刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~ 作:阿久間嬉嬉(新)
ムウ「剣必須では無い技は使えると分かりました」
―――以上。
では本編をどうぞ。
ボンズに頼まれた次なる標的、依頼に記されし『魔獣』。
害獣よりも明確に1ランク上とされるその獣の名前は……マンティコア。
人の顔にも似た頭部、そしてをライオンの身体を持ち、3列並んだ歯で削り取る。
大きなトゲが生えた尾は槍にも、吹き矢のようにもなり、その上で毒を持つという厄介さ。
さらに図体に見合わず凄まじい身軽さ、足の速さを誇っている徹底ぶり。
上位ランクに位置付けされてもおかしくない、正しく魔を宿す猛獣。
「ガフォッ……」
「完、了」
――が、さらっと討伐されていた。
眼前の少女・ムウと出会ってから約1分と経たぬうちの出来事であった。
「…………」
ムウが視線を落した先の地面。
そこには巨大な
謎の残る紋様ではあるが当然ながら本当に謎の類では無く、ムウ自身がマンティコアとの戦いの際につけたものだ。
「トゲ、尻尾を……」
……まず目標数としても標的としてもたった1匹であったのでムウは2種交えて修行をすることに決め。
接近後、勢いを殺さぬまま直角に跳躍する離れ業を行い。
相手がそれを叩き、ミンチにしたと思い込んで気を取られている内に剣を抜刀。
眼下の四方向へ<飛影>、に見せかけた<
さらに足で空を蹴り、その蹴りでも<朧月>の設置と起動をほぼ同時に行い空中機動を実現。
気付き、追ってきたマンティコアは起動した先の4連<朧月>による『斬撃線』に弾かれ。
平行四辺形に近しい形がためか、奴をピンボールの如く跳ね飛ばして放り出す。
再びの空中ジャンプから勢いを乗せて<
今度は理念の『しなり』と『躍動』のみ考慮して剣は知らずで振り回し、先より指向性は上昇。
「……ん、次…」
下から潜り込んだ疾風が顎をカチあげ、悪あがきの尻尾は剣の先端に弾かれ、あとは<
……それが今回の戦闘の内訳である。
時間をかける気も無かったからか本当に早かった。
「剣である、と、その前提が、無ければ類似は、する……把握」
人を襲いまくっていたその末路としてあまりにもあっけなさすぎるマンティコア。
一方で、『剣を手にひっかけた状態』として荒天流の一部理念に沿い、行えばまだ多少マシになる事は知ったムウ。
剣術と言うより、爆風をどうにか滑り込ませられているだけに近いのは変わらず。
だがしかし先程の、自分の技に半分ほど乗せてみる、と試しと同じくヒントは得たのだろう事は分かった。
やはりヘルガの言う通り1つ1つ積み上げていくほかあるまい。
「剣士に、なれている、の、かな……」
アレンの剣はその内容こそ魔法だが、さりとて発案者である彼はまだちゃんと剣を使っていた。
だが前も記した通りムウは発動媒体として振り回しているに過ぎない。
そうしなければ使えない、と言うより使う前提で動くならそれこそが最適解になってしまうため致し方ないのだが……課題の解決はまだ先だろう。
ともかく大五聖祭で戦闘、精神、様々な面での反面教師を得たからなのか、剣士になりたいその気持ちがふとした時に強く沸くのが癖になっているようだ。
「……んん……」
ひとまず仕事の報告もある、ここで悩んでいても仕方が無い……そうとは分かっているムウは先の害獣達から得た戦果も改めて確認し、ゆっくりと立ち上がって帰路につき始める。
荷物が増えた分だけ足取りは重くなるはずだがそこは要所でド外れているムウだ、その歩く速さは大して変わらなかった。
流石に走る事はしないようだが。
そうして歩き出してから少し経ち……。
「……?」
ふと何かに気付いたようにムウは目線だけをよそへと傾ける。
恐らくは【眼】などを駆使して張っていたレーダー網、そこに何か気になる対象が引っかかったのか。
元々後は帰るだけ。
ゾール森林及び周辺の害獣や魔獣も、全種ムウにとって畏るるに足らぬ対象。
だから興味を優先したのだろう。
「ん……」
不意に木陰へ隠れて覗く先、凡そ百と数十メートル以上離れたその場所に、ムウの広げた探知に掛かった “気になる対象” がいた。
「…………」
その眼は瞬間的に、何処かダメな人を見る眼となったものの、すぐに元の無機質寄りへ戻る。
また視界内のその対象は黒髪で、どこにでもいそうな実に平々凡々な印象を醸し出してもいる。
……もうお分かりだろう、ムウの向けた視線の先に居る人物とは―――。
「これはゴブリンの足跡か……?」
――アレン=ロードルその人であった。
噂をすれば影が差す、ではないが彼が発案したらしき技を応用も含めて使いまくって居た折、起きたこの偶然の出会い。
もしもムウが普通の剣士であったなら、あるいはルートを変えていなければ起きなかっただろう、何重もの意味で一方的な再会。
つぶやきからして彼もまた獣……ゴブリンという事は魔獣退治に来たのだろうか。
「えぇ間違いないわ」
「まだ、新しい……近いよ」
彼の付近には大五聖祭に置いて【アレン】と化したアレンを押さえるべく飛び掛かった、リア=ヴェステリアとローズ=バレンシアも居る。
どうも魔獣の討伐に際しチームを組んで行動していると見える。
(……支部長、と、クノンの、発言……)
それでムウはピンときた。
ボンズが口にしていた、とある筋から依頼されたという『ボランティア目的で送る3人の見慣れない奴』、それこそが
「…………」
つまりとある筋とは千刃学院か?
