刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~   作:阿久間嬉嬉(新)

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大変お待たせしました!

今更ですがオリジナルエピソードの章なのでがっつりとした原作要素はまた次の章からとなる予定です。


穏やかなる乱痴気騒ぎ

 昼食時……本来はそこそこ程度に賑やかであろうその時間も、人狼学園では一時的なバトルアリーナの建設タイムに他ならない

 

 

 購買とイートイン的スペース。

 ムウ達の入学時点では《改装中》であったため使用不可だったのだが、魔剣士お仕事体験の終了直後に工事が終わり、数日間の仕入れや仕込みを経て晴れて営業を再開。

 魔剣士協会から更に連なる商会との繋がりのお陰か、五学院等と比べればどうにも質は悪い反面、品ぞろえは中々に豊富の1言。

 ――そもそも五学院は[ 学生食堂(がくしょく) ]なのでそこからもう違うのは仕方なし。

 

 また剣王祭『本戦』への連続出場経験ありな強豪校であるのと同時に、ガラの悪さでそれ以上に有名なのが人狼学院。

 そんな暴れ盛りな彼ら彼女らの被害を受けがちだろう購買およびイートインが普通な筈も無く、だからか実はとある暗黙の了解が存在していたりするのだが……1年は入学前から閉まっていて知ることは出来ず、在校生達も “喉元過ぎれば熱さを忘る” の言葉通りうろ覚え状態であったりするのだ。

 

 ゆえ、フードコートもかくやなイートインはともかくとして、結果的に皆がまっさらな気持ちで押しかけよう購買周辺でのお昼模様が終止和やかに進むはずもない。

 

 ガヤガヤは消し潰され、ワイワイすらも通り越し、ギャーギャーという表現が相応しく。時折「オオオオォォォォォォ!!!」ともつかない音が轟く。

 それはもはや波動の嵐。その様相は血潮漲るスタジアムが如く。知らぬ人が声のみ聞かば、新手の乱闘中かと勘違いするありさま。

 

 おばちゃんが早いもん勝ちだよと怒鳴るように突き付ければ、押し合い圧し合いは更にヒートアップ。

 誰かが買ったものを掠めて奪ったり、同着から発生した取り合いが殴り合いに至るなどまだまだ可愛いもの。

 

 物騒極まれりお祭り騒ぎに紛れる形で、端でなにやら奢らせ合戦だの恐喝モドキだのが行われている光景もちらほら。

 奢らせ合戦は友人間で比較的なごやか(人狼学院比)に終わったものの、恐喝モドキはそうでは無く哀れ成功する……寸前、横からイイ笑顔を浮かべた別の巨漢生徒がやって来て肩ポンしたかと思えば……。

 

オレのメシを返しやがれぇ!!!

どれが誰のだってぇ? えぇ!?

 

 ……購買前でバカ騒ぎしていた1つの件が収まってから間、髪置かずにまたまた次の件が一気に盛り上がり始める。

 ただでさえ購買は校風毎に様々あれ、内実は大なり小なり人気商品や限定品、目当ての品の奪い合い。

 決して文字通りな乱暴さを体現するものでは無くとも、1種のバトルには相違なし。

 

 ならば人狼学院(わるがきのそうくつ)でどうなるかなど言わずもがなだ。

 

「また始まったぜ、退散退散~」

「ワタシはめんどーだし、諦めー。無理よ無理無理」

「外行っちゃお? もうさ」

 

 その一方。

 店舗内でもないイートインもまた絶好の駄弁り場ゆえに喧しさはプライスレス。

 

「次なんだっけか?」

「知んね」

「じゃ、バックレとくか」

 

 流石に購買ほど荒れてはいないのだが、食べるよりも駄弁ったり、遊んだり決闘・乱闘を取り付けたりと、こちらもこちらで青春に大わらわ。

 

 テーブルに足を乗せるもの、腰を掛けるもの、独占するものと悪い意味で選り取り見取り。よく見ればチェスやオセロとは違う独自の、そして本来持ち込み禁止なボードゲームなどを広げている生徒達すら見受けられた。

 中にはまだそれを買えない筈だろ(・・・・・・・・・・・・)と言われんばかりな “本” を持っている生徒もいる。

 元より、先にも言ったが学生たちは騒ぎ盛りだ。学院毎の特色にもよるとは言えそもそも静かな昼食(どき)などまず望むべくもあるまい。

 

 

…………

おいてめっ待てごらチビィ!!!

ちくしょう一本取られたっ!!

