刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~   作:阿久間嬉嬉(新)

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オリジナル色、とは言いましたがこの章でも少しだけ原作に関わります。
ただしアレンとムウはここでもまたすれ違います。

それはそれとして、本編をどうぞ。


答えはまだまだ遠く

 とある焼き菓子屋。

 

 

 露店(キオスク)にも似た形式をとっているこの店は近辺に複数の店舗を持っており、特にここはお客さんが安定してそこそこ入る良い立地だが、しかして後述の問題も多い。

 だがここ最近の早朝シフトの店員にはそれを苦にしない……とある1つの楽しみがある。

 

「来てくれるかな……」

 

 早速ワクワクしているこの人。

 だが、何も最初からそうだったわけではない。

 

 元々ここは実力と共にガラの悪さで有名な『人狼学院(あくどうのす)』に1番近いのだ。

 そんなある種の立地の悪さ(・・・・)から働く側からは不人気であり、異動させられたこの店員も最初は己が不運を呪い、びくびくしっぱなしであった。

 

 人が来やすい立地の良さ、来る人が厄介な立地の悪さ。矛盾を事実上両立させているなど中々無かろう。

 

 そして当然ながら日々やってくるのは不良、ヤンキー、モヒカン、ロッカーモドキ、スケバン、ギャル、アウトロー系と予想に違わぬ生徒達ばかり。

 店付近で騒ぐなど日常茶飯事、剣士でもあるため止めるのだって四苦八苦では済まない。

 

 偶に付近の支部から魔剣士が寄ってきたりと力技で解決はするものの焼け石に水。稼ぎは良いし住民からの評判自体は良いので撤退する訳にもいかない、と板挟み。

 

――せめて僅かでもやりがいが1つあったなら――

 

 あまりに淡くも儚い祈り。叶う筈もない夢物語。

 そして昨年秋から、幾許が過ぎ……。

 

 

 

「ん!」

 

 思いは届き、春の息吹と共に来たれり。

 

 ぴょん! と物凄いジャンプ力で高さのあるカウンターまで飛び、腕力だけで自身を支えるという凄まじい所業。

 そんな小鬼か何かのような、しかしてとても小さな少女の来訪こそ、店員が待ち望んでいる “1つの楽しみ” であった。

 

「いらっしゃい! 今日は随分と早いね?」

「ん。……ん」

「はい、チョコは130ゴルドだね」

 

 お金を渡す時には片手で支えるという、朝っぱらから特別メニューの筋トレでもやってるのかという行いを見て尚、店員の顔は晴れ晴れしい。

 

「まいど!」

 

 雲ひとつない晴天のようだ。

 

 だが……仕方あるまい。

 

「あり、がと」

「はい! こちらこそ!」

 

 やっている事がどれだけマッスル極まれりであろうとも、素直に買って、素直にお辞儀し、素直に去っていくそのありがたさに変わるお礼など無いのだから。

 

 その上で。

 

「あの子って人狼学院の1年筆頭候補なんだっけ……影響力、凄いねぇ」

 

 彼女が来てくれてからどうも『また来るのなら不味い』と考えているのか、他の人狼学院生徒達が今季この店舗周りでばかりは大人しくなっており、そういう意味でもありがたいのだ。

 

 どれだけ釘を刺されていても荒れる事は避けられぬが不良たちの巣窟、そしてその周辺。

 それを抑止してくれる存在など、ありがたいどころではない。

 

 というかヒートアップし過ぎた拍子に鞘に入った剣をぶん回して爆風で引っ繰り返された顛末を見ているのも大きかろう。

 

「……でも結構あの子も不良たちと仲が良いんだから不思議だよねぇ……ほんと」

 

 強いからというのも確かにあろうが、チビちゃんやらミニマムやらガキンチョやらなどと色々言われており、決して上下関係だけの仲で無いことも店員は知っている。

 実力で封殺しているなどもっとあり得ない。

 なにより先輩と思わしき者たちとも割と高頻度で一緒に居たりする。

 

 なので本当に不思議なことなのだ。

 だからこそ店員は首を傾げつつ、それでも今日も早々来てくれたことに感謝しながら、今日一日頑張ろうと張り切るのであった。

 

 

 ちなみにその少女・ムウが足繁くここに寄っているのは、実は『ちゃんと食品を口にする習慣をつけるため』というとんでもない――されどムウ自身にとっては前進を望んでの確りした理由だったりするのだが、店員が知る事は無かろう。

