刃尾少女に装い有らず~億年の素振りに我流で張り合ってみた~   作:阿久間嬉嬉(新)

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行ってらっしゃい

 ―――2連模擬戦の結果は言うまでもなく、ムウの完勝であった。

 

 

 まず意気揚々と名乗り出たのはリサ。

 

 彼女はサイドステップで接近してから『狐理(こり)流ー尾隠(おかく)し』の2連撃……で視界をふさぎ間、髪を置かず下に沿えた手へ剣を移して振り上げるフェイント(3ぼんめをはなつ)技をくり出し、ムウの様子を見つつあわよくばで決めようとした。

 

 ……のだが、仰け反ってギリギリで避けた上でその刃の側面に頭突きをかます、相も変わらずのバカ度胸カウンターで一気に流れを持っていかれ。

 少し焦って続けた、緩急をつけた4連撃に至ってはムウが時間差を見抜けていない、つまりまんまと引っかかる近寄り方をしたのにほとんど後出しで急停止される有様。

 引っ掛けるつもりが引っかかっていたとここでリサは気付くが……もう遅い。

 

 そして、向こうもまた左手へ握り直して躍動させた刃により右側面を強かに撃たれて吹っ飛び、転がってやり過ごそうとしたところに上からドロップキックが襲来。

 踏まれこそしなかったが衝撃で浮き上がった身体を、ほぼ屈伸か何かのような動きで降ろされた剣にて叩き落されそのまま試合終了と相成る。

 

 

 次に刃を交えたのは当然ながらダン。

 岩徹(がんてつ)流は防御が主体なためか攻めの技自体はシンプルで、その分だけ堅固かつ強固な守りを誇っている。

 

 しかしてムウは今までのそれと比べ身長差もあり勝手が違いすぎた。

 加え、ムウはさながらミキサーか何かのようにスピンし続け、両手に片手に目まぐるしくスイッチしながら剣をスイングし、拳も蹴りも使って動きを押し込め、止まらないどころか寄ってくる始末でダンは肝心の返し手を打ち出せない。

 振るう際に剣先ではなく手元をより強く意識する岩徹流でなければ、とっくの昔にガードを開けられていただろう。

 

 最終的に2、3度ばかり隙間に剣を差し込んでから、体重を乗せてタックルのように弾き飛ばす岩徹流ー砕進(さいしん)により仕切り直すことこそできても……たまった痺れで体幹をズラされこけさせられてしまい、そこへ1撃もらって終了と相成る。

 

 

 

 そこからさらに数戦重ねて―――そして、今現在。

 

 

「何と言うか……慢心してたことを教えられた気がするよ、アタシ」

 

 スカートが広がる事もいとわず大の字になって寝転んでいるリサは、半笑いでそんなことを呟いていた。

 肉体的な疲れからと言うより“そうしたいから”な感情の方がどうも強く見える。

 

 付近では頭をガリガリとかいているザハックが明後日の方を睨み付けていた。

 

「ただ圧倒的なだけであれば《強者》の2文字で終わろうな。しかし彼女は少しばかり異なる」

「剣術が剣術してないけど、だからこそ、なんかなぁ……」

 

 胡坐をかいて息を整えていたダンのこぼす言葉へのリサの返答、それに続くようにザハックが大きくため息をつく。

 

「技ですらねェからな、あのガキのアレァ。ただしパワーどッぷりよか、その場に応じて最適な動き……つッて良いのか分かンねェが」

「なぁんか鬼才とドベが目まぐるしく変わってる、感じ?」

「闇雲ではないが振り回していることは確かだろうな。しかして基礎の術理自体は準えている、だからこそこちらもまた惑う」

 

 そんな会話の後に、以前として突っ立ったまま側にいるヘルガと何やら話しているムウを見やる3人。

 

……マジでなンだあのガキ。そりャ特待扱いだわとはなンだがよォ」

「知らないよ。ただここまで色々ヘンテコだと、実力差あっても変に気分が上向くんだね」

「心の底から同意する。異質も過ぎれば割り切りと納得を生む」

 

 試験時のヘルガとほぼ同じ“思わず”といった具合で、これまた試験時のヘルガとほぼ同じ感想をこぼした。

 ただの身体能力だけで磨いた剣術が圧倒されたわけではなく、しかして身体能力(それ)や天性の才能はしっかりと根にも食い込んでいる。その戦い方はどうも相手に得る物をもたらす類のものらしい。

