刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~   作:阿久間嬉嬉(新)

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祭りの残火

 ―――大同商館及び五豪商襲撃事件のひとまずの終息後。

 

 

 ムウが、荒天流を超絶変則的なやり方で会得するという、偶発的に訪れた塞翁が馬な事態の折、一応は大事を起こした本人でもあるからか聖騎士に連れられクノンと共に詰所に向かった。

 

 ただドレスティア支部の魔剣士達と既に顔を合わせていたこともあってか、事情聴取と言う名の簡単な聞き取みは詰所手前に建てられた簡易テントで行われ、少しばかり待機時間を得て。

 魔剣士と聖騎士の仲がいかほどかは場所にもよるのだが、幸いにもドレスティア支部の魔剣士とドレスティア勤めの聖騎士の仲は悪く無いようで、クノンが臨時で都心のオーレスト支部の受付をやっていた事とムウが飛び級の学生という事もあり、さして拗れることも長引くことも無くつつがなく進行。

 

 また担当した女性聖騎士はちょっとばかし離れた位置ではあるが事件の現場に居合わせていたらしく、それもあってよりスムーズに進んだ。

 

「他の人にも話を聞いたしワタシも遠間から見たんだけど……それでも、その()がって事を信じられない自分も居るわ」

「かくいう私もびっくりしてます。ムウちゃんにそこまでのポテンシャルがあったなんて」

「ん」

 

 小さな少女が大きな爆炎を瓦礫もろともに吹き飛ばす。

 

 付き合いの長い方なクノンですらもやや白昼夢がかかっているような心地となる所業ならば、如何に確と目撃したとて先刻あたり出会ったばかりの聖騎士がどうかなど言わずもがな。

 

 クノンと女性聖騎士が見つめる先でムウは少し胸を張り、そんな自信満々な様子に彼女らの顔へ少しばかり笑顔が戻った。

 

「うーん、しっかし荒天流か。名前だけ聞いた事あったし範囲攻撃型も疑ってはいなかったんだけど、あそこまでのは例外と言うか想定外でしょうね」

「振り方で指向性の風を起こす、とかなんとか解説を聞きましたけど、まあムウちゃんのあれはほんとにスペシャルと言いますか……」

 

 首をかしげながら語る2人。荒天流に対する誤解は流石に起こらなかったものの。仮に、もしかしてあの暴風こそが……? とでも疑っていた場合はとある指南役(ヘルガ)が声を大にしてこう叫んだことだろう。

 

 

外れ値が基準の界隈がどこにありますか、だ。バカ野郎と。

 

 

 ちなみに荒天流については先の事件だけでなくちゃんと技単体を事前に、この聞き取りの前に――柄がちぎれた何代目かの剣やバラバラとなったクノンお手製木剣の代わりを借用して――見せている。

 その時も大概な爆風が起きており、一時の奇跡ではなくきちんと己のものにしたことが伺えたのだが、その秘訣およびやり方を聞いた聖騎士とついでにクノンがとても形容しがたい表情と化したのは……まあ余談であろうか。

 

 【眼】があるにせよ、機械的な一面があるにせよ、まるで過去のログを辿って正確にコピペしているかのような、傍目神業に相違ない所業。

 

 …その時のことを思い出しているのか違うのかちょっと苦笑いをしながらも聖騎士は手元のレポートへの書き込みを終え、ムウとクノンそれぞれに目線を向けてから言葉を投げた。

 

「さてと……聞きたい事はこれで全て、この辺でお開きにさせて貰うわね。念のために聞きたい事は?」

「はい、特には何も……ムウちゃんは?」

「ん」

「大丈夫だそうです」

 

 あまりにもあっさりだがそもそも実行犯は捉えているし、この女性聖騎士曰く『五豪商を助けた1人の魔剣士と2人の仲間』が他に()り、加えてムウに助けられた人たちの証言もあるので変に疑う必要が元から無い。

 

 

 更に踏み込んで言うのなら捕らえられた、否既に何者かに捕らえられていた(・・・・・・・・・・・・・・)者達から吐き出させたもっとも早い証言のいくつかが曖昧であるのも関わっていたりする。

 

 当然その何者かの正体はムウなのだが……あまりにも早業で薙ぎ倒したので明確な像が浮かばなかった事、剣の仕様が最小限なのに加え荒天流を使用しなかった事、アレンの模倣技をそうと分かる形やタイミングでは使っていない事

 この情報の数々が巨大なスクリーンと化しムウと言う『まだまだ幼さの残るマイペースで小さな少女』にまで線を結ばせなかったのである。

 

