「すまない」
新学期が始まって二週間程経った頃の夜、談話室でオリバー・ウッドことクィディッチ狂いからセスタは頭を下げられていた。
「どうしたんだ。ウッド?」
なんてことを言いつつもウッドのことだからクィディッチ関係なんだろうなということは薄々察していた。
「俺は昨年度、君に二年生からシーカーとしてクィディッチの代表選手にならないかと誘った」
「ああ、誘われた」
学校の箒でミニクィディッチをしていたセスタ達を見たウッドが狂気乱舞で誘ってきたのだ。
─あれは、脅迫だった
その時、ケイティもチェイサーとして見出され、昨年の終わり頃にやった七年生の追い出し会でのクィディッチでレギュラーの座を継承した。
ウッドの顔を見ればわかる。
申し訳ない。の奥に見える隠しきれない喜びの感情。
─そのことに対しての自分への失望も混じってるかな……
ウッドという男はクィディッチに関しは途端に考えていることがわかりやすくなる。
そしてこの男はクィでィディッチのことしか考えていないので考えていることは年がら年中丸わかりだ。
「シーカーをハリー。ハリエット・ポッターに担ってもらうことにした。
改めて、すまない」
─噂は昼間には聞こえてたよ
案の定。ハリエットの一挙手一投足はここ二週間ホグワーツ中に駆け巡っていた。
スネイプがハリエットを目の敵にしてるだとか、飛行学の時間にとんでもない才能を見せつけただとか。
マクゴナガルが、あのクイディッチの事となると途端に暴走するが、それでも公平オブザ公平である、あの、マクゴナガルが一年生であるのにも関わらず代表選手に推薦したとか。
セスタはどう反応したら良いものか迷ってしまった。
─そう
─約束はどうしたんだ
─ルールはどうなってんだ
色々な言葉が頭の中をよぎる。お兄さんぶろうとしてもセスタはまだ二年生。精神的に未熟なのだ。
談話室にいた面々は下級生を背にやって二人の様子をヒヤヒヤとしながら観察している。
─セスタ……
一緒のタイミングでレギュラーが決まっていたケイティなんて尚更不安気だ。
魔法族にとってクィディッチは特別だ。
みんなが熱狂する。
みんなが狂乱する。
唯一無二のスポーツ。
セスタも昨年の一年で見事に染められてしまった。
ある者はセスタを慰める言葉を脳内で整理し出した。
ある者は暴れ出すかもしれないセスタを取り押さえるシミュレーションを始める。
ある者はそんな残酷なことをしたウッドに殴りかかりそうになるのを他の人に取り押さえられた。
魔法族にとってクィディッチとは周りがそんな反応をするくらいには大きい物なのである。
そして、その現場にはセスタからシーカーの座を奪った本人、ハリエットもいた。
友達のロンと一緒に宿題を片付けていたのだ。
ハリエットは自分がシーカーに選ばれて嬉しかった。ウッドは勿論、ロンは勿論、彼の兄の双子のフレッジョも喜んでくれた。
あの、厳格そうなマクゴナガルだって笑顔で凄い才能だと喜んでくれた。
─僕、は、考えなしだったんだ
ダーズリー家では明らかな、平和な家族の和を見出す異物としてずっと扱われていた。
みんな、ダドリーを恐れてハリエットを無視した。
先生も社長であるバーノンを恐れてハリエットを無視した。
飛行術の授業で、マルフォイに勇気を出して、それはダメなことだと立ち向かった。
そして、みんながハリエットを認めてくれた。
自分に身に覚えのない生き残った女の子としてではなく、とても凄まじい箒の乗り手だと。
100年に一度の才能だと。
─嬉しくて嬉しくて仕方がなかった
─けど、考えもしなかった
ハリエットが滑り込んだ場所にいた人も当然のようにいたのだ。
─また、僕が人を不幸にしてる。
脳裏にこびりついているダーズリー家の人たちの声がこだまする。
─あいつが全部台無しににするんだ
─全く、子供一人増えるだけで幾ら金が掛かると思ってるんだ
─あなたの、その緑の眼が憎くてたまらない
全部が本当のことではないが、確かな事実も含んでいる。
