刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~   作:阿久間嬉嬉(新)

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変化に負けて調子を崩し、なんとか戻ってもその影響でエンジンがかからず、さらには寝不足がたたりここまでかかってしまいました……本当に申し訳ありません。

なんとか書き上がりましたので本編をどうぞ。


転換の追風(おいて)

 ――数多気付いていて尚ムウが強襲を選択した理由。

 

 

 当人がまだ気付かぬものを除く(・・・・・・・・・・・・・・)前提ありきではあるが。

 それには、一重に自身を取り巻く環境と『孤児院のヒーローでありたい』と言う願いが関係している。

 

 

 

 まず、大同商館および五豪商とムウは何の関係もない。彼らとの縁など当然ある訳が無い。

 

 ただ厳密には “ある” とは言える。

 以前シドー経由でちょっとした縁を結んだ、氷王学院理事長・フェリス=ドーラハイン。……彼女の姉が、正に五豪商が内1人なのだ。しかしムウ自身がそれを知らない、知らないのだからその情報を頼りようが無い。

 

 先にも言った通り【眼】はあくまで周辺の情報を取得し対象の情報を測定するもの。相手の思考や感情、目的や繋がり、ましてや家族構成を読み取れるような万能さは欠片も持ち得ないのだ。

 

 

 また『物品』がある階層の状況も関与はしている。

 これはとても単純な理由であり、その階には普通に人っ子1人居なかったのだ。

 

 そもそも何をしかけているのか分からない、しかして正面はもちろん横から跳んで突入する訳にもいかない。

 ただただ大騒ぎを、無駄な大事を起こしてしまうだけでなく、《何故そんなものがあるという事を知っているんだ?》と問われたらアウトなのだから。

 

 上手く話せない、そのうえで魂装なども持たない、そんな彼女が出来る弁解の範囲などたかが知れている。誤魔化せたとしても怪しまれるのは必定。 

 なにより―――正体がなんと爆弾であったその物品が、時限式で爆ぜたその後に黒衣の者たちが襲撃する、とくればどうあっても多方面に迷惑がかかる。

 

 

 しかして見逃すわけにもいかないのなら……できる事は強襲一択しかなかったのだ。

 

 だからこそムウは怪しい人物たちを倒してひっ捕らえるという、ある種、力技な選択肢を取ったのだ。

 

 『ヒーロー』であるならば、できる範囲なら、悪い企みを見逃すわけにはいかず。

 しかしてだからと悪い方で目立つより、良い方で目立たない方が断然良いなど―――掠れてしまった彼女ですら分かることゆえに。

 

 

 

 されども。

 その選択はある意味では目測通り正しく、ある意味では大きく間違っていたと。

 彼女の視界の片隅にある光景が物語ってしまっていた。

 

 

 

「…………」

 

 突如起った轟音、その正体である大爆発

 見る間に大同商館から上がる火の手。祭りの喧騒は悲鳴へ変わり、来訪者たちは一気にパニックへ陥っている。

 

 ムウは大同商館と<影の支配者(シャドウ・ルーラー)>を持つ剣士の間、ちょうど真ん中の位置で一見すると隙だらけに思える棒立ちに近いポーズを取っていた。当然ながらそんな事など無くチャンスと襲えば迎撃されるだろうが、されど黒衣の剣士も彼女にやり込められたせいで警戒を強めたのか動かない。

 

「あはっ……あはははははぁ……!」

 

 それでも表情だけは、とてもとても嬉しそうに歪んでいた。

 

(ク、ノン……)

 

 そんな彼の方を見もせぬままムウが考えるのは、共に来ている大切な人の事。

 

 もし、かつての彼女のままであったなら、目の前のを男を攻め立てる事を考えただろう。

 否、そもそも爆発の報など見向きもしなかっただろう。

 いいや、それ以前に大同商館に直接乗り込む事すら躊躇いなく実行していたのかもしれない。

 

