刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~   作:阿久間嬉嬉(新)

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見染められたので、孤児院の為になるので、クノンの事が気になるので。
とは言いつつ今まで剣術では無くただ受け身のまま戦い、
「疵」を無視して戦闘意欲を利用していたムウ。

ここからは己の技能と向き合い、剣術を使えるか使えないか問わず学ぼうとする……予定です。
荒天流をどう“会得” し、タイトルにある様な我流へ繋げるのか、お楽しみに。


また20話の区切りで新章突入というキリの良さ。
オリジナル色の濃い話になりますが、途中で魔剣士協会(組合)にも少し関わると思います。


魔剣士がもたらすは……
はい


「よーし飛び級ちゃん、もう1回やってくれ。自分の眼がおかしいだけかもしれないから」

「ん」

「……すまん、もう1度だけ実演お願いできますか、で良いか?」

「ん」

「…………うん、これは確定だなぁ」

 

「…………」

「……」

 

「バッチリ増えてんじゃねえか」

「ん!」

「ん、じゃないんだが」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 ―――ほぼ波乱しかなかった大五聖祭から数日後。

 

 一応は仕事でもあるとのヘルガの言通り。どれだけ書き辛かろうとも人狼学院および魔剣士協会支部へ大五聖祭レポートは提出せねばならず、そこでちょびっと躓いたムウとクノン。

 

 当然だろう。

 何が悲しくて獰猛VS凶暴の殺しあいだの、剣士どころか人としてアカン所しかない奴だの、そいつらの事まで含めて書かねばならないのかと。

 

 ……と、思われたのだがとっくの昔に情報自体はヘルガや支部長の元に入ってたらしく、「情報は欲しいからそっちは事務的に、あとは興味のある剣士について重点的に教えてくれ」と言われたため、最終的にはちょびっとの苦戦で終わってくれた。

 

 よく考えずともシンの方は、残酷だが……あれも人間性に多大な問題点こそあるが、試合内容は『シンの魂装らしき力に敵わずコレスタが負けた』でしかない。

 過程や詳細な内訳こそ良く見られたものではないが、単に結果だけを抜き出すと、勝敗自体はきちんとルールに沿って決まっているのだ。

 

 だがアレン・【アレン】とシドーの戦いは違う。

 ルール違反何するものぞと犯罪者まっしぐらな殺し合いをやったのだ。それも初戦の大将戦で、おまけに『五学院』がだ。

 そりゃあ特別剣士界隈の情報事情から離れない限り、教員職なのも加味すれば事前に耳に入ってもおかしくなく、新聞にだって真っ先に載るだろう。

 

 元より五学院は単に『歴史ある5つの強豪校』というだけではなく。

 その肩書きから予想できるものを、最低3つは飛び越えた権力や財力を持っていると言っても、決して過言ではないのである。

 

 そんなとんでもない影響力を持つ学院所属の剣士が問題を起こしたのなら、真っ先に載るだろうどころではない。号外として即日発行されても不思議ではない。

 

 ともかく理由は様々あったもののレポートは提出完了。

 ちなみにクノンは言わずもがななのだが、意外とムウもちゃんとした文章を書いていたので、少しヘルガに驚かれたとか。

 

 

 次なる報告は『大五聖祭の想い出』という微笑ましいもの。

 これに関してはクノンではなくムウの、人狼学院としての課題であり彼女だけがヘルガに教える事となった。

 

 そしてレポート提出の翌日がたまたま学院休みの日だったためその日に行うこととなる。

 

 しかし『想い出』と言ってもインパクトが強いものは先の通り。

 元よりあやふや、曖昧な部分がある課題だ……機械的、事務的にならば一応何とかなっても、その手の事を具体的に表すことが未だ不可能なムウにとっては最難関。

 

 クノンと帰り道で一緒に誓った【決意】についても明確に言語化できるものでは無く語るのもはばかられる。

 

 そこでヘルガは1つ提案を出した。

 それが「気になった剣士の剣術を貴女なりに披露して頂けませんか? でどうだ」だ。

 

 ぶっちゃけた話良い意味で気になった剣士が一人もいないという悲しい結果を抱いているのが今のムウなのは置いておいて、というかそれを言い出していたらきりがないので、ムウは “全ての出来事を踏まえて” 1番印象に残った剣術を披露することにした。

