刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~ 作:阿久間嬉嬉(新)
しれっと六式の月歩モドキを会得して空中での三次元的戦闘が可能になったムウ。
毎日投稿が途切れてしまいましたが、可能な限りスパンは開けず、毎日投稿もまた続けたいと思ってます。早めに剣王祭も書きたいので。
それでは本編をどうぞ。
修行に確認に記録更新(?)にと初っ端から色々詰め込む事となった“魔剣士お仕事体験”。
だがトンデモないスタートとは裏腹に、ムウのそれからのお仕事体験は比較的ではあるが無難に進んでいく。
まず、本来お仕事体験は学生であるゆえに宿屋を利用しづらい、と言う側面や自宅などからの往復期間なども加味して数日かかる想定で渡されている。
……そしてムウは受け取った当日に済ませた事、その上で泊まる場所を孤児院では無く、ボンズの勧めもありオーレストにあるクノンの借り部屋にしたのが大きかった。
臨時職員とは言え知り合いが組織のメンバーなのだからスムーズに報連相を行えるためだ。
受付業務もボンズと交代なので実質的にムウ専属と評しても過言ではなく、更にバックヤードで全て済ませてしまえるので効率も良い。
結果、酒場エリアに居る酔いどれ魔剣士達と会う確率は下げられ、ついでにアレン達との遭遇率も勿論下げられ、お仕事体験に一極集中可能な状況が出来上がっていたのである。
生徒達の活動状況の確認、および経過観察の為なのか、ヘルガが初日翌日から来訪してきたのもムウにとってはありがたかった点だろう。
ただ<
「ゴメンおまえなんなの?」
と何度目になるかも分からない疑問がヘルガの口から飛ばされたりしている。
彼女がそう言った理由は至極単純。
そんな同じ技の中身を機械みたいに細かく選別し、要素ごとに撃ち分け、しかも結果自体はだいたい同じにする……など早々出来るモノでは無い。
剣術と言っているのに “剣を握っていない前提で振るう” など、最早本当に何を言っているのか分からなかったに違いない。
さりとて彼女もまた教師。
視点をすっと変更すると『
更にそういう点で見るとなかなか
……なおその後「まあ一般所属者自体が少ねえんだけどな……」と何とも言えない顔で自虐が入ったのだが。
またムウの顔を見て「自分の剣を見つける事を大事にしましょう、だぜ」と口にし、何が何でも荒天流を会得しようとして視野を狭めるな、本質を見失うなよと彼女へアドバイスもくれていた。
ヘルガの助言を聞いたムウがゆっくりと、本当にゆっくりとうなずいたのは、さて何を意味していたのやら。
また教師だけでは手が足りないのか、2~3年の先輩も報酬や単位を貰う代わりとして後輩を見回りに来たりもしたのだ。
そして何の偶然か、来たのは入学試験の時から何かと縁のある3人の内の角刈りの巨漢・ダン=ギャンテス。
彼曰く担当する後輩は希望者の中から抽選、あるいは完全ランダムのどちらかで、中でもムウの所はかなりの希望者が集った為に倍率がとても高くなっていたとか。
なんでも強い1年に興味があるだの、叩き伏せてやりたいか鍛える名目か問わず闘いたいだの、成績面からして単純に面倒が少なそうだからだの、まあ色んな意味で人気だった事がダンから語られた。
……ムウが何とも言えない表情をしていたのは語るに及ぶまい。
尚、ダンも普通に戦いたがって挙手した側であった為、来るたびに刃を交えたのもまた言うまでもあるまい。
次いでアレン達の件。
ムウは個人的事情もあって避けており顔を合わせる事は無いのだが、臨時職員として派遣され事務や受付を担当しているクノンは当然違うので、彼女の伝手でちょいちょい話は聞いたりしていた。
どうやらムウが現地に置いてアレンに感じた『ダメな感じ』はここ数日でクノンも若干ながら覚えている様子。
……と言うのもまず魔剣士協会に集う者達は人狼学院に勝るとも劣らない荒くれが多いのだ。
幸いボンズがバリバリの武闘派なので絡んできた者たちは叩きのめされたか、クノンにダルがらみウザがらみする者はいないのだが、新入りであるアレン達は別。
ムウみたく裏からのみ出入りするならばともかく、表を利用するとなると魔剣士たちの接触は避けられない。
だからか初日はもちろん舐められて問題が起き、数日後も打ち解けはしたが寄った者達におっさん流の恋バナをされたり、何かと騒ぎの種は尽きなかった。
―――のだが『ダメな感じ』をクノンにすらおぼえさせた一幕は、なんと実は初日にある。
