刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~ 作:阿久間嬉嬉(新)
では本編をどうぞ。
朝のC組ホームルーム。
最後に「学院生活はこれからだぜ。あるいは耳タコかもしれないが答えを急がず講じましょう、だな」とヘルガからアドバイスをもらい初特訓は終わりを告げ。
ちょこっとだけ精神的に疲れて見えるような、案外そうでもないような顔をしながらムウは席に着き、相も変わらずなクラスメイト達の喧騒に包まれつつ担任の教師をじー……っと待っていた。
頭から1筋の湯気が出ているようにも見えるのは、気のせいか否か。
「…………」
なにあれともあれ。
今日は特別授業から始まるとの通達があったためか、いつもよりはそこそこの生徒が朝からちゃんと教室に居る。
……つまりいつもはもっと居ないという事に他ならないがどれだけムウがこの学院基準でクソ真面目なのか、扱いが伺えるというものだ。
「おはよチビちゃん。チョコ食べる?」
「……ん」
「およ、珍しいじゃんか。いつもは即答なのに」
「マヌケに寝坊したんじゃねぇのかぁ?」
「何でいきなり自己紹介したんだ」
「ぶっころがすぞゴラ」
「おうやってみろやトマト返しだ」
ただ、話しかけられても一瞬ばかり返事が遅れるぐらいには、その鉄仮面モドキの裏で考え事をしてしまっているらしい。
ムウにしては珍しいというべきだろう。
学院の特色が特色ゆえか、クラスメイト達にもそこまで深刻に捉えられていないのは、さて幸いと言うべきなのか。
それともこんな朝から早速殴り合いと腕相撲を両立させてるおかしな事を優先して放り出すので端から憶えずその気もないのか、まあそれは定かではあるまいて。
尚。
今日はダルいからで不登校を決め込んでいる生徒も居れば、遅刻しそうなのであきらめて2限目辺りから来ようとしている生徒も居て、更にはまだ1学期なのに謹慎をくらった生徒まで居り、それこそムウのC組でも『
ムウ自身はその辺りを特には気にしてはいないようだが……人によっては自分が頑張ってる時に何やってんだ、と言いたくなるかもしれない。それぐらいに自由だった。
いや自由というよりどちらかと言えば混沌の2文字が似合いそうではある。
一応どの生徒もまだ停学は受けていない。ギリギリでという注釈こそつくが。
そもそも謹慎とてくらって良い筈ではないのだが、不良の受け皿である人狼学院という背景に鑑みればまだ比較的おとなしい方かもしれない。
ちなみに先輩方の方には既に停学をくらった人が居るとの事。
……いったい何をしたのだろう。
多分、いやまず間違いなく聞かない方が良いのだけは確実である。
そうこうしている内に腕相撲(?)がドローで決着がつき、まだ彼らもクラスもギャーギャー騒がしいそんな中、新たな流れを差し込むかのようにガラリ… と教室のドアが開いた。
「おはようさんです皆さん! 今日もマッチョり日和ですね!!」
現れたのは巨大ゴリマッチョに柔和七三分け眼鏡顔が乗っかったアンバランス教師でした。
この人、どうやらムウのクラスの担任だったらしい。
なお副担任は、恐らくイグゼが本当に便宜を図っていたのか、最近はムウの剣の師匠にもなったヘルガだとのこと。
……何故にちょっとズラしたのだろうか? 或いは捻じ込んだからこうなったのか?