 

 そしてまた騒ぎが勃発し、市販品まんま使ってない? と疑惑が浮かぶデカい板チョコを挟んだコッペパンへ豪快にかぶりつき、その状態のまま複数抱えて走っている小さな生徒をリアルなヤンキー・リーゼント集団が追いかけている。

 

 と言うかどう見てもムウだった。

どうも昼食をちゃんと取るようになった様だが、争奪戦を隙を突いて制したらしいあたり、中々どうして図太い。

 

 

 と、そんな彼女の前に立ちはだかる影が一つ。

 

おうおうおう!見つけたぞC組1年!

 

 何処か苛立ちを、そして対抗心のような物があるのを見るに、先輩はムウとただ戦いたくて足を運んだわけではないと見える。

 要は 《あいさつ》 をしに来たのだ。それも恐らく食事時を、敢えて狙って。

 

 

 ……唐突だが、人狼学院は不良校なれど剣術の実力に関して言えば、意外と真摯に受け止める者が多いのはご存じだろう。しかし全生徒の共通項かと言うと当然そうではない。

 

 そもそもムウの今までの、他を押しのけての戦績や大暴れっぷりを先輩ら目線で捉えると、勝ち続けて調子に乗っている1年と思っても決して不思議ではない。

 皆が目撃者になれるわけでも無く、むしろ噂のみを耳に入れる者の方が多いと来れば……不良校でどうなるかは火を見るよりも明らか

 

 ――イグゼは言った。【下ばかり見ていたらより上に喰い散らかされる】と。

 ―――されどたった1言、ある種の戒め、強豪としての矜持それだけで、全ての生徒が上を向けるなどそんな容易い訳も無し。

 

 人狼学院でもまたその手の『新人潰し』は少なからず横行しているのである……。

 

 

「聞いたぞ、今んとこ全戦全勝無敗!ならこっちの申し込みも」

 

 まあ当然ながら食事中のムウがそれを受ける理由など皆無であり。

 

 予備動作無しで急加速したムウは跳躍後上下逆さまとなって、すれ違いざま立ちはだかった先輩へそう呟くと、いつの間にか放っていたパンを器用に口でキャッチ。

即座に前方へ半転して着地するや否や猛ダッシュ。……とっても華麗にスルーされていた。

 

「おまっ、逃がs」

「「「邪魔じゃボケェエェェ!!」」」

ぎゃぴっ

 

 そして。

 リーゼントスタンピードに巻き込まれた先輩が今年度における新人潰しの難度を暗に示しているのは、まあ言うまでも無かろう。

 

 つまり、というかやはり、人狼学院におけるムウの昼休憩はある意味つつがなく、ある意味平穏なまま流れていく。

 

 

 

「相変わらずマイペースと言うかさらっと面白い事やるわね……」

 

 一方、平穏じゃない心持ちではいられないのが、ムウの腕をよく知る者達だ。

 

 その内の一人、偶然か眺めていたらしい馴染の先輩・リサ=ラクーナは一つ呟き、苦笑いする。

 ……たかが昼時のバカ騒ぎ程度で用いられる洗練された体捌きの無駄使い。逆に言えば常日頃から活かされる判断の早さ。

 

 隙があるのか無いのかふわっふわな彼女を見れば、普段から太刀合っている者ほど色々考えてしまうのだろう。

 

(う~ん……今年の1年クラス(くみ)対抗戦、これはもう見るまでも無いやつかも?)

 

 ちらと視線を傾けた先。そこにはうんうん唸っているムウとは違う組の生徒達が居た。

リサが居る場所の付近は比較的生徒が少ないからか、談の内容も風に乗って少しだけ聞こえてくる。

 

「囲ん…フルボッコ…」

「…魂装持ちで…」

「おれが………やっぱ…」

 

(そりゃ悩むわなぁ)

 

 学院柄か本格的な作戦会議という感じではなく、とりあえず意見を出してみる程度に留まっているものの、彼ら彼女らなりに真剣(マジ)なのは言わずとも伝わる。

 チーム戦が前提なのもあろうとはいえ、魂装相手でもなお無敗を貫く筆頭生徒に勝ち筋を見出そうとしている。その様子はイグゼ学院長が語り、求めていた様なハングリーさの象徴と言えよう。

 

 ただ、徒党を組んでどうにかなるムウならば、とっくに乱闘騒ぎでオチているだろう――というのもまた事実。

 

(仮にA組筆頭(ガロウ)やら1年トップ共が組んで当たっても厳しそうなのよねー、こんなんセンセー達だって予想外で…………んっ?)

