刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~ 作:阿久間嬉嬉(新)
あと流石に教師オリキャラとガロウ以外出さないで書くのは難しいため。人狼学院のキャラはコミックス版の方からも名あり・ビジュアルのみ関係無く出します。
入学試験は前途多難
「いや、マジか……マジかぁ……」
抑えきれぬ、驚愕の声音が口の端から漏れ聞こえる。
薄い空色の髪が合わせて揺らぐ。
「…………」
抑えるものすらない、それゆえ1つの音すらも紡がれない。
灰色と
高身長な女性の目線の先にあるのは、悍ましいぐらい鮮やかに切り捨てられたダミーの鉄人形で。
小等部と言っても過言ではない少女の手に握られているのは、柄がややひしゃげた剣で。
ついでに言うならば、そんな有様の剣があちこちに転がっており。
どうにもいまいち掴めない状況の中。
女性の方が、苦笑いの半笑いで……ぽつり呟いた。
「超絶的鬼才なのか違うのかハッキリして頂けますか、ってやつだこりゃぁ……」
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―――それでは順を追って説明しよう。
まず人狼学園への飛び級の入学を承諾した少女・ムウは第一試験を受けた後、勧誘の件に際し孤児院へ来ていた女性教師・ヘルガ=ヒルシュベルガと1対1で戦う簡単な第二入学試験を行う手筈となっていた。
その試験会場は、人狼学院の屋外闘技場。
ヘルガとともに向かい、武器庫の前で振り返ると同時に注意事項がズラッと並べられ、「これ以上の説明は面倒、習うより慣れましょう、だぜ」と許可も出たのできびすを返し、そのままムウが武器の元へ歩き出そうと……した背中を「あ」と何かを思い出したヘルガが呼び止める。
「そうだった名字! 飛び級ちゃん名字……ある訳ないかぁ。でもこれ以上のゴリ押しは……」
「……???」
どうやら生徒登録の規則なのかそれともこれ以上悪目立ちしない為なのか『名字』を教えてもらおうとしたらしい……のだが、ご覧の通り。そしてご存じの通りムウは孤児院の出で、そもそも異世界から色々得た代わりに様々失い落っこちて来た存在だ。
あるわけが無いのだ、名字など。
こうなるともう無い所から決める必要があるが、幸いにして孤児院がある。そこから取ることはできるだろう。
「その辺も含めて相談してから来てくれよ、いや、マジで頼むぜ……」
「ん」
ヘルガの苦笑いからの懇願をムウはいつものように即決で承諾し、今日はうっかりのせいで試験無し。まだ時間はあるものの予定を合わせなければならないのか、数日後に再び試験が行われる手筈となった。
ちなみにそれを聞いたクノン達は、当たり前のことを忘れていたことと、何も無くあっさり帰ってきたこと、その他諸々でとても言い表しがたい表情をしていたとかなんとか。
「それで、名字は決めてくれたか?」
「ん」
試験の場であった屋外闘技場に再び赴いたムウとヘルガ。
……地味に、血の気が多い学院にしては先日も今も誰も通らないのだが、入学式がもうすぐそこだからであろうか? それとも先生たちが強引に大人しくさせているのか……定かではないがまあ厄介ごとの種がまかれるよりはマシであろう。
数日の暇があったのもあろうが、ヘルガの懇願を聞いてしっかり名字を自身につけて来たらしいムウはどこか充足感があるような、いつもと変わらないような、そんな表情で頷きを返す。
「ありがとうよぉ。んで、孤児院の名前か?」
「違、う」
「じゃあ、あの保母さんの名字か? それとも孤児院長?」
「違、う」
「……仲良さげだった、嬢ちゃんから?」
「違、う」
なんと全滅。
まさか順当で真っ当なところからはつけていないと知り、ヘルガは一瞬ばかり呆然とした。
……じゃあどこからつけたのか。と言うかちゃんとした名字になっているのかそれすら怪しくなってきていなかろうか?