 ……この後もついぞこの事件において聖騎士と魔剣士たちが彼女(ムウ)にまで線が伸ばせなかったのは、言わずもがなかもしれない

 

「あっ、それと後1つだけ。学生さんや見習いさんとしては酷かもしれないけどドレスティアに居る事はこれ以上お勧めしないわ。そもそも大同商祭も中止になった以上はね」

「まあ、流石に、ですよね……」

 

 重要人物たちを狙った計画的襲撃。

 建物の爆破。

 幸い軽微だったものの確かに出た周辺への被害。

 

 不意に第二陣が襲来する捨てきれぬ可能性、他の建物を検分する必要性、その他の諸々を考慮すれば祭りの続行など無謀と言うもの。

 品評会や発表会に関しては日程を変えて行われるらしいが羽を伸ばしに来ただけ且つ明日にはどうあっても帰らねばならない、そんなムウ達にとってはほとんど関わりの無い事。

 だからかムウはあらぬ方を見ていたが、クノンは生来の性格ゆえか少しホッとしたような様子を見せていた。

 

「それでは……失礼します。お仕事頑張ってください!」

「ありがとう。気を付けて帰ってね」

「ん!」

 

 聖騎士の言葉を背にテントをくぐる二人。

 

 ……その直後。ムウはその優れた聴覚をもって、しかしほんの少しだけ、彼女のつぶやきを耳にした。

 

小っちゃいだけであの子も千刃の生徒さんかと思ったらまさかの人狼……本当に意外だったわ

(…………)

 

 それ自体は特になんてことはない情報、ただ誰が居たかを大雑把に把握できれば良い程度のものでしかない。

 だがしかし、ムウはここで察する。

 

(先の、1人と、2人の仲間、は……アレン=ロードル、と2人、だ……)

 

 千刃と言う学院の名、ボンズから事前に聞いていたもう1組の来訪者達、そのから割り出したもはやすれ違いがお馴染みとなった者達の存在を。

 

 つまり先に<影の支配者(シャドウ・ルーラー)>の使い手を退けたのも五豪商を助けたのもアレン達らしい。まさか別々の方向から同じ事件の解決にあたろうとしていたとは、縁とはまっこと不思議で不可思議なものである。

 

 いや、彼はズレてこそ入れど善性はある方で、付きそう彼女らも正義感が強い方だと、少なくともムウにはそう見えていた。ならばこれはむしろ必然の、素知らぬ遠間の共闘だったのかもしれない。

 

(……帰還、の、時を、ずらすか、否か……)

 

 とは言えやっぱり苦手意識はぬぐえないようで。

 魔剣士協会ドレスティア支部へ向かう道すがら、クノンに声を掛けられて返事をするまで、ムウはアレン達と一番出会いにくいタイミングの “最適” を【眼】を用いて図り続けるのであった。

 

 

 

 ――最終的には用事も無いのだしとアレン達が出かける前に、ドレスティアを発ったそうな。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 ―――ムウ達がドレスティアで用事を済ませた時とは別の時刻……別の場所……とある森の中のとある道。

 

 監獄まで延びるやや暗がりが多い街道に、ある大小2つの人陰があった。

 

「五豪商誘拐は失敗と……大目的に支障がねぇのは幸いか」

こうして(・・・・)事前に阻止も出来た、何も零れていないのならそれだけでも良しとすべきだ!」

「新入りも負傷したが帰ってきたしな。そも失敗すんなっつう話だが」

 

 その人物らの服装は、

 語っている内容からも分かる通り、先に大同商館を襲撃した黒衣のモノ達と全く同じローブ。

 考えるまでもなく奴らの仲間だという事が分かる。

 

 いったい何をしにここに来たのか?

 

 否……それもまた探るまでもなく、そしてもう終わっている。

 

 

 焦げ付き半壊した馬車と血濡れて倒れ伏す聖騎士や黒衣のモノ達がそれを物語っていた。

 

 

「しかし良いのだろうか? 聖騎士の者達はこのままで」

「下っ端だけ要確認で後はトドメまで無理にやんなって言われてんだろ。くたばってようが無かろうがこれ以上はナシだ」

「ザハハッ! そう言えばそうだったな!」

「……ったくこのキラキラジャンキーが。危うく山火事になるとこだったろうが」

 

 小柄な黒衣は声からしてどうも女らしく、口調こそ荒いが意外と任務に真面目なタイプ。そして大柄な黒衣はぱっと見の印象通りの男で、良くも悪くも豪快なタイプなのだろうか。

 

 語らいこそ雑談の如く気安いが、現場の惨状がその語らいを、出た端から不気味の色へと変貌させていく。

 