 ――だが今のムウにはそれが出来ない(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 選択肢こそ浮かんでも、意欲そのものが別途でまるで本能の様に沸かせられても、それでも、“だいじなひと”を優先しないなど……どうあっても出来なかった。

 

 確かに成長したのだろう、或いは削れた部分を少しは埋められたのだろう。

 だが同時に選択肢を狭めてしまっているのも事実であり、以前のままの動きが決して解決には繋がらなくとも、確実に彼女の行動へ錠をはめているのは皮肉と言うべきやもしれない。

 

 結果的には、半端なまま終わらせるしかないこの状況。ムウの顔に浮かんだ僅かな歪みは、己の迂闊さへの呪いか、或いは未だに湧き続ける戦闘意欲への重石か……。

 

「優先事項は守る、守らないと、守らなきゃいけないよねぇ……斬って斬って斬って斬って憂さ晴らしさせて貰うよぉ!」

 

「…………」

 

 楽しそうな男の声を背に、結局ムウは奴を見逃す形でクノンの元へと走り出すしかなかった。

 

 わずか数秒で奴を叩きのめせる可能性を多分に含んでいるとしても。

 

 その数秒で稼げる距離を思えば。

 僅かな、叩きのめせない可能性の方に天秤が傾いてしまうことを思えば。

 何より『日常』と戦闘本能に抗うという無意識を意識的に捉えて抵抗することを選んでいた今の彼女には。

 

 どうしても、どうあっても、駆けだす以外の選択肢は無かった。

 

 

 

 ……しかし己が戦意に任せぬ、決して欲張らぬ、その早い撤退がとある幸運を呼ぶ『ファインプレー』だったと彼女が知るのは――まだ先の話である。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ムウちゃん……!」

 

 突如として爆発した大同商館。

 

 “ここに居て”と言われつつも流石に心配が勝りここの近くまで来ていたらしいクノンは運が良いのか悪いのか、爆発するその瞬間をしっかりと目撃し、だからこそ野次馬に紛れて立ち止まっていた。

 

 次いで呼ぶのは妹のような、そして誰よりも気にかけている少女のこと。

 

 いったい何をしているのか? そもそもどうしてあんな風に言って駆けだしていったのか? 何よりも……彼女は、無事なのか?

 

(どう考えても関係あるよね、これ……ムウちゃん、まさか1人で止めようとしてたんじゃ……!)

 

 見事な大当たり。

 これに関しては流石と言うべきだろう。出会って半年も経たない仲ではあるが、接した時間の長さと密度からかムウが行動した理由をバッチリと言い当てていた。

 

 そこまで推察できてしまったがゆえ、当然ながら考えは自然と目の前で炎上する大同商館、及びその原因に引き寄せられていく。

 

「(じゃ、じゃあ失敗して……!?)ムウちゃん……っ!!」

 

 クノンは駆けだす。

 

 出来る事など無いと知りつつも、そんな事は理由にならないと。そう言わんばかりに、人混みをかき分けて、すり抜けて……どうやら戦いが起こっているのか、剣戟の音が響く大同商館へと近付いていく。

 

 とても危険な場である事など頭の中にはない。あったとしても止まらない。

 

 大切な妹分を見つけなければいけないのだ。

 

 

「ん」

「……へ?」

 

 そして近くから普通に返事が来た。

 

 立ち止まって振り返れば、そこには特になんとも無さそうな様子でピンピンしているムウが、軽く手を挙げてクノンへと振っている。

 

 本当に逸れる前までと変わらぬ、いつも通りの様相で。

 

「…………あ……っ」

「……?」

ムウちゃん!!