どうして名前にまで奇怪が紛れ込むのだろう。入学試験前から既におかしなことが起きているせいか、ヘルガはすぐに立ち直れず驚愕と苦笑いを往復している。
それでも促した手前、なにより登録は必須なので聞かぬわけにはいかず、数回の深呼吸を得てから切り出す。
「あ~、そんじゃあまずは名前から聞くぜ。なんて名字にしたんだ?」
「マジャクゥ」
「良い名前じゃないか、呼びやすい!」
ひとまず響きはおかしくない名前であり、胸をなでおろした。
だが先の通り由来が分からない。
もちろん是が非でも聞かなければならない事項ではなかろうが、三度の否定を得たからかヘルガはどうしても、その由来が気になってムウへ質問を投げる。
「けど、どこから取ったんだ? 孤児院でも保母さんらでも嬢ちゃんでも無ぇんだろ?」
「木」
「は?」
「木剣、の、材料。あそこ、の、近くに、生えてる」
「マジで!?」
命名ネタ、まさかの木材。
しかしヘルガからすると予想の外の更に外であれど、ムウからすると実はかなり拘りがあったりするのだ。
と言うのも……燃えカス程度でも熱を、火種を宿すに至り、今尚どうしても受け取ることを否定できず、そして
要は両者も知らぬ間に結ばれ、片方が未だ気付けていない情の証であり、そう考えるとどれだけこだわったのかが分かるだろう。
まあ、ムウはまず間違いなくそれを話そうとしないので、ヘルガの中では永久に迷宮入り。浮遊する違和感に惑い、格闘し続ける羽目になるだろうが、それは余談だろう……恐らく。
「ビックリはしたが……名字が付いたならそれに越したことはないぜ。そんじゃあ、宜しくお願い致します、ってやつだ。ムウ=マジャクゥ!」
「ん」
最終的には何とか吞み込み納得し、ムウも再びヘルガを見ながら頷いた。
―――ここに来てようやく試験開始である。
ちなみに第一試験は筆記テストなのだが、事前に勉強していた範囲で対処できる程度であり特別挙げるべき点が無いため割愛とする。
……どうしてここで名字に気が付かなかったのだろうか。抜けているのか。
……そしてムウが中等部の勉強を詰め込んでいたとはいえ、それでも限られるだろうにどこまで学力が低いのだろうか、この人狼学院は。
とは言え今は関係無いので試験へ話を戻そう。
つまり剣が断ち割られているのはそのせい……ではあるのだが、単純に戦ったからそうなったとは少し言い難かったりもする。と言うのもムウの出自と外見年齢的に、そもそも剣術を習っていなかろうとヘルガ側が少し条件を付けたのだ。
曰く、『好きに動いてみろ、我流でも構いませんので自由にお願いします、ってことだ』。
そして始まってからものの《1秒》で、それも受け前提かつ手こそ抜いていてなお反応はできていた筈なのに途中で鋭角に軌道を変えた脚に剣を飛ばされ、ヘルガは驚愕と同時にむしろ喜びを覚え笑うなど、試験はおおむね和やかに進んでいた。
つまり冒頭の一幕の原因は
何度か模擬戦を繰り返し、その全てでヘルガを圧倒して見せたムウ。
軽く攻めても紙一重で……文字通り髪を貫かせて掌底を打ち出してきたり、やや屈んで避けるならまだしも通り過ぎざま肘鉄で押し上げてきたり、そんなバカのクソ度胸にヘルガも喜びに混じり若干引き出した頃。
するすると試験が進んで日の高い内からほぼほぼ人狼学院への入学が決定したこともあって余裕が出たらしく、ヘルガはムウにある1つの提案を出したのだ。
―――ついでに、今の内から流派の基礎の基礎を学んで得意不得意を見つけませんか、ってのはどうだ?―――と。
まず、当然ながら剣術のけの字もまだ学んでいないムウは先程からずっと我流であり、ほとんど剣も振っていなかったりする。
(今はそれで良いんだけどもな……)
ただ我流を嗜むなど酔狂モノか三流未満しかいないこの世界に置いて、所属流派がどこなのかは非常に重要な要素となる。
特にムウは飛び級かつ孤児の出、ならば箔をつけるという行為は保身としてもより意味を持つ筈だ。こと人狼学院というガラの悪い連中に囲まれた場所に居続けるなら尚更に。
「んで、どうだ?」
「…………」
されどムウは何度か記述している“かの理由”でとても乗り気にはれず、だが語るにも曲道が多い類であるソレを話すには色々足りず、直でその提案を断るべきか否かで黙り込んでしまう。
これまた当然だがヘルガはその理由を全く知らない為、もはや入学は決まったも同然なのだから今度は剣術混じりでやってみよう、と半ば強引に承諾と取った。
「何でもいい、思うがままにふるって見ましょう、だ!」
ここまで来たならやらなければならかろうとはさすがにムウも思っていたらしく、木製よりもずっと丈夫に作られた柄を強く握り、フルスイング。
起きた“剣線に沿う異様な爆風”でヘルガは踏ん張ったまま後ろに勢いよくスライド。凄いじゃないかとこの時は素直に褒めた彼女だったが……ここで多少の違和感を覚え始める。
そして―――
―――異常事態がここに来てようやく発覚し認識されたのだ。
気分を良くしたヘルガはまず自身が務める荒天流を教え、それがダメだったので「教官の真似事やってるからその辺には明るいぜ、広く浅いがな」と他流派の基礎も教え、でもその術理の尽くがぶん回しになって、上のありさまで。
しかも問題はそれだけではない。
「いや、飛び級ちゃん……なんで君、
そう。
なんとムウは才能と腕力に任せただぶっきらぼうにフルスイングしているのではなく、あたかも『剣術の基礎だけは務めたような体重移動や剣の重心を意識した形で』動いていたのである……。
だがフルスイングや剣術もどきには変わりがない。連撃は可能だがそういう事ではない。加えて爆風も「出さないようにできるか?」と言われたらちゃんと実行できる始末。
ゴメンなんなのおまえ?