「顔を上げてくれ。ウッド」
「え?」
混濁する思考を正したのはセスタの凛とした声だった。
セスタの顔が見えた。
その顔には怒りは見えない。失望は見えない。悲しみは見えない。
セスタが少し悩んでつけた結論は悔しいだった。
その悔しいが正しいものだと証明するようにウッドに問いかける。
「ハリエットをシーカーに迎え入れたのは有名だからか? 可愛いからか? 可哀想だからか?」
「それは違う!!」
セスタのハリエットに対して、失礼だと捉えられる問いかけにウッドはぶんっと頭を上げて大きく、それはもう大きな声で反論した。
「ハリエットの方が君より、速くて、上手かったからだ!」
そして続けてそう言った。
言い切った。
オリバー・ウッドという男はクィディッチ狂いなのである。
グディッチを愛している。
愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛してやまない。
故に、グディッチに関しては誠実なのだ。
愛しているからこそクィディッチを楽しみたい。
愛しているからこそクィディッチで勝ちたい。
そんな男がただ、有名だからか、可愛いから、今まで可哀想な目に合っていたのだから。
そんな理由で愛する愛するクィディッチの花形であるシーカーを任せるはずがない。
単純な理由だ。
セスタよりもハリエットの方が勝てる。
「ならばお前はもっと胸を張るべきだ! 俺はグリフィンドールのキャプテンとして勝つための選択をしたのだと断言するべきだ!」
「ああ、俺は勝つために君を切った! だから見ていてくれ、俺たちを! 強き逞しきグリフィン達の羽ばたきを! 」
「あぁ! 見せてくれ! 俺に新しきグリフィンを!」
「お゛お゛お゛お゛!!」
余りにも気高きグリフィンドール魂。セスタのそれを見たウッドは感動の余り濁流の涙を流し、セスタを抱きしめる。
─やっぱり、お前はそれが良い
さっきまでのしおらしいウッドがセスタは嫌だった。
セスタはウッドが好きだ。
どこまでも一途にクィディッチに走る彼をセスタは尊敬していた。
喧しいグディッチ狂いが帰ってきてくれて嬉しい。
レギュラーになれなかったのは悔しい。
でも、それが勝つための選択だというのならセスタは何も言わない。
「ハリエットも頑張れ! あんまり情けないとその座をすぐさま奪ってやるからな!」
顔を青くして不安がっているハリエットにフォローも忘れない。
─俺はお兄ちゃんだ。妹の躍進を喜ばない訳がない!
セスタもセスタでとち狂っていた。だがそれでいい。
放った言葉にも偽りはない。
頑張れと思っているのも本当だし虎視眈々とシーカーの座を狙っているのも本当だ。
そこにあるのはドロドロとした嫉妬などの負の感情ではなく、スポーツマンシップに溢れた爽やかな闘気。
ピリッとした戦意の風がハリエットに吹いた。
「!」
その風はハリエットの本当に自分がシーカーに選ばれて良かったのかという不安やダーズリー家で作られたトラウマとかを吹き飛ばす。
初めての感覚だ。
認められているからこそ向けられる敵意とは似て非なるもの。あまりにも爽やかな風。
初めて向けられるそれに戸惑ってしまうが悪い気はしなかった。
「ちんたらしてたら、追いつかない所まで飛んでっちゃうよ」
ハリエットも一つ上の先輩に倣ってニヤリと不敵に笑って煽り返す。
もうハリエットに僕なんかが─なんて思考は頭の片隅にもない。
ウッドとセスタの会話の中に見出したグリフィンドールの誇り。
ハリエットは誇り高きグリフィンドールの代表選手に選ばれたのだ。
空高く羽ばたくグリフィンなのだから傲慢なぐらいが丁度いい。いやむしろ、傲慢であれ。不遜であれ。
それこそが選ばれたグリフィンの権利であり、義務である。
ハリエットは幼いないながらそれを魂で理解し、実行してみせた。
─これでいいんだよね
内気なハリエットにとって前へ進む偉大な一歩だ。
ワッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
最年少のシーカーの不遜な物言いにグリフィンドールの騎士たちは沸いた。
ウッドの謝罪から始まり、珍しく空気を読んで静寂を保っていた獅子たちだが、もう我慢できない。
我らの新しいシーカーの生意気な物言い。
実に良い良い良い良い、良すぎる。
グリフィンドールは勇気を尊ぶ寮である。
幼いグリフィンが一歩踏み出した。自ら己は誇り高きグリフィンだと吠えてみせたのだ。
噂は知っていても実物を見ていないので納得できないという考えを持つ者は結構な割合でいた。
ケイティなんかは友達が理不尽に勝ち取った席を奪われたと捉えてしまったので守るべき一年生であるハリエットに敵意を抱いていた。
そういった者たちの敵意は見事に幼きグリフィンの咆哮により掻き消されてしまった。
まだ入学して二週間かそこらのちっちゃこちゃんが吠えてみせたのだ。
これを認めなければグリフィンドールじゃない。
「よく吠えた!」
「かっこよかったよ」
「睨んでごめんなさい! 一緒に頑張りましょうね」
「こら! 静かに! ハリエット頑張ったね」
「抱きしめたい! この可愛さ!」
「あ、抜け駆けは許さないぞ」
「ハリー! 私が今行くわ〜」
「プロテゴ」
「悪は散った」
「順当」「妥当」「相当」
ハリエットによってたかってもみくちゃにする上級生達。さっきの威勢は何処へ行ったのかハリエットはなされるがままだ。
ちょっと洒落にならなそうな悪戯をしようとする奴は正義の心を持つ者達が制裁を加えるがそれもご愛嬌。
そんな上級者達の様子に事の成り行きをハラハラと固唾を飲んで見守っていたロンやハーマイオニーら一年生はどうやら丸くおさまったようだと胸を撫で下ろした。
「ハリーかっこよかったね」
「ね」
「……ありかも」
「え」
「マジかラベンダー」
グリフィンドール寮のどんちゃん騒ぎはマクゴナガルがやってきてさっさと寝なさい! と喝を入れられるまで、続いた。
朝食の時間。
沢山の梟達が親からの手紙やら仕送りや、新聞なんかを、持って来る。報酬としてベーコンや目玉焼きを取っていくが彼ら彼女らの激務を考えればそれも許せるというもの。
今朝は梟が数羽がかりで運んできた大きな届け物があった。
梟達はそれをハリエットの前まで持って来るとドカット落として、やっと終わったと言わんばかりにそくさくと帰って行く。
包み紙に包まれた細長いそれは何処からどう見てもプレゼント。
セスタは、それがマクゴナガルからハリエットへの箒のプレゼントだろうと察していた。
─あの人はグディッチの事になると公平さをかなぐり捨てる
それに、マクゴナガルがハリエットを見る時は偶に、生き残った女の子というのも差し引いても孫を見るような目を一瞬だがする時がある。
セスタはきっと色々あるんだろうが詮索すべきではないな、などと考えながらロンに促されて包み紙を開けるハリエットを眺めていた。
─コメットとかのシリーズかな
扱いやすさや値段などを考慮して我らが僚監は幼きグリフィンにどんな翼を与えたのだろうかと考察する。
「マジか」
セスタの考察は外れた。
包み紙から顕になった箒はニンバス2000。現在存在する箒の中で最も小回りが効くと言われるトリッキーなタイプ。
お値段は……口にするのは少し上品じゃないだろう。
複数人のグリフィンドール生がバットマクゴナガルの方を見る。セスタも勿論その一人だ。
マクゴナガルはハリエットにバチコンと可愛らしがウィンクをしていた。
─ふつくしい
─可愛らしいです。マクゴナガル先生
─ありがとう。ハリエット
滅多に見れないお茶目なマクゴナガルにガチ勢達は死んだ。
セスタは朝からもう、色んなものにドン引いた。
「ハリー、良かったね!」
「わぁ!」
─まぁ、良いか
ハリエットが嬉しそうだからもうなんか、それで良い気がしてきたセスタであった。
テスト終わった。
ハリポタの映画見よ。
小説も読も。