この手の判断を下せるという事は学院の上役、最高でフェリスと同じ理事長だろうか?
ムウの詳細な考えは未だ伺えないものの概ねそんな感じに捉えていよう。
ただ。
(なら、ば……裏口、安定)
元よりムウ自身もたどたどしく話すのが限度、親しい者や会話の流れならともかく初見に近しい者たちと巧くコミュニケーションできる自信も無かろう。
それにアレンにはいくらかの視野の欠如が見られ、リアとローズはまだまだ不明な点が多いから考慮する以前の問題、とくれば変な勘違いから話がこじれていく想定も無視できない。
今はまだムウ側が先に発見して遠間から観察できているものの、何も知らないままであれば最悪帰りでばったり出会っていたはずだ。
(【眼】の、励起ローテーション、を、再構築)
が、ここで疑問。
そもそもどこで会おうが偶々出会った千刃と人狼の生徒でしかなく、クラスメイトの言とは違いムウも喧嘩を売る気などさらさらないので、大した問題など起きようが無い。
あるいは受付を代理しているクノンから話も聞こうが、ただの話題の1つでしかないため問題の“も”の字も含んではいない。
それにアレン達は悪い少年たちではない。それどころか剣術に対する向き合い方からしても、暴走状態だった【アレン】に跳びついた事からしても、むしろ良い子達の部類に入る。
ならばどうして避ける事をムウは選択しようとしているのか、と言うと……。
(なん、か、にがて)
これ以上ないぐらい個人的ものであった。
不意に人間らしい思考を浮かべるほどのものなのか。
もしかすると100年の牢獄の中で積み上げていたアレンを知っている事、そこまでして積み上げた人の技を簡単に盗ってしまった事、それを無意識的に申し訳なく思っているのかもしれない。
それか何かしらの嫌な予感でも覚えている可能性もあるが、どちらにせよ超個人的に会いたくないというのは変わらなかろう。
(不意の、遭遇、に、対する自己マニュアル、作成……でき、る?)
ただ絶対に嫌と言うわけでもないようだ。
本当に、最大限可能であるならば、出来得る限り避けたいというのがムウの願望らしかった。
捕捉するならムウ自身が他学院の生徒、かつ人狼学院というガラの悪い場所の出だというのも影響してはいるだろう。
こじれる要素があるのならそれを表に出させない。まあ、普通の事ではある。
――さてそんな個人的な事で頭を悩ませているムウの目線の先、そこに居る3人は足跡を辿り、ゴブリンの位置を割り出そうとしている真っ最中だ。
またムウは既にゴブリンが7匹ほど、ここから1~2分足らずで付く果樹の近くでたむろしている事も【眼】で知っている。
なので監視続行自体は容易。
しかしてこれ以上監視する必要性はそもそも皆無。
(あの、剣技……仔細、理解して、けど、まだ目視、1回……)
ただ現象こそ理解してもアレン=ロードルの技については実物に未だ興味があったのか。
最終的にムウは監視を続行することにしたらしく、100メートル超の距離を保って尾行し始めた。
何の装備も無い中、普通これだけ離れていれば聞こえる話も聞こえない。
しかしムウは違う。
アレン達の声はばっちり耳に届いているし、それどころか表情もちゃんと見えているし、なにより【眼】により周囲も確認できている。
第1の異世界・尖塔群の技術よいかほどか、改めて知るほどに高スペックであった。
まあ……知らぬ間に性別はおろか種族すら芯まで変じる改造をされてしまった
「! (接敵……)」
先に並べた目測の通り、アレン達は2分ほどでゴブリンの群れを発見する。