なんでもドレッドと言う魔剣士が酔った勢いでアレンに酒瓶をぶつけるなどして一触即発となり、ここまでは魔剣士側が悪かったのだ。
それにボンズを呼んで止めれば良いし、周囲にはリアとローズも居るし、サシで戦うにしても酔ったドレッドでは余程実力に差が無い限り引っ繰り返されて終わりである。
……そしてアレンはビンをぶつけられても平然としていたように見えて、余程頭に来ていたのか剣の柄に手をやり、殺気を放ってドレッドの酔いを強引に冷まさせて場を納めたのだ。
あまりにも重苦しい威圧。
酒場全体が嘘のように静まり返り、それどころか傍にいたリアやローズすらも怯えさせ。
クノンも思わずビクッとして向こうを覗き込み、そんなアレンの姿に「悪い人達では無いから落ち着いて」と駆け寄って言うべきか否か、彼女はボンズを連れて行くこと前提で真剣に思案した。
そこで知った。
自分が殺気を出していた事すらも分かっていなさそうな顔をして、「体調がすぐれないみたいだけど大丈夫?」という決定的な一言をリアへ口にしたのを。
カインとの戦いでムウが『ダメな人を見る眼』をしていたせいもありクノンもまた印象に残っていたのだが、逆に言うとそのせいで察しがついてしまったのだ。
“……いや、君のせいだよ?” と。
当然プライベートと業務は別なのでしっかりと切り替え、さも『今アレン達の来訪を知りました』みたいに応対したのだが……何とか平然と対応しようとした結果、大五聖祭で生まれたアレン達のちょっと厄介なファンみたいになってしまったと、クノンはムウに愚痴ったのだがそれは余談であろう。
ただ何もダメな事ばかりだった訳ではない。
この荒くれだらけな酒場の中で、華麗なる鉄拳を見せたボンズに並び、丁寧に応対してくれるクノンはアレン達の信頼をこれ以上ないぐらいに得ていたりもする。
年が近いというのもあるのだろう、ローズは「あの時彼女がいてくれたらもっとすんなり魔剣士登録や業務ができたかもな」と口にし、リアすら「可能ならクノンさんにずっと応対して欲しい」と遠回しに『ボンズさん恐い』と懇願し。
アレンも「魔剣士達の対応含めて真摯でありがたいです、とっても素敵だと思います」と何か口説いてるみたいな事を言いだすほどにはとても嬉しい対応の仕方だった様だ。
……ただしクノンはややムウ贔屓な面があり、リア達が何やら危惧していたのが杞憂に終わるぐらい、内心でも勘違いはせずあっさり流していたりはするのだが。
そもそもアレンも十中八九口説くつもりで言ったわけでは無いので、当事者はどっちもその気が無いのにリアとローズか勝手に焦っているという悲しい場面だったりするのは……おいておく。
それはそれとして、ボンズが腕が鈍るからと依頼書の精査を担当した際、ちょっとした世間話で―――。
「私の妹みたいな子がアレンさんの技の真似をしてるんですよ? 一の太刀、飛影! って」
「お、俺の真似とか、なんか気恥ずかしいな……」
「我流だからってバカにせず、アレンの事を分かってくれる子もいるってことじゃない!」
「うむ、そうだぞ。小さい子は正直なんだ、もっと胸を張ってやれ」
―――と 間接的にムウの話を出していたりと、それなりに信を置ける仲となっていたりするのである。
ちなみに。
アレンは「自分の真似をして素振りをしている少女」捉え、リアとローズは「アレンの技の真似をして遊んでいる少女」と捉えているのだが。
ご存じのとおり実際は【盗み取って自分のものにした挙句に本人も使っていない・使えない応用を撃ちまくって魔獣を倒している】と言うとんでもないすれ違いが起きていたりする。
まあ、それはまたの話としておこう……。
……紆余曲折様々あり。
そんな風に多くのイベント(?)や“魔剣士お仕事体験”での依頼をこなしつつ、早1週間弱の時が過ぎた。
「ムウちゃん、今日もお疲れ様でした」
「ん!」
「良い返事だね! とは言ってもまあ、まだまだ日は高いんだけど……」
苦笑い半分、しかして嬉しさ半分な顔をしながらクノンは依頼書にサインをし、ムウの返答を見て満足そうにガッツポーズをする。
そんな彼女らを見ながらボンズが若干ながら感心したような、どこか呆けているような声音で呟く。
「小さいナリして本当に強ぇなぁ嬢ちゃんは……てか早ぇんだよな」
「ええ、ムウちゃんってすっごく足が速いんですよ? 普通なら1時間かかる道が5分かからずな事もありましたし」
「速すぎるな!? それでいてパワーもあるとか凄まじく将来有望だぜ……!」
「うぃーっ」