それともマッチョに負けたのか? 真相は本人達の内にのみある。
さて朝っぱらの初っ端から『マッチョり日和』などとよく分からない概念を取り出してきた担任に、もう慣れたのか慣れさせられたのか、
なのでそのままホームルームはある意味“平穏”に始まっていく。
「ええと! まずは手始めに!!」
「センセ、声響くっス……」
「ん」
「おっとすみません! つい! ではまず手始めに!」
――野太くしろとは言ってねぇよバカタレ――。
そんな空気で教室中が支配され、ムウの顔がより無機質になったが、担任の鋼鉄ハートは欠片も揺るがなかった。
揺らいでほしかったものである……。
とは言え一応配慮はしてくれたのかやや小さくなった、ように思える、かもしれない声で連絡事項を話し出した。
「今月は大きなイベントが2つあります! 1つは『クラス対抗戦』!! 詳細は追って話しますが全四組によるガチンコ! 存分に暴れちまってくださいね!!」
「「「オオォ!」」」
「中々遅かったじゃねえかよ!」
「いよいよ来やがったぁ!? ぶちまけたるわカイデルぅ!!」
「ガロウの奴に吠え面掛かせたらぁ!」
「チビッコいるウチらが負けるとかありえないし?」
「全員血祭りにあげやんよぉ!!」
「堂々とぶっ潰せるわけだな、面白れぇぜ」
イグゼ学院長も入学式怱々に言っていた一大イベントがいよいよ到来すると聞き、待ってましたとばかりに一斉に騒ぎ出す。
担任も担任で何やら言葉遣いが怪しいものの、C組の面々は血気も士気も十分と言った感じだ。
そして担任はその盛り上がりに乗じてもう1つの連絡事項をバン! と音が上がりそうな勢いで口にする。
「そして2つ目が特別単位!! 魔剣士協会でのお仕事体験ですねぇ!!!」
「「「おおぉ……??」」」
盛り下がった……わけではまだないのだがいまいち要領を得なかったらしく、疑問符がクラス中に乱舞していた。
特別単位が何かも分からない。
人狼学院と深い繋がりがあるとは言えここでいきなり魔剣士協会が出てくるのも分からない。
そもそも出す順番が逆っぽいのもついでに分からない。
分からない尽くしなのだからそりゃあ反応以前の話にもなるだろう。
「では特別単位について説明してやりましょう! まず今期の1年の皆さんはなんと奇跡的にムウ=マジャクゥさん1人を除いて途轍もないバカなんです!!」
「「「ざっけんな!!??」」」
仮にもどころか本職が教師なマッチョ担任からとんでもない暴言が飛び出したせいで当然C組の皆は猛烈に反論。
「おいゴラ事実陳列罪って知ってますかァ先公ォ!」
「あのガキ基準にすんな! ぶち抜いて全員アホんなるわ!?」
「もーちょい手心あんでしょうがバカヤロー!」
反論の方向性もおかしかった。
1人除かれたムウはと言うと別に申し訳なさそうな顔も、ドヤ顔すらもしていない。多分、本気で反応に困っているだけなのかもしれない。
「?????」
というか本当に反応に困っていた。……まあ、仕方が無かろう。というかそもそもが色んな意味で例外枠でしかなく微妙に褒められては無いのだから。
元より学力の平均が著しく低い学院で学年トップに立っても複雑な心境にしかなるまい。
「しかぁし2つの幸運が付いていますのでご安心! ここ2年間の生徒達はマシもマシ! だからこの後の行事に参加するだけで1学期を乗り切れるんですね!!」
しれっととんてもない偏差値事情が明かされたが、自分達はまだ全然悪くない方だよ、と聞かされたからか皆多少なりともクールダウンできていた。
ちなみにムウの知人で学年を知っている者はリサで、彼女は2年……つまりマシな方との事。
というかそれ関連の苦労話をある模擬戦後にふと愚痴られたという裏話があったりする。
それはさておき。1つ目の幸運は一応の質の高さだとすると、2つ目の幸運こそが……。
「そんでここに先から言っている特別単位が加わる訳です! クラス対抗戦にも単位が付きますが、参加条件には一定以上の単位が必要になっちまうんですね!」
担任の言を聞き、面白そうな集まりに参加できないなどは嫌なのか、不良校にしては皆真面目に取り組もうという姿勢自体は伺えた。
