セスタが朝食を摂るため大広間にある寮の得点砂時計の辺りを通った時、ガヤガヤと余り良く無い空気の喧騒が広がっていた。
「あれ見ろ、あれ!」
セスタが何かあったのか? と聞く前に既にその場に居たサリエリがグリフィンドールの得点砂時計を指す。
「……マジか」
釣られて目を向けると、とんでも無い光景が見えた。少なくとも学生にとってはとんでも無い光景だった。
グリフィンドールの得点が減っている。
ただ減っているだけならそこまで気にする事では無い。主にフレッドとジョージのせいだが、減って増えて減ってとグリフィンドールの得点は増減が激しい。
ちょっと減ろうが別にピリピリ気にする様な精神をしているのはパーシーかハーマイオニーくらいだ。
だが、これをこの位何て事ないぜ! と笑い飛ばせる者は流石のグリフィンドールにもいない。
150点。
グリフィンドールから減った得点の点数だ。
フレッドとジョージが減らした点数を合計すればこの数字を超えるだろうが、一度に減った点数ならば歴代最高ではないだろうか。
「誰だよこんなに減らした奴!」
「もぉ、寮杯は無理だよお!」
「折角今年は行けそうだったのにぃ」
「マジで誰だよ。折角スリザリンが一位じゃない所見れると思ってたのに」
グリフィンドールは勿論、スリザリン以外の寮からも点を減らした者に憤る言葉が聞こえる。
今年はグリフィンドールがスネイプの贔屓を受けていたスリザリンよりも点を獲得する事が出来ていて、暫くぶりにスリザリンから寮杯を奪えるのではないかと期待があっただけ怒りも相当なものになってしまったのだろう。
スリザリンも50点減っているがそれを気にする者はいない。
「お前はなんでそんなに平気でいられるんだよ? お前が貰った得点も無駄になったんだそ」
サリエリがセスタにそう聞いた。
彼から見てセスタ・ランパードと言う奴は良い奴である。
一年生達の兄を名乗る様になったのはちょっと意味がわからないが、人の事を思いやる事ができてすぐ迷いサリエリ達に賭けという娯楽も提供してくれる連るんでいて楽しい奴だ。
そして優秀。シャルロットと並んでグリフィンドールの二年生で一番点を獲得しているだろう。
そんな彼の成果がこうもパッと無くなってしまったのがサリエリには納得できなかった。
「やっさしぃ」
「うるせぇな。で、どーなんだよ?」
「点は貰った時が一番嬉しい。つまり、貰った後の点にはあんまり興味ない」
「そーかよ。お前が良いならまぁ別にいーよ」
「それより朝飯食いに行こうぜ、今なら肉取り放題だ」
それ程寮杯には興味が無い二人の成長期の少年達にとっては朝食の肉を沢山食べらる方がよっぽど大事だったのだ。
相変わらず噂話が瞬く間に広がるホグワーツ。
真の事であろうと偽りの事であろうとその広がる速度は少し先の未来のインターネットと為を張る。
「まっさかハリー達だったとはねぇ……」
ケイティがお菓子を摘みながら呟いた。
グリフィンドールの点をドチャクソ減らした犯人はその日の昼にホグワーツ中に広がっていた。
犯人は三人。
ハリエット・ポッター、ハーマイオニー・グレンジャー、そしてロナルド・ウィーズリーと思いきや変化球でネビル・ロングボトム。
夜間外出がマクゴナガルにバレてそれぞれ50点ずつ減点されてしまったらしい。
学校の殆どの生徒がハリエット達に敵意を向けている。
逆にスリザリンはよくスリザリンに味方してくれたと煽り散らし、自寮の50点減点枠のドラコ・マルフォイには少し怒りつつも基本身内には甘いスリザリン、自らを犠牲に良くやったと褒め称えていた。
─大人気ない
セスタは皆んなの減点組への態度が馬鹿らしく仕方が無かった。
パーシーの様にルールを破った事に、危ない事をした事に怒るのは良い、筋が通っている。
しかし、大多数は寮杯の事でハリエット達をやっかんでいる。
─どうでもいいだろ、寮杯なんて
ホグワーツはいい所だが、本当に些細な事で空気が悪くなる。
「調子に乗って─」
「黙れマクラーゲン」「その口を閉じろ!」
コーマックがハリエットの悪口を言おうとした所でセスタとケイティが杖を向ける。
セスタは勿論だが、同じクィディッチの代表選手であるケイティにとってもハリエットは妹分なのだ。
セスタの様に寮杯をどうでも良いとは言えないが、だからと言って悪口を許容する事などできない。
「だからマクラーゲンはダメなんだよ。リチャードを見てみなよ。できもしないのに俺がその分の点を取ってやるって張り切ってたよ? どうせ馬鹿ならあーゆー感じの気持ちの良い馬鹿でありなよ」
それに続いてコーマックが密かに惚れているシャルロットからのグサグサと刺す様な口撃。
セスタのケイティに言い返そうとしていたコーマックはしゅんと萎んだ。
それを尻目にこんな奴に構ってやる時間が惜しいと席を立つセスタにサリエリは声をかける。
「ネビルの方は俺がやっとく」
「わかった」
セスタが向かうのはハリエットとハーマイオニーの所。夜間外出に関してはセスタも時々するからあんまり強くて怒らないし、そもそも怒る気もない。
─今生徒は殆どあいつらの敵だ
少なくともセスタやその友達は味方だと伝えるだけで少しは気持ちが軽くなるんじゃないかと思っていた。
後、これに乗じて免罪符を得たりとちょっかいを出そうとする奴がいるかもしれないのでそういうのがいたらぶっ飛ばしておこうとも。
昼食時に大広間にいなかったグリフィンドール三人組は城の外の木陰でお菓子類を摘んでいた。
昼食を確保できなかったようだ。
─あの視線の中じゃ、碌に昼飯も食べられないだろう
益々、妹達が可哀想に思えてならない。
「よぉ」
セスタが声を掛けるとハリエット、ロン、ハーマイオニーは三人同時にビクッと体を震わせた。
その様子から朝から昼までという短い時間でどれだけの敵意に晒されてしまったのかが感じ取れてしまう。
上昇する怒りゲージを抑え、陽気な先輩風に続ける。
「昼飯食べてないだろ? サンドイッチを持ってきたんだ。いるか?」
「……」「……」「……」
三人からの返答はまだ返ってこない。
野良の子猫に怖く無いぞーと言っている時の笑顔を浮かべセスタも固まっている。
こう言う時に無理に言葉を重ねるのは悪手だとセスタは経験上知っていた。
「ありがとう。お腹ぺこぺこだったんだ」
暫くしてムードメーカーのロンが少しだけ離れた所にいるセスタの元まで来て、全員分のサンドイッチを貰いに来た。
─そういうとこらだぞ! ロナルド・ウィーズリー!