 

 されど、昼食で得た満足感の余韻でのんべんだらりと他人事に耽っていたリサの思考の縁に、ふと“何か”が引っかかって。

 

「あ」

 

 一拍置きその“何か”の正体に気付がいた。

 

(そうよ、センセー達がそのへん知らないワケない(・・・・・・・・・・・・)じゃん!)

 

 良くも悪くも生徒間で噂が飛び交い続ける、そんな非常識な剣士が及ぼす対抗戦数多への影響を、受け持っている担任や1年担当の教師たちが考慮しないはずもない……という事に。

 

「ってことは……? ……いやいやまさか……」

 

 思いついた可能性を前に、それでもあり得ないと言いたげに首を横に振るリサ。だが表情には僅かながら、否定しきれない疑念の色が浮かんでいた。

 

 

(さすがにソレはね……)

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 ―――そして翌日。

 クラス対抗戦を五日後に控えた日。

 時刻は午後。

 

「…………」

 

 後半の授業もまたいつも通りな雰囲気で進む(がっきゅうほうかいひっしな)はず……であったのだが、ムウはどういうわけか教室を出て、プリントらしきものを手に学院の敷地外で佇んでいた。

 

 否。厳密にはプリントを握っていないだけで、ムウだけでなくガロウやカイデル、そしてB組の筆頭生徒と言われていた女子まで居る。

 

「イチチ……化物かよっつう」

「ぐぅ、さすが教員と言うべきかのぉ」

「……うぇ~」

 

 ……よく見るとムウ以外の頭には大小さまざまなタンコブが出来ており、当然と言えば当然だが端からお行儀よく呼び出しに応じた訳ではないらしい。

 

 が、悪ガキの坩堝(るつぼ)をまとめる教員相手に武が通じるわけもなく、お見事返り討ちにあった様子。

 

「めんどーな授業(じゅぎょー)を省けるのはウチとしちゃー歓迎(かんげー)なんスけどぉ……なんで一足早くクラス対抗戦の会場(かいじょー)に行かせられるんスか?」

 

 誰かを待っているのかその場から動こうとしない四名の中から、B組筆頭女子がそう切り出す。ひとまずここにいる理由、集められた訳は分かったが、仔細に関しては知らないようだ。

 

 さて、他三名の答えはと言うと。

 

「んなもん俺が知るかよ」

「寧ろワシが聞きたい」

「ん」

「いやいや全滅て」

 

 まさかの展開

 

 それなりに教師陣からの印象も良かろうムウも知らないとなれば、本当に誰にも伝えられていないのだろう。いやはやあまりにいい加減。

 そんなテキトーにも程がある呼び出し方をした教師は誰か? うずうずしながら待つこと暫し。

 

「飛び級ちゃんは予想通り無傷ですね、だな」

「この学院では珍しいもんだ……」

 

 来たのはヘルガ……と、もう一人。大きな向こう傷が目立つ厳つい、カイデルやダン以上の巨漢の教師。

 

 そしてなんと。

 

おうおう揃っとるなぁ? 優等生に筆頭三名

 

 堅気に見えないスーツにサングラス姿の男、イグゼ学院長であった

 

 これには三人も目を丸くし、ムウもやや口を開けて呆けてしまっている。そんな彼ら彼女らに構わず、イグゼは背を向けて歩き出す。

 

「時は金なり、ってな。時間が無いわけやないけども、早め早めが吉や、ほな行くでぇ」

「いやマジで説明無しかよ!?」

「道中説明いたしますよ、だぜ。ほら、歩いた歩いた」

 

 下手に放り出して後々面倒を呼ぶよりはマシ、と言うのは流石に分かるか。まずムウが歩き出し、そこへガロウ達も続く。

 

 されどこんな状況、悪童無関係に言われるがままで進ませるわけもなく、またもB組筆頭女子が問いを投げる。

 

「なんかする気じゃないっスよね……?」

「疑り深いな、B組筆頭(シャイネ=ティフォン)。それを悪いとは言わん……だが仮にそうだとしても、先の一幕はともかくその気なら一筋縄じゃ行かんだろう、お前らは」

「それになぁ……C組筆頭(ムウ=マジャクゥ)が居る時点で厳しいですよ、ってやつだ。ぶっちゃけな」

 

 B組筆頭、改めシャイネへの返答を受け、ここで一時的にムウへと視線が注がれた。

名指しされたのもあるとは言え、またガロウ達もムウが評価されているのは知っていても、そこまでとは思っていなかったのかもしれない。

 