 

 知らない方が良いとも言う。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 ―――同時刻の人狼学院・職員室。

 

「いやぁ……良いね、本当に羨ましいことだねぇ、ヘルガ」

「だろ? あげないぜ、折角の教え子なんだ」

 

 口ひげを蓄えた厳つい男性教師から声を掛けられ、ニマッと笑いながら答える女性教師・ヘルガ。

 

 どれだけワルガキ共が集まって居ようと、教師も中々不真面目であろうと、誰も早朝から集まらないかと言えばそうでもなく。

 寧ろ、見た感じではそこそこ人影が存在する為、意外にも早めに出勤する人の方が多いようだ。

 

 そんな彼らの中で沸騰中の話題、それはムウと荒天流についてであった。

 

「分かってるんだよ、だからこそ口にしてしまうんだ。新入生の中でも指折りの強者ときた。羨ましいと言っても言っても足りんよ」

「ハハハハハ。こればっかりは巡り合わせと時の運ですよ、ってことさ」

 

 髭面の教師が割と真剣に羨み、火を付けずにタバコを咥えてゆらゆらさせつつヘルガは答える。

 そこへ別の教師も加わった。

 

「それにしても騒がしさは相変わらずですが、彼女が中心である事は幾らか減りましたね」

「なんか、大五聖祭以降かちょい考えるようになった様でさ」

「優秀な剣士たちに影響でも受けたってところか?」

「どうだろ。けど決闘や模擬戦も誰彼構わず受け取ることはしなくなってる、時間を作ろうとしてるな」

 

 幸いと言うべきだろうか。

 大半の新入生とそこそこの在校生がボコられた後なので、特訓し直しの良い機会と捉えている生徒に比率は寄っているのだが、ヘルガとしては掴み損ねておりそんな曖昧な答えしか出せない。

 

 反面自身が介入せずとも調整できるようになったこと、それ自体は喜ばしいと言えた。

 

 ……そんな風に考えていると、職員室のドアが小さくコンコン とノックされ、そのまま何も無く向こうで待っている気配がする。

 

 大抵の生徒がノック後すぐに開けるか、ノックせずに入ってくるか、ノックしながら入ってくる中、律儀に待機する生徒など……ヘルガの中では1人しか知らない。

 

「入って良いですよぉ」

 

 別の教師がそう言ってからジャスト1秒後。

 ゆっくりと職員室のドアが開けられ、予想通りの生徒が入って来た……。

 

 

 

「……おは、よ、ござい、ます」

「どうも!! おはようさんです!!!」

「でけぇわうるせぇわ」

 

 早朝の買い食いを終えたムウがまず向かったのはC組の教室……ではなく、1階のこの職員室だった。

 

 孤児院からの通学なのでどんな生徒よりも早く来るのは実の所いつもの事なのだが、それでもまだ少し余裕をもって『やってみたい事』をこなしたり、逆にぼーっとしてみたりしてから登校している。

 

 なのでここまで早い事はない。

 

 では早朝登校の理由は何なのかと言うと、先に自ら志願した剣術の学習の為。

 

「…………」

 

 超絶マッチョな体に眼鏡をかけた柔和な顔が乗ったインパクト抜群な教師や、無傷な部分がほぼない恐ろしい様相の教師や、そんなカタギに見えない大人たちの脇を小さく、頭を下げながら抜けて。

 

 ムウは淡い水色の髪がたなびく場所へとたどり着く。

 

「……ん」

「来たな飛び級ちゃん。お早い顔見せ感謝いたします、ってやつだ」

 

 “荒天(こうてん)流をちゃんと学びたい”

 

 大五聖祭からムウ自身が抱いた《1人の剣士になろう》という決意、そのはじめの1歩として選ばれた、何かと縁のあるヘルガの流派。

 

 人狼学院ではある意味もっとも近しい人だから、という理由もあろう。

 実はムウの剣は工夫なく振るうと爆風を起こしまくるから、というのも理由だろう。

 

 まあ諸々あれど。

 自身の現状を踏まえて考えたら、どこまでいってもヘルガに教えを乞う事こそが最適解だった、というのは言うまでもあるまい。

 

 流派についてまとめた特訓メニューなのだろうメモらしきものを手に、ヘルガは自身の席を立つ。

 

 

 ……やってきたのは件の屋外闘技場ではなく、珍しくも屋内闘技場。しかも体育館に相当する建物の方ではない、別の少し小さな建物だ。

 なんでも “乱入者を極力減らすため” との事らしい。

 

