刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~ 作:阿久間嬉嬉(新)
それではどうぞ。
「俺ら四人で五番目のチームっつったのか今!?」
A、B、C、Dの計四組によるクラス対抗戦。
ゆえ、必然四つ巴の戦いを想定していたろうムウ達に対して告げられる、
真っ先に声を上げたのがガロウであっただけで、他もまた同じ感想を抱いていることが顔のみでも分かる。
変化に乏しいムウすら反応あり。傍のカイデルやシャイネと比べてやや察しづらい程度。
日頃彼女と共に孤児院で暮らしている者、学園生活をしている者らから見れば、分かりやすく表情を崩しているなぁと理解できよう様相。
「おう、そう言うたで」
対するイグゼ学院長は依然、涼しい顔のままだ。
「極少数で他のクラスと
「ああ、マジやで」
古風な番長帽子を振り落とさんばかりな迫力のカイデルにも同じく。
「ま、待っ、ちょっ、一個
「うん、その通りやね」
薄茶と紫なロングウルフ&ハーフツインが乱れる勢いのシャイネにも同じく。
イグゼ、努めて泰然自若。
……なんだか今年の春先にもあったような、非常に既視感のあるやり取りの最中、ムウはすでに表情を戻し……てはいるが少し首が傾いていた。
そりゃそうだろうとしか言いようがない。伝達があまりに急すぎるのだから。
と、彼ら彼女らの更なる質問を一旦遮るかのようにヘルガが手を掲げて静止し、男性教員が口を開く。
「……半分以上言い訳になるがな、実力差を加味して選抜チームを組ませる例外は以前からある。ただその選考に時間がかかるゆえこのような形となるだけだ」
「お仕事体験があっただろ? あれがクラス対抗戦の前にあるのは一重にこの為でもあるのさ。己の実力を示せない生徒が不参加になるのはそう言う事ですよ、って奴さ」
今回だけの事ではない、との前置きから一拍置いて、ヘルガも説明し、これで多少なりとも合点がいった。
なるほど。
すなわち魔剣士協会と言う外部の評価、体験を得てステップアップして見えて来る各々の伸びしろ、その辺りを考慮してスタンダードにするか、イレギュラーにするかを毎回決めている……との事らしい。
ムウはともかく他の所為とは違うのでここまで引っ張ったのだろう。
「「まあ纏めるのが苦手な教師が多いのもあるが……」」
「「「「おい」」」」
あと要らないカミングアウト衝撃の事実に異口同音も追加された。
地味にムウも確り声を合わせてツッコミを入れていた辺り、納得のハシゴを外されたショックがいかほどか想像に難くあるまい。
教師も教師で悪ガキどもよりマシなだけの人狼カラー増し増しとはいっそ、さもありなんと言うべきか……。
「今二人、が、選ばれた、理由も、それ?」
「……知恵者扱いありがとな飛び級ちゃん。そんでまあ……
―――本来ならここで、イグゼ学院長がひょいと割り込み追加の説明でもしそうなところ。
しかし彼は少し離れた位置で見知らぬ男性と会話を始めており、所々聞こえてくる内容からしてこの土地の管理者である様子。
語調こそ知人のような気安さではあるが借用について色々真剣に詰めているのだろう。同時に、
編成が遅れたのもやや関わってはいようが、いかにフットワークが軽そうに見えようともイグゼは学院長。そして相手も魔剣士協会のお偉いさんと見える。
ならば多忙ゆえに、ムウ達を連れ
紙とペンらしきものもあるのでなあなあの口約束で済ませる気もなさそうだ。本当に気合が入っていた。
けれど後回しの脳筋仕草は変わらない――無情である。
さて……間違いなく数少ない例外であろう
と、ここでシャイネがはたと“あること”に気付いたような顔をする。
「そ~だ、ヤバヤバのヤバと思ってたけどC組のチビッコ1人でさ~……お釣り来るくない?」
「あ? ……言えてんな。むしろ結果見え見えじゃなくなってんのかコレ?」