「……教員も、そう思うちょるか……ほんに強いのぉ」

「おー」

まるで他人事やん。相変わらずオモロイやっちゃわ飛び級特待生」

 

 そしてムウ、相も変わらず。

 分かっているのかいないのか、絶妙に不明なニュアンスで返す。

 

 一応彼女なりに噛み砕き、呑み込んではいるのだろうが……。

 

 

 ――そんな雑談をしながら歩くこと暫し。

 

 どうやら徒歩で行ける距離では無かったらしく、どこか古めかしい列車に乗り、人狼学院付近の敷地外からも遠ざかって。

 途上で『小さな女の子が危ない』と勘違いされかけ、制服が同じだったことで事なきを得る、などと言った冷や汗ものの要らない珍事を挟み。

 

 ムウが、一体どういう感情なのか目線だけで少し下を見る、妙な光景を交えつつ。

 

 とうとうと言うには近く、意外とと言うにはやや遠い、とある森林地帯に人狼学院筆頭一行は辿り着いた。

 

 一見すると取れたて新鮮な緑の広がる自然公園のようだが、所々に東屋やアスレチックのような物が見える。

 人狼学院か、イグゼ学院長他教員か、あるいは縁ある魔剣士協会か。いずれにせよ近しい誰かが所有している土地なのは理解できる。

 

 注意すべき猛獣や魔獣の気配もなく――現にムウの【眼】で捉えた反応は鳥類のみであり――気兼ねなく魂装を振るったり、プチサバイバル方式でのバトルロワイヤルをやるならば、まさにお誂え向きだろう。

 

「クラス対抗戦はここでやるんやでぇ」

「ぬ、ぬぅ」

「マジか~……いやよーいドンでは流石に無いと思ってたっスけど」

「気合めちゃめちゃ入ってんじゃねぇか!」

 

 不良校でも強豪校、チンピラの集いでも魔剣士協会との繋がりあり。それらの影響と人脈は伊達では無いという事だ。

 

 そんな想像以上の『持ち物』に驚きを隠せない同級生達。その傍らのムウはと言うと、無表情なのか違うのか分からない顔で周囲を見渡しながら……地形を頭に叩き込んでいた。

 

(インプット……集団戦、個人戦、格目的、で、地形利用を、目論む、ならば……)

 

 思考内、戦闘第一、依然変わらず。

 どれだけ染まっていてもやはり尖塔(いぜん)のクセは抜けないのか、それとも流されるままではなく前向きに捉えて敢えてそうしようとしているのか。

 

 もしくは、クラスのみんなのために頑張ろうとしているのか……真剣に己へ眼前の森林地帯の光景を刻んでいく。

 

 

「ほいほい! っとぉ」

 

 それを知ってか知らずか、イグゼはいきなりとぼけた口調で手を叩いて四人の注目を集め、一拍置いてから意地の悪い笑顔で口を開いた。

 

「そんじゃまずは四人とも自己紹介せい。流派は必須やが他は何でもええで? 簡素でも良し! なぁにお前らは各組最強の筆頭さかい、今更流派程度知られたところで困らんやろ? ちなみに拒否権は無い」

「じゃろうのぉ!」

 

 とは言え文句を言っても仕方が無く、何より黙っていても埒が明かないため、まずはとばかりにツッコんだ勢いでカイデルが口火を切った。

 

「ワシはD組筆頭、カイデル=ランデスじゃ。流派は散々見せちょるが金剛(こんごう)流だけぇ」

「あ~……やんの? ……ウチはシャイネ=ティフォン、Bの筆頭(ひっとー)、んで刃衣(はごろも)流っスー」

「みんな知ってんだろうがよ……俺様はガロウ=ユンドラー、A組の頭で流派は百花繚乱(ひゃっかりょうらん)流だ」

「C組筆頭、荒天(こうてん)流、ムウ=マジャクゥ、です」

 

 そして。

 四者四用に性格が出る、いまいち目的が謎な自己紹介を終え、各々しっくりこない表情をしている四名へ。

 

 

「お前ら四人で五番目のチームやから、頑張りや」

 

 

 イグゼはサラリ、こう告げた。

 

 

「へぇ俺たちが……」

「なるなる、ウチらが……」

「ワシらでか、じゃけぇ先の……」

「……お~……」

 

 

 

「「「はあぁぁー!??」」」

え?

 

 

 リサ=ラクーナの予想。

 恐らくはムウの孤立か特別措置。

 

 それはどうやら大外れであり―――同時に、大当たりだったのかもしれない。

 

 ……ああ、波乱の予感が、漂い始めた。

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