また、聖騎士職は仮に諦めても魔剣士にすらもなれず。
『学校生活が楽しければ良い』も、イグゼ学院長をはじめとして容易く許してくれそうにないため、現実逃避し続ける事もできず。
まあ……そこまで将来を見据え、不安がるものはまだ居ないのだが、自分達でもパッと分かるほど取っ掛かりが無いのはさすがに気になる様子。
何より舐められっぱなし、そして舐められるきっかけを作るのは大層嫌らしく、やってやろうじゃねえかという気概はどうも皆の中に既にあるのが見えた。
……イグゼ学院長の発言からしても留年やら退学やら、いくら校風が校風だろうとそんな生徒ばかり出すわけにはいかなかろう。
そう考えると、恐らくまだまだエレベーター的要素や救済措置は確実に残っていそうだ。
要はその一つが“魔剣士協会のお仕事体験”というわけか。
「さて! 必要不可欠な一定以上の単位を取るためのお仕事体験、その準備は実の所整っちゃってたりしまぁす! なお断った場合は実質強制ボランティア状態となるのでお気をつけやがれ下さい!」
「
「いやいや、断ったらつってたじゃんよ。まともにやりゃ小遣い手にはいるんだぜ?」
「単位取れて金も貰えるのはありがてぇな!!」
「ん」
「中々に美味しい感じ~? ま、魔剣士の仕事ってドロドロらしいけどぉ」
ちゃんと報酬も出すあたり、人狼学院の生徒達が動きそうな条件自体もしっかり把握していることが分かる。
まあ収入源に乏しい、もしくは時偶怪しいのが混ざっていたりする彼ら彼女らからすれば。
否、普通の学生としても一時でも給金が入るのは願ったりかなったりだろう。
ムウすらここで頷いている事からもお金の魔力が良く分かる。
「こちらに関してはすぐ案内を配っちまいます! それそれそれっと!!!」
言いながら担任は笑顔で紙束を取り出すと、ほとんど手裏剣よろしく机目がけてシュカカカカッ と投げて突き刺していく。
時間が惜しいとばかりの力技の早業だ。
もちろんムウの前にも案内は配られて(突き刺さって)おり、両手で端を握りそっと抜いてから中身を確認し始める。
「……ん……」
書いてあった彼女の “魔剣士協会のお仕事体験”の実習先、それは―――オーレスト支部。
それはこの学院がある皇国の首都に当たる、ある意味では1番活気があり、1番問題も多かろう場所に構えている支部であり。
「うっそチビちゃん! これ千刃とこの近くじゃん!」
「マジかよ早速ケンカ売れんじゃね!」
「舐められんなよ? むしろぶっ殺してこいや!!」
「魔剣士協会のお仕事という事を忘れやがらないで下さいねぇ!」
「またクソやかましぃ!?」
「ん……」
大五聖祭でとんでもない問題を起こしたうちの1人である
なんとまあ、これまた中々に、波乱の予感が漂っていそうだ……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――みなと別れて目的地へ向かって、少し経ち。
「……ここ、だ」
シドーの時と同じく、自身の身体能力やスタミナにものを言わせて、その上で人目に付かないよう【眼】を用いてでも注意しながら。
静かに疾走すること暫し……ムウは特に何事もなく、魔剣士協会・オーレスト支部へとまだまだ日の高い内にたどり着いていた。
皇国の都ではあるものの、彼女自身はその辺りにとんと興味が無いのか、ここまで多少入り組んだ道をすいすいストレートに進んで来ていたりする。
以前「寄り道」も良い物だと言われこそしたが、そのタイミングを見計らう事ぐらいは、例え今の彼女が複雑な状態であっても割かし問題なくやれるらしかった。
(紹介状、と、人狼学院の、マーク、大事、なもの……)
お仕事体験に欠かせない物品を再度チェックし直し、担任から教えられた『関係者用入り口』の方に回って、案内にも書いてある “特徴的なノック” で扉を軽く打ち鳴らす。
そして待つこと数秒。
ゆっくりと扉が開いていき。
「いらっしゃいませ! 本日はどんなご用件です……かっ?」
すっごく見覚えのあるクリーム色の髪が見えた。
「ク、ノン……」
「どうしてムウちゃん!?」
裏路地にそんな声が響き渡った。
…………数分後。