 ちゃんと教えるのならば確かにいつものような辻決闘騒ぎは、確かにどうあってもご法度だ。

 

「そんじゃあ最初は荒天流の理念から教えるが、ま、短いもんさ。それでも真面目に聞いてくれ」

「ん」

「よろしい。……荒天流はそのものずばり【己が荒れる天と化す】ものさ」

 

 まんまだなと笑いながらヘルガは続ける。

 

 曰く――荒れ風を伴い、渦風となりて敵対者の守りを引っぺがす。

 

 曰く――荒れ風となり、疾風を引き連れて敵対者を討つ。

 

 曰く――範囲攻撃や範囲外牽制はあくまで結果の1つ、遠近双方こそ重要。

 

 曰く――『読み』だけでなく『しなり』と『躍動』にこそ真理が宿る。

 

 曰く――己を解き放て。青天をも吹き荒らす暴れ風と化せ。

 

「……ま、こんなとこだろ。あくまで理念っつうか代々言われてる事だ。軽んじて良い訳じゃなく、抽象的ゆえの流派でもあるんだが……深く考えるよりも動いて学びましょう、だぜ」

「ん!」

 

 早速実践あるのみ。

 そう言わんばかりに淀みなくすらっ、と剣を抜いたヘルガは木製人形の前に立ち、静かにしかし素早く剣を振り上げ……。

 

「荒天流―唸(うな)りの刃風(じんぷう)!」

 

 振り下ろし、その切っ先が木製人形を傷つける。

 さらに一瞬遅れて鋭い風が吹き、その風がより深く切り込んでいく。

 

「これが荒天流の基本技その1ってやつだな。剣・風・両方と大雑把に3つぐらいの打ち分けもできる優れものですよ、だ。そんで……」

 

 続けてヘルガは両手で構え、そして切っ先を斜め下に向けてから。

 

「荒天流―荒牙(もうが)・颯(はやて)!」

 

 斜めへ振り上げると同時に今度は多少の指向性が見られる、狭範囲の突風が起きた。当然ながら偶然などではない、意図して起こされた攻撃性の風だ。

 

「…っと、そんで風を起こす方に比重を置いた技だな。飛び級ちゃんは振ったら爆風起きる、んじゃあこっちが先の方が良いだろって思ったのさ」

「ん……!」

 

 ヘルガの言い方的に、つまり荒天流は【大雑把に撃ち分けられる汎用技】【近接に比重を置いた攻撃】【風圧に比重を置いた攻撃】の3種類があることが理解できた。

 

 そして近接攻撃自体は自分の力でまかなえるだけでなく、そもそもアレンから盗んだ<八咫烏(やたがらす)>が変則的に過ぎるので考慮するには難しく。

 もう1つの<飛影(ひえい)>は遠距離どころではないものの、それが可能なら元々の素質込みで荒天流の風圧系の難易度は下がる筈……という意図をもって勧めたのだろう事が分かる。

 

 <朧月(おぼろづき)>は話していない&論外なので除外とする。

 

「時間いっぱい付き合うぞ。そして、好きな方から試してみましょう、でいこうか」

「…………」

 

 ヘルガの後押しを受けたムウは数秒間、目を閉じて何かを考えるかように、少しばかりグラつき、そして剣の先端を斜め下へもっていく。

 

 選んだのは……風圧系であった。

 

「もうが・はやて」

 

 振り上げ、同時に爆風が起きる。……の、だが、その振り方はぎこちなく真似をしつつ、馬鹿力で強引に達成しお茶を濁したといった具合になってしまう。

 

 やはり『武器を上手く扱えない』機能はどう決意しようとも健在なのだ。

 

 そのままもう一度振り上げ、またも上手くいかず、ムウは静かに目を閉じる。

 そんな彼女をヘルガは褒めも、茶化しも、指摘もせずに、ただ黙して見ていた。

 

 ……感じているのだろう。

 あの日からムウの中の何かが変わったこと、そしてそれこそが “流派をちゃんと学びたい” と言い出す切っ掛けとなったことを。

 

(荒天流を習得してくれればそりゃあ嬉しい。けど同時に自分の剣ってのを見つける事が叶いますように、ってのも本音だ)

 

 ――だからこればかりは、すぐに声を掛けるわけにもいかない。

 

「……もうが・はやて」

 

 三度振り上げる。

 型は崩れ、膂力が発揮され、異なる疾風が唸りを上げる。

 