「乱闘で独り勝ちを幾度獲っちょったか……っちゅう勇猛さじゃけぇの」
先も言ったがムウは現在全戦全勝で、乱闘では愉快な創作オブジェをいくつも積み上げてみせる様相。ガロウもシャイネもカイデルも、回数こそ違えど皆一様に挑んで惨敗している有様だ。
そんな少女がC組から独立チームとなったのなら、確かに勝敗が分からなくなったと言っても過言ではない。
ガロウは思い出す。
遠距離ならばと砕けた地を利用した直後、剣で引っ掛けて爆速で投げ返してきたことを。
避けようとしたら飛び道具越しに剣でぶっ叩かれ地形とサンドされた事を。
カイデルは思い返す。
研修の成果の実践だと挑んだら向こうの成果である荒天流の技で、両方の剣が折れたことを。
折れた剣を即突き立て支柱にし、舞っていた刃を脚で挟んで振り回してぶっ飛ばしてきた事を。
シャイネは思い浮かべる。
剣の鍔で受け止められ、引いて仕切り直そうとしたら指で摘ままれて、動けなかったことを。
そのまま投げ上げられたうえ、バックスピン蹴りからの木剣ぶん投げをくらった事を。
そして三者ともに乱闘について思う。
落ちた剣を掴んで投げるわ、蹴っ飛ばすわ、踏み砕いて跳ね上げるわやりたい放題なこと。
油断すると人が飛んできたり、荒天流で皆が宙を舞う事を。
これはまだまだ極一部、他にも、他にも、他にもたくさん……選り取り見取りな技巧を駆使して学年問わず勝ち越している。
それに人数差こそ厄介だがガロウ達とて筆頭と呼ばれる生徒――その組トップの実力者の証である人狼学院生徒間独自の称号を持つ者――なのだ。
ムウが大立ち回りをする傍で最大でも数人相手し続ける事は可能であるし、相性次第ではスタミナが続く限り圧倒する事もでき、一対一ならそれこそ負けない。“よーいドン”ではないのだから後は作戦次第であろう。
……希望はそこに見えている……
「あ、言っておくけど飛び級ちゃんには制限あるからよろしくな」
……哀れ即座に打ち砕かれた……
「ちぃ……やっぱあんのかよ」
「すまないがな。そもそもクラス対抗戦の狙いは不意に同胞と組んだ際の慣れ、個々の実践的な力の向上、そして大雑把な実力確認。飛びぬけ
ただし理由はごもっとも。
そりゃあムウが暴れ散らかして他組が瞬殺祭りになったり、仲間が置き去りになったりしては、1年生徒の正確な評価どころの話ではなくなってしまう。
1対1の催し自体もあるのでそちらなら話は異なろうが、今回はチーム戦、仕方がない措置なのかもしれない。
「飛び級ちゃんはスペシャルでイレギュラーなのさ。こんな事態は今まで本当に無かったから実はこっちも急ごしらえに驚いているんですよ、ってね」
「暴に、振り切れただけ、では、なかったと」
「そちらも否定はしませんよ、だけどな」……ヘルガはそう返して肩をすくめる。
一応、ムウに見た感じ気負ったり気に病んだりしている様子は見られない。というか逆に合点がいっているようにも見えた。
(実力差、自体は既に把握、完了。である、ならば、向こうが用意、する選択肢、は、如何に……)
それどころか制限なにするものぞと切り替え早く思考を巡らせてすらいる。
一見すると余りにも冷静が過ぎるのだが……されど、実は振り返ってみれば当然のこと。
『戦闘する・しないの両極端ではなく己の
『戦いをどう捉え、闘い方をどう変えるのか』
――そして……『剣士になるとはどういう事なのか』
彼女が通しで目的としている命題について深掘りするチャンスとも言えるのだ。ならば聞かされた当初こそ驚けど、消化さえできればいっそ乗り気となっても決しておかしくはあるまい。
そんな内心を知ってか知らずか、ヘルガは制限の詳細について彼女達へと説明し始めた。
「制限は大雑把に分けて3つ。
1つ、『攻撃として使用可能なのは基本の振りと荒天流だけ。防御や回避その他は除く』。
1つ、『チームメンバーから一定以上離れてはいけない、1人傍に居ればOK』。