……そんな身も蓋もない心の底から出た感想が、ヘルガの口から思わず飛び出してしまったこと、責められる人は誰も居なかろう。
オマケとばかりに最終確認のダミー斬りでは剣で鉄人形をまっぷたつにされ、振り方は本当にアレなのに切り口は感嘆するほど滑らかで綺麗というトドメまできた。
ゆえに。
「超絶的鬼才なのか違うのかハッキリして頂けますか、ってやつだこりゃぁ……」
先の1言に繋がる。
そりゃあこうもなるだろう、と言う話だったのである。
(しっかしどうするかなぁ。どんだけ強くても絶対悪ガキどもに舐め腐られるし、十中八九で面倒が起きるぞ……)
ひとまず単純な “強さ” についてはこれ以上なく理解できたためにその辺りはヘルガも心配などしていない。むしろ、人狼生徒がムウへ喧嘩を売って秒殺されるオチすら目に見える。
されど面倒が起きよう頻度、そこからの学院内への波及、もろもろを踏まえた場合早々楽観視はできなかった。
孤児院と絡めた条件付き、かつルールにルーズな面を利用してようやく招き入れた『規格外』。そんなムウを不意の事故や不可抗力で手放すなど、言わずもがなあってはならない。
(つっても代案があるかって言うと……)
じゃあ荒天流を名乗らせてみるか?
ふと浮かんだ1案は、確かに豪快さ自体はフルスイングやモドキに似てこそいるが人狼学院は腐っても強豪剣術学院、すぐにバレるのがオチ、という結論に至ったため却下。
飛び級だからまだ我流なのも仕方がないとするか?
……そんなもの時間稼ぎにしかならない、これまたバレるし我流蔑視とは無関係なので止まる訳じゃないのがオチ、に帰結したため再び却下。
新しい流派だとでも言うか?
……オチ以前に論外なので却下。
(あー……もうあれだ、事態の速やかな収束を第一の目的とします、ってやつだわ……)
結論、どうあっても悪ガキどもは問題を起こしそうだしムウも避けられなさそうなので『殴らせるか殴って解決』させよう。……と、ガラの悪い学校らしい方へシフト。
(理、解。……どう、しよう、かな……)
ついでにムウも内心で改造されて摩耗し擦り切れそうになる前の、元の人間らしい思考が、ほんのちょっぴりUターン。
―――とまあ、模擬戦やらヘルガの内心やらでの紆余曲折こそこそあったものの、とりあえず試験はつつがなく終わり。
「ひとまず今日は孤児院の方へ帰っときな、また数日後に呼び出すからよ。結果はほぼ決定してんだ、吉報をご報告するべきでしょう、ってことだ」
「…ん」
これにてようやく全課程が修了、孤児院へ帰宅の歩を進める段階と相成ったのであった。
「どうも邪魔しに来ましたぁ~。なあんてねぇ」
「ここかァ!? 特別扱いで調子こいてる新入りが居ンのはよぉ!?」
「覇気など微塵も感じんな……ふん、どこに居るのやら」
「うん、予想通りの展開ですね、ってやつだわこりゃ」
「…………」
いいや……どうやら、まだ波乱は続きそうである。
自問自答系Q&A
Q1.ムウがこれから魂装を使えたりする可能性ってありますか?
A.ないです、0%です。
そもそも一億年ボタンの世界に生まれた存在ではなく、外部から来た上で改造されています。
後で説明を入れますが「霊力」と呼ばれる力も原理上絶対に発現しません。