 毎度、同じという訳ではない。少しずつ調整してズラし続けているのが分かる。分かるからこそ、ヘルガはまだまだ指摘を挟まない。

 

 また何度か振ったのち、ムウがヘルガの方を向いた。

 

「……も、1回見たい、です」

「良いぜ。いや、1度と言わず何度でも披露しましょう、と言い切ってやるさ」

 

 ニッと笑いムウのお願いに、嬉しそうに応えるヘルガ。

 

 飛び級の特待生、負け無しの天才児、何より真面目。

 人狼学院からすればそのまま戦ってくれればそれで良くて、教える事など些細な勉学しかない。

 

 そんな彼女が……剣技を、剣術を真剣に学びたがっている。魔法染みた技すら身に付けたのに、その機会を得てから欲している。

 

 『実力以外の部分が足りないんだ』と、無機質的でありながら傍目からも解せるほどの熱意をもって、こちらの教えを切に求めているのだ。

 

(先達、そして教師冥利に尽きますね、ってやつだぜ)

 

 万事いい加減に見えても、実際いい加減であっても。

 剣士だからこそ、剣術に関しずば抜けた才覚を持つ上で意欲を持つ者を、放ってなど置けない。

 

「荒天流ー猛牙・颯!」

 

 …… “だから何度でも見せてやるさ” と、ヘルガは技を見せていく。

 

 

 ムウは悩む。ずっと、ずっと悩む。学ぶ事そのものでは無く、どう学ぶべきかで悩んでいる。

 

(そのまま、行使、したところ、で、機能を、覆す、こと、は現状、不可能……)

 

 だから止めるのか? 否。当然、否だ。

 

(プリセット、を、組み、直す……学んで、学ん、で、そこ、から……いっそ、最初、から組み直すこと、も、視野に……)

 

 どうあっても機能が立ちふさがるのならグレーゾーンでも突いてやればいい。そうだ、それこそ人狼(うち)の不良たちの様に。

 

 真似るという事は、そのまま見て取る事だけにあらずだ。なんなら同じものを最初から認め直したって良い。

 ルールが決められていないのなら、最終的に同じ場所へ辿り着くことをゴールと定めたなら……真面目に歩くだけじゃなく、買い食いしながら考えてみたって良いんだ。

 

(最初、から、全部やれた、今までと、違うから……ゆっくり、だ)

 

「そら! もう1回だ!」

「……ん!」

 

 時間がくるまで何度でも振るう。角度を変えて、形を変えて、どう打ち出すかすら変えて。

 

 なぞってみる。

 なぞり方がダメなのか? なぞるために使うものがダメなのか? 分かるまでやればいい。

 剣王祭まではまだまだ時間がある。

 

 そも……剣王祭に至ろうと、そこはまだこの練習から繋がる自分のゴールではない。

 学院の為に勝つ、それ自体はとっくに出来る域に居るのだ。

 

 しかして、じゃあとそこに甘えていて良い訳ではない。反例二つを見た後ゆえに、自身の疵は治せぬゆえに、ムウはそうと思えない。

 

 なればこそ、やるべきは……自分の足で歩んで《剣士になる》こと。

 

「もうが・はやて……!」

 

 ―――この早朝。

 

 やはり、ムウは『答え』を見出すことも、何かを会得することも叶わなかった。

 けれどもどこか清々しい気がして……またやろうと、先以上のやる気が彼女の中に湧いてくれたという。

 

 

 

「ゔぁなるがんど、また来た、時、まで、上手く、なれたら……うん」

「よーし待ってくれ。おまえ氷王の獰猛小僧と何か縁でも出来たの?」

「ん!」

「そこは冗談でも否定して欲しかったなぁ」

 

 いまいちしまらないのは、まあ、いつもの事であろう。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「悪いなクノン、出張なんて命じちまって」

「いえいえ! 他支部にお邪魔する機会なんてあまりないですし、1か月も無いんでしょう?」

「そうだな……そもそもあそこはこのリーンガード皇国の都だ、代わりも居る」

「……不真面目だから私を送るって聞きましたが?」

「…………まあそれはそれとして!」

「支部長?」

「それはそれとして!! 仕事頼むぜ、人狼の奴らも特別単位取りに来るんだからよ!」

「はい、それで行ってきます、オーレスト――千刃学院(・・・・)のおひざ元へ!」




クノンが意外と出ずっぱり……。
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