 このたった2人に、数的有利でもあった試験を突破し訓練と鍛錬を積み重ねた聖騎士達が負けた現状。……一切不明ではあれど次元が違う実力者だという事は分かろう。

 

 ゆえ、まんまと待ち伏せられ狙い通り “口封じ" を実行されてしまったのだ。

 

「これ以上ここに用はねぇ。それにドレスティアの方からの便も変更がある、はち合ったら無駄に『増える』からな、ずらかるぞ」

 

 無為に追ってとどめを刺そうとするなという少し訝しい命令の理由は、なるほどそこにもあったのだろう。

 何から何まで想定済みな上での計画立案、及び実行。彼らはどうも先の一件から垣間見えたモノ以上に用意周到且つ狡猾な集団なのかもしれない、善の者達からすればこの上ない不安要素が伺えた。

 

 ムウが1人で相手しようとしたのは本当に無謀であったと言えるだろう。

 

 戦闘はまだ分からない。ムウ自身も未知数なのだから。

 しかしそれ以外が及ばない。ムウは未だ事実上戦うことしか出来ないのだから

 

「ううむ」

 

 そんな重なる不穏とは裏腹に、何故か大柄な男も困ったような顔を浮かべている。

 

「……聞くだけ聞いてやる、何が言いたい」

 

 対し、小柄な女の方が心の底から嫌そうな声で聞く。

 

「自分はもう少しキラキラの原石がやってくる可能性を待ちたいのだがなぁ」

「おい、てめぇ、報告すんぞ。要らん事まで……あ゛ぁ?」

「それは困るな! では仕方なし、帰還しよう!」

「ったくこの……」

 

 思わぬ、というより彼女からすれば恐らく何時ものことなのだろうわがままを叩き落す。

 

 苦労させられてもいるらしい小柄な方が吐いているため息にはうんざりの他に、どことなくすんなりと終わった安堵が含まれてもいるように思えた。

 今回はどうもやる気になれる任務でもなく、命令の主題が“口封じ”で戦闘行為はあくまで手段の1つである為それも手伝ったのかもしれない。ならば運が良い方と言えるだろう。

 

 ……聖騎士たちにとっては捕らえられずという意味では悪く、されど更なる犠牲を生まないという意味では幸運であり、即ちどちらとも取り切れぬのだが。

 

 

 そして駆け出し。

 場を離れ。

 暫し森を抜けて。

 

「ああ! そう言えば新入りへ邪魔した魔剣士に付いて聞いてな! 千刃学院の……」

「そうかそうか。なんでお前が先に聞いてんだよ、報連相がクソなクセに出張んな」

 

 少しして歩きに移行した直後の切り出し。

 

 それを聞きつつ滑らかにツッコミへ移行した小柄な女へと、全く聞いていないような素振りで笑いながら大柄な男が続きを口にした。

 

「アレン……ナントカと言う魔剣士について特に語っていたぞ!それとローズ……ナンタラと、リ、リ、ああリア=ヴェステリアだったか!」

「ファフニールのか。ってかナントカナンタラってなんだおい。結局曖昧じゃねえかよバカが」

「それと小柄で自分の剣を折るほど馬鹿力なやつも居たと聞いたな!」

「聞けや。あー、まあいいや……そんでそのちっちぇえやつはナニ=ウンタラだって?」

知らん!!

胸張んな!!

「ザハハハハッ!」

「笑ってんなウスノロ!!!」

 

 凄惨な状況を作り出したもの達のものとは思えぬ、軽々しくもおかしいそのやり取り。同じ空気感にて続く、情報の共有。それでも決して隠せぬ血の臭いを漂わせながら、彼らは黒の尾を引いて歩み続けた。

 

 

 彼、彼女らの組織は。近年リーンガード皇国を騒がせている大規模犯罪組織。

 薬物の製造・密輸、人身売買、要人の暗殺など様々な犯罪行為に関与する組織。

 ある国の、ある騎士団とも関係があるとも言われている、暗くきな臭く未だつかめぬ組織。

 

 正式に呼ばれし名など無く、俗称のみが罷り通る。

 ゆえその犯罪組織はまたの名を。

 

 

 ……《黒の組織》と言う……。

 

 

 

 

 

「最後のも聖騎士の裏方(・・・・・・)千刃関係の奴(・・・・・・)って分かってんのが救いか……ったく、雑デカブツがよ」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 ―――大同商館襲撃事件、その2日後。

 

 

「早いもんだ……もう最終日か。ムウの嬢ちゃんのお仕事体験も、クノンの嬢ちゃんの臨時の所属も」

「ん」

「勉強と、良い経験になりました、ありがとうございますボンズさん」

「良いって事よ。こっちもだいぶ世話になったからな!」

 