 

 

 そして、やってきたは屋外闘技場。

入学試験依頼……どころか模擬戦やら決闘やらで利用しまくりで、ムウ自身としてはもうお馴染みとなっている場所。

 

 普段は木製の人型ターゲットが用意されており今も片づけられぬまま佇んでいる。

 

 持ってくる手間がはぶけたのは良い事だとヘルガは笑い、早速『気になった剣術』を試して欲しいと促した。

 

 ―――瞬間的に、ムウの脳裏によぎるは、アレン=ロードルの剣技。

 やっている事が魂装の域で剣術と言って良いのかは疑問だが、気になった剣術という意味では本当にその通りなので、複数のターゲットを前に剣を構える。

 

(空間、認識……空、切創、振幅、斬……)

 

 選択した太刀、それは同時展開(・・・・)の刃。

 

「はちのたち・やたがらす」

 

 8つの閃きが寸分の狂いなく広がり、間断なき1降ろしにてターゲットを斬り倒した。

 

「はあ?」

 

 ヘルガ、唖然。

そりゃそうだろう。剣術を披露してほしいと言ったのに魔法をぶっ放しやがったのだから。

 

 そして冒頭のように何度も繰り返して貰うのだが当然ながら結果は同じ。何度やっても刃は不意に8つと分かれ、1度で複数をなぎ倒していく。

 何をどうやってどんな風に振ったらそうなるんだと、もはや聞きたい事しかない始末だ。

 

 ひとまず出所が《誰》かは聞いた後、ヘルガはタバコに火を付けつつ後頭部をガシガシとかいた。

 

「いったいどんな仕組みでこんな事に……興味しかねぇよもう、うちの生徒(こ)に何を憶えさせてくれてんだ千刃の(そいつ)は」

 

 言いたい事はまあごもっともなのだが、恐らくアレン=ロードル(そいつ)も言われたって困るだろう……『おまえを見てたせいでこの子が憶えたんだぞどうしてくれる?』なのだから。

 

 他人の認識について色々とズレまくっている彼であってもこればっかりは何の非も無い。

 

 推定とは言え、彼とて100年の時を利用して時間をかけて桜華一刀(おうかいっとう)流を真似たろうに、彼自身の剣を人狼学院の女の子が見よう見まねで会得しました、と予想などできるものでなし。

 エスパーどころじゃなかろう、最早。

 

 

 ……ここで怯んでまごついていても仕方が無いので、ヘルガは一旦タバコを口から離す。

 

「飛び級ちゃん、他にも何か気になるものはありましたか? ってやつなんだが」

「ん」

 

 “あるのか……”

 そんな感情を隠しもせず顔に出したヘルガはされど、提案した手前引っ込める訳にもいかず黙って眺め始めた。

 

 ヘルガの目線を先でムウが陣取ったのはターゲットよりもやや離れた位置。

 ここだとフルスイングの爆風は届くだろうが、刃は当然届かない。

 

「いちのたち・ひえい」

 

 しかし斬撃を飛ばせるのなら話は変わる。

 やや黒みがかって見える三日月がターゲット目がけて高速で飛来し、一瞬にして斬り裂いた。

 今度もまた普通は魂装前提だろう、ずばり魔法剣だ。

 

「おおー……」

「ん」

「おぉ、うん……」

「…………」

 

「ゴメンなんなのおまえ?」

 

 お決まりの1言、炸裂。

 

 出せば全数成立する連撃の次は、剣のみでの遠距離攻撃ときた。

 問わない方がむしろ不自然というものである。

 

「いや、この場合はなんなの千刃の(そいつ)、でもあるか……文句言う訳にもいかないんだが」

 

 他学院という事、そしてそれ以外の理由(・・・・・・・)も確かに感じさせながら、水色の髪を風に揺らし、ヘルガはそうぼやいた。

 

「そんで、だ。まさか他にもあったり」

「……ん……」

 

 ホッと胸をなでおろしたヘルガは次いでけらけらと笑い出す。

 

「そっか! 流石に無いか! これ以上あったら引っ繰り返ってるとこだぜ、ほんと」

「………」

 

 ご存じの通り、実はある。

 