「え……それ、ロックなハンドサイン……ねえどこで覚えたの?」
「…………」
「ムウちゃん!?」
「アレン達も居ねえからで手放せねえあの時だろうな。ドレッドめ、何仕込んでやがる」
アレンと初日でもめ事を起こした剣士・ドレッドは何かとこの酒場で良くも悪くも中心人物になりやすいもので、今ボンズが口にした件でも喧嘩をしていたらしい。
それを諫めた、もとい物理的にぶん投げて治めたのがムウ。
以降、何かとマジになりがち(ドレッドたち目線)なアレンよりも付き合いやすいのか、彼女のことも何かと親戚のおじさんみたいに気にしてくれては居た……ものの、その勢いで中々にロッカーな事を教えた様子。
それでもムウは約束なのか守って黙ってはいたが。
あっさり答えに辿り着かれ、クノンは愕然としており、ボンズは笑顔を浮かべて拳を鳴らしていた。
……哀れドレッド。
「それはそれとしてだ!」
後で雷を落すことを決めたような顔をしつつ、ボンズはバン! と大きく手を叩く。
「クノンの嬢ちゃん、ムウの嬢ちゃんの人狼学院の特別単位用実習、あと少しだよな?」
「ええ、今朝ヘルガさんに残り数日ぐらいだから忘れるなよ、と言われたので……」
「じゃあ今渡しとくか」
言いながらボンズがサッと出してきたのは、何かのチケット束。そして3万ゴルド。
唐突な金品と金銭にムウとクノンが顔を見合わせるのに構わずボンズは続けた。
「明日は『大同商祭』ってでけぇ祭りがドレスティアで開かれる。ムウの嬢ちゃんの討伐依頼も双方経由する特殊な奴で今朝の1件の続きをやる筈だろ。だから有給代わりと報酬だ、そこで遊んでこい」
「えっ!? で、でもお仕事が」
「ん」
「あ そ ん で こ い 」
「「はい」」
ボンズ曰く、おまえらはあまりにも勤勉に働きすぎ、修行目的で動きすぎだ、まだ若いんだから遊べ! とのこと。
あまりの迫力にムウと剣術以外では生来そこまで押しが強くないクノンと、そもそも受け身が沁みついているムウは思わず了承。
ボンズはそれで良い! と満足そうに笑い、続いてチケットの話に移る。
「つってもやっぱお前さん達じゃ気にしちまうだろうからな、そのチケットは魔剣士協会の出し物に関わるちょっとしたもんだ。届けてやってくれよ」
「は、はい!」
頷いてクノンは受け取り、それを嬉し気に見届けた後、ボンズは3万ゴルドを握ったまま立ちすくんでいるムウに目線を合わせるため屈んだ。
「だからこれは護衛依頼でもあるぜ。嬢ちゃんよ、ウチの臨時受付嬢、おまえさんの親友であり姉貴分、ちゃんと守ってくれよ」
「ん!」
「はははっ! 相変わらず良い返事だ!」
力強くうなずいたムウにこれまた嬉しそうな反応を見せるボンズ。
こうしてムウ達はひとまずのお休みを得る事となった。
なお向かうための準備中。
そこにはアレン達も向かうと知り、ムウが複雑そうな顔をしたり、クノンがそこまで苦手なの? と聞いたり、出発前から色々あったのは……これまた別の話である。
―――『大同商祭』当日。
ドレスティア中央、通称“神様通り”。
「ひ、人がいっぱいだねぇ……!」
「ワ……」
人酔いしそうなほどの雑踏を前に、眼を回しそうになっているクノンと、驚いているのか違うのか分かり辛いある意味いつも通りなムウがいた。
『ムウがクノンをおんぶして走る』という力技な突破方であっと言う間に街に着いたからか仮宿のチェックインも早く、クノンのお使い的なお仕事もムウの依頼後半もこれまたあっという間に終わってしまい、その日は無難に終わって。
けれども準備中であってもそこまで人影は見られなかったからか、2人は気負わず覚悟もせずにすやすやと就寝したのだ。
……そして次の日、即ち当日。
クノンはチュニックとロングスカート、ムウはいつものテックウェアと言う私服に着替え、通りに出て見らば居るわ居るわな人の群れ。
あっちこっちでごった返しまくり、並べられた露店は途切れる所を知らず、様々な食事の匂いが四方八方から漂ってくる。
これぞ『 祭り 』と言った雰囲気が通りを一杯に満たしていた。
しかもこの祭り、3日間にわたって行われる。
この大騒ぎが更に発展し、3日後には最高潮になるなど、考えるだけでめまいがしよう。
さあ、食べ歩くも景品を狙うも思い出を作るも、何をするにも自由。ルールを守って無礼講……であるはずなのだが。
「遊ぶって言われても、どうしたらいいのかな……」
「…………」
片や孤児院の手伝いから魔剣士協会受付から何から色々と働きづめだった少女。