 

 実力者寄りらしいそんな先輩3人からもこれならば、入学後はさてどんな様相となりどんな噂が走るのだろうか……。

 

 と、そんな空気の中で話しを終えたヘルガが3人の元へつかつか寄ってくる。

 

「おら、人狼(うち)の主力剣士共がへこたれてんな、強豪の意地を身内にも見せろ」

「素直に邪魔だから立てって言えば良いだろセンセ……よ、っと」

 

 ヘルガに促されリサが起き上がり、のっそりとダンも立ち上がる。

 ザハックも数歩ばかり移動して位置を変える。

 

 最後にムウが遅れて皆の元に寄って来てから、ヘルガは口角を引き上げた。

 

「今年の人狼には追い風が吹いています、だ。ガロウ=ユンドラーに加えて……この飛び級ちゃんも入ってくるんだ、ワクワクするだろう?」

「うむ。そして五学院へ牙を突き立てるまたとない好機とも言える」

「せっかく色々見直したくもなったしね……そんで一泡どころじゃなく吹かせてやんよ」

時代はもう変わったッつう事を教えてやンなきゃなァ……!

 

 やる気十分なダン、リサ、ザハックの様子に満足したヘルガは続けて微動だにしていないムウの頭を優しく、ポンポンと叩く。

 

「色々と勝手に進めてしまって申し訳ない、ってやつだ。けど飛び級ちゃんの実力じゃどうあっても剣王祭には出てもらうことになる……やる気はあるか?」

「簡素でよろしい! それじゃあ……改めに改めて、宜しくお願い致します、だな!」

 

 心の底から喜びを表するヘルガ、そして先輩たちを見やるムウ。

 

 

 彼女は……決して人狼学院の者らを視界から外さず、そして表には欠片も出さず、ひたすら己の内で、自身の規範で反芻し続ける思考の渦の中に居た。

 

 ―――戦い自体は嫌いではない。

 ―――そも、好き嫌い事態を奪われているに等しいが。

 ―――『日常(とうそう)』に縛られている。

 ―――ここでもそうだ。

 ―――だが『日常』と日常の中の“とうそう”はどうだ?

 ―――ああ、やはり異なる。

 ―――熱が保持される。火種がじんわり赤いまま、そこにあり続ける。

 ―――【カエリタイ】は未だに消えぬ。耳鳴りよりもしつこく、そこに居座っている。

 ―――しかして緩和も起きている。

 ―――あの孤児院で、クノンとで……そしてどういうわけか、今の戦いで。

 ―――以前の強盗は違ったのに?

 ―――ならば。

 ―――やはり、やはり、ここで進めるべきなのだ。

 ―――取り戻せるのかな。

 ―――まずは、さらに、第1歩……。

 

 世紀をまたぐほどの『日常』を得た彼女は、しかしてどれだけ暴にまみれてもなお、のっぺりとした毎日である事に変わりはなかったからなのか。

 もしくは、『日常』と似て非なるこの形を今になって見つける事が出来たのか。

 

 分からない。

 だが何れにせよ。

 

 ムウが人狼学院に入ることを望む理由、居続けてみたいと希う理由の濃度は、ここに来て段々と強くなり始めていた。

 

 

 

 

 そして……その日の夕刻。

 

「じゃあほとんど合格したようなもの、で良いの?」

「……ん」

「良かったぁ……それじゃあ後は当日を待つだけだね!」

 

 ややキツく感じる西日に照らされながら、送られてくるまで待ってくれていたクノンとムウは、今日の試験での出来事について話していた。

 

 厳密にはだいたいヘルガが伝えているのでその答え合わせという側面が強いのだが、本人の口から? 直接聞けることこそ大事なためか、クノンはようやく安堵していた。

 

「制服については心配しないでって言ってたね。お高いと思うんだけどまあ特待生だからなのかな……」

「…………」

「あっ。か、改造とかしちゃダメだよ!? あそこの人達は皆やってるかもだけど、ムウちゃんはまじめでいてね!」

「……?? ん……?」

 