1つ、『ムウ=マジャクゥ1人が残った時点で負け』です、だ」
最初の制限はかなり分かりやすい。ド級の我流がムウなのだから、それらを全て許してあまねくアレコレやられたら収拾などとても付かない。
さらにこたびのフィールドはアスレチックある森林内部、化物馬力の小柄な体であちこち飛び回られた挙句、使う手すら未知ではどうしようもないどころではなかろう。
だからこそ絡められた攻め手への縛鎖。
基本の振り、つまり大振りな縦と横と突き。そしてお仕事体験一番の成果である〈荒天流〉。それ以外攻撃は軒並みアウトとなる制約。
曰く「ある程度ゆるくはしますが無手と投げモノ封じられるだけでも効果はあるでしょう、だ」とのこと。
(裏に、1つ……)
また不意に【アレンの剣技】を使う可能性を封じる目的もあるのだろう……少なくとも、ムウはそう受け取っていた。
そうやって彼女が少しばかり踏み込んで考える横で、別の制限の話もまた続けて広げられていた。
「距離の制限か、何となく理解できるのぉ」
「つーか最後にも掛かってるっスね、ソロで
「当然だ。こちらから見たマジャクゥの本領は “自由” 、攻撃のみを縛れど意味はない」
「そもそも皆の強さを確認すると言ったでしょう、だ。飛び級ちゃん頼り切りじゃあダメだぜ?」
「はっ! 端からそこまでおんぶされる気はねぇよ、ラインが明確になっただけだぜ」
必然、連携が重要度合いを再認識させられる件だったのはその通り。
そしてガロウの言ったように、自身でやるべき範囲が分かっただけでもある。流石の人狼学院生筆頭達でも倍以上では聞かない集団相手へ個人で挑む気はサラサラなかった、という事だ。
ムウが飛びぬけて異質なだけ。数の暴力が脅威なのはどこでも誰でも変わりないのだから。
……しかし、こうなると極少数でどう動き、包囲されぬようどう立ち回るか? と言う話になってくるだろう。
現状4名中3名は魂装を使え、内1名は
されど魂装使いは少数成れど彼ら彼女ら以外にも居り、そちらも無視はできない。
幸いクラス対抗戦はポイント形式で、『五番目のチーム』は人数もあって得点そのものが期待できず、そちらを先に片付けようとする間に後ろから撃たれる可能性も考慮される。
なにより総合力とフットワークが段違いなのだ。どれだけ分けても大人数と化し、少人数ならば即行叩きのめされる、そんな相手へ行儀良く連携し全組で包囲網を布いて挑めるかと言うと……少なくとも人狼学院と言う場では無理があると言えた。
「んでも考えることいっぱいで頭いてーっス……うへぇ」
「…………」
尚、皆は与り知らぬことだが。
万が一そのように包囲へ向け動こうものなら、ムウの経験から来るもの含めた感知と【眼】の仕様に寄る探知を用い、ガロウ達を連れてさっさと包囲網の薄い部分を突き破る。
そのため、実は最初から成立しえなかったりする――という割と残酷な現実が待っているのは余談としておこう。
「ちなみに他の1年達も今頃第五のチームの発足を知っている頃だ。また今日からクラス対抗戦まで実質的な『登校日』になる。
「先に、連れて来た理由、は、それが、主体」
「ははは、まあ既にお分かりの通りですが、だな。今の内に地形にも連携にも慣れて下さい、だ」
ヘルガの宣言これを以って、四人がここへ連れて来られた理由の全てが開示された。
たった5日間と言う短い間で、四人は今までぶつかるだけだった相手とどう息を合わせるのかを。他のモノ達は主戦力であり大戦力の1を欠いた状態でどうするのかを。
それぞれがそれぞれで試される対抗戦。
“可能な限り自由はくれてやった、あとは何とかしてみせろ悪童共”
そんな声が聞こえてきそうなほど大雑把で、力技で、しかしてそれなりに考えてもいると
もはやわがままを言っても仕方がない。
否、わがままを言う理由などそもそもない。やる事はいつもの乱闘のバージョンアップでしかない、そうとも言えるのだから。……ならば受けて立つ以外に選択肢など存在しないのだから。