「!?」

 

 そしてその様相は思いっきり抱きしめられると言う行いで困惑へと変貌させられて

 

「良かった、無事だったんだね……!」

「……!……」

 

 声に含まれた安堵。それは途轍もなく濃くそして当然ながら噓偽りなど欠片も無いもの。

 ムウもそれは考えてはいた。それ自体は予想していた。だがいつも強さを信じて、そもそも先は害獣魔獣の闊歩する森林に送り出したのだ。

 

 だからもう少し、それこそ軽い反応……ホッとした程度のものが返ってくると思っていたのかもしれない。

 

 しかし今のクノンの、実際の反応はこれだ。どう見ても逆に、それこそ想定以上に心配させてしまっているのが理解できる。

 

「強いのは、分かるよ? それに、大丈夫だって信じてないわけじゃないの……ムウちゃんほんとに強いもん」

「……ん……」

「でも大同商館にあんな事をする人達相手に無茶は……それも1人で……」

「…………」

「ごめん、やっぱり心配で、信じてても、怖くてね」

 

 考えてみればある種当然のこと。

 野生の獣は確かに脅威、だがボンズのマップもあるのだから不意の遭遇以外に危険はなく、なんなら最悪逃げれば良い。ムウの足の速さをもってすれば尚事それぐらいは易々可能だろう。

 適者生存、その上での弱肉強食……積極的に人を害そうとも根本的に言えば彼らはそんな自然の摂理に従っている。

 逃げ切って生きていれば終わり、生存者が勝者(・・・・・・)、それだけでしかない。

 

 しかし今大同商館を襲っている黒衣達は違う。

 

 財力と権力を持つリーンガード皇国の重要人物たちを計画を立ててまで襲うことを選んだ連中、そんな奴らが逃げて終わりな訳があるものか。

 なにより結果的に犯行自体は潰せたとして、今ムウがここに居るしかない様に計画の全体を破綻させたりすることが至難の業なのは自明の理なのだ。

 失敗すらも視野に入れられていたらただ戦うしか出来ないムウでは打つ手がない。

 

(で、も、戦いを……独りの、先行を優先、した……)

 

 動かなければ良かったわけでは無かろう。

 ムウが減らした分の効果は確かに出ており、あの<影の支配者>を振るう男を抑えられていればもっと被害は抑えられた筈だ。

 内部へ踏み込まれてこそいるが五豪商の私兵たちの方がまだ数多く残っているし、それゆえ周辺の避難指示や被害確認、聖騎士への連絡もスムーズに進んでいる。ムウが残した敵への疵は決して無駄ではない。

 

 しかし同時に理由こそあれど分かっていながら爆発物を見逃したのも事実。

 

 踏み込めば怪しまれる。喋りがたどたどしい事を抜きにしても無関係だと証明するものを持ち得ない。……何より黒衣のモノ達が残っている以上は悪手にも繋がりかねない。

 事前に防ごうとしたこと、知ったからこそ動かないのはおかしいということ、それは全くの間違いではない。

 

 だから、“仕方がない”と言えるだけの理由はある。

 

 しかして―――聖騎士や私兵たちに伝える方法から考えず真っ先に戦闘をもって解決することを瞬で選んだその行動自体が良いと言えるのだろうか?

 防ぐために行った事、知った後に起こした行動の是非、それについて間違いでないとは言えるのだろうか?

 

 

 独り戦う事が常日頃の最優先の選択肢として刻まれてしまっている今の自分が。

 

 

(変わった、つもり、だった……ほんと、に、それ、のみ……)

 

 ムウは自分がどれだけ狭い視野をしていたのか、どれだけ『日常』から『戻れて』いないのか、どれだけ自他を甘く見積もっていたのかをこれ以上ないぐらい知り……振りほどかず黙って受け入れていた。

 

 起こった事件を阻止なんか出来ておらず、ここから関わるのもほとんど困難な上で、見ようによっては裏に限定されただけでいたずらに波紋を広げたのみ

 魔剣士登録も正式にしていない完全な“お仕事体験中の生徒”でしかない彼女が実力をある意味過信して首を突っ込んで、多少引っかきまわす以外出来ず無茶をした――本当にそれだけでしかないとも言えてしまうのだ。