 まずは【アレン】が口にしていた、恐らくは設置型斬撃(・・・・・)であろう<朧月(おぼろづき)>。

 しかし遠隔で利用するという、初っ端アレンジを加えまでしたムウが使えない筈も無かろうに、何故に“無い”扱いをしたのか。

 

 これの理由はとっても単純であり、『何の太刀か聞いてないので分からない』ゆえである。

 

 プラスで空気を読んでヘルガを気づかった可能性も高かろうが、印象に残った剣技を披露するべきこの場において、自分が最低限の部分を知らない術を披露するのは躊躇われたのかもしれない。

 

 そして理由はもう1つある。

 

(空間切断……巨大震撼……貫通……極短距離跳躍……広範囲拡張……)

 

 『原理を【眼】で読み解いたからこそできる応用法まで含める訳にはいかない』という、完全にムウの個人的な判断によるものだ。

 

 ……アレン=ロードルもビックリだろう。

 どこかの誰かが知らない間に真似した挙句、紐解いた原理からより先に行こうとしているなど。

 

 既に、見たことの無い応用法を初手で使ったことについてはノーコメントとする。

 

「まあなんだ? つまりこれから飛び級ちゃん、主戦力はフルスイングとこの謎剣術になるという事ですね、ってことか」

 

 どんどんトンデモな事になっていくなぁと、半ば呆れたように、そしてどこか諦めたようにヘルガがぽろっと言葉を零した。

 

 ただ本当に迂闊なものだったようでハッ! となり、謝ろうとムウの方へ向き直る。

 が……彼女はどういう理由か、ゆっくりと首を横に振っていた。

 

「優しいな、でも謝らせてくれよ。人狼(うち)の大事な主戦力、大切な生徒にそんなこと……」

「……違、う」

 

 1度は頷いたものの今度はちゃんと、一拍置いてから珍しく喋りながらまた首を横に振るムウ。

 

「いや違うって……何がだ?」

「自分、なりに、自分の、剣を、得たい」

「お、おう……それで」

 

 後にヘルガは断言したという――。

 

「荒天流、を、ちゃんと、おし、え、て、くださ、い」

 

「…………」

「……ん」

「…………」

「……?」

 

 

「マ ジ で ! ?」

 

 ――これがその日1番の驚きだったと。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 「教えを乞いたいなら歓迎だ、けれどこちらにも準備がいる、ってやつだ」とその日は解散と相成る。

 ……ウッキウキに見えたのは間違いなく気のせいではあるまいて。

 

 そしてまだ陽の高い内に孤児院へと帰る事になったからか、ムウにはだいぶ暇な時間が出来てしまった。

 

 歩きながら彼女が思い返すのは、親しき孤児院のみんなのアドバイス。

 

「…………」

 

 クノンには「根を詰めない方が良い結果になるよ」と言われ。

 

 孤児院長には「1度ばかり無駄な事もやってみるのも良いですよ」と言われ。

 

 ターリアにも「あんたはちょっとは、いや大きく寄り道してみなさい!」と言われ。

 

「…………」

 

 テックウェアのような私服の裾を揺らして歩きつつ、ポケットの中を何やら探り……ムウはまず市役所のような場所へ立ち寄る。

 

 そこで地図を確認した後、自身のずば抜けた身体能力と尋常ならざぬスタミナを存分に利用し、されど人目は確りと避けながら。

 真っ直ぐ、とある場所へ向かっていく。

 

 

 やがて着いたのは、とても大きな病院の前だった。

 

「……ん……ここ、だ」

 

 向かおうとしていた目的地ではある様子だが、ムウの所属的にも、立ち位置的にも、今の体調的にもここまで大きな病院には縁が無い筈。

 

 実際、以前の事件で危うかった男の子は既に全快しており、何よりムウが人狼学院に出かける前に剣を振って練習をしている真っ最中なのを見かけていたりする。

 

 ならばなぜ訪れたのだろう。

 

「…………」

 

 知る人には確かな、そして解けぬ疑問を生じさせつつも、ムウは物怖じすることなく入っていき、ロビーのあたりでふと立ち止まった。

 

「面、会の、許、可……」

 

 どうやら入院しているのだろう誰かと顔を合わせたい、もしくは用事があるらしいのだが……どうして許可に惑うような関係性でしかない、と自覚している上で会いに来たのか。

 

 ムウの目的が益々分からなくなる。

 

