あの口論から一週間が経ち、とうとう決闘の日がやってきた。俺たちはアリーナのピット・ゲートで待機していた。そこには俺と一夏の他に、箒、千冬先生、山田先生もいた。ちなみに俺と一夏は既にISスーツに着替えている。
さて、大嶋さんとの特訓でISを操る感覚をなんとか取り戻した。後は時間になるのを待つばかりだ。
「なぁ、箒。」
「なんだ?」
「ISのことを教えてくれるって話だったよな?」
「……」
「あっ、目をそらすな!」
そんな俺とは正反対に、一夏は箒に散々無視されていた。この感じだとISについて全く学習していないようだ。
「なぁ獅子神。」
ようやく一夏の癖が一つ治ってきたか。
「どうした?」
「さっきから箒が俺の話に目をそらすんだよ…。」
「そういえば一夏、お前一週間何してたんだ?」
「……ずっと剣道で稽古してた。」
まじか…それってやばくないか?そんな状態だとISを操縦することもままならないのに…。
「し、仕方ないだろ。訓練機が借りられなかったのだから。」
「それでもISの知識や基本的なことがあるだろ?」
「……」
「だから目をそらすな!」
箒…それは一夏が可哀想だ。しかも一夏は俺と違って専用機がまだ出来ていない。だから試合までに完成していなければ不戦敗になってしまう。
そんな時、画面が出てきた。
「あれが、あいつの専用機…。」
そこにはセシリアの専用機の図が描かれていた。名前は蒼い雫を意味する【ブルー・ティアーズ】。予想する辺り、射撃特化のISのようだ。
「獅子神、お前が先にオルコットと対決だ。」
「分かりました。」
このままだと一夏の専用機の到着が間に合わないか、千冬先生は俺が先に行くよう指示した。
「獅子神君、ISを装着して下さい。」
「分かりました。」
俺は指輪をはめた右手に左手を添える。そして眩い光と共に、俺は【ライガーゼロ】を装着した。
「山田先生、獅子神のISの名前は?」
「獅子神君のISは【ライガーゼロ】です。」
「あれが、翔汰の専用機か。」
「全身装甲[フルスキン]…?」
一夏と箒は俺のISを見てそれぞれ何か言っている。確かに全身装甲型は滅多に見られないから当然か。
「獅子神君、カタパルトに乗って下さい。」
とうとう公に初披露する時が来たか。
俺はアリーナに出るためのカタパルトに乗る。
「あ、そうだ。一夏、箒。」
「何?」
「何だ?」
「行ってくるぜ。」
俺は一夏と箒にサムズアップする。
「頑張れよ!」
「あぁ、勝ってこい。」
一夏と箒はそう言い返した。よし、行くぜ!
「ゴー! ライガー!」
俺の掛け声と共にカタパルトが作動。俺はゲートから射出されてアリーナに出る。そこには待ってたかのようにISを纏ったセシリアの姿があった。
「あら、逃げずに来ましたね。」
「そりゃあ特訓したからな。」
「それが貴方のISですの?…愚かな男にはぴったりですわね。」
「好きなだけ言ってろ。後で後悔することになるぞ?」
「…まぁ良いでしょう。それならば貴方に最後のチャンスを与えますわ。」
「何だよ?」
「わたくしが一方的に勝利を獲ることは当然のこと、今ならまだ土下座をすることで私とイギリスを侮辱したことを、恥を掻かせたことを特別に許して差し上げてもよろしくてよ?」
セシリアはその傲慢な態度を一切崩さず、おまけには降伏勧告まで言ってきた。
「絶対にNOだ。それと、前に言わなかったか?“俺は狙った獲物は必ず仕留める”ってな。戦う前から逃げるなんて一切考えてないぜ?普段あんな風だけど……俺の心は、常にライオンハートだ!」
俺は前にセシリアに向かって言った言葉を言うと、グリーヴァを展開した。
「……残念ですわ。それならば……。」
セシリアがレーザーライフル【スターライトMK-3】を構え、射撃体制に入った。途端、俺のバイザーに警告の文字が表示された。
「お別れですわね!!」
そして案の定、レーザーを撃ってきた。俺は素早くかわし、セシリアの射撃を避けていく。
「さぁ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」
「お断りだ!!」
俺はレーザーを避け、隙を見計らってビームを撃つ。放たれたビームはセシリアに命中した。あいつの狙いは正確だが直線故に軌道を読みやすい。
「くっ、このブルー・ティアーズを前にして初見でこうしてまで耐えたのは貴方が初めてですわね。褒めて差し上げますわ。」
別に嬉しくねぇよ…。
「でもそろそろ終曲(フィナーレ)と参りましょう!お行きなさい、ブルー・ティアーズ!」
するとセシリアはここで一気にたたみかけようと4つのビットを射出した。4つのビットはレーザーを撃って変則的に攻撃してきた。避ける際にいくつか喰らってしまった。これはちょっと不味いな…。俺はさらに左手にレーベを展開してビットを迎撃する。
「ちっ…当たらない…!」
レーベの弾ならビットに当たるが、グリーヴァから放つビームは避けられてしまう。レーベだけだとビットを破壊するには時間がかかる。何とか1機目のビットを破壊するも、これ以上射撃武器で戦ってはシールドを減らすだけだ。
「なら…こいつを使うか!」
俺はグリーヴァとレーベをしまうと、両手に近接用クロー【ストライクレーザークロー】を展開する。その爪は、ライオンの如く鋭い。
「はあっ!」
俺はレーザーを掻い潜り、クローで2機目のビットを破壊する。そして残り2つとなったビットも破壊した。これで全て…いや、まだある…!