 

 ……“だいじなひと”を守るどころか大同商館の前と言う渦中寸前にまで引きずり出してしまっている。……目的意識が違うだけで、『日常(とうそう)』を中心とした考えから抜け出せていないと暗に示してしまっていた。

 

 

 そして……それからほんの少し、未だに剣戟の音が止まぬだけの時間が経ち。抱き合い続けていた状態から奇しくも2人とも同じタイミングで離れて見つめ合う。

 

「ムウちゃん……戦わないでとは言わないよ。剣術学院に居るんだし、何より私だって望んだんだもん」

「…………」

「だからこそね。強いからって全部やろうとしないで、って……わがままだけど、でも……」

 

 ――あなたを大切に思っている人は確かに居るんだから―――

 詰まっても尚その言葉はムウへ確かに届く。

 

 動かないと、いう事はこれから剣士として頑張ろうとしているゆえに、間違いなく無理と言える。動かなければならない時は間違いなく来てしまうはずだ。だからクノン自身の言う通り、これは単なる矛盾をはらんだわがままでしかないのだろう。

 

 機能が揃っているからと単独で何とかしようとしたのが愚行なのも変わらないその上で

 

 聖剣士になるのか? 魔剣士となるのか? どちらにせよ単独で何でもかんでもやろうとするのは絶対に違う。

 それをするのならば先にしめすべき事、やるべき事がある。ムウは、それを未だ成し遂げていない。

 

 何より、能動的への第1歩として選んだはずの、荒天流を“今は”会得できていないのだから。

 

「……ん」

「うん、ありがとう。ムウちゃん」

 

 ムウは内心、呟く。

 

(わがまま、じゃない、よ……)

 

 そして内心、反芻する。

 

 ここから逆に何にも置いて頼りまくる選択を取るのは流石に悪手だとは彼女も分かっている。戦闘を今以上に避けようとするのもまた違うと理解している。

 何でもかんでも1人でやろうと、戦闘を中心に出来るか否かの2択の中かつ片方に振れった途端『戦闘をするべき』という考えでやろうとすること、駄目なのはそっち(・・・)なのだから。

 

 今すぐ変えられるか?と言えば無理であろう。引き戻してくれる存在がいて、見直すための決意を抱いて、されども鈍くも刺激され続ける戦闘本能だ。

 人狼学院という火種と熱の消えぬ場所に居続ければ刺激は絶えず、またそれへ無為に抗っても逆に何の意味も生まない。……だから大事なのは先から、大五聖祭の時からも抱いている『どう向き合うか』。

 

 初心に帰る、或いは初心忘るべからず。

 結果こそ良いとは言えずとも、見え方と言う意味では剣士になるために定まらぬ線を引いて愚直に追い求め、漠然とした “取りあえずで選んだ虚ろな(しるべ)” に従うのではなく……。

 

 

 ―――戦いをどう捉えて闘い方をどう変えるのか―――

 

 

 ……こうして1歩だけでも抜け出せたのだからむしろ、ある意味行幸とも言えよう。

 

 欲した結果こそ得られてはいないが得るものはあったのだから。

 

 

「取りあえず一旦離れようムウちゃん。さっきの爆発だけで終わりじゃないかもしれない」

 

 けれどもムウの方に変化があったとて、現状それだけで済む話ではない。

 たかが一個人の変化、それを促した一個人の安堵でしかない以上、事態はまだ終息してなどいない。

 

 そもそも先にも言ったが、如何に強かろうとムウはお試し魔剣士の一学生、クノンも就職こそしているが魔剣士協会の一見習い職員。

 残酷な話ではあるが、本当に、これ以上何もできる事は無いのである。

 