ロンは一人だけハリエット達が減点してしまった夜の作戦に参加できなかった。
自分が参加していた所でグリフィンドールの減点が200点になるだけだっただろうがそれでも負い目を感じていた。
だから何か会った時は自分が前に出て盾になろうとしていたのだ。
マジグリフィンドール。これだからウィーズリーは止められない。
まず、ロンがパクりと一口。それを見てハリエットとハーマイオニーもパクリと続く。
ハムハムと食べる姿は正に小動物の様だが減る速度は物凄く早い。余程お腹が空いていたのだろう。
「そっち行っても良いか?」
渡したサンドイッチを食べ終わったところで聞くと三人はコクリと頷いたので近づく。
「怒ってる?」
「マクゴナガル先生に怒られたんだろ?」
「えぇ」
ハーマイオニーの声は震えている。本来の気質はともかく普段優等生であろうとしている彼女にとって怒られたというのはとんでもないショックだったのだろう。
「追い討ちはしない主義なんだ」
「何でやったのか聞かないの?」
ハリエットは不思議そうに言う。これまで色んな人に何でそんな事をしたんだと詰められたのにセスタは聞いてこない。
「言えるのか?」
言えない。
正直な話をするとハリエット達がしたのは犯罪だ。
友達であるハグリッドが何処からか仕入れてきたドラゴンのノーバートが成長する前にに専門家に押し付けようとしたのだ。
ドラゴンを飼育する事は犯罪なのに、ハグリッドはちょっと動物が好ぎて犯罪を犯してしまった。
ハリエットはダーズリー家から自分を連れ出してくれたハグリッドに捕まって欲しくなくてハグリッドがドラゴンを飼っていた事を無かった事にした。
犯罪者を匿うのも犯罪だ。言える訳が無い。
「後悔してるか?」
「してない」
後悔はしていない。それは本当だ。
─僕はハグリッドにホグワーツに居てほしい
「私も」「僕も」
ハーマイオニーはこんなに大量の減点なんて初めてだし、マクゴナガルの心からの失望の眼差しには泣きそうになった。
ロンはノーバートの毒のある牙に噛まれて毒に侵されてしまい、医務室で入院する羽目になった。
それでもハグリッドは善い人なのだ。
二人もハグリッドにはホグワーツに居て欲しい。
三人とも後悔は無かった。
「じゃあ、本当に何も言う事は無いな」
グリフィンドールは己の正義を持つ者が入りやすい寮だ。
時にその正義が大衆の正義に反する事もあるし法に反する事もある。
グリフィンドールの良い面と悪い面は表裏一体であり、今回の件は正にグリフィンドールの特性を表している。
「反省は?」
「「「してる」」」
三人揃ってそう答えた。
後悔はしてないけど反省はしている。
─またやるだろうな
ぶっちゃけ、セスタもやらかした時は大体コレである。
今年はまだ無いが深夜徘徊がバレた事はある。生徒に甘い先生だったからここまで大事にならなかったがパーシーには激しく怒られた。当時の七年生の監督生はケラケラ笑っていたが。
自分の正義に従ったなら後悔はしてはいけない。
でも、自分のした事に反省はしている。
完全にまたヤル者の考え方だ。
「それなら俺はいーと思うぞ。自分の正義に従った結果なら仕方ない」
危ない事は余りして欲しく無いが、そこに己の正義があるなら仕方がない。
「暫くしたら皆んな気にしなくなるはずだ。それまで少し窮屈かもしれないけど何かあったらお兄ちゃんに言えよ。バスターするからな!」
「うん」
ハーマイオニーとロンは少し微妙な顔をして頷いた。
─セスタってかっこいいのに何でこんなトンチキなんだろ……
─これさえ無ければ本当に頼りになる先輩なのに……
セスタはロンから見てちょっとワイルドな格好いいイケメンの先輩でハーマイオニーから見て実技も理論も出来る優秀な先輩なのだ。このトンチキさえ無ければ本当に良い先輩なのだ。
ハリエットだけは元気に頷いた。
クィディッチの練習などで何かと二人より触れ合う機会が多いハリエットは最近セスタのお兄ちゃん発言に違和感がなくなってきていた。
何なら時々お兄ちゃんと言う事まである。順調に麻痺してる。
セスタ・ランパードは順調にお兄ちゃんになっている。
とにかく、三人はセスタがいつも通り自分は味方だと言ってくれた事が嬉しかった。
ロンとハーマイオニーがセスタの事をお兄ちゃんと言う様になるまで後◽️◽️◽️日。
ゆゆゆ二期まで見ました。
言葉にできないは文字書きの端くれとして逃げだと思っているのですが、ずっと噛み締めていたい……