 少しの間キョロキョロしていると、流石に気付くのか看護師さんがムウへ近寄ってきた。

 

「どうしたのお嬢ちゃん、誰かに会いに来たの?」

「ん」

「その人のお名前は分かる?」

「ん……

 

 

 

……シドー=ユークリウス」

 

 小さな口からまさか過ぎる人物の名が飛び出した。

 

 予想だにしないどころではない名前。

 看護師さんもこれには吃驚仰天し、にわかに慌てだす。

 

「シ、シドーさんに会いに来たの……!? あの患者さん、荒れてるから危ないよ……?」

「ん」

「あの、ん、じゃなくてね……?」

「ん」

「ねえお嬢ちゃんお話を聞いて!?」

 

 ザ・意固地。超ゴリ押し。

 どうにかして面会できるよう繋いでもらおうと、チャンスを逃さずムウは畳みかけていた。

 

 しかし看護師さんも、危ないと分かっている相手にむざむざ近寄らせるわけにはいかず、少しキツい言い方になっても諦めてもらおうかと検討し始める。

 

 するとそこへ。

 

「あらあら。シドーにこないな小さいお友達がおるなんて……なんや、今まで聞いたことあらへんかったわぁ」

 

 いつの間にやってきたのか、扇子を手にした和装の狐目美人がはんなりと声を掛けて来た。

 

「フェ、フェリス=ドーラハイン理事長さまっ!」

 

 看護師さんだけでなく周りの職員たちも頭を下げ、偶々そこに居た一般市民の皆々は一様に少しだけ距離を取っている。

 

 当然と言えば当然……というのも彼女、五学院が内一つであり、シドーが所属している氷王学院の理事長なのだ。

 

 先の大会中にて東門から聞こえてきた声の正体こそ彼女のものだろう。

 喋り方が一致することをちゃんと聞いていた(・・・・・・・・・)ムウも認識している。

 

 また五学院の学院長であること自体も流石にきちんと記憶済みらしかったか、分かり辛いが短く頭を下げていた。

 

「あっ、あのぉ……どうなさいますか……?」

「別にどうもせんでええよ。とっても可愛らし子がわざわざ訪ねて来たんなら、お話ぐらいは聞いたげんとね」

「は、はい!」

 

 慌てて看護婦さんは持ち場に戻っていき、周囲も近寄ろうとしないので、必然的に半ば隔離された空間でムウとフェリスが2人向かい合うこととなる。

 

「そんで……要件はなんなん? ある程度までなら聞いたげられるさかい、ほぉら遠慮せず」

 

 言いながら、実の所フェリスは内心様々な、黒いものを含めた考えを巡らせていた。

 

 外見だけでは分からないのがこの世界の剣士。

 そしてシドーは何かと恨みも買っている立場なのは、事情があり(・・・・・)彼女が何よりもよく知ってる。

 

 眼前に立つ小さな少女が他学院の刺客、或いは他所のアウトローである可能性は0ではない。

 

(うちの(・・・)シドーに手ぇ出すんなら……ちょいと怖い目、見てもらいましょ)

 

 リサとはまた別方面で、狐にも似た容姿を際立たせるその目を鋭く細めながら、可愛らしいお客さんが取る次の動きを待つ。

 

 周囲に溶け込ませた護衛にいつでも命令を下せるようにしながら。

 

 魂装具現の準備を整え終えたまま。

 

「ん……」

 

 その全てに(・・・・・)とある【眼】をもって勘付かれている(・・・・・・)ことは知らず。

 勘付いている本人もそんな所に触れる気も無く。

 

 テックウェアの懐に手を突っ込み、何かを取り出して……フェリスに見せて来た。

 

「こ、れ……」

 

 それは。

 

「―――したい、から……」

「ああ……! そゆ事やったん?」

「ん」

「なんやもう、そやったら―――」

 

 

 

 ―――ところ変わって、ムウが来た病院の、某病室。

 

「ったく」

 

 雪色でありながら黒と灰色が混じり、美麗とは言い難くまた乱雑な髪。

 黒く鋭い、けれども今は少しだけ和らいでいる瞳。

 生来のものなのか日焼けなのかな褐色の肌。

 

 そして所々に刃や打突の名残が見えるが、もはや気にならない程度まで戻った、鍛えられた体。

 

「……お嬢は過保護なんだよ」

 

