プロローグ
目を覚ました瞬間、最初に浮かんだ感想は――嫌な予感がする、だった。
知らない天井。 いや、違う。
知らないはずなのに見覚えがあった。
視界に入る梁の位置、 壁の色、差し込む光の角度。 記憶のどこかに引っかかっている。 夢にしては妙に現実的で、現実にしては納得がいかない。
体を起こそうとして、違和感に気づいた。
軽い。 妙に軽い。
私の体は鍛えた体じゃない。 重心も、筋肉の付き方も明らかに、自分のものじゃなかった。
そこでようやく、 最悪の想像に思い至る。
確認するみたいに手を見る。 見慣れない手の形だった。
けれど体はこの手を知っている。
そこで体は思い出した。 思い出してしまった......
鏡を見なくても分かった。
ここがどこで、 自分は誰になっているのか。
理解した瞬間、 ため息が出た。
「......面倒なことになった」
呪術師を育てる学校。 東京都立呪術高等専門学校
そして俺は、 そして俺は その1年生。 伏黒恵。
どう考えても、 ろくでもない状況だった。
この世界は理不尽だ。
呪いは人の負の感情から生まれるくせに、それを祓う側の人間から順に壊れていく。
才能があるほど背負わされ、 真面目な人間ほど消耗して、 最悪は運の悪さ1つで死ぬ。
救いがないわけじゃない。 ただ、その救いはあまりにも偏っている。
知っている、 この先何が起こるのか。
誰が傷ついて、誰が間に合わなくて、 どうあがいても取りこぼしが出る構造になってることを。
物語として見ていた時は、 それでも良かった。 そういう話だと納得できた。
けれど、当事者になるのは話が別だ。
しかもよりによって、伏黒恵。
放っておけば、自分を後回しにして、 他人のために消耗して、 気づいた時には引き返せなくなってる人間だ。
性格まで理解できてしまうのが、 余計に質が悪い。
「......このままなぞるのは、さすがに御免だな」
未来を知っている。 なら、それはもう予知に等しい。
抗えない運命なんて格好の良いものじゃない。 ただの情報不足だ。
結末を知っているなら、回避できる失敗もある。
助けられる場面もある。
全部を変えるつもりはない、 そんな大それたことをするつもりもない。
ただ分かっていて見過ごすほど、 俺は達観もしていなかった。
理不尽なまま進むのは気に入らない。 それだけで動く理由としては十分だった。
「........少しだけ、展開を、変えるか」
伏黒は自分に縛りをかける 毎日呪力操作をする代わりにすればするほど精度が上がっていくというものをかけた
まだ何も始まっていない
なら――ここから先は、知ってる通りにはさせない。
伏黒恵 15歳 2級術師
十種影法術 調伏した式神
玉犬 鵺 大蛇 蝦蟇