片や来歴があまりにも特殊過ぎる上で最近なんとか能動的になり出した少女。
遊ぶと言われてピンとくることが何もないという異常事態。
さりとてボンズの勧めを初っ端から放る訳にもいかず、2人して固まってしまっていた。
「と、とりあえず何か、食べる? 朝ごはんまだだし」
「……ん」
何とか絞り出したのが祭り優先で食べ損ねていた食事の代わりという妥協案。
と言うか固まっていたという事は……つまり祭りに来ることこそ優先したが、露店で食事を取るという発想が二人の中には無かったという事になる。
……本当に良いのか、君たちはそれで。
―――そこから数分後。
現代と比べると麺が乱雑で焼きそば。
タコ焼き、のような中身が全く異なる何か。
シンプル腸詰め肉のグリル。
イカに似た軟体海産物の丸焼き。
牛串焼き。
2人ともよく食べる方なのか、そこそこの数を買って食べていると言うのに、歩みは変わらず表情も余裕だ。
そして食べ続けている内にどうも気分が乗ってきたらしい。
食事ではない、景品などが並べられたとある店をクノンは指さした。
「あそこの……何だろ? やってみようか!」
「うぃー」
「ムウちゃん、それはだめ」
「や!」
「だーめ!!」
なんにせよ、興味を持つというか立ちながらもやっとこ遊ぶ気になったようで、そんなやり取りを交わしながら射的屋に寄る。
射的と言っても弓を撃つタイプらしく、商品を取られたくないからなのか仕掛けも中々本格的だ。
「お姉ちゃんといっしょかー? うちの射的は甘くないぞ?」
「ふふふ、私って実は弓意外といけるんですよ? ムウちゃんも身体能力抜群で!」
「…………」
「はっはっは! そいつは見ものだな! どっちが多く取れるかな?」
「そう言われたらやるっきゃないね。勝負しよ!」
「……………ん……」
2人ともに矢を手に持ち、弓につがえて射的開始。
そして見事な結果になった。
ムウの矢が全て外れてるのに全て凄まじい威力で突き刺さるという結果が。
「じ、嬢ちゃん。確かにすげぇけどよ……ベクトルが違くね?」
台の横に刺さる。
傍にある鉄の台に刺さる。
ついでに舗装された地面にも刺さる。
――ーいったいどうなっているのだろうこれは。
こんな事になるぐらい弦を張ったかぁ? と疑問符を浮かべている店主の横で、クノンが恐る恐るムウに聞く。
「ムウちゃん……剣、上手く使えないのは知ってるけど、まさか……弓も?」
「ん」
「……ごめんね?」
「いい、よ」
「ありがと……でも、ほんとにごめんね」
プチ事実発覚。
とは言えど、まあ冷静に考えてみれば、武器が上手く使えない呪い的機能が剣だけにかかる訳も無し。
弓矢も威力こそ物品を超えたものとなる反面、一切狙いが付けられないらしかった。
店主やクノンの方には飛ばず、ちゃんと前方と呼べる範囲にだけ刺さっているのが剣で言う「フルスイングや一部動作だけは何か整っている」と似た現象と見える。
されどもムウは散々であったものの、クノンの方は自信に違わず全矢命中。
欲しい景品をいくつか手に入れたので、総合でとんとんだろう。
地味に拳版<飛影>などは使っていないあたりその辺の分別はムウにもある様子。もしくは、クノンが近くに居るのでしたくなかったのかもしれない。
「まいどあり! またな!」
最終的には笑顔で見送ってくれた店主の声を背に、ムウとクノンは歩きだす。
とんでもない結果にこそなってとは言えど、ムウはやや分かり辛いので確定は出来ないものの、それでも楽しかったのは事実。
この調子で遊んでみよう、とクノンとムウは次なる屋台を探し出す。
こうして……偶のお休み。
ドレティアでの大同商祭・初日はつつがなく、そして楽しく終わるのだった。
―――本来ならば。
「…………」
「ムウちゃん?」
……そうなれば、どれだけ良かっただろう。
(感知……測定、査定……完了)
「大丈夫? 人酔いしたならちょっとベンチで……」
ムウは察する。
唐突によぎったピリ付く気配に思わず【眼】を励起させたことで。
(類似、算出……これは……)
読心は出来ずとも、それ以外を情報として読み取った事で。
(……邪心、だ)
この祭りに潜む―――裏を知る。
「ここ、に、居て……」
「え?」
「……フ……ゥ」
「あ、待ってムウちゃん!?」
ここ数日で積み上げてきた技を。
振るう羽目となることを、予感したままに。
(阻止、を、前提に……)
『日常』を目にしたまま、しかして呑まれぬようにと前を見据えて。
―――疾走を、開始する。
原作のとある事件を察しました。