緑色の体表に100センチほどの体長、見合わぬ筋肉質さに頭部の小さな角、そして腰の木のこん棒。見かけは御伽噺にも出て来るゴブリンそのままだ。
「セオリーなら不意打ちで一気に仕留めたい……ところだけど、な?」
「まあね……今回の目的は、討伐よりも修業よ」
「油断しなければこちらの敵じゃない、真っ向から戦おう」
次いで聞こえるアレン達の会話。
ボンズはボランティアと言っていたがどうやらそれだけが理由では無いらしく、彼らも彼らで修行を1つの目的として依頼を受けた、あるいは受ける事を進められたのだと分かる。
真面目に目的をもって、必要性にかられたその脇でやっている訳ではない勤勉さ。人狼学院という馬鹿どもの巣窟が用意した特別単位のついでであるムウはちょっと申し訳ない顔をした。
「準備は良いな」
ムウに見られているとはつゆ知らず。
アレンは2人へ確認を取ると同時にわざと近くの草むらを揺らし、まずはゴブリンたちに存在を知らせて。
狙い通り振り向いたゴブリンたちがけたたましい声をあげ、こん棒を振り回しながら7匹同時にアレン達へと駆け寄る。
正面から相手しても無難と思えよう、先ほどムウが相手した狼のような猛獣とは比べるべくもない雑さ。
初心者ならばいざ知らず、少し実力を見ただけのムウすらアレン達ならば楽勝だ、と理解できるほどにいい加減。
正に修行にはもってこい。
ひとまずリアとローズが後に続く気なのか構え。
「
アレンが牽制の1射を放つ。
(……?)
と、ここでどうしてかムウがわずかに訝しんだような表情を浮かべる。
果たして―――その<飛影>は綺麗にゴブリンを7匹とも瞬で両断せしめてみせた。
「…………」
「うそぉ……」
「……おい、アレン?」
これでは修行にならないだろう。それこそやらかした当のアレンすら何も試せていない。
ただ高威力かつ幅のある<飛影>を高速で撃ち出しただけ。
なるほど、ムウの表情の変化はこれを射出時点で察知した為だったのだ。
そもそも修行と言うのなら仕留めても1匹の筈、何故彼はそんなことをしてしまったのか?
アレンが弁解の為か口を開く。
「え、えーっと……ごめん、終わっちゃった……」
出てきたのは謝罪であった。
謝っているという事はもしや本人も意図せず放ったというのか。
つまり技単体の性質は兎も角、パワーやスピードなどは現在どの辺りなのか全く把握していないものを弱い技のつもりで、このゴブリン退治で初めて使ったのだろうか。
「…………」
ここで
「ななっ、何なの今の!? いつもの<飛影>じゃなかったよ!」
「もしかして新しい技を試した……?」
「いや、そのぉ……いつも通りに<飛影>を放ったのに……」
そして嫌な予感を恐らく確信に変えるだろう1言がほとばしった。
ローズの言、仲間に告げないどころか目的も決めた上で、それを無視して新しい技を放つという想定自体もおかしいのだが。
いつも通りに放っていたと本人が断言したのも大概おかしかった。まさかまさかで本当に把握していなかったのか。
されどもゴブリンは居なくなってしまった為、アレン達は対象の角を回収しその場を発つ。
「…………」
彼らの後を、少し呆然としながらもそのまま追いかけるムウ。
目的が目的だからなのか、はたまた何か心配になったのか、それは定かではない。
次なるアレン達の目標は『オーガ』。
その事をまたもや遠間から聞いていたムウは先回り。程なくして小川に辿り着き、3頭ほどのオーガを見つけた。
3mはあろう体躯に大振りな角、こん棒こそゴブリンとお揃いだがそのサイズ感はもはや丸太。
しかしどうして水場なのか?