俺はそんなことを考えながらセシリアに突撃する。
「…かかりましたね。」
セシリアはそう言って残っていた2つのビットを射出した。やっぱりか。
「お生憎様、ブルー・ティアーズは6機あってよ!」
2つのビットは、レーザーではなくミサイルを撃ってきた。だが俺は逃げない。むしろこのまま突っ込む!
「はあっ!」
俺はミサイルを切り裂くと、そのままブースターを噴かして加速する。
「うおおおおおおお!」
俺が気合いを込めた瞬間、獅子の雄叫びと共にクローが白熱した。
「な!?…インターセプター!」
セシリアは近接武器をコールして展開するが、もう遅い。何故なら俺は既に斬りかかるところまで来ているからだ。
「ストライクレーザークロー!!」
俺はその掛け声と共にセシリアのシールドバリアーを切り裂いた。その一撃は、セシリアのシールドエネルギーを一気に0にした。その瞬間、試合終了のブザーが鳴り響いた。
『勝者 獅子神 翔汰』
すると、観客席から盛大な声が響いた。
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俺はビットに戻り、着地するとISを解除した。
「ふぃ~…。」
「やったな…翔汰。」
「凄いな、まさかビットを切り抜けるなんてな!」
ピットに帰ると、一夏と箒が誉めてくれた。次は一夏の番か。
「獅子神君、お疲れ様です。」
「獅子神、よくやったな。」
「ありがとうございます。」
先生達からも誉めの言葉をいただいた。
「獅子神君、すみませんが獅子神君のISを調べてもらいますので…。」
「分かりました、これを…。」
「それでは…。」
俺は山田先生に【ライガーゼロ】を渡すと、山田先生はそのままピットを後にした。先生達は【ライガーゼロ】についてまだ知らなかったもんな。あれに新型コアが使われてることも………そういえば喉が乾いたな…一夏に一言言ってから出るか。俺はIS【白式】を装着している一夏に近づく。
「一夏…白星取ってこいよ!」
「ああ!」
俺は一夏にそう言うと、ピットを後にする。
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俺はピットを出た後、モニターから試合の様子を見ていた。一夏が負けてしまったらしい。どうやら【白式】の単一仕様能力【ワンオフ・アビリティ ー】を使用した際にエネルギーが切れてしまったらしい。俺がピットに戻ると、一夏が千冬先生に叩かれていた。もちろん箒もこの様子を見ていた。あれ…山田先生はまだかな……?
「千冬先生!」
「?…どうした?」
「これを…!」
山田先生が突然大慌てで戻ってきて、【ライガーゼロ】のデータを千冬先生に見せた……とうとう知ったのか。
「獅子神、話がある。」
「はい…。」
俺は先生達のところへ近づく。一夏と箒も内容が気になって近寄ってきた。
「獅子神君、【ライガーゼロ】について調べたんですけど、獅子神君のISのコアが今までのものとは別系統のものだと言うことが判明したんです。」
「……。」
「何だと…?」
「何だって!?」
俺は知っていたが、これを知らない一夏と箒は思わず声を出した。
「どういう事だ?」
「………。」
「それに関しては私が説明しましょう。」
その言葉と共に、大嶋さんがピットに入ってきた。
「【ライガーゼロ】 のコア系統が違うのは、そのコアの製作者が“獅子神博士”だからです。」
「え?確かその方って…。」
「…獅子神雷雄。【白騎士事件】の4年後に新型コアを完成させた男だ……そういうことか。だがその申請は政府の圧力で却下されたはずでは?」
「そうです。却下されると、新型コアも使用禁止のはず…。」
「これを。」
大嶋さんはある書類を千冬先生に渡した。
「何…?」
「『既に作成された22個の新型コアを以下の条件付きの下、特別に使用を許可する。』!?」
それは使用許可書であった。千冬先生と山田先生はこれを見て驚きの表情を見せた。
「そうか…獅子神がそのISを所持しているのも、獅子神雷雄の息子だからか。」
「それで…俺の【ライガーゼロ】はどうなるんですか?」
俺は恐る恐る質問してみる。
「とりあえず、滅多なことがない限りは経過観察する。それでいいな?」
「はい、ありがとうございます!」
「獅子神君、これを。」
俺は【ライガーゼロ】を返してもらった。そしてこの後、一夏と戦うことになったが、まだISを扱いきれてない一夏をクローで斬りまくったら勝ったのはまた別の話だ。
うーむ、胃腸が痛い…