 正しく言えば前線に突っ込んでいく理由だけが宙に浮いていて、それを実行するだけの燃料が無いというべきか。念のためを考えると、その上で目に見えて商館側が劣勢でない事も踏まえると、備える為にも外様として全体の様子を見るのが適解に近い……皮肉にもだ。

 

「現場に居ちゃってるからこそこっちの魔剣士協会にもきちんとした報告と連絡を入れなきゃ……」

「ん」

 

 これ以上の大事にはならなそうというだけで火の手は収まるところを知らず、赤き熱量や激しさからさしもの野次馬達も距離を取り始める。合わせて動けるだけのスペースが空き、ムウの手を引いてクノンは歩き始める。

 

(これ、は、見知った3つと…………先の、逃した黒衣……負傷、状態……)

 

 同時に―――先ほど戦った男がどうやら負けて上階から飛び出したことを【眼】で、耳に届いたガラスの割れる音で、ムウは察知する。知り合いらしき者たちが戦っている事も感知したようだが、それはそれとして中の騒ぎも最悪の事態は免れた様子。

 

 続いて蜘蛛の子を散らすように複数の黒衣が飛び出してくるのを私兵たちが迎え打つ……ものの負傷者の搬送や事態を治める事が先と見たのか、人数差に反して捕縛されたのは極少数。

 よく眺めてみると、地味に先ほどムウが強襲の後に捕えたモノ達も混ざっており、こっちに聞けば良いと判断したのだろうことも伺える。

 

 もしもの時にとムウも前傾姿勢を取ってはいたが、方向が全く反対であったのと人の波の動きが邪魔をしてしまい、見送るしか出来ずにいた。

 

「…………」

「後は聖騎士様達を信じるしかないね……」

 

 しかして……大きな懸念が向こうから撤退したのも事実。

 だからこそ、人が少なかろう大同商館の裏方向まで徐々に離れつつも円を描いて、野次馬の隙間を探してどうにか歩きだす。

 

 たった2人しか知らぬだろう案件も含め、様々な方面から生まれ出でた問題とそこから広がった大事件は、これにてどうにか終息へ向かう見込みとなったのであった。

 

「行こうムウちゃん」

「ん」」

 

 

 ……だが、そう思われた、正にその直後。

 

「ひとまずはドレスティア支部の方」

「…!(強大な、熱源……無機質、の、殺意……!)」

「に……? ムウちゃん?」

 

 何かを察して取り勢いよく振り向いたムウと、つられて数歩先で止まったクノンの視界の中で。

 

 

 

 ド ゴ オ オ ォ ォ ン ! ! ! 

 

 

「な!?」

 

 ―――最初とは比べ物にならない、広場全体を揺るがすほどの大爆発が巻き起こった。

 

 駆け出そうとする暇などある筈もない。爆撃の振動で転げてしまっている者すら居る。吹き出した焔も波のように、否、上階に爆弾があったのか滝のように落ち来て、がれきが飛沫の如く撒き散らされていく。

 

 悲鳴すらも呑み込んでいく轟音。すべてが赤に染まる熱光。邪なる意志から起こされた破壊の波濤。

 

「……フッ!」

 

 ムウはそれら巻き起こる鉄火場へ躊躇なく突撃した。

 

 背後で彼女を呼ぶ声を振り切るように……振り切ってでも、気付きを傍目翻すように見えても今こそ“戦い”をもって対応すべきと、そう断じたかのように。

 

(荒天流の、よう、に……)

 

 スローモーションよろしく緩やかに流れる景色の中、彼女が選んだのは、剣術。

 

 風を起こして叩き返すつもりなのだろう。確かにムウであるならばそれは大なり小なり可能ではあるかもしれない。それでも馬鹿力による突風だけで爆熱の壁を押し戻せるかは怪しかろう。

 

 何より手元にあるのは木剣だ。今までのどのクノン作よりも頑丈ではあるが、チャンスは恐らくたった1振り。

 

(ならば、自身を嵐と、して……『青天をも吹き荒らす暴れ風と化せ』……)

 

 荒天流の教えを繰り返す。

 今までの試行錯誤を振り返る。

 

(『己が荒れ狂う天となれ』……!)