 新品の剣や少なめの荷物を背負ったムウと、勉強道具含めて色々詰め込んでいるのだろう多めな荷物を抱えたクノンは、オーレスト支部のバックヤードでボンズとそんな会話を交わしていた。

 

 

 ……先の通り、2人は祭りを楽しむこともすがることも無くドレスディアを早々に出発している。そして行きとほぼ同じ時間でオーレストに着いたムウとクノンは、まず魔剣士協会支部へ顔を出しボンズへと報告。

 

 だが早馬のようなものが先にここの支部へ向け出立していたらしく、2人の顔を見るなりボンズはとても大きな、そして心の底からの安堵が籠った溜息を吐いたのだ。

 

 そんな彼の無事で良かったと言う心配からの言葉をクノンは嚙み締めるように受け止めて、ムウはやはり表情こそそう変わらないが確りと頷いたとか。

 

 ともあれ、なんとかオーレストに帰って来れたためにこれ以上交わす事はなかった様子。

 

 

 また早く帰って来れたからなのか、その次にムウ最後の『お仕事』が待っていた。

 案件としては依頼人曰く早々済ますのがより好ましい件であったのだが、内容自体はかなり簡単な駆除依頼であり、クノンやボンズは知らないものの魂装使い相手にすら優位を取ったムウであれば遅れなど取らない。

 

 楽勝オブ楽勝とはこのことだ。

 

 ……なのだがご存じの通りムウの手元に剣は無く(・・・・)、「そういや案件中に2本ぐらい折ってたな、気を付けろよ!?」とその辺をお仕事体験中に理解していたボンズからレンタルして事なきを得た――と言うちょっと情けない一幕を挟み、最後までイレギュラーを織り交ぜつつなんとか依頼も無事? に終えた。

 

 

 そうして休日を挟み……現在、つまり2日後。

 

 ムウとクノンはオーレスト支部をいよいよ離れる事となったのである。

 

「また顔を出してくれよ、クノンの嬢ちゃんだけでなく、ムウの嬢ちゃんもな」

「善処、しま、す」

「おぉっ、良い返事だ!」

 

 前向きなものを貰えただけでも嬉しかったのか笑うボンズは、続いてちょっと苦笑いな表情となった。

 

「……ドレッド達も泣いてたぜ。ったく今生の別れじゃねえだろ、男なら黙って見送れってんだ」

「あはは……本当に面白い人達だったよねムウちゃん」

いぇあー

「こらっ、それもダメ!」

「や!」

だーめ!

 

 教えられた掛け声とジェスチャーがすっかり馴染んでしまい、ムウも中々これを気に入ったようで、恐らくもう治す事は出来ないだろう。クノンの、そして帰ってからのヘルガの苦労や如何に……。

 

 されどちょっとむくれたような顔も早々にクノンは笑我を浮かべて。

 

「ドレッドさん達……彼らにも、ありがとうと伝えて下さい」

 

 最後には感謝を、真正面から告げた。

 

「任せとけ! 泣き上戸になっちまいそうだがな!」

あと拳骨しますとも!

「くくっ……うはははは! オーケーオーケー! しかと承った!」

 

 大笑いの後にサムズアップしてみせたボンズにクノンは頷き返すとムウの方を一瞥してから彼に、そしてオーレスト支部に背を向ける。

 

 

 このままボンズの言葉を受けていよいよ人狼学院方面へ……踏み出そうとした、それとほぼ同時。

 

「…………」

「ん? どうした嬢ちゃん」

 

 ムウは振り返って、ボンズをまっすぐ見つめて。

 

「……あ、の」

「ああ、なんだ?」

ありがと、ござ、ました

 

 一礼の元に感謝を、自らの口ではっきりと告げた。

 

「ムウちゃん……!」

「! ……おう! またな!」

「ん!」

 

 そして更なる返答へと軽く手を挙げて応え、クノンの方へと踵を返して、今度こそ帰りの道を歩き出すのであった。

 

(きっと、これが次の、導、に、なるから……)

 

 あの日あの時あの場所で、暖かみを添え嵐を教えて散った。

 木剣の破片を、お守りのようにそっと握って。

 

 

 

 さあ、いよいよ待っている。

 

 成長した彼ら、彼女らを試し、競わせる催しが。

 

 荒々しき者達の宴が。

 

 クラス対抗戦が、待っている―――!




これにてお仕事体験編は終わり。
……当初の枠組みを超えて必要なエピソードとなった事、そして単純に長くなったので次の章からクラス対抗戦へ入ります。

少し重みを加える話が多かったので、次章全体が息抜きになるよう構成していく予定です。
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