 もう粗方傷が治ったらしいシドーが、ベッドに寝っ転がったまま小さくぼやいていた。

 

 看護師さんが言うほど荒れてはいないようだが、しかしストレスは確実に溜まってる事も分かり、あまり触れたくないのは変わらない。

 

 大五聖祭の事がもうニュースになっているのも理由だ。

 ルール違反上等で選手に必殺技を、文字通りのソレを叩き込もうとした剣士など、そりゃあ誰もなるべく近寄りたくは無かろう。

 

「リンゴ、リンゴ……っと」

 

 それでも、そんな雰囲気に一々噛みつく事はせず、意外と大人しく見舞いの品を食うシドー。

 

 元々氷王学院に応援されずとも我が道を貫いていたような男だ、慣れっこと言うかそもそも気にしていないのかもしれない。

 

 皮ごと豪快にかじりつき、芯と種を丁寧に残し、ゴミ箱へ綺麗にシュート。

 そのままやる事が無くなったのか再び寝っ転がった。

 

「……んあ?」

 

 と、普通は避けられがちだからこそ、そして元々音には敏感なのだろう。明らかに自身の病室へと向かってきている足音を聞いたか、シドーは体を起こして胡坐をかいた。

 

 下駄のような音、という特徴的なのもあり、音源の正体にはすぐ気が付く。

 

「お嬢か」

「せいか~い。大人しゅうしとるん?」

「……まあ、一応は」

 

 東門でのクールダウンの時然り。

 あれだけの獰猛っぷりを見せたシドーであってもお嬢……フェリスには頭が上がらないようで、無下に叩き落さずぶっきらぼうながら答える。

 

 立場に反して彼女が見舞いに来るのは珍しい事でもないらしく、シドーはその辺りに特に言及しない。

 

 代わりにフェリスが話を切り出した。

 

「今日は見舞いついでにもう1個、ちょいとしたゲストが来とるんよ」

「は? ゲスト? ……俺様(じぶん)に?」

「せやねぇ。ほんに珍しゅうて珍しゅうて、うちも最初はびっくりしたわ」

 

 言いながら「入ってええよ~」との促しに誘われ、入室してきたのは……灰と麹塵色の髪をした小さな少女・ムウ。

 

「……いや誰だてめぇ」

 

 当然の反応である。

 

 フェリスが病室に招いた事から自分へのお札参りでも無し。人に好かれる性分でもない。

 

 じゃあ本当に何なのか、シドーには皆目見当がつかない。

 

「…………」

 

 彼が困惑しているのにも構わずにムウはベッドへと近寄り、次いで懐をごそごそと探り出す。

 

 そして、取り出した。

 

「はい」

 

 

 

 

 ――――めっちゃくちゃ見覚えのあるサバイバルナイフを――――

 

「テメェあんときのチビじゃねえかああぁぁっ!?」

「ん!」

「ん! じゃねえよダァホがぁ! よく顔出してくれたなぶっ飛ばす!!!」

 

 なんとまあこのムウ、持って行ってしまったサバイバルナイフを律儀に、シドーへ返しに来たらしい。

 

 そりゃあフェリスも通すだろう。

 あまりにも良い意味で予想外、何とも言えないほど勤勉と言うか真面目がすぎるのだから。

 

 様々な見分、及び検分とですぐに終えられる立場でもある。

 ムウの所属学院も恐らく知っている。

 そしてどこまでガラが悪かろうと、あまりに素直がすぎたなら、あとはお察しだ。

 

「てめぇ律儀のタイミングおかしいだろあんとき面ぁ見せやがれぇ!!!」

「や!」

「なにが や! だアホチビィ!! てかナイフ取った時のあの動き! タダもんじゃねえのが許せねぇ! ぶち倒してやるから戦いやがれ!!」

「や!」

「うるせぇんだよおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 そもそも傷はとっくに大部分治っていることもあり、何より特別病室なのもあり。

 

 実力者VS実力者による鬼ごっこが開幕してしまったのであった。

 

「あらまあ、もうすっかり元気やね」

 

 ……氷王学院とムウにちょっとした縁が出来たのは、また別の話である。




Q9.まさかムウってガチでアレンの技使えるようになったの……?

A.は い

■

という訳で、副題「1回見て原作主人公の技を盗(と)った話」、でした。
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