 

 ムウの表情が無色に染まった。

 

 

 ―――己は渦巻く嵐そのもの

 ―――その嵐を荒天流の動作の形(・・・・・・・・)に切り取って

 ―――己と言う人型にくりぬいて

 ―――嵐に巻かれた木の剣を唯一の物理的真っ芯とし

 ―――狂い荒れる暴れ風である体を伸長し(・・・・)

 ―――剣を振るうのではなく

 ―――それに似た形をただただ嵐の中に写し取る

 

 ―――斬らず、断たず

 

 ―――吹 き 飛 ば す

 

 

「自ら、こそが、荒天、と……!」

 

 ムウのあまりにも無茶苦茶な理論に呼応するかの如く。

 彼女の右腕が、いつのまにやら走っていた幾何学的模様が、鈍くも確かに光り出して。

 

 

  ゴ オ オ ォ ォ … … !  ! 

「……!」

 

 迫る赤を鋭く睨み付け。

 

荒天流―

 

 刹那―――

 

 

  ゴオオォバ オ オ オ オ ォ ォ ッ!!!

 

 

猛牙・(はやて)

 

 

 ――その全てを、吹き飛ばしてみせた。

 確かに、荒天流そのものの。

 

 ヘルガが訓えた型を確りと再現して……!

 

 

「う、うっそぉ……」

「一振りで爆炎もがれきも……あの子供が?」

「あっ、炎が消えたぞ! あれもか!」

「違う……なんか魂装っぽかった。商館内の連中か!?」

「何だよ今の爆風、やっべぇ……!」

 

 盛り上がる野次馬達を無視してムウはクノンの方へと戻ってくる。

 爆炎そのものは、どうやら先のざわめきにも混じっていたように誰かが打ち消したらしく、嘘のように消え去っていた。つられて火の手も収まっていき、残り火が辺りを夕刻に傾き始めた周囲を僅かに照らす。

 

「ムウちゃん……っ! 無茶して……!」

 

 すぐ横まで歩いてきた彼女にかけられた当然も当然なクノンのそれにムウは緩慢な動作で振り返た。

 

「……確約、は、でき、ない……」

「ムウちゃん……」

 

 けれどもと、それだけは譲れないと口にして。されどもと、ここで首を横に振り。

 

「頑張る、から。今日のを、顧みて、戒め、て、そこから進む、から」

 

 クノンへと決意を口に出して告げた。

 

「……うん」

 

 言葉を受けたクノンは……ムウの頭に軽く拳骨を落し、もう1つデコピンした。

 

「孤児院のみんなの分と、私の分。無茶なヒーローへのお叱りと、誰かを頼って欲しいってお願いの分」

「……ん」

 

 頬に手を添えて穏やかな、そしてどこか不安な笑顔にムウは、何時もの様に返事を返す。

 静寂とは程遠い、未だ続く喧騒の中、2人は寄ってくる聖騎士たちや駆け寄ってくるドレスティア支部の魔剣士たちの方へと、改めて向き直って。

 

「呼ばれてる……行こっか」

「ん……!」

 

 今度こそ、歩いていくのであった。

 ……その“歩み”に2つの意味を乗せて。




Q12.あの剣士ってドドリエルですよね?

A.ですね、魂装の名前そのまんまです。
とある因縁からアレンに何かと絡む相手なので原作既読の方は多分ピンと来るぐらいに印象に残ってると思います。



「ある組織」と因縁を作る場面は実の所かなり難儀しました。
あまり憶えられると孤児院が危ない、かといって全く関わらないのもストーリー上無理、そしてどこかで一気に捻じ込むよりは少し早めに鉢合わせたい。
その結果ドドリエルと少しだけ戦うことになりました。
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