんですけど……」

「そうだね……里親が決まるか、自立していくか、あるいはここに留まり手伝ってくれるか。いずれにせよ、今のままだとあの子は本当に居場所がなくなってしまうよ」

「……ムウちゃん……」

 

 まるで自分事のように悩み、ムウの現状をなんとかしようとしているクノンの思考は、現状の打開に傾き続ける。

 

(勉強は出来てる。普通の子と同じように動けるし食べれる。喋り方はたどたどしいけど、意味や意志はちゃんと伝えられてる……と思う)

 

 何も出来ないなら得意を見つければ良かった。だがムウは一通りできて、自立して動き続けていて、だからこそ難しかった。

 

(おばさんも言ってたけど、年齢的にはたぶん今居る子達よりもっと上……ならリミットは予想より早く来ちゃう……! ……焦っても、どうにもならないのに……っ)

 

 ある種の身勝手なのかもしれない、お節介なのかもしれないが、それでもクノンはあの時出会った縁をよくある偶然と切り捨てて傍観者になる事は出来ず、されども像結ばぬ考えが己の中でぐるぐると巡るのみ。

 結局、まだ同じ場所で立っているムウへ、目線を再び向けるしかなかった。

 

 ……と。

 

「ぐおー! ひゃっかりょーらんりゅーがやぶれるとはー!」

「はっはっはー! こんごーりゅーこそがさいきょーなりぃ!」

「ちがうぜ! それはぼくのふーげつりゅーだ!」

 

 視界の端でチャンバラをしていた2人の男の子がクノンの目に飛び込み、そこで彼女は1つある事を思いつく。

 

(ムウちゃんって、剣術はどうなんだろう……?)

 

 それは身近過ぎたからこそ思いつかなかった道。

だが1度よぎったならば、そこからは激流の如く一気であった。

 

(10歳ぐらいから魂装(・・)を目覚めさせたり、大人に勝てちゃう子もいるし、何より魔剣士って受け皿もあるなら……!)

 

 ハッとした顔を少しだけ笑みでほころばせ、丁度良い木の枝を拾ってムウの元へ向かうクノン。

 

 

 

 

 ―――そんな、今孤児院の話題の中心に居るムウの、視界と思考の中で。

 

(戦意、微弱、けれ、ど、感知。どこか、に、いる……あっちに、いた……)

 

 淡々とした確認の言が流れていき。

 

「ねえ、ムウちゃん」

「……?」

 

 クノンが彼女へと声を掛けたのと、ほぼ同時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

邪魔するぜぇ!!!

 

 爆音とだみ声が響いたのは。

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