 ふと脳裏によぎった『人狼学園に染まったムウ』のイメージ、ギャルから不良から喧嘩屋からより取り見取り浮かんでしまったそれを振り切るように、強く強く告げるクノン。

 その勢いにムウは押されたか頷いていたが、十中八九で何が言いたいのかあまり分かってはいるまい。そもそも本人の内実的に改造しようと言う意志があるのか疑わしいのはおいておこう。

 

 そんな余談を挟みつつ、話題は必然、学院のメインである剣術の方にシフトしていく。

 

「それにしてもムウちゃん本当に強いんだねぇ……」

「ん」

「うん、疑ってなんてないよ? でも人狼(あそこ)の人達にも初戦の連戦で土付けちゃうなんて、何度もびっくりさせられてる」

「……ん……」

 

 人狼学院はガラが悪いこと含めて結構有名な場所、とは先日におけるヘルガの勧誘の話でも記した通り。

 五学院程では無くとも、あるいは違うからこそ悪名が轟いているとも言える。

 クノンがその実力を高く見ているのは当たり前であり、尚且つその印象自体は決して間違いではなかった。なればこそのびっくり、驚愕と言うべきか。

 

 無論、ただ勝った負けただけがびっくりの種ではない。

 

「『もしかせずとも今回の剣王祭でメンバーとして選抜される領域でしょう、ってやつだ』かぁ……最初からとんでもないことになっちゃってるんだね」

「……やる、よ」

「わお、ムウちゃんが珍しく……ふふっ、気持ち充分なんだね! じゃあ私もお守りの木剣作り、頑張らなきゃ」

「ん」

 

 それでも、他よりは勝手知ったる仲になれているゆえか、いつものような雰囲気の会話に収まって。西日が山に隠れてきたころ、2人の話もそこでお開きとなる。

 

「ねえムウちゃん、ちょっとしたサプライズがあるの。当日をお楽しみにね」

「……? ん」

 

 最後になにやら不安と期待、両方が入り混じったような瞳をムウに向けてから、クノンは自身の家へと足を進めていった。

 

 

 

 

 

「まさか……一応真っ当な職だとは言えお父さんもお母さんも認めてくれるなんて、ね。……ムウちゃん、これもあなたのお陰かも。でも……うぅ、やっぱり怖いなぁ……だ、だからこそがんばだ! 私!」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 数日後。

 

 

 孤児院の荷物置きに合格通知と『特注の人狼学院制服』が届けられていたことで、現段階における全ての荷が下りたと皆は喜んだ。

 いかに確認する間でもなかろうと緊張はするもので、孤児院長やターリアたちはここで先のクノンよろしく胸をなでおろしたとか、けれど人狼学院だからこそまたも別路線で引き締められたとか、なんとか……。

 

 一方で殆ど関りが無いからか、いくらか大人びていたり聡明寄りな子も含め「こわいけどつよいやつらがいるところ」ぐらいしか知らない孤児院の子達は、ムウの合格にはしゃぎまわった。

 それもフライング上等、一足先に制服を着用して見せて欲しい、と懇願する子まで出る騒ぎだ。

 結局「大事なものだから」と子供たちに懐かれているクノンが(いさ)めたことで無難に終わったのは、幸いと言いうべきだろうか。

 

 また、あの事件の日に蛮勇を出してしまった子とは少しだけ特別なやり取りがあった。とは言っても喧嘩ではなく、突っかかったわけでもなく。

 「おれもしょうらい、ちゃんとすごくなるから、待っててくれ!」と言う、少年漫画宛らなやり取りで。

 ムウはそれに珍しく困惑無しに頷いて、男の子が小躍りした微笑ましい一幕であった。

 

 

 その日、ムウの “飛び級合格おめでとうパーティー" が開かれたのは、言うまでも無かろう。

 

 

 

 

 

 そして――――とうとう、入学の日がやってきた……

 

「おー! ムウかっこいー!」

「くろいのいかすじゃん!」

「あれだろ、ワルなかっこだろ!」

「ん」

 

「あはは……もう、早くも囲まれちゃってる」

 

