刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~ 作:阿久間嬉嬉(新)
・ある筋の偉い人 ←心底ダメな人を見る眼
最高記録が更新されました。
ちなみに原作既読の方は誰なのかご存じでしょう、アレンと同陣営のあの人です。
恐らくムウは初見で即「こいつか」って看破すると思います。
……それでは本編をどうぞ。
“お仕事体験” に出かけたムウが1つめに選んだ依頼、それは『害獣駆除』の方であった。
害獣とは野性に住まう熊やアナグマ、狼や猪やネズミ、鹿や大型猛禽類といった動物達の中でも、特に人に害をなす可能性が高い種の総称。
常日頃より勇んで狩猟する必要自体はないので依頼の期限こそ長いが、この世界では現代よりも自然が多くまた霊力の存在から動物達もより一層たくましい為、定期的な駆除が必要になる。
(肉食、寄り雑食、と……魔獣も、だ、けど……)
そして先に出たもう一つの区分、魔獣とはそのものずばり
ゴブリンやオーガ、オークなどが代表例に挙がり、どこかの誰かが造って放置しさらに嫌な偶然が重なったせいで自然種として増えたキマイラすらも存在している。
また積極的に人を害する種も割かしいるので害獣よりも相対的に依頼数が多く期限も早め、他の仕事も多い聖騎士では手が届かない場所も少なくないため魔剣士協会に仕事が舞い込むらしい。
(……ゾール森林、横、の……)
進みながら考え事をするムウの顔は……まあ元々から分かり辛いが大した気負いは見られなかった。
なにより害獣にせよ魔獣にせよ、ムウにとって大した敵ではないのもある。元より直近も直近で孤児院に紛れ込んで来た魔獣を狩った経験すら、実はある。
ゆえに“魔剣士お仕事体験” 自体は特段、苦も無くこなせると言って良いだろう。
では……どっちもどっちであるのなら、害獣駆除を先に選んだ理由は何なのか?
それは一重に『実戦を利用した剣術の修行』をしようと考えたためである。
ムウは現在、改造される元々の身体だった頃、および1回目の異世界転移場所である尖塔群については、詳細な想い出そのものは掠れ続けており、現状回復の兆しも無い。
されども “数世紀をまたぎ続けさせられた闘争と逃走の経験” そのものは体に、それこそ記録の如く確りと刻み込まれている状態でもあった。
数多の『
幸い害獣も魔獣もそれらの強い意志や感情には事欠かない。
目論見通り、加えて今までの様に、経験を引っ張り出して半ば無意識で行使することはできるだろう。
今まではほぼ受け身主体だったが今度は自らやる、それこそがムウのプランだ。
そして慣れぬ反復作で己を測る前提のプラン、難易度も低く不確定要素も少ない方を選ぶのが道理、とくれば……なるほど、確かに選ぶべきはリアル寄りに近しい害獣の方と言える。
「……ハー…」
ボンズお手製らしい地図に記された害獣の巡回ポイント、その内の1つの最東端付近にきたムウは徐に立ち止まり、自ら【眼】を起動させて周囲を探りだす。
何度も出ているムウのこの【眼】。
これは相手を測定し判定し情報を算出するだけでなく、実は元々持っている気配感知と趣を異にする、1種のレーダーとしての役割も備えている。
そムウのこの世界での最初の戦い、孤児院を襲撃した強盗事件の際 “援軍無し” と即判断できていたのはこれがあったからだ。
ただし属する種や大雑把な《状態》及び《強度》、返ってくる《波長》は分かってもそこ以外は不明なまま。なので、特定個人や目的個体を見つけるにはもっと近寄らねばならない。
とは言えど《波長》さえ知っているのなら個体や個人を見分ける事自体は可能なのだが……。
「(……北方、否。東方、否。西方、否。人、が3。南方、是)……ん」
しかし今回の依頼のようなシチュエーションでは、単に種類だけを見分ければ済む話なので、その大雑把さでも不明だらけでも十分以上に役立つ。
最東端から更に南下した辺り、そこにお目当ての反応を見つけたらしいムウ。向かってから数分と経たず辿り着き、次いでサッ… と樹の影へ身を隠した。
彼女の視線の先には、狼にも似た大型の猛獣が数匹。
依頼書の絵図と一致するその獣達は、正に今回の『害獣駆除』のターゲットであった。
曰く――。
「家畜が何度も被害に合っている上で大怪我人まで出た。これ以上取り返しがつかない事態と化す前に何とかして欲しい」
――との事で、どうも味や確実性を憶えてしまっていると推測され、駆除しなければずっと被害が続くのは眼に見える。
(……観測完了……付近、に、同種・同族、反応、有り……)
野生動物だから《波長》などが似通いやすいのか、ムウは眼前の群れと同じグループの個体だろう猛獣たちもばっちりとサーチしていた。
ここまで来たならば、後は個人的目的の達成を目指しつつ……全て狩るのみ。
風下だからなのか幸いにしてまだ嗅覚で発見されてはいないようで、ムウには初手の『技』を選択する若干の猶予がある。
(荒天流、否、魔獣へ、持ち、越す)
対人に傾いている流派、その技1つもあやふやで初歩の流れも怪しいゆえNG。
(我流、否、それ、は、基底)
本家大本、自分が元々やっているものは、やろうとせずともそうなるのでNG。
「(いちのたち、と、はちのたち、なぞのたち……)……」
ならば答えは1つ。
剣術と言うにはあまりにも魔法のようなアレン=ロードルの剣技だけ。
手早い先制攻撃や中距離からの射撃が可能な<
囲まれても容易に防御や突破ができる<
逃げる際にも場に留める際にも有用だろう<
便利なこれらを駆使して場を整えてから、改めて荒天流などを試す方が良かろう。シチュエーションや相手が違うならいざ知らず、初手で流れを引き込むならこれに以上適した札は無い。
「…………」
そうと決まれば早速、とばかりにムウは背の柄へ手を添えて。
「いちの……た、ち…………」
どういうことだろう? 滑らかに動き出した筈なのに、嘘のようにピタッと止まってしまった。
(たち……これ、は、
――それは、不意によぎった疑問ゆえ。
以前から散々記され、実体験をいくつも得ている通り、ムウには『剣をはじめとした武装を上手く扱えない』ほぼ呪いのような機能が備わってしまっている。
それこそ荒天流で苦戦していたように、腕力による爆風起こしで似せてごまかす事は可能だが、同じ原理で振るおうとすると指向性の風を起こせるか否か以前となるなのだ。
元より剣術は流派ごとの細かい理念、小目的などあっても【刀剣を上手く扱う為の術理】だ。
だからそもそも上手く扱えないのが大前提なムウでは現状、どうあっても虚しい結果に終わってしまう。
可能なのは元の戦闘技術をベースにして振り回すことだけ。
武器を扱うためのモノでは決して無い……と言うか今までのを見る限り、得意な動作や沁みついた動きに合わせて、手に『引っけてある道具』をぶち当てているだけ。
周囲の道具を交えて戦うという面では巧いのだが、刀剣として見た場合まったく上手く扱ってなどいない。
“戦い” という面だけで見ればムウは随所で的確な判断を下している。
……じゃあそれがそもそも剣を扱うことを主眼に置いているのかと言えば圧倒的に「NO」。
こと体捌きにおいては《剣をどこかで使用する事》がある種の縛りになっており、以前にもそう称されていたように枷となっている面すらある。
それほどまでに【ムウ】と【武器】の相性は悪い。
――ならば、何故アレン=ロードルの剣技はすんなり盗み、真似ができた?――
そう、そこだ。
剣術を学ぼうと考え続けていたのもあり、ここに来るまでスルーしていた僅かな違和感である、そこが強烈に引っかかってしまったのだ。
「ゥヴォウッ!!」
「ヴォオォォ~~~ッ……!」
「!」
体をさらしたまま硬直しているのを一瞬忘れてしまうほどに。
まず1頭が鋭く鳴き、違う1頭が遠吠えで仲間を呼ぶ。
<飛影>を撃ち出そうとした直前の格好で固まっているムウは次の動作を取れそうになく、加えて猛獣達はすでに連携し時間差攻撃を図ってすらいる。
攻撃を中断した側と、もう実行したも同然の側、最早1発もらうのはほぼ確定している状態。
気のせいか笑みを浮かべるように唸りながら、ちっぽけな餌にありつこうと牙をむく。
「ホ……ッ」
その牙は、見事なまでに空を切った。
……なんとまあデタラメなことにムウはやや振りかぶった体勢を維持し、
下半身と上半身が別の生き物か何かなのか、そう言われんばかりな超常的アクション。
地味に足形ができているためかなりの威力で蹴ったのが伺えた。
「いちのたち・ひえい」
同時に上空からまず1発。
バッ! と放たれた斬撃が初手で1頭を断ち割り、仕留める。
しかし後は落ちて来るだけだ、と言わんばかりにまだ多くいる猛獣達が殺到して。
「ひえい」
ムウは落ち切る前に空中から斜め下へもう1発……否、同時に5発。その全てが狼のような猛獣達を正確に捉え、斬った。
それでも偶然なのか逃れた2頭は勢いそのまま飛び掛かる、のだが眼前に現れた<朧月>の歪みに触れ、斬られながら弾き飛ばされる。先ほどはどうも2回振っていたらしく、その際にやや離れた位置へ置いていたのだろう。
「グルルルルルゥ……」
このままでは分が悪いと悟った様子の残る3頭は様子見に入り、仲間が来るまで待つか、このまま尻尾を巻いて逃げるか、どうしようかと悩んでいる風に見える。
「フ……ッ」
当然そんな様子見に修行目的のムウが付き合うわけもなく、躊躇なしに3頭へ突撃。
残像ができるほど機敏なステップで反応を鈍らせ、瞬間的に右方の1匹の更に横へ陣取った。
「もうが・はやて」
今度は横っ腹を殴り上げるスイングと重ねる形で荒天流、その見様見真似をくり出してみる……ものの。
「ギャイン!?」
「……違、う」
今朝よりは多少マシだっただけでやっぱりごまかし爆風と化す。
どうやら成功にしろ失敗にしろ、吹っ飛ばすこと自体が目的だったか動きの繋ぎは滑らかなのだが、表情は微妙に芳しくない。
追って跳んだムウは、体操選手よろしく回転しつつ体を捻って向きを変えながら、追い越し。
次いで振り降ろす形で再び<飛影>。……こちらは先の通り普通に撃ち出せた。
しかもそれだけにあらず、剣の尖端に引っ掛けた物をぶん投げるように放ったからか、斬り抜けてから途中でカーブしもう1匹すら切断してみせる。
そのままストッ… と着地。
「ヴォウ……!?」
害獣すらも驚く妙技。
武器を扱えない筈が発案者よりも使いこなして見えるのは、気のせいか否か。
一応、振り方自体はアレンの方がずっと
ムウのそれはどちらかというと、斬撃を飛ばすその為にぶん回している様相。10人に聞いたとて10人がアレンの方を剣術だと呼ぶ有様。
……ツッコむべきは見え方では無く内容だろう、と言うのは置いておこう。
「狂い、無く、できる……」
元より本題は『使用可能か否か』『どうして使用できるのか』と言う点。これに関してはムウもまだ答えが出せないのか、やや離れた左方の猛獣ほったらかしで手元を見つめていた。
遠間から仲間のものらしき足音や僅かな鳴き声も聞こえる。
“チャンスだ”。どうもそう捉えた猛獣は周囲をめぐり、視界を切って惑わせるように走りだす。
「ヤ」
それを裏拳をぶん回して出した<飛影>の偏差射撃により空中に浮かせ。
「フ……!」
勢いで1回転し放った右スピンキックからも<飛影>を撃ち出して。
さすがに剣では無いからか斬れず、けれども痛烈に打ち据えて吹き飛ばし、樹木に激突させ……間、髪をおかずに飛来した本家仕様<飛影>により綺麗に両断。
もう踏んだり蹴ったりであった。
「ヴォオオゥ…!」
「ヴァウッ!!」
「援軍、到来……思考、試行、開始」
続いてきた猛獣の群・第2波がどうなったのか。
それは語るまでもあるまい……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その後。
「…………」
敢えて時間がかかる様な立ち回りだったにもかかわらず、総合5分も経たずして終わった狩猟。
もとい、駆除の戦果として牙や爪、毛皮などを剥ぎ取りながら、ムウは思考を巡らせていた。
(己が、戦闘経験、を、基底、とすれば多少、は、可能……)
まずは学びだした荒天流に付いて。
先の通り、やはりと言うべきか比重を置く部分を変えれば、ムウの動作も異なってくる様子。
そして多少とは言え変化が見られた、つまりもう少しばかりヘルガの教えに近づけることが出来る……それが分かっただけでも彼女にとって大きな収穫だったろう。
しかし同時に進んですぐ《壁》に突き当たるだろう事も確かだ。
『受け身ではなく、自分から』。
だからこそムウはヘルガが教えてくれたこと、その全てを反芻し続け、少ししてからのそーっ と空を見やり。
「ワ……」
頭からまた一筋の湯気らしきものを立てていた。
アクセルの無い車でアクセルを踏み最高速を出せ、と言われ、機械的限界を歪められる人はさて何人居るのか。
ほぼ0から1を作れ、と言うほどではないが概念的かつ割と無茶をやろうとしている。
その上で今までは『日常』か、その残滓に引きずられる受け身かで、元々が削れに削れていたところへ詰め込もうとしているのだ。頭が働かなくても仕方ないかもしれない。
孤児院および人狼学院における勉学・成績とはわけが異なるのである。
「んん……」
森のど真ん中で呆然としかけていた迂闊な頭を戻すかのようにぶんぶんと横に振ったムウは、続いて『それではなぜアレン=ロードルの剣技は真似できたのか?』について考え始めた。
どれだけ特異でも剣術は剣術。
剣を扱う為の技術、それをもって放つ<数えの太刀>。それをどうしてムウは支障なく使用可能なのか。
……実の所、と言うか先の猛獣達とのとある一幕で恐らく勘付いた方も居るだろうが、ムウはある程度ながら察しがついていたりする。
(打突、での行使は、可能……つまり、剣術、では……ない……?)
要するに――剣“を”扱う術ではなく、剣“で”扱う術なのでは?
もっと言うのなら、アレンが剣でやっているだけで、技術としては剣が必須じゃあないのでは?
彼女はそう捉えているようだ。
と言うか、ふとそう捉えたからこそ先ほど拳や蹴りで<飛影>を放ってみたのだろう。
結果は言わずもがなだ。
(可能、しかして疑問……空間へ、の、影響……それを、剣で……否、重要、なの、は、影響の方……?)
そして。
どうもあの時のムウは引き戻して貰ったという状況と、自分の中に在った『出来る』と言う確信に従っただけで、剣か出した結果か
だからこそ今回初手で止まり、だからこそ試すことができ答えに辿り着いた。
(最も、得意、なもので、こそ影響を起こ、せし…向こう、の、条件は、それ……!)
ムウの辿り着いた仮説、そして答え。即ちこう言う事だろう。
―――その技は剣を用いて放たれている。
何故か? 創始者であるアレン=ロードルにとって1番得意な武器こそが剣だから。
それを用いて編み出したからこそ彼は剣で行使している。
そしてムウは【眼】をもって現象や技の仕組みの方を先に理解した。
現象を起こす方法、そこへ辿り着く手段の事を先に知った。
ただ……『自分の得意なものが1番良い』のは変わらないだけで。
アレン=ロードルにとってはそれが剣で、ゆえに太刀の名を付けた―――。
「そういう、こと……」
何という事は無い。
編み出したものが媒体として選んだ武器、それが剣であっただけ。
無論アレン本人としては剣を振るい、鍛えたその果てに至ったのだろう事は分かる。
偶々現象とその原理を先に読み解ける者が居たからこうなっているが、我流として歩んで来たゆえに選び、拓いた道なのは間違いないのだ。
けれども、今ムウにとって重要なのは、至った結果の方。
剣が必須ではないどころか剣でなくても可能なのだ……!
「……だから、使え、た」
ようやく合点がいったというようにぽん と手を叩くムウ。
この答えはアレンの技に付いての理解を深めるだけ、だから他には活かせず全くの無駄、という事はあるまい。視点を変えてみること、要素がどちらに掛かっているかということ、その天秤を知覚できたのは大きかろう。
「よ、し……」
荒天流の会得にも何か活かせないだろうか。
そんな風に考えているような、分かり辛くも確かに色を変えた表情でムウは立ち上がり、整備し終えて鞘に戻した剣を背に釣る。
まだ依頼は残っている。魔獣がいる。
「(試用、検討……)……ん」
プランを立てながら、再び励起し展開させた【眼】とレーダーで探りながら。
いくらか前向きになれたムウは、次なる目標に向けて歩き出した。
アレンの技についての見解はあくまで今作におけるもの、と留意し心得て下さい。