「白々しいけれど――大丈夫か、飛び級ちゃん」
「うぃー」
「! …はははっ、良いサインを受け取りました、だぜ!」
最も重荷を課せられた少女によるGOサインも出た。
―――などと意気込んだは良いものの。
「肝心の仮想敵が居ねぇんだよな」
「ん」
「やれる事はやっちゃるが微妙に躓きおったのぉ」
「どーするんスかこれ」
船頭多くして、山昇らずとも、水面も進まず。
ヘルガ達が一旦学院へと戻っている間にも意外と真面目に話し合い、太刀合おうとする四名ではあったが、これこの通り袋小路に迷い込んでいた。
最初こそ三人がかりでムウを相手する鍛錬法を思い付き、それ自体は中々どうして上手くいき……途中で「あれチビッコは?」とシャイネが呟いてこうなってしまったのである。
ムウが即席で合わせる事自体はできよう、されどもガロウ達からすると手札が制限されていて尚いきなり突飛な事をされるに等しい。それに先ほどまでやっていた事は《1人の強者》に対する連携と地力のアップ、多対多の役に立つかと言えば微妙なところ。
数十余人ほど用意してくれなどとトンデモない事は言わない。
せめて数人、それなりに強い剣士が居れば……殆ど無い物ねだりだが、今必須なのはその無い物ねだりしている対象なのである。
ジレンマだ。
このまま今日一日、先生達が帰って来て解散を言い渡すまで悩んだままになるのだろうか。
「二、三年に当てとかないっスか? それか外部」
「ねえに決まってんだろ、悪友は居っけどもろもろ足りねぇぜ」
「ワシの人脈も少々力不足じゃけぇ……」
「……!」
そう思われた、が。
三人が何の気なく切り出したその言葉で、ムウはとある“アテ”がある事を思い出した。
「はい」
「おっ? なんスかチビッコ?」
「強い、上級生、に、心当たり、あり。依頼を、敢行する」
「え? …あ! そっかそーゆーこと?」
そう――リサやダン、ザハック達と言ったヘルガのお墨付きかつ剣王祭出場が見込まれているメンバーたちの事である。
彼ら、彼女らならば、実力面は十二分に満たしていると言えよう。つり合った多対多の鍛錬相手としては申し分ない。
「魔剣士協会前からバリバリやってんだったなテメェは」
「ん」
「考えてみれば当然。しかして灯台下暗しじゃのぉ」
入学前に出来た縁が思わぬ場面で光明の一手と変わる。……即座に翻ったとはいえ、当初は我流かつ幼いからと噛みつかれていた一幕からのコレは、とても想像できなかろうて。
……それはまあともかく。
ひとまずの“道”は通せそうだからと互いに剣を振るいあって可能な限りの調整を行いつつ、ヘルガ達が戻るまで待機し。
戻ってきたのはまさかの『魔剣士協会のお偉いさん』で、「こっちでトラブルあったんで途中まで自分達で戻ってこいだそうだ」というかなりい加減な通達と行きより距離短い切符代を手渡され。
四者四様な反応を見せた後、ムウが居る影響が大きいのかは知らないが、これまたすんなりそのまま駅へと向かい。
「C組もガチ暴れたんスねぇ」
「お~……人気者?」
「白々しいぞてめぇ、人気者だろ言わなくてもよ」
「半々に分かれたのは意外じゃったが」
これにて漸く、クラス対抗戦の連絡、もとい前哨戦とも言えるてんやわんやは終わりを告げるのであった。
「おやおやぁ? 人狼のクソバカ連中がこんなとこに居んのかよ?」
「「あ゛ぁ?」」
「うっげ」
「…………」
訂正。
二度あることは三度ある、と言うべきか。
目を向けた先に見えた、えんじ色の髪と曲剣、背後にいる複数の人陰。
白と黒を基調にした制服が……獰猛な予感混じりの“それ”を如実に告げていた。
Q13.一億年ボタンの世界って列車あるんですね……。
A.と言うか原作からしてプライベート機やヘリがあります。なので体感だと未開拓の土地が多い近代+αな世界の方が近い印象です。