 前面に深紅の十字が刻まれたまっ黒な、丈が短めで、すそや肩口にボアが付いた上着。

 剣刃をずらっと円に並べた様なデザインの切り込みのあるスカート、そしてベルト。

 何よりも重要な剣を止める為の別のベルトとホルダー。

 上着と同じくボアで装飾された、太もも半ば辺りまでの長さのブーツ。

 残りは自由らしく、テックウェアの下に来ていた伸縮性のあるアンダーウェアとスパッツ。

 

 濃い灰色が半分から暗いくすんだ黄緑色(きくじんいろ)に変わる、獣耳のような愉快でワイルドなミディアムが、アウトローな雰囲気によく似合う。

 

 だから、というだけでは勿論なかろうが、思わずクノンが笑ったり困ったりしてしまうレベルで、ムウは出発前から子供の輪の中に取り込まれていた。

 

「まだまだ時間はあるけど、大丈夫かねぇこりゃ」

「余裕を持って付いてた方が良いんじゃないかしら? でも人狼だし……」

「ギリギリで入った方が良いのかもよ?」

「でも因縁を付けられることを考えたらねぇ……?」

 

 その様子を微笑ましくもどこか心配そうに見守るターリア達は、切り上げるべきか否かで悩んでいる。

 どこまで行っても頭を悩ませるあたり、先の乱入もそうだがガラの悪さは本当に一級品らしい。

 

「ちょっと失礼しますよ」

 

 ただこのままでは少しキリがないと見たか孤児院長がそそくさと割込んだ。

 子供達からぶーぶー文句が上がるのを鉄の心臓で抑えこ……もうとしてちょっと失敗していたのはともかく、1つ咳払いしてからムウと目線を合わせた。

 

「ムウさん、少し宜しいですか」

「……ん」

「ありがとうございます」

 

 そこで子供達も察して声量を落し、静かな空気が孤児院に流れる。

 

「あなたは凄惨な現場で生き残った子、そして類まれなる強さを持った子です。ですがまだまだ……危うくもある。この後泊りがあるとはいえ、それでも暫くはここと往復する手前、このような事を言うのも何ではありますが……この孤児院は、貴女をいつまでも歓迎していますからね」

「……ん」

「ええ、よろしい。そして、その上で……孤児院の代表として、などと考えず、貴女らしくそして貴女なりに、人狼学院での毎日を送ってください。それだけが私達の一番の願いなのですから」

「……は、い……!」

「! ……良いお返事、ありがとうございます」

 

 ちゃんとした返答を受けたからか、孤児院長は眼鏡越しに瞳を閉じ、そしてゆっくりと開きながらどこか強く、しかして穏やかに言葉を紡ぐ。

 

 ……そうこうしている内に、いよいよ入学式の時間が迫ってきた。わざと遅れるか否か問わず、もう向かわねばそれ以前に悪目立ちしてしまうだろう。

 何より途中からヘルガが迎えで待っているのだ。だから、そもそもそこまで時間はかけられない。

 

 小さなバッグを抱え、身の丈には少し合わない剣を背負い、制服を風に揺らして。ムウは、孤児院の門へと足を進めていく。

 その背を皆が……孤児院長が、子供達が、保母さん達が、ターリアが、そしてクノンが見つめる中で。

 

「いって、き、ます」

 

 ムウはしっかりと、そう口にして。

 

「「「「「いってらっしゃーい!」」」」」

「「「行ってらっしゃい!」」」

「行ってらっしゃいませ」

「うん、行ってらっしゃい、ね!」

 

 大勢の声に背を押されながら―――人狼学院への道を歩き出したのであった。

 

 

「よっ飛び級ちゃん。じゃ、向かいましょう、だな!」

「……ん!」

 

 

 

 

 

「さてクノンさん。貴女も準備を、余裕はまだまだありますがね」

「はい!」




Q2.ムウの武器を扱えない縛り機能。
 要は「剣自体を使えない」ではなく「剣を真っ当に扱えない」方なんですね?

A.そうです。
 なので剣を振ったら確定ですっぽ抜けるとか威力が出ないとかではありません。
 反面どう頑張っても、それこそ一億年ボタンを連打しても永劫に剣術は使えません。
 ただ裏を返すと真っ当に剣技を学んだり会得する事「は」出来ず、
 剣術「は」使えないだけという事。

 つまり真っ当じゃなきゃ良い、
 という事で今後の学習や戦いでもこれを逆手に取ってくる予定です。
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