「そっかぁ、人狼学院の生徒さんが来るって支部長さんが言ってたけど、ムウちゃんだったんだ」
「ん!」
「まさかの知り合いだったとはな。毎年恒例な人狼の研修でちょいと褌締め直してたが……何だ、思ってたより素直そうで安心したぜ」
「…………」(ぺこり)
中に入れてもらったムウはクノン、そしてグラサンにスキンヘッド強面にこれまたマッチョというすこぶる濃い人物・《ボンズ=ダールトン》と共にテーブルにつき。
確認事項に目を通すのを含め、改めてお仕事体験についての話を交わしていた。
「でも
「まさか、もっと居るぜ? ただこの支部は人が足りてる上で、今回はとある筋からの依頼で『ボランティア』が3人ばかり入ってんだ。おまけに色々問題あってよ、だから
「…………」
実質的な強制ボランティアは避けましょうね! などと言った担任の案内の後、日も跨がずマジでボランティアする人達の事を知るこの奇妙な偶然。
当然ながら、そんな可能性をツユほども浮かべていなかった、というか他の事で割といっぱいだったムウはこれまた複雑な心境となったのか、ちょっぴりだけ眉を下げている。
……初っ端からもう、他人事とは言え雲行きが怪しいのはもはや恒例行事なのだろうか。
「とにもかくにも研修は研修、そんで報酬ありなんだ。手抜きしたら承知しねえぜお嬢ちゃん?」
「ん!」
「いいやる気だな! 良い返事だ! 向こうが熱持って推すほどの実力、楽しみにしてるぜ!」
凶悪な顔を笑いで歪め、豪快に笑いだすボンズ。
と、そんな彼は頭をぽりぽりとかきつつ、今度はクノンの方へと顔を向けた。
「しっかしどうするか。手伝いに来てくれたクノンの嬢ちゃんと知り合いなら任せたい所でもあるが……この手の研修は俺の手引きも必要なんだよなぁ」
「大丈夫ですよ、ボンズさん。私、自慢じゃないですが受付としては最低限任せても安心って言われるぐらいで……」
「いや、それは知ってんだ。問題はそっちじゃねえ……」
すっごく言い辛そうにしながらも、ボンズは一度口をつぐみ、溜息を吐いてから覚悟を決めたように口を開く。
「……ボランティア任せてきた奴がその3人に付いて“見慣れん奴”としか言って無くてな。つまり何も分からん」
「えっ?」
「言っとくがマジだ、しかも連絡し直しても繋がらん」
「……え、えぇ……?」
「…………」
「うおっ! お嬢ちゃんの眼が心底ダメな奴を見る眼に!」
「うわ以前ぶりだぁ……」
ともかくその3人組が来ないと話にならないのだが、さりとていつ来るかも分からない3人組を待つわけにもいかず。
折衷案としてボンズは仕事の方を優先して1つの提案をだした。
「取りあえず動く、だ! 害獣とそして魔獣退治2つの依頼を受けて貰う。どっちか片方を達成した時点でも良い、裏口からまたこっちに戻ってきて空いてる方に話しかけてくれよ」
「了、解、し、ました」
「いやここで喋るのか!?」
「ええ、ムウちゃん意外と不意打ちするんです」
そんな紆余曲折を挟みながらもボンズは依頼書を複数枚取り出し、それを慣れた手つきでクノンが精査。搾った内から2枚ほど取り出してサインを記し、ムウに手渡した。
内容は最大サイズでも中型なタイプの獣たちであり、しかして畑荒らしや都民への襲撃など無視できぬ被害をもたらしている事が描かれている。
小さく注意事項、特記事項、大雑把な情報も記されているそれをムウは握り、クノンの顔を見やる。
「それじゃあ後はボンズさんの言う通りに……ムウちゃんなら大丈夫だと思うけど、気を付けてね」
「ん……」
「いってらっしゃい!」
「ん!」
そうしてクノンに見送られながら、ムウはいつもの剣を背に負い、関係者用の出入り口から早速仕事へと出かけたのであった。
―――それから約十数分後に。
【受付】と書かれたカウンターの前で待機するクノンの目の前に。
「すみませぇーん……」
「はい、ご用件は―――あっ!?」
「な、なんでしょう……?」
「あなた達は……!」
あるとんでもない3人が現れたことが、ここからどう影響していくのか。
「アレンさんにローズさん、リア=ヴェステリア様ですよね!?」
「え……俺の事も知ってるんですか?」
それはまだ、誰にも分からない。
まだまだすれ違います。