と言うのもオーガはどうも周囲の地形や今来た道、自分達の縄張りを憶えられないぐらいバカらしく、それは水場を離れようものなら水不足で倒れてしまう可能性すらあるほど。
ゆえ水場から離れないとのこと。
……個の強さこそ備えているとはいえ種としてよく生き残れたものである。
(発見……接敵)
アレン達もボンズからきちんと教わっていたか、そこまで時間が経たない内に現れた。
話している内容をまとめると今度も、と言うか今度こそ正面から行くつもりで、ローズは
そしてリアは
最後のアレンもリアに倣ってストレートにガチンコをする算段、と方針を決めたところで最初にオーガの方が彼らに気付き、獲物だと吼え声を上げる。
3人ともそれぞれの流派の構え……アレンは我流のため正眼の構えを取り。
リアとローズは勇ましく突っ込んでいき、彼はそんな2人とは対照的にオーガの突進を待っていた。
筋肉の塊が躍動する。巨体が高速で肉薄してくる。
アレンは堂々迎え撃つ。刹那、衝突……。
「ゥヴォラアアァァー!!!」
「せいぁっ!!」
そしてオーガが吹き飛び、遥か遠方まで転がっていった。
見て分かる途轍もない差だ、正面からの力比べはアレンの圧勝と言えるだろう。
「…………はっ?」
なのにどうして驚愕で目を白黒させているのだろうか彼は。
「…………」
心なしか、どころではなくムウの眼に宿る色が濃くなったのと同時、リアとローズも順調にオーガを仕留めそこへアレンが近寄っていく。
「お疲れさま! 2人とも」
「ありがとう……でもなんかちょっと複雑な気持ち」
「アレン、いつの間にそこまで鍛えた……?」
「ここ何日かはずっと病院で寝ていたから体は寧ろ鈍っている筈だけど……」
さらっと明かされたが、流石にシドーとの戦いや【アレン】のやらかした無茶苦茶で、アレンもシドーよろしく入院していた様子。
2人もそれについて驚かないので周知の事実と見える。
そしてこの場を去る直前―――アレンが、どこか見覚えのある表情を浮かべた。
それは大五聖祭で自身の魂装を破られ、愕然としていた時のカインへ向けたもの、相手の反応の方に疑問を抱いていたそれと似ていて……。
(まさ、か、相手の方が、弱いお陰、と想定し、た……?)
知っているムウはそこに辿り着き内心で呆ける。
……ただ仮にムウの考察が正しいとして、いくらなんでもアレンは自己評価が低すぎるというものだ。
そもそもオーガ自体が遠くまで吹き飛んでいるのだ。
いかにオーガが弱い、もしくは何かで弱っていたとしても、体重や大雑把な手応えまで軽くなる訳ではない。
せめて自分が強いか相手が弱いか両方で考えるものではなかろうか……?
それこそ幼少期から己の全てを否定されまくる大分特殊な環境に居たのだろうか。
「…………」
もはやその眼の色を隠しもしなくなったムウは、言い方的にラストらしい『キマイラ』の討伐へ向かう3人の追跡を再開。
「……ん」
それは途中で切り上げこれまた先回りし、獣道を進んだ丘の上に寝転がるキマイラを発見。
強者の余裕という奴だろう。尻尾の蛇こそ片目を開けて索敵しているがライオンの頭部、そして胴体から生える山羊の頭部は呑気に睡眠をとっていた。
このキマイラはそれぞれの頭が独自の判断で動いて攻防を行う他、尻尾の蛇は麻痺毒も持っており、ゴブリンやオーガよりも手強さは間違いなく上と言える相手。
さらに外皮も硬く、もし近寄れても生半可な腕と剣では刃を通すことも敵わないと言われている。
幸いにしてアレン達は3人でそれぞれの頭部を受け持てるし、魂装を持つリアの存在が火力を底上げしている。アレンもこれまでに鑑みれば刃を通す事など簡単だろう。
彼らもまたシンプルに役割分担する作戦を立て、そうして始まったアレン達のキマイラ討伐。
それはアレンが2人を置き去りにして接近し紙裂くが如く<
「え……?」
「ちょっ、どういうことアレン!? なに今の威力!?」
「速すぎなかったか……!?」
「お、俺も驚いているところで……」
「…………」
ま た か
ムウの思考こそ停止していたが、思わず浮かべたその表情に言葉を付けるなら、これであった。
もうどれだけ自身のスペックを把握していないのか、あるいは直前のオーガの件よろしく大きく下に見誤りまくっているのか。
まあアレンはまだ自身の現段階の力を詳細に理解出来たから良いとして、先ほどからオーガ以外で他2人の修行になっていないではないか……。
アレンのズレた認識は、どうもムウが大五聖祭で見たもの以上に独特なものらしかった。
「…………」
そうして3度、頭から湯気なのか煙なのかよく分からないものを1筋上げながら。
結局、見たいものをあまり見れなかったことすらも思い浮かべられないまま。
ムウは遠間に居る3人を他所に、身体能力と【眼】の感知にものを言わせ、魔剣士協会オーレスト支部へと帰還するのであった。
「ム、ムウちゃん、とっても疲れてるね……?」
「…………ワァ……」
「湯気出しながら途轍もなくダメな人を見る眼してる!?」
「なんか、器用だなお嬢ちゃん……」
ちなみにちゃんと裏口から入ったので鉢合わせはしませんでしたとさ。
ステルス・ムウ回&アレンに対する評価